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学び続ける技術者に必要なのは“自律”と“自立”【日本工業大学】連載4-2

ここまで、日本工業大学 基幹工学部におけるアクティブラーニング型の専門教育の授業の開発への取り組みをレポートしてきました。応用化学科では、2018年春から、1年生の専門必修科目「生物学」でチームビルディング・体験学習のアプローチを活用した授業を実施してきました。座学形式で80名程度が受講する教室を舞台に、どんな授業が展開されるのか注目されていましたが、コロナウイルス感染症拡大の影響で、残念ながら対面での授業は見送られ、オンラインで実施されたそうです。同科目を担当する応用化学科長の佐野健一先生は、学生の主体性を引き出すためにどんな仕掛けを考えていたのか?学生の学ぶ姿勢にどのような期待を持っているのか?話を聞いてみました。

――基幹工学部では専門科目でアクティブラーニングを促進する取り組みが始まりました。応用化学科では佐野先生の担当される「生物学」(2年生の必修科目)で、チームビルディングのアプローチを活用したアクティブラーニングを実施することになりましたが、(プロジェクトのまとめ役の)神先生からこの取り組みを依頼されたとき、どのように思われましたか?

佐野先生 応用化学科は、初年次のフレッシュマンキャンプで御社にチームビルディングプログラムをやってもらっていますが、そのとき体験だけで終わらせるのはもったいないと感じていました。あの続きを1年の春学期のフレッシュマンゼミで全員にやってもらったら一定の効果は期待できるんじゃないかという希望があったんですね。ところが途中で、神先生から「応用化学科では普通の座学の授業でやってくれ」と言われて、この科目でやることにしました。

聞けば、他学科は、機械工学科はJABEEプログラム科目で、電気電子通信工学科は実験科目でやるというではないですか。意欲の高い学生が集まっている科目や、もともとアクティブラーニングの要素のある科目でやるのはずるいよと思いました。私も座学の授業でアクティブラーニング的なことをやってはいましたが、自信があるというわけでもなかったので。


――すでにご自身の授業でいろいろと工夫されていたようですが、どんなことをされていたのですか?

佐野先生 グループでブレーンストーミングをしたり、ペアワークをさせてみたり、教科書の問題を使って実験計画を立て、結果を予測し、結果について考察するというようなことをしたり。ある時には、難しい題材で反転授業もやってみました。


――学生はどんな反応していましたか?

佐野先生 人によりますね。応用化学科のカリキュラムで、最初に熱力学の話がでてくるのが生物学で、細胞がエネルギーをつくる入口の話なんですね。そこで熱力学については、「ここは化学の教科書を自分で勉強してきなさい」という反転授業をしています。授業の冒頭に、テストをして、見て回ると多くの学生ができていないので、結果的に補習授業をしっかりやることになるのですが、学生に自律的な学びを即すという私の一番の目的はそれなりに達成できています。


――ペアワークをされているとおっしゃっていましたが、一般にはペアワークやグループワークは人数が多い座学科目ではできない、あるいは難しいといわれています。100人近い学生が受講する必修の座学授業でも、そういうことにチャレンジされているんですね。そこではどんな課題を感じていらっしゃいますか?

佐野先生 課題はいっぱいあります。時間が足りない。フリーライダーがたくさんいる。きめ細かいフォローができない。そして、自分で考えることができない学生がいます。すぐに「答えを教えてください」と言う。そこで、「自分で考えてください」と返すと、パニックを起こしかねない様子です。


――ご苦労されているようですね。反対に、これはよかったという手応えはありますか?

佐野先生 いや~難しいですね。まだまだ手応えはありません。これは、親切丁寧な初等・中等教育の賜物なのかもしれませんが、すべての問題には答えがあって、先生はそれを教えてくれる、それを待っているのが学習だと思っている学生がたくさんいるんです。自分の頭で考えて、人と違うユニークな答えをひねりだすことを喜んだり、それに達成感を覚えたりする学生は、残念ながらほとんどいませんね。


――予定されていた「生物学」はコロナウイルス感染症拡大の影響で、通常授業では実施できていないと聞いています。こんな状況になっていなければ、昨年までとの違う、どんなスタイルで行う予定だったのですか?

佐野先生 昨年、私の授業を御社のAさんに見てもらった時に提案されたのですが、今年は学生に「振り返り」をしてもらうことを検討していました。しかし、実際にやるとなると大変なんですよね。どうやって時間をひねり出せばいいか考えています。

授業内ではなかなか時間がとれないんですよね。いまの学生の知識の定着能力を考えると、この科目本来の教えるべきことを説明するための授業もしなければなりません。通常の講義授業をする時間だけでも足りないくらいなんです。そこで「教えること」と「教えないこと」を取捨選択して、断腸の思いで削ることにしました。必修科目という位置づけでは、こんなことをやるべきではないのかもしれませんが、広くケミストリーだけでなくサイエンス全体を学ばせるという当学科のポリシーもありますので。そういう意味では「生物学」の授業で、生物学の知識をちょっと削ってでもより広く、サイエンスのバックグラウンドを学ばせるようなことをやったほうがいいのかなと考えて、内容を構成しました。


――ちなみに、Aさんが佐野先生に「振り返り」を取り入れたほうがいいと提案したのはなぜですか?

