千葉工業大学工学部機械電子創成工学科では、2021年から新入生ガイダンスでチームビルディングプログラム『自己の探求』の一部を活用しておられます。コミュケーションを目的としたグループワークを行うことで、新入生同士の距離を近づけ、安心して大学に通える環境を整えておられます。学科独自のPBLとして、グループ単位でものづくりに取り組む機会を設けるなど、コミュケーションを重視した工学教育にも取り組んでおられます。学びへのモチベーションを高めることや、集団を活性化させることが、学生にどんな影響を与えているのか。PBL立ち上げにも参画した新井浩志先生(工学部 機械電子創成工学科 教授) に話を聞いてみました。
――機械電子創成工学科のことについてもお聞きしたいのですが、カリキュラムの特徴を教えていただけますか。
新井先生 機械と電子に関わるモノづくりを広く学ぶため、カリキュラムの幅がすごく広いのが特徴です。ただし、電子工学科で2科目ある電気磁気学や電気回路などは、演習なしでそれぞれ1科目ずつしかやりません。幅広いけれど薄いので、電気電子や機械の専門の学科からみれば、さらっとしかやっていないように見えるかもしれません。
――この学科を選ぶのはどんな学生さんですか?
新井先生 電気をやりたい人には電気工学科を、機械に興味がある人には機械工学科がいいよと勧められるのですが、入学時点でそれを決めかねているとか両方やりたいという人ですね。この学科にはいろんな研究室があって、例えば電動車イスのような福祉医療機器の開発をやっているところやロケットの打ち上げをする研究室があったり、私の研究室のようにコンピュータをやっているところもあれば、半導体研磨をしているところもあります。研究室配属は3年後期なので、そこで志望がほぼ決まって、将来どういう分野や企業に就職したいかなどで研究室を選びます。私の研究室に来るのはIT系志望という学生が多いですね。
――研究室の配属はどのようにして決まるのですか?
新井先生 1年前期に教員11名全員が1週間ずつ研究内容を話す授業があるほか、3年前期に研究室見学会を開いています。研究室にもよりますが、私の研究室見学は4年生と院生が案内しています。自分の卒業研究やどんな研究をしているかなどについて話すほか、学生からも質問を受けて説明しています。学生の希望が特定の研究室に偏っても困るので、いろいろと工夫はしていますが、大体希望は分かれて、学生は均等に配属されています。
――私たちが取り組んでいるのは「組織開発」で、一般的によく耳にする「人材開発」とは少し異なる考え方をするものです。「人材開発」は、主として人に焦点を当てて人の成長を促すことを目指すわけですが、「組織開発」は、人と人との関係性が変わることで集団全体を活性化することを目指します。思いつく範囲でいいのですが、新井先生の学科で集団の活性化に関して何か課題はありますか?
新井先生 思い出したことがあります。私の研究室には10数名の卒論生がいるんですが、10数年前に彼らがてんでバラバラにやって卒論生同士の連携が何もない状態になったことがあったんです。それぞれが好き勝手にやって、好き勝手に帰っていく。わからないことがあっても友達にも聞くこともないような状態になってしまって、これはちょっとよくないなという事態になったことがありました。それを機に、うちの研究室で夏に合宿を行うようにしたんです。大学の研修センターを利用して、2泊3日で遊びもやりつつ、勉強するようにしました。
――それ以来ずっとされているんですか?
新井先生 コロナ禍に数年休んだだけで、あとは毎年やっています。
――研究というのは個々が一生懸命取り組むもののように見えますが、やっぱり集団が影響しあうというのも大事なのでしょうか。
新井先生 研究室ではヨコのつながりも大事ですし、院生も含めたタテのつながりも大事です。こういうと語弊があるかもしれませんが、いい院生、要は組織的に動いてくれるような院生がいる年は何かと研究室が活性化しますね。
――「いい院生」とは、具体的にはどんなことしてくれるんですか?
