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伝統的な工学教育とアクティブラーニングは共存できるか?【日本工業大学】連載1-3

更新日:2020年10月27日





――アクティブラーニングを促進するために、チームビルディング・体験学習のアプローチを活用した授業プログラムの開発に取り組まれたわけですが、今回、対象となったのは基幹工学部の3学科でした。どのような意図で基幹工学部を選ばれたのですか?

神先生 本学には基幹工学部と先進工学部と建築学部の3学部があります。先進工学部は分類的には情報系とロボット系にあたり、プログラミングやロボットを題材にして、比較的グループワークを導入しやすいんです。建築学部も模型をつくってお互いに評価しあうなど、グループでの活動を導入しやすい。ところが、機械や電気といった伝統的な教育の枠組みがある分野は、教えるべきものがたくさんあって、カリキュラム体系がかっちりとしています。先生方もそれを良しとしていて、「アクティブラーニングなんていらないよ」という雰囲気もあったので、その壁を壊したいなという思いはありました。


――伝統的な枠組みのカリキュラムで十分と思っている先生方にとっては、新しい枠組みを提案されることに、多少なりとも抵抗感があったのではないでしょうか?

神先生 要は何に抵抗があるかというと、外部の人を入れてやることなんです。初年次教育で行われているチームビルディングプログラムをイメージして「あのためにこんなにコストをかけるのか。それだけやればいいのか」というような抵抗感はあって。しかし、学内でそれをやる仕組みがあるかといえば、今はないんです。まずは教えてもらうところから始めましょう、ということで予算を確保してスタートすることにしました。まだ導入して1年目で、どれくらいの成果がでてくるかはっきりしていませんし、そんなにすぐには出るとも思っていません。それでも、賛同してくれる先生がいてくれて、そういう科目を立ち上げましょうというところまでいけました。先生方の意識改革をするだけでも十分かなと思っています。


――やはり、すべての先生方がねらいを理解して、アクティブラーニングに前向きに取り組んでくださるようになるまでの壁は高い、と。

神先生 学内でアクティブラーニングに関するシンポジウムを開催しても、その場では誰も反対しませんし、「ぜひ、やりたい」とはおっしゃるのですが、先生方はどうやればいいか全然わかっていなくて。先生の気持ちが入っていかなければ、形式的にやるだけになって、学生も授業にのってこないでしょうし。時間はかかると思います。


――今回開発されたアクティブラーニング型の専門授業は、各学科で対象を変えて実施されています。機械工学科では選択科目(JABEE認定プログラム)の機械総合演習Ⅰ(2年生対象)で、電気電子通信工学科では必修科目の電気電子通信工学実験Ⅱ、応用化学科では必修科目の生物学(1年生対象)で導入されました。その感想を聞かせてください。

神先生 専門科目の先生とラーニングバリューのファシリテーターさんが一緒になって授業を展開することになりましたが、進め方は学科によって異なるため一概には言えません。でも、授業に入る前にグループワークを進めるうえでの役割分担やルールについて教えてもらうことで、スムーズにグループワークを進められるというようなことはあったと思います。

電気電子通信工学科はきっちりとプログラムを組まれていたので、初回の実験で行うグループワークの練習に十分な時間はとれなかったと思うんです。それでも、その後の2回目、3回目の実験あたりまでは、役割分担してグループワークを進めていこうとするような雰囲気が多少はあったようです。ただ、持続性がどうかというと疑問が残る結果となりました。実験を重ねるごとに「これでいいんだ」と、学生がラクな方に流れていった可能性はあります。

もう一つ残念だったのは、TA(ティーチングアシスタント)が活用できなかったことです。あの実験は教えることが細かく決まっているので、それをサポートするために教室を巡回して教える役割を担うTAがたくさんいるんです。彼らに授業のねらいを教えて理解してもらって、グループワークを円滑に進められるサポートをしてもらえたら、もっとよくなる気がします。


――他の学科はいかがでしたか?

神先生 機械工学科はJABEE認定プログラムに参加する学科内で選りすぐりの30人を対象としていたので、比較的やりやすかったようです。しかも、自分たちで企画してものを作ってお互いに評価しあうという、まさにアクティブラーニングを実践するような内容でしたから。そこにチームビルディングの考え方を吹き込んでやれば、うまくいくだろうとイメージはしていました。

しかも、さらに一歩進んで、科目担当の中野先生とラーニングバリューさんが話し合い、その授業を経験した人が後輩を教える科目として「技術とリーダーシップ」という科目も立ち上げています。上位セメスターに位置する科目も含めて「教わる・教える」を実践できて、知識獲得の流れとしては理想的です。「技術とリーダーシップ」はこの秋学期から動き出す科目なのでどうなっていくのか楽しみです。そこがうまく循環していけば、TAの質も改善されることになり、教育的にも良いのではないかと思います。


――人に教えることで自分の学んできたことを学び直し、磨き上げてほしいというねらいも込められているのですね。応用化学科はいかがでしたか?

神先生 対象となる科目は必修の「生物学」で、これは80人程度のクラスで行われる座学なんです。担当の佐野先生は、座学でも演習のように、隣同士の学生で話し合って答えを出すようなワークを取り入れたいと考えています。佐野先生ご自身もこれまでアクティブラーニングに取り組んでこられたのですが、もっとブラッシュアップさせたいということで、今回協力してもらうことになりました。本当は4月から1年生向けの授業で実施する予定でしたが、残念ながら遠隔授業になってしまったので、まだ実施できずにいます。


――今回の取り組みを踏まえて、今後の展望はありますか?

神先生 演習系科目はもっとそうあるべきだと思うんですが、スタッフをもっと増やしたいです。先生にチームビルディングのトレーニングをしてもらって移行させるのは簡単にはできないので、チームビルディングをサポートできるスタッフを取り入れるなど、移行期は一緒にやっていかないといけないでしょうね。


――神先生はアクティブラーニングを促進するために、今後もチームビルディングのアプローチは必要だと考えていらっしゃるようですね。

神先生 先生方は自分たちの感覚で教えており、自分が話せば学生は聞いていると思っていますが、実際は聞いていないことも多いですからね。普通に会話していても通じないことがあるのに、ましてや教員と学生では世代が違いますから。聞いてくれないのは学生が怠けているのではなく、学生に気持ちが通じていないということなんですよね。

あとは、こういう授業をするには1クラスの人数が多すぎるので、1対10とか、せいぜい1対20くらいにしないと伝わらないような気がします。クラスサイズを小さくして、距離感を近くして。“新しい生活様式”になじまないかもしれませんけどね(笑)。



※肩書・掲載内容は取材当時(2020年6月)のものです。

 

 大学の先生方にチームビルディングの概念をご紹介すると、最初に返ってくるのが、「まず教員のチームビルディングが必要だね」というコトバです。先生方のチームビルディングは私もとても重要だと思うのですが、ではそれを本気で進めるのはどういう風にすればいいのでしょうか。この問いに絶対の正解は無いと思いますが、神先生の進め方はその一つの好例になるのではないかと思いました。

 神先生は基幹工学部という最も伝統的な教育を行っておられる学部を選ばれ、その学部の3学科の専門課程の授業に、担当の教員を巻き込みながら、各々の授業に応じたチームビルディングを活用したアクティブラーニング型の授業を作ろうとされました。その試みはまだ始まったばかりですが、担当教員の気づきや学びに繋がっているように感じました。

 その詳細は次号以降を是非ご覧ください。。


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