2018年度から入学直後の新入生にチームビルディングプログラム(自己の探求)を実施している神戸学院大学薬学部。2019年度からは上級生をSA(Student Assistant)にして、プログラムや授業支援に活用しています。後輩が先輩に勉強を教えてもらい、教えることが先輩の学び直しやモチベーション向上につながったり、相互作用もみえ始めています。1人の力ではなく、みんなの力を借りながら協力して学ぶスタイルが浸透しつつある環境を、学生はどのように受け止めているのか。2年生SAのYくん(写真右)とMさん(写真左)に聞いてみました。
――お二人はSAとして新入生のチームビルディングプログラム(自己の探求)のサポートをされましたが、そのときに知り合った1年生の交流はその後も継続していますか?
Yくん これまで先輩と関わるにはサークルに入るしかありませんでしたが、SAがいたおかげで、サークルに入らなくても先輩とコネクトできるようになったのは大きな違いだと思います。SAにも後輩との関わりについての温度差はあるかもしれませんが、僕はチームビルディングプログラムで知り合ったコとは今も関わりが続いています。僕が1階のエントランスでずっと勉強しているので、1年生もわりと声をかけてくれて、友達感覚でしゃべるようになりました。それに、僕たちとつながりができて過去問が入手できるようになったことで、僕たちの1年のころより勉強に積極的なのかなとは感じます。
Mさん 私は同じグループになった新入生を、自分のいるサークルに勧誘しました。私は軽音楽部と薬学自治会、漢方研究会の3つのサークルに入っていますが、グループのみんながどれかに入ってくれました。サークルで会ったときにはしゃべることが多いですね。
Yくん 僕はサークルに入っていないので、これまで先輩と接点がなかったのですが、1年を逆に見習って、自分の方から3年の先輩と接点をつくろうとするようになりました。
――どうやって上級生との接点をつくるのですか?
Yくん みんなそれぞれ、勉強するときの定位置があるんです。本気でやりたい人は図書館に行くんですが、そうじゃない人は、僕みたいにしゃべったりお菓子を食べたりしながら勉強しているので。「大変そうっすね」とかちょこちょこ話しかけると、「そうなんだ、こんなテストがあって」とか答えてもらえるので。
――勉強する定位置といえば、Yくんはいつも薬学部棟の1階エントランスで勉強していますよね。いつからあそこを定位置にしているんですか?
Yくん 1年の後期ぐらいからです。僕はバイトもしていないので、時間があれば勉強しようと思って。僕は人としゃべりながら勉強するのが好きなのですが、あそこならしゃべれますし、掲示板もあっていろんな人が通るので声もかけやすいんです。それにコンビニに近いし、ロッカーに行くのも便利だし、教授も捕まえやすいので、あそこが定位置になったんです。なおかつ、あそこでやっていると1年生がめっちゃ集まってくるので、勉強を教えるようになりました。あえて努力する姿を見せているつもりです。
――先輩・後輩とつながりができたり、一緒に勉強したほうがいいと思うようになったのはどうしてですか?
Yくん ソロで勉強すると、どうしても重箱の隅をつつけなくなってしまいます。知識のインプットは自分でやるけれど、問題を出しあってお互いの理解度を確認し合うアウトプットは一人ではできません。そこには、自分の答えが間違っていないかを確認するという意味もあります。実は僕が追試の勉強のサポートをした人の中に、1人の友達からしか情報を得ておらず、間違った解答を覚えているコがいたんです。
――なるほど。いくら過去問を入手しても、答えが間違っていれば単位が取れないということですね…。そこに、情報を得るときに人と協力する意味があると。
Yくん 追試までの期間が、夏は1週間、冬は3日しかないのに、そういう状況に陥ったときに勉強が間に合うはずがなくて、そうやって留年を重ねることになる。だから広くコミュニティをつくって勉強することが大事だと思うんです。
あと、先輩と勉強すると、同期がもっていない答えをくれることがあります。例えば、「A薬には利尿作用があるから、それを止めるためにB薬を入れないといけない」というように、なぜこの薬をこう使うのか、どこでこの薬を使うのかといったことまで説明してくれるんです。薬の名前だけポンと出されて覚えさせられるより、なるほどと思いますよね。これから習うことも先立って教えてもらえると、いま学んでいることとのつながりがわかるので、多少忘れても、「先輩がこう言っていたから、この理由でこの薬を使うのか」とわかるようになります。
――先生に質問に行くことはあるんですか?