新井先生 例えば、困っている4年生を見つけたら、「こんなことしたらいいんじゃないの」とアドバイスしてくれたり、「こういうことならあの人が知ってるよ」と教えたりしてくれるんです。
――要するに、つなぎ役ですよね。
新井先生 研究って一人ひとりでやっていると、全体としてのパフォーマンスが上がらないんですよね。
――新井先生はその感覚をどこで身につけられたのでしょうか?大学という場所は割と閉鎖された環境でコツコツと研究に取り組んでいるというイメージがあるんですが。
新井先生 そういう面で、東芝で働いた4年間が効いているかもしれませんね。部署があって、上下関係があって、外注さんもいて、それでチームを作って動いていたので。
――新井先生もご自身の研究室をちょっとした組織のようにとらえているんですね。
新井先生 組織的でないとパフォーマンスは上がらないですよね。そういう視点で見れば、御社のプログラムの最後に用意されているゲーム、あれは、自然発生的に組織ができあがるところがすごいですよね。作業を進めるうちに何となく役割が決まっていって、全体をコントロールしはじめる人や、理論的に整理しはじめる人が出てきて、組織として動き始める。いろいろな人が見えてきて面白いです。
――ひとりひとりの持ち味が発揮されて、それぞれが役割を果たしてくれますよね。
新井先生 それが自然に出てくるのが興味深いですよね。そういえば、うちの学科では2年後期から実験の授業が始まり、5~6名ずつで班をつくり、班単位でものづくりに取り組んでもらっています。
――班のメンバーはどのように決めているのですか?
新井先生 学籍番号順に分けて、係を決めることだけは促し、レポートとりまとめる係とか、発表用資料をつくる係とか、役割を決めて動いてもらっています。PBL的なことをするので、役割、計画を決めて、実行して、最後に振り返りレポートを書いてもらっています。
――学生実験はどんな形態で行っているのですか。
新井先生 うちは1コマ60分なので、4コマ連続で実施しています。13~17時までの4時間で13週です。
――結構なボリュームですね。そこでプロジェクトとしてはどんなことをしているのですか?
新井先生 「ピンポン玉トランスポーター」をつくってもらいます。
新井先生 こういうものをつくって、赤外線リモコンで動かしてピンポン玉を運び、できるだけ高得点になるようにゴールに入れてもらいます。5週かけて基本開発機をつくってもらい、さらに5週かけて各班で改良してもらって、コンテストと発表会を行っています。
――すごいですね。どの班も基本形からかなり改造されていますね。
新井先生 昨年の作品ですが、優勝したものは左上のものですが、それぞれの班で自由にいろんな形のものをつくっています。下のキャタピラで動く箇所は変えず、上は自由に変えていいことにして、最後にコンテストを行いますが、6000点以上獲得する班もあれば、0点の班もある。いわゆるロボコンですね。ピンポン玉をショベルで抱えて上から落とすとか、エレベーター的に上げてから入れるとか、でっかいカゴをつけるとか、いろいろ工夫しています。つくる過程でそれなりに友達もできて、それなりにプロジェクト的なことも学んでもらえているのではないかと思います。
――いろんな議論が起こるでしょうしね。
新井先生 そうですね。どういうメカにして、どういう戦略でやるかは、みんなかなり議論しているみたいですね。
――最下位と上位では得点の差がありますが、グループによる出来栄えの差は何によるものでしょうか?
新井先生 1つには、工業高校出身者がいる班は強くて、他とは少し差がついてしまうということはあるようです。中には家にレーザーカッターや3Dプリンターがあるような学生もいますが、そういう個人の持ち物を使うと差がつくのでダメだとはいっています。
ただ、点数とスキルは直接的な関係があるわけではないようです。すごくいいアイデアですごいものをつくっていたのに、当日の故障で0点ということもあるんです。反対に、ありきたりな機構でも、つくりこみがしっかりしていて確実に得点できるということもあります。工業高校出身者がいるとつくりこみの技術があるので高い点をとることはありますが、点数の高い低いが、チームの良し悪しと連動しているわけではありません。
――班のメンバーは学籍番号順に機械的にふりわけるとのことですが、活発な学生が集まっている班と、控えめでおとなしい学生ばかりの班ができることもあるんですよね。
新井先生 ありますね。ただ、班としてのレポートと、個人としてのレポートの両方を書いてもらい、最終的には各自の貢献度も書いて提出させています。活動状態がよくない班にいたら、個人の成績も悪くなるというようなことがないように注意しています。
――グループ活動がうまく動く要素はどこにあると感じておられますか?
新井先生 はっきりとは見えていませんが、リーダーのように「とりまとめる人」には、元々そういうキャラクターがありますよね。また、役割分担を決めた後で、その役割をこなせない人が出てきた時に誰がどうフォローしようとするかもポイントですよね。誰かが巻き取っていくのか、そこでチームが瓦解していくのかの分かれ目になっているようです。
※肩書・掲載内容は取材当時(2024年2月)のものです。
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