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退学・留年レスキューのための学生の居場所づくり【神戸学院大学】連載3-2

更新日:2022年4月7日

勉強の仕方がわからないことや、友達がいないことで孤立してしまうことが、学業不振、留年・退学の要因になると考え、神戸学院大学薬学部では1年生をサポートする拠点として『240(ニイヨンゼロ)』を設置。ここで薬学教育研究推進部門 実習助手 Tさん・Nさんが、学生の質問対応や勉強・学生生活のよろず相談に対応しています。どんな学生が、どんな悩みを抱えてこの場所を訪れ、彼・彼女たちが抱える問題をどのように解消しているのか。お二人に話を聞きました。




――『240(ニイヨンゼロ)』に学生がたくさん来て、相談したり勉強したりするようになったのはいつ頃からですか?


Nさん ここができたのは4月で、最初はあまり訪れる学生がいませんでしたが、徐々に人数が増えています。いつの間にか「気軽に行ける場所みたい」という噂が広まったようで、些細な用事でも来てもらえるようになりました。勉強のことから生活から友達関係のことまで話してくれます。


Tさん これまでは実習助手と学生には隔たりがあって、私が学生の頃から初年次教育の部屋はあるにはあったけれど、学生にとっては高校の時の職員室のように入りづらい場所で、気軽に遊びに行くこともできませんでした。私はここを始めるときに「学生が気軽に来られる部屋にしたい」という願望があったので、廊下やエントランスで学生を見つけるたびに「240においでよ」と声をかけるようにしていました。学生が集まって話しているところに入っていって話しかけて仲良くなって「雑談でもいいからおいで」と言うと来てくれるようになって。そのうち勉強の質問も増えてきて、人間関係のことなど友達には話せないようなことも「ここでは話せるから」と来てくれるようになりました。先生と学生の間にいる「フランクに話せる存在」になれたらいいなと思っています。



――イマドキの学生の悩みってどんなことがあるんでしょう。相談されるのはどんなことですか?


Tさん 友達とうまくいかないとか、友達に嫌われているんじゃないかといった人間関係のことや、何を勉強したらいいのか、どうやって手を付けたらいいのかわからないといった勉強の悩み。あと、進級が厳しいのでどうしたらいいかとか、サークルには入ったほうがいいですかとか・・・恋愛相談もあります。自分がここの卒業生だからかもしれませんが、後輩のことがかわいくてしょうがないので、力になれたらと思って対応しています。



――場合によってはこちらが答えを出せない質問もありますよね。そういう場合はどう対応しているんですか?


Tさん 気持ちのはけ口が欲しいコもいると思うんです。ときには2~3時間話すコもいるのですが、とにかく話を聴いてあげて、共感するようにしています。


Nさん 時には態度の良くない学生もいますが、そういうコに対してもアドバイスをする前に、まずは話を聴くようにしています。いけないことは注意した上で、ポジティブな言葉をかけてあげると「がんばります」とやる気をだしてくれる学生は多いです。前期に、とある学生に注意をしたことがあったのですが、話を聞いていると、薬学に対する興味が薄く気持ちが入っていないということが分かりました。色々話をしているうちにやる気が出てきたようで、今は勉強もすごく頑張っているみたいで良かったです。


Tさん 根底にあるのは自信の無さだったり葛藤だったりするので、その不安は何か、ということまで掘り下げて相談に乗ってあげると前向きになれたみたいです。いまは「薬学を頑張る、専門科目は楽しい」と言っているので安心しています。



――ここに来るのはどんなタイプの学生ですか。グループに入れないコが多いのでしょうか?


Tさん そういうコもいますし、グループでまとまって質問に来ることもあります。みんなで来たり、やってきた1人がLINEを送って友達を呼び寄せたりして、ここで勉強を始めるコも多いです。ここで勉強していると私たちにすぐに質問できるのでラクみたいですね。相談や勉強でなく、ただの雑談をしに来るコもいます。


Nさん ときには学生のネットワークを私たちも利用させてもらうこともあります。高木さんがエントランスでよく学生に話しかけていて、友達グループも把握していますので。成績が良くない人がいるときは「ちょっと話したいから○○さん呼んで」と学生に頼んで、連絡してもらうんです。



――どの学生とどの学生の仲が良いかまで知っているとは! もしかして1学年250人の全員の顔と名前が一致しているんですか?


