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伝統的な工学教育でアクティブラーニングを実践できるか?【日本工業大学】連載3-1

日本工業大学ではアクティブラーニング型の専門授業の開発に取り組んでおられます。中でも基幹工学部は、アクティブラーニングの促進のために、チームビルディング・体験学習のアプローチを活用したプログラムを用意。電気電子通信工学科では2年次後期の必修科目「電気電子通信工学実験Ⅱ」で実施されました。チームビルディングプログラムから実験に続く一連のプロセスを見た科目担当の同学科助教・大田健紘先生に、取り組みの概要や現場で授業に携わる思いについて聞いてみました。



――まずは大田先生のことをお伺いしたいのですが、ご専門は?

大田先生 大学では知識工学科という情報系の学科で学んだのですが、人間に興味があったというか、機械で人間の知的活動を代替するようなものを作ってみたいなと思うようになって。


――ロボットとか?

大田先生 いえ、ロボットいうよりも、中の仕組みのほうに興味があったんです。私の専門はいわゆる信号処理というもので、人の声だとか楽器の音とか「波」で表されるものを処理して雑音を取り除き、音声認識に応用されるものです。身近なもので言えば、人の声で反応するSiriなど、音声検索のアプリケーションに使われるような技術です。


――なるほど、そうでしたか。現在はどんな科目を担当されているのですか?

大田先生 いまはプログラミングを中心に、簡単な電気回路の実験系科目と、今年からは信号処理という自分の専門の科目を担当しています。


――授業で工夫していることはありますか?

大田先生 自分の理解と、彼らの受け取り方は全然違うし、ここまでのバックグラウンドが違うので同じことを言っても伝わり方が違います。相手の反応を見て、伝わらなかったら違う言い方をしてみるなど、いろんな学生に合わせられるように、さまざまな側面でとらえてあげるようにしています。


――現在、基幹工学部では専門科目におけるアクティブラーニング手法の開発に取り組んでおられます。推進役の神先生はそのねらいについて、「基幹工学部は昔ながらの教育体系が確立されているので、その壁を壊して新たなものつくりたい」というようなことをおっしゃっています。電気電子通信工学科ではその取り組みの舞台として、「電気電子通信工学実験Ⅱ」(2年次秋学期)に白羽の矢が立ったわけですが、そのことを最初に話を聞いたときの大田先生の率直な感想をお聞かせください。

大田先生 電気は伝統的な学科ですし、教える内容というのはほぼ決まっていて、レールが敷かれている状態なんです。そこにどうアクティブラーニングを取り入れるのか、私も疑問を感じました。必修科目の電気回路で行うとなれば、とんでもない労力がかかるだろうと思いましたし、可能性を考えると実験科目しかないだろうということで引き受けることになったという経緯はありますね。


――「電気電子通信工学実験Ⅱ」の1回目の授業で弊社のファシリテーターによるチームビルディングプログラムを導入していただいたのが今年の大きな変更点ですが、いかがでしたか?

大田先生 どのようにチームビルディングの手法を入れるかについては、事前にラーニングバリューさんに相談させていただきました。実験自体の内容は決まっていて、変えるのは難しいため、班の編成の方法を変えて、グループとしてうまく動けるようになるアプローチをしていただけたらいいなと思っていました。ラーニングバリューさんが当初想定していた形とは違うにものになった可能性はありますが。


――班編成を変えることでグループ活動を促進させることを期待されていたようですが、これまではどのようにしていたのですか?

大田先生 これまでは学籍番号順で分けていましたが、今回は春学期に行った「電気電子通信工学実験Ⅰ」の成績を考慮して、秋学期の「電気電子通信工学実験Ⅱ」では各班に一人核となる学生を配置して編成しました。そのグループに対して、チームビルディングプログラムを行い、実験に入ってもらったのです。


――電気電子通信工学科では、チームビルディングの効果を評価するためにAクラス(チームビルディング体験有り)と、Bクラス(チームビルディング体験なし)を設けました。AとBの違いやチームビルディングプログラムへの感想をお聞きかせください。

大田先生 どちらのクラスも春学期の実験で話したことがある学生もいて、まったくの初対面同士でグループを組んでいるわけではありませんでしたので、打ち解けた状態で実験できるようになっていたと思います。チームビルディングを適用したAクラスと、適用していないBクラスで比べると、最初のうちはAのほうが打ち解けた感じになっていたようです。しかし、実験の回数を重ねるごとにBが追いついてきて、後半になるとクラスの雰囲気に差はなくなった、というのが正直な印象です。


――AクラスとBクラスでは、授業開始直後の雰囲気は明らかに違ったのでしょうか?

大田先生 そうですね。Aクラスではチームビルディングプログラムの過程で、役割分担についての話をしてもらっていたからでしょうか。こちらからは具体的な指示はしていないのですが、学生が考えてデータを取る人、機械を操作する人と、最初からうまく役割分担をして実験に取り組んでいた感じはしますね。ただし、Bクラスのほうでも早く実験を終わらせたいという思いが働くようになったせいか、実験の回数を重ねるごとに、次第にAクラスとの差はなくなっていったようです。


――ちなみに、スムーズに自分たちで実験を進められるようになったAに対して、新たな負荷をかけたり、課題を出したりされていましたか?

大田先生 それはないですね。Aばかりそういうことをやると不公平感がでてくるので。実際のところ、Aだけチームビルディングプログラムをやったことに負荷を感じている人もいます。そのため、あまり負荷をかけすぎないように配慮しました。もちろんいい効果もあって、アンケートのフリーコメントで「グループで仲良くなって実験がスムーズに進んでいる」と喜ぶ学生がいましたが、その一方で、ネガティブなことを書いている学生もいて。難しいですね。


――今回の取り組みについて、学生アンケートの結果を拝見しました。事前アンケートでは大学生活への満足度や授業に対する期待の項目で、AのほうがBよりも低い、つまり、もともとのモチベーションが低いように見受けられました。Aでチームビルディングプログラムを経て実験を行ったことで、事後アンケートではAとBは同じくらいの満足度を得られていたようです。このことから、チームビルディングがモチベーションの底上げに繋がったという見方もできそうですが、大田先生は結果をどのように受け止めていらっしゃいますか?

大田先生 AとBは学籍番号で分けただけで、モチベーションの高い・低いに関係なくグループ分けが行われています。事前アンケートで調べたらたまたまBのほうがモチベーションの高かったとわかっただけです。チームビルディングの成果の対比のためにこうしたデータを取りましたが、必ずしもベースが同じではないので、比較できるかというと難しいところはあると思います。データを見た限りはそうかもしれませんが、どれだけ学生側の変化につながっているかについてはわかりません。


――弊社のファシリテーターによるチームビルディングプログラムを見て、印象に残っていることはありますか?

大田先生 ファシリテーターやプログラムの内容というよりも、学生を見て「みんなちゃんとやるんだな」と気付かされました。実施するまでは、全然動かないんじゃないかという不安がありました。


――学生を動かすことの難易度が高いと感じるような体験をされたことがあったのですか?

大田先生 普段の授業の様子からそういうふうに思っていたんです。こちらから問いかけても反応してくれなくて、わかっているのかな?という感じでしたから。それが、プログラム中はちゃんと手を動かして、自分の意見を言っているようでした。個別の学生に対してということではなく、全体的な雰囲気の違いを感じました。



※肩書・掲載内容は取材当時(2020年6月)のものです。

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