北森先生が書かれた「組織が活きるチームビルディング(東洋経済新報社2008)」の第3章は、『「チーム」を「ビルド」するには何が必要なのか』となっている。
いよいよチームビルディングの核心に迫って行く。
第3章 「チーム」を「ビルド」するには何が必要なのか
「ただ単に人が寄り集まっただけの状態を、「チーム」と呼ぶことは出来ません。
そもそも「チーム」「組織」とは、一体何なのでしょうか?そして複数の人間が「チーム」や「組織」として、単なる人数の足し算にとどまらない能力を発揮するためには、何が必要なのでしょうか。
この章では、人々がそれぞれの個性や能力を最大限に発揮でき、かつ一丸となって目標を達成できるような「チーム」を「ビルド」していくための考え方を検討します」(第3章の扉より)
バスは待ってくれない
自己の探求の2日目の実習に「バスは待ってくれない」というものがある。それぞれのグループに配られた24枚のカードを、よくシャッフルした上でグループメンバーが均等に持ち、カードに書かれた情報を、互いに見せ合わずに読むだけで、1枚の地図を完成させるという課題解決の実習である。この実習では役割の分化が必ず起こる。それに対するふりかえりのコメントが、とても興味深いのでご紹介したい。
役割
実は地図には正解がある。残念ながら正解にたどりつけなかったグループは、実習後のふりかえりで「自分たちのグループは、リーダーなど役割を決めずにてんでバラバラに発言していた。だから上手くいかなかったと思う。予めリーダーなどを決めていれば、きっとうまくできたはずだ」との結論を出すことがよくある。一方で正解にたどり着いたグループは、「役割のようなものはあったが、自然と決まっていった」とふりかえることがほとんどである。これは一体どういうことなのか。
静的か動的か
「組織が活きるチームビルディング」の第3章では、組織を動的に捉えることの重要性が書かれている。静的な発想で役割を決めてしまうと、我々は「ここまでが自分の守備範囲。そこから先は自分の仕事ではない」と考えがちである。しかし実際には様々な能力や持ち味を持った人々がそれぞれの役割に就いている。そのことを理解しつつ、いわゆる「組織図」で示された業務分掌だけにとどまらず、その組織のメンバーそれぞれが、組織を動的に捉え、今この瞬間に自分に求められている役割は・・・、と言う風にも考えられることが重要なのではないだろうか。
そう考えると、先の正解にたどり着けなかったグループは、「リーダーを決めなかったから上手くいかなかった」のではなく、「てんでバラバラに発言している」のに気づいていたのに(ふりかえりでそう合意しているので)、それを修正しようとは誰もしなかった、ことが課題だと言えるのではないだろうか。
チームビルディングとは
また、北森先生はチームビルディングの定義を、本の中で以下のように書かれている。
自然発生的にできていくチームワークを待つのではなく、コミュニケーションやリーダーシップなどについて学びながら、
自分をより深く理解し、
チームメンバーとも相互理解を深め、
目標を統合し、目標達成のために力を合わせていく
―― そのようなことを促進する教育・訓練のひとつのプロセス(「組織が活きるチームビルディング」P.5)
上記の1は主として第2章で、2は主として第1章で書かれているが、3の「目標の統合」については、第3章で書かれている。
目標の統合
さて「目標の統合」とはわかりにくい概念かも知れない。「目標の共有」はよく使うが、「目標の統合」はあまり使われないのではないだろうか。私はこの「目標の統合」も、とても動的なものだと感じる。
チームや組織には、そのチームや組織の目標と、メンバーである個人個人の目標がある。「目標の共有」は、そのチームや組織の目標をメンバーみんなが「共有」する感じで、一方、個人個人の目標がチームや組織の目標と「合わさっていく」感じが「目標の統合」である。
ある大学での具体例
私の体験した具体例を挙げてみる。
ある大学で学生ファシリテーターの育成を10年来お手伝いしている。約50名の上級生ファシリテーターがチームを作って、新入生(約700名)のチームビルディングプログラムをファシリテーションするのである。新入生にとってはオリエンテーション期間の1日間のプログラムであるが、そのファシリテーションの為のトレーニングを、上級生は4日間受け、その経験を活かして、本番を、2日間で2クラス担当することになっていて、その合計6日間がキャリアのPBL型授業になっているのである。
目標統合の実際
ある年この上級生にアンケートを取ってみた。授業のそもそもの受講動機が何であったか、事後(授業後)はどう思っているかである。その結果は右のようになっていた。この結果からわかったことは、
元々の受講動機の1位であった「単位修得」は、事後もほとんど変わることなく存在している。
一方で「新入生の助けになりたい」という回答が、事後には大きく増加している。
さらにその順位(目的の優先順位)が大きく変動し、「新入生の助けになりたい」が大きく伸びている。
という事であった。これは、単位目的の参加者もその目的は持ったまま、最終的には「新入生のために」という気持ちに目標統合していったことの現れでは無いかと思う。
この取り組みが10年も続いているのは、上級生による新入生のチームビルディングが、その後の初年次クラスの活性化に繋がっているからであり、そのことからも、上級生個々人の参加目的を、否定したり評価したりすることなく、動的に活用していくことの大切さを実感している。
Comentarios