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実験・実習の学習効果UPにチームビルディングを活用【日本工業大学】連載1-1

更新日:2020年10月15日


 日本工業大学は1907年に設立された、工学教育に長い歴史と実績を有する私立大学です。実社会で役立つ実践的な工学教育を追究する「実工学教育」という伝統を継承しつつ、これからの社会の変化にも適応できる人材を育成するために、アクティブラーニング型の専門授業の開発に取り組んでおられます。今回の連載では、基幹工学部における、チームビルディングを取り入れた教育プログラム開発の取り組みをご紹介します。

 同学部の3学科=機械工学科・電気電子通信工学科・応用化学科は、教育体系が確立されている分野で、専門科目の授業はどうしても昔ながらの知識・技術を「教える」ことに注力せざるえない傾向にあります。そのなかで、いかにアクティブラーニングと専門授業の連携を進めるかが課題となっています。まずはこのチャレンジの推進役を務める教育研究推進室長の神 雅彦先生(機械工学科 教授)に、教育改革に取り組むようになった背景について話を聞いてみました。




――まずは神先生のことについてお聞きかせください。先生はずっとこの大学で教鞭をとっていらっしゃるのですか?

神先生 機械工学の領域はとても幅広くて、私はその中でも「生産加工学」という金属を削ったり磨いたりする技術の分野のことをやってきました。大学院から民間の企業に入り、6年間、技術開発の仕事をして、研究をしたいと思って、この大学の募集を見て飛び込んできたのです。


――先生のご専門の「生産加工学」とはどんな技術に関するものですか?

神先生 超音波振動という技術を使って、加工の精度や能率を上げる研究をしています。例をあげると、半導体を使うシリコンウエハーの加工にも使われる技術です。シリコンウエハーは表面だけを鏡面に磨くイメージありますが、実は回りのほうが大事で、そこを磨きながら削るのを可能にするのが超音波振動なのです。ニッチな分野ですが普通の加工ではできないところに使われている技術で、私たちが開発した装置は製品化もされています。


――それは、技術者として喜ばしいことですね。

神先生 意外とそうでもないんです。なぜなら、生産機械として成立させるまでには、研究の本筋以外のことがいっぱいあるからです。機械というのは24時間フル稼働させますが、それを数年にわたって動作保証しないといけません。その寿命との戦いもあって、ちょっとした部品の耐久性など、研究の本筋以外の問題を全部つぶす必要があって、すごく地道な仕事です。


――過去の企業でのご経験は、企業との共同研究にも活かせているのでは?

神先生 開発会議をしながら、企業の方と1つひとつ問題をつぶしていって。7年くらいかかりました。純粋な大学人だと、「コストダウンだの設計変更だの、やっていられない」と思うかもしれませんが、一応私も企業経験あるので、そのあたりは苦にならなかったですね。その間、学生には基礎研究に参加してもらったのですが、そのうち何人かその会社に就職していきましたよ。


――ご自身の教育・研究だけでなく、大学の組織で教育研究推進室の室長も務められているそうですが、どのようなことをなさっているのでしょうか。

神先生 研究上でいくつかの実用化経験があるからと、4年前から教育研究推進室で、教育と研究の両方に関わる仕事をしています。


――どの大学にもこのような部署はありますが、正直、みなさんが敬遠するような大変な仕事ですよね。その役割において、心がけていることってありますか?

神先生 みんながあんまりやりたがらない役割ですが、学長から「ごめん、頼む」と言われまして(笑)。研究をやっていると、外部研究費の獲得も求められるのですが、生産技術の分野って外部とやることが多く、企業や国の研究費をとりながら、年間何本か共同研究のテーマを走らせているんです。かなりやっているので、お前はもう十分やっただろう、と思われたのかもしれません。

教育面ではFDのために教員同士の授業参観の音頭を取ったりアクティブラーニングを企画したり、教育のための予算を配分したり。研究面では、研究費や設備購入予算の配分をしたり、科研費をとるための支援をしたりしています。純粋な意欲をもって伝えてくる先生方の要望には、なんとか応えたいと思いながら仕事をしています。

――今回、貴学のFDの一環で、専門課程にもっとアクティブラーニング型の授業を導入しようとする動きが生まれ、弊社のチームビルディングプログラムを取り入れていただきました。まずは、専門課程のアクティブラーニング化への経緯についてお聞かせください。

神先生 学生が主体的に学べるように授業をアクティブラーニング化しようという方針は、文科省からもさんざん言われていることです。私立大学はそれをどれくらいやっているかで評価され、補助金にも影響があります。大学でもアクティブラーニングを推進するさまざまな仕組みをつくって取り組んできましたが、その中の1つがラーニングバリューさんにやってもらっている新入生のフレッシュマンキャンプでの『自己の探求1日版』です。(応用化学科・ロボティクス学科のみ)


――貴学ではこれまでにいくつかの部門で弊社のチームビルディング・体験学習のプログラムを導入していただいています。学生支援課(リーダー養成)、情報メディア工学科(SA養成)、応用化学科・ロボティクス学科(初年次)、執行部(広報スタッフ育成)、機械工学科(JABEE認定プログラム)がありますが、神先生が弊社のプログラムを初めてご覧になったのはどこですか?

神先生 機械工学科のJABEEの認定プログラムです。これは2,3年の20人くらいを対象とするプログラムですが、学生のチームワーク力を教育する仕組みをつくるという要件があり、そこに導入しています。私もプログラムを担当していたので、それを見せてもらいました。


――初めてチームビルディングプログラムを見たときの印象はいかがでしたか?

神先生 学生がとても積極的になっていくのでいいなと思いましたね。ただ、JABEEのプログラムは年1,2回、ピンポイントで行われているものなので、通常行われている専門科目にどうリンクさせられるのかはイメージできませんでした。グループワークを体験することで、学生が話し合いをできるようになる、ということであれば、専門科目における実験・実習やグループワークにもそれを活かせたらいいのですが。チームビルディングプログラムで扱う題材は、専門科目とは別のものです。学生もその場ではうまくやるけれど、その経験を専門科目のグループワークで応用できるかといえば、そこまではできないかもしれません。


――なるほど。チームビルディングプログラムでは、学生が他者と話し合うとか自分の意見を言おうとする姿は見えた。だけど、グループワークで扱う題材がそもそも工学とは関係がないし、果たして授業になったときに(話し合ったり、意見を言ったりする姿勢を)再現できるかに興味があるということですね。

神先生 そうです。そこが教員のみなさんも気になっていらっしゃることなんです。工学の題材で(チームビルディングプログラムが)できるようになれば理想的です。だから、チームビルディングのファシリテーターと、専門科目の先生とが一緒に授業を展開すればいいんだろうと思いました。なにしろ、科目の先生にチームビルディングをやれといっても、そんな教育も受けていないわけだから無理ですよね。まぁ現実には、予算の都合もあって難しいでしょうが・・・


――弊社のファシリテーターと貴学の先生方との授業の進め方に、どのような違いを感じられたのでしょうか?

神先生 例えば、実習は6人1グループで行うのですが、教員はグループ内で話し合ってうまく役割分担してやってくれるものだと思いこんでいます。しかし、最初の段階で、学生は役割分担をすべきであるとか、どうやって進めていけばいいのかとか、まったくわかっていないんです。とりあえずお互いに距離を探りながらなんとなく進めていくのですが、教員は「なぜそんなことができないのか」としか思っていない。あるいは、「そんなことができない」ことすら関心がないのです。

そこで「グループでやる実験とはこういう風にやるんですよ」とテクニックを教えてあげると、いまの学生は素直なので教えた通りにやるんですよ。方法を習い、専門知識を習い、一緒にやっているうちに仲良くなって、チームビルディングの効果もあればもっと進んでいくんだろうと思います。ただ、教員には、役割分担とかチームを形成することに関しては、学生に教えるテクニックも知識もないわけです。


――適切なインストラクションを行うことで、学生がグループワークの取り組み方を理解でき、活動が円滑に進むという側面はあると思います。そこがファシリテーターの役割でもありますので。個々の行動が促進され、他者と関わりながら協力することが、ひいてはグループの成果を上げることにもつながりますよね。

神先生 先生方にもそれを授業の一環としてやってもらえたらいいのですが、たいていはまったくの自己流でやっているわけですから。「チームづくりなんてバカバカしい」と思っている人も多いと思います。


※肩書・掲載内容は取材当時(2020年6月)のものです。

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