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ものづくりのPDCAを学ぶためのカリキュラム改定【日本工業大学】連載2-1

日本工業大学では実社会で役立つ実践的な工学教育の伝統を継承しつつ、社会の変化にも適応できる人材育成のために、アクティブラーニング型の専門授業の開発に取り組んでおられます。基幹工学部はアクティブラーニングを促進するために、チームビルディング・体験学習のアプローチを活用したプログラムを用意。機械工学科ではJABEE認定に関連する選択授業で試験的に実施されました。機械工学科長を務める中野道王先生に、プログラム開発の背景やねらいについて話を聞いてみました。


――まずは中野先生のことをお聞きしたいのですが、ご専門は?

中野先生 エンジン燃焼です。大学で研究室を選ぶまでは、機構学などモノを動かすのが大好きで、車のサスペンションなど足回りの研究をやりたいと思っていました。ところがスクラムジェットエンジン(超音速燃焼を行うラムジェットエンジンで超音速輸送機やスペースプレーンのエンジンとして開発さているもの)の燃焼実験をやっている研究室のことを知り、面白そうだなとそちらを選んだんです。実はそれまで化学も熱力学も大嫌いだったので、そこに入ってから化学反応や燃焼だのをかなり勉強することになりました。大学院を出てから豊田中央研究所に入り、そこでもエンジン系の仕事をしていました。そしてこの大学に籍を置いて11年目です。


――今回、演習形式の専門科目におけるアクティブラーニング手法の開発に取り組まれた背景についてお聞かせください。

中野先生 機械工学科では2018年の学部・学科の再編にあたって、これからの機械工学にはどのようなものが必要かを考え、カリキュラムの見直しを行いました。一方で、神先生も、基幹工学部で将来にわたって有益になるアクティブラーニングによる新しい教育システムを構築したいという思いを持っていらっしゃいました。新カリキュラムに向けての動きと、神先生のFDの動きがお互いにうまくつながるのではないかというところから、今回の取り組みは始まっています。


――カリキュラム改定のポイントは何だったのでしょうか?

中野先生 機械工学科の実験実習系科目には、製図・設計・工作実習のように「スキル・技術を身につける科目」と、実験レポートや総合演習科目のように「何かを応用する、あるいは難しいことを解釈する科目」があります。いくら漢字の書き取りをしても文章を書けないのと同じで、授業の中身がしっかりしていても、自分が作りたいものに応用しないと習った技術は活かせないことが課題だと感じていました。もちろん、そういう科目もあるにはあったのですが、すべての学生を対象にすると教員の手が足りないし、試作用の工作機械の観点からも十分なことができない。しかも、モチベーションに差がある学生を2~3人の班にわけて実習してもなかなか効果があがらなかったのです。設計製図工作の基礎技術を持っていても、それを融合して本当に自分が作りたいものを作って、性能を評価するまでやれていないのが実状でした。卒業研究でそういうことをやっている研究室もありますが、分野や内容に差があるのも大きな問題だったのです。

私は学生フォーミュラの活動に携わっています。その経験から、自分で設計して、作って、走らせて性能の良し悪しをみて、どうやればよくなるか見直すという繰り返し。PDCAを回すことが、エンジニアの成長の糧になることを実感したんです。だからそういう体験を普通の科目にも入れたいと考えるようになりました。もっと手の中にある技術やリソースを使って、学生にいい意味での失敗とそれを反省してうまく設計に結びつけるサイクルを作りたいと思っていたんです。


――そのために作ったのがJABEEの認定プログラムに配置される「機械総合演習Ⅰ」(2年次秋)と「機械総合演習Ⅱ」(3年次春)ですね。

中野先生 そうです。さらに、ラーニングバリューさんと相談して、その2科目につながる「技術とリーダーシップ」(3年次秋)という科目も設置することにしました。単に自分一人で設計してつくって評価するだけでは、本当のエンジニアになるには足りないし、JABEE認定の観点においても、「チームワーク能力」は問われています。そういう意味でも「チームワーク」の要素を「機械総合演習1・2」「技術とリーダーシップ」には入れたかった。ラーニングバリューさんには、1つの目的に向かって複数人のチームで、いかにしてお互いの個性を活かし、尊重しながら課題に向かうべきかを学んでもらう土台づくりに力を貸してもらいました。


――今回、弊社のファシリテーターが「機械総合演習1」の2回目の授業でチームビルディングをねらいとするグループワークを実施させていただきましたが、どんなことを期待されていたのでしょうか。

中野先生 実は似たようなグループワークを新入生のフレッシュマンキャンプでも実施しています。チームで将来のエンジニア像について話し合ってポスター発表をしてもらうという内容ですが、正直に言えばグループによるムラが大きいと感じていました。真面目にやる学生と斜に構えている学生がいて、やる学生がやらない学生をまとめるとまではいかないので、やる学生が何人かで話して進めていくことになり、グループワークとはそういうものかなと思っていたんです。

それに対して、「機械総合演習」はJABEE対応クラスであるため、積極性があり、それなりに成績の高い学生が対象であったため非常にうまく回ったと思います。これまで学科全員を集めてやっていたグループワークに比べると前向きで効果的でしたし、学生も楽しそうにやっていましたし、成果もかなりよかった。これであれば、もっと回数を増やしてもいいと思うくらいです。今回のプログラムで行った課題解決学習は、比較的、機械工学科の学生が得意なテーマが多く、地図を作成する「バスは待ってくれない」は図面を見る能力が役に立ちますし、絵をフリーハンドで描いてブロックの形を再現する「ブロックモデル」も製図の知識があるので非常に上手に描ける。習ってきたことを応用しながら、友達との人間関係をつくるということでかなりうまくいったのかなと思います。


――先ほど、中野先生は学生フォーミュラにも携わっておられると聞きましたが、どのようなきっかけから関わるようになられたのですか?

中野先生 本学が学生フォーミュラを始めたのは10数年前のことです。私の着任よりも前に退職された方が始めたもので、学生が自分の手を動かしてものづくりをする機会を拡充したいと始まったものです。私が担当するようになったのは7年前からです。それからは、基本的に「自分で作る」を大事にしています。


――え?あれは学生が自分で作っていないのですか?

中野先生 大学によっては、「設計はするけれど難しい部品の加工は外注」というところが結構多いんですよ。実際見てみると、これは誰がつくったの?というような立派な部品がついているチームもあるのですが(苦笑)

うちは機械工作室に立派な機械が揃っていたり、スチューデントラボのように学生が自由に出入りしてつくれる設備があったり、学生が教員のサポートを受けて自分でものを作れる環境があるので、できるだけ自分で作る、ということをテーマに掲げています。

さらにもう一つ、大事にしているのが「全員で作る」。大学によっては、大会のドライバーは小さい頃からレースに出るために練習を積んできたテクニックがすごい人がやっています。私はそれはやめて、「ドライバーをしたい人も作れ。ドライバーという立場で評論するな」と言っています。自分で作ればどれだけ大変かもわかるし、何かを変えるときに具体的なアイデアも浮かぶはずなので、「全員で作れ」と話しています。



※肩書・掲載内容は取材当時(2020年6月)のものです。

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