Yくん 教授に質問すれば、答えが間違っていることはないのですが、聞いても理解できないことがあります。そんなときは、聞くだけ聞いてメモをして、わかる人に噛み砕いて説明してもらう協力プレーでやることもあります。僕はいつも3人で勉強するのですが、物理・分子(化学)・生命(生物)が得意な人と一緒にやると、「自分は計算が苦手なので教えてくれ」「僕は生命を覚えられない」というように、補いあうことができるんです。
――Yくんは独自の考え方にもとづいて、勉強の仕方を確立しているようにも見えますね。Mさんは今後の勉強や大学生活への抱負などはありますか?
Mさん 人間観察のためにいろんな人と出会って、総合大学ならでは人との関わりを広げられたらいいなと考えています。私は薬剤師に大事なのはコミュニケーション能力だと思うんです。患者さんにちゃんと覚えてもらえる薬の説明の仕方や話し方ができないような薬剤師は要らないですよね。だからいろんな情報を知っておいて、相手によって対応を変えられるようになりたいですね。後輩と接するのは、小さい子どもや若い人に専門的なことを噛み砕いて話す経験に、自分よりもいろんなことを知っている先輩と接することは、目上の人との距離感を学ぶための経験になると思います。これまでは、コミュニケーション能力を磨くことを大事に考えていましたが、Yくんの話を聞いて、他の人と勉強してみるのもいいかなと思いました。
――コミュニケーション能力を磨いて、どんな薬剤師になりたいのですか?
Mさん 私の遠い将来の夢はカフェをつくることなんです。漢方や薬剤を取り扱って、お医者さんにかかるまでもない体調の相談にのったり、症状別のおすすめ薬膳料理を提供したりする気軽なカフェをイメージしています。
薬剤師はAIに仕事を取られる職種などといわれていています。いまの薬剤師は患者さんにとってどんなポジションかといえば、薬をくれるただの人。ドラッグストアや薬局にいる患者さんに一番近い医療専門職なのに、なぜか心の距離は遠い。それを変えたいんです。
Yくん 薬剤師免許をもっているカフェオーナーになって、患者さんの一番の相談相手になれるような?
Mさん カフェと薬局を併設して、お医者さんも来て、気軽に医療のことが相談できるような場所をつくれたらいいなと思います。
――Yくんはが勉強に積極的なのは、どんな目標を達成するためですか?
Yくん 僕はなりたい薬剤師像と、人と一緒に勉強をしたりSAをしたりすることに密接な関わりはありません。人に教えるからにはしっかり勉強しておかないといけないし、国家試験に向けての積立のつもりです。僕は病院を出発点にして、チーム医療の一員となって、薬の視点から医療に詳しくなりたいと思っています。理学療法士と協力して、お互いの悩みを解決するために工学部の人にものづくりを依頼するとか、医師と協力して本を書くとか、あるいは自分から老人ホームに出向いて行ってかかりつけ薬局をつくるとか。薬剤師の立場からいろんな世界をみてみたいですね。
最近、SA(Student Assistant)の導入が色々な大学で始まっています。主には授業のサポート役で、教員よりも学生目線に近く、教員と学生の橋渡し的な存在を期待していると言ったところでしょうか。
今回のインタビューは、そのSA活動を始めたばかりのお二人のお話でした。印象的だったのは、活動自体のメリットについて彼らが語っていたところです。金銭的なもの、将来の就職時のアピールになる、などを教員から聞いていたようですが、それ以上に彼らが欲しているのは、そのSA活動を通じた友人作りや、共に勉強し助け合う仲間づくりなのではないかと感じました。そしてそのようなコミュニティが出来上がると、それは次の学年、次の学年へと、繋がっていくように思いました。
SAのコミュニティづくり。皆さんの大学ではどのように取り組んでおられますでしょうか?
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