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連載開始5周年特別企画『組織を見つめるトップの視座』学校法人 玉田学園 理事長インタビュー(前編)

更新日:4月9日

当サイト、「学校の改革・活性化」の実践紹介ブログ『学校の組織開発物語』の連載開始5周年特別企画『組織を見つめるトップの視座』の第2弾は、神戸常盤大学(神戸市長田区)などを運営する学校法人 玉田学園 理事長 中村忠司さんへのインタビュー。昭和58年に一職員として入職し、法人本部長を経て、令和5年4月に理事長に就任された中村さんに、人と組織の活性化にかける思いを、さまざまな視点から