Tさん 学生に興味があるから、だいたい覚えています。あのコとあのコは仲が良いといったこともだいたい掴んでいます。一人でいるコがいれば気になるので、どういう状況にあるのか周りの学生に尋ねることもあります。


Nさん 成績も見ますよね。成績が良くないとか、一人ぼっちでいるとか、浮かない顔しているとかという子はリストアップして気にかけています。



――日置先生は「退学者が増えているときは、退学するコはどんなコか同級生でもわからなくなっていた」とおっしゃっていましたが、いまは黄色信号の学生は早めに情報がキャッチできているということですね。


Nさん ぽつんと一人でいるコでも、しっかり学校に来ています。今年も医学部受験のために休学している学生はいますが、退学した学生はいません(11月時点)。



――ここでキャッチした情報を先生方とも共有しているのですか?


Nさん 「このコはどう?」というのは、担任の先生からも、授業担当の先生からも結構聞かれますね。私たちはなるべく、「こういう面もあるけど、こういう良いところもある」とポジティブに伝えるようにしています。


Tさん 鷹野先生や日置先生のように、授業でグループワークをしている先生は特に学生の様子を気にされていますね。先生が態度悪いと感じている学生も、表面はツンとしているけれど話してみるとそうでもないこともあるんです。「ゆっくり話すとこういうコですよ」とポジティブな意見を伝えることもあります。



――先生の方から気になる学生の相談を受けることもあるんですか?


Nさん 私たちも気になっていたぽつんと1人でいる無口なコを、担任の先生のほうから「話を聴いてあげて」と連れて来られたケースもありました。最初は無言か、ハイかイイエしか言わなかったんですが、ゆっくり対応していたらだんだん質問しに来てくれるようになりました。気づけば後期からはすごく友達も増えて、明るくなっていました。



――これまでなら後期から学校に来なくなってしまうような学生だったかもしれませんね。


Nさん 日頃は1人でポツンと過ごしているコにとって、ここが別のコとの出会いの場になっています。ここで勉強しているところに別のコがやってきて、質問がかぶっていると「教えてあげてよ」と頼んで、グループワークしてもらうような感じです。教え合ったりコミュニケーションをとったりするうちに仲良くなったコもいます。違うグループのコ同士がここで意気投合して仲良くなって友達の輪が広がったりして、出会いの場としても有効だと思います。



――勉強がわかるようになって、友達ができて、悩みや困りごとを乗り越えられて、留年や退学せずに済んだ。この場所があるおかげで、学生の人生が変わりますよね。


Tさん 入学当初の印象とガラリと変わって明るくなっていく学生がいっぱいいて、良かったと思いますね。


Nさん 忘れ物をしがちだとか遅刻をするとか、そういう学生も呼び出すのですが、「なぜ遅刻したのか」と頭ごなしに叱るのではなく、なぜそうなるのか、次からはこうしようと優しく諭すように対応するとだんだん改善されていきます。


Tさん 最初は悪びれてもいなかったのが、意識づけしていくと、遅刻してしまうことを悔しがるような態度も見えてくるんです。みんな自分から悪い方向に進みたいわけではないので、悪い行動には理由があるんです。どうしても起きれないとか、行かなくてもいいと思っていたとか、重要だと思っていなかったとか。その理由がわかると改善できることもあるんです。ただ怒ると、「なぜそういうことが起こったのか」ということまで聞けず、お互い不快な思いで終わってしまいますが、「なぜ」まで聞いてあげると解決の糸口が見つかるので。学校に来ていないことを怒っているんでなく、心配しているんだ」ということを伝えると心を開いてくれますね。


Nさん 遅刻や忘れもののことだけでなく、悩みがあるんじゃないかとか、友達づきあいはどうなのかとか聞いていくと、抱えている問題がわかることもあって。それを聞いて改善できることは改善していけばいいので。対話するのは大事だなと思います。



――ときには2人の手に負えないケースもあるんですよね。


Nさん 私たちも専門家ではないので、場合によっては大学のカウンセリングルームを案内することもあります。単にやる気がない学生の場合は、佐々木先生に喝を入れてもらっています(笑)。

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