Aさん 佐野先生はすでに授業でアクティブラーニングを実践されていて、一定の学生は楽しそうにペアワークに取り組んでいました。一方で、先生が悩まれているように、フリーライダーがいる現象も見てとれました。そういう人は、先生がいくら働きかけても、なかなか動きません。僕たちもグループワークのファシリテーションをするときに、一緒にやろうと声をかけても動かない人がいるのは体験しているので、それは理解できます。ただし、横にいる学生同士が、お互いどう感じているのかが少しでも伝われば、何か作用することもあるかもしれません。受講生が多い教室で、先生一人で何かをするには限界があります。学生同士にもうちょっと頑張ってもらえば授業にも有効だと思いました。

打ち合わせしているときに、佐野先生が僕たちのグループワークの教材の「振り返りシート」をみて、「これ使える!」という反応されたので、振り返りシートを使う提案させていただきました。


――振り返りはどのように行う予定ですか?

佐野先生 私は自分が担当する生物工学実験でフリーライダーをなくすために「自己点検相互チェックシート」を使っての相互評価を導入しています。「これを成績に反映します」と公言するとフリーライダーが減った経験があるので、振り返りもそんな感じで進めるつもりでした。授業が対面で実施できるようになれば、振り返りシートは宿題にして、次回の授業の冒頭で提出してもらおうと考えています。


――やはり、先生が教育を通して学生に期待しているのは「自律」なんですね。

佐野先生 そう。自律と自立のW(ダブル)ジリツです。我々の年老いた、衰えた頭で考えつくようなことでなく、若いフレッシュな頭で斬新な発想でもって、もっと上を目指してほしくて。いまは大学や学科のディプロマポリシーに書かれている「自発的、自律的に学ぶ力を有し、理論と実践から論理的に物事を考えることができる」とか「生涯を通じて自己研鑽する高い意識を有する」ということをアウトプットと考えています。御社の研修にヒントを得て、まずは自分で学んで自分で考えるというのをゴールにしたくて、私なりに考えた授業を行っています。

私は究極的には、学生にW(ダブル)ジリツを目指してほしいと思ってアクティブラーンニングに取り組んでいますが、御社が提供するチームビルディングプログラムの目指すところは何なのですか?僕にはいま一つよくわかってないんですが。


――弊社の話をさせていただくと、ラーニングバリューは企業やプロスポーツチームの組織開発を研究していた北森義明先生と弊社の代表が出会い、学校の組織開発に取り組むために設立した会社なんです。北森先生のつくった「自己の探求」というプログラムは貴学のフレッシュマンキャンプでも採用していただいていますが、これは「内発的動機づけのための3つの要素」と深い関わりがあると私は理解しています。3つの要素とは、自律性(自分の意思でやっている)、有能性(自分はできる)、関係性(他者とつながっている実感)です(※Deci & Ryan)。北森先生が考えたプログラムはその3つに同時に働きかけるように作られているので、それを体験した学生のモチベーションに火がつくのだと思います。

いまどきの学生の多くはあまり自分に自信が持てないのではないでしょうか。何かしようとするとき、自分ができると気持ちいいんだけど、失敗すると怖いし、間違って怒られるのはイヤだし、やったことを否定されると一生懸命やったことが無駄になるとか、そういうことが頭に浮かぶのかも知れません。そういうことを小中高の教育で何回も経験してきているのでしょう。すると、先生に答えを聞いて書いて100点とることが効率いいと見做すようになりますよね。そういう思い込みをぶち破って、自分でやることで自分はできるという実感を得ることと、他者との関わりを感じてチームができていくことって、つながっていないようでつながっているように思うんです。それが私たちの提供するチームビルディングプログラムの構造なのです。


佐野先生 なるほど。目指すところは同じですね。我々は、教えないといけない授業という縛りはありますが、メソッドの縛りはないので、御社や他のメソッドのいいとこ取りをどんどんさせてもらいたいと思います。それにしても、今の学生はやっぱりすごく大事にされていますね。良いのか悪いのかわかりませんが。


 

 自立と自律のWジリツ。佐野先生のお言葉でとても印象的でした。そしてそれを育むことはとても重要だが、そう簡単なことではないとも感じました。

 「教える」という行為は、「学ぶ」と言う主体性を期待しているわけですが、「教えられる」という受け身に繋がる可能性も孕んでいます。学ぶ姿勢を身につけた学生であればWジリツでどんどん学んでいくのだろうけど、教えられることに慣れている学生の場合は、Wジリツからどんどん離れていくことにもなりかねない。その場合、一体どうすればいいのでしょうか。

 チームビルディングは、その問題を解決する1つのアプローチではないでしょうか。個に対して直接働きかけるのではなく、個と個の関係性に働きかけ、集団全体の主体性の立ち上がりを促すわけです。

 そしてそのチームビルディングのファシリテーターに求められる姿勢として、北森先生は、「学生の主体性に依存する」と言う言い方を、よくされていました。言い換えると、主体性のない人なんて居ない、と言うことを信じて「待つ」と言うことなのかも知れません。

 みなさんはどう思われますか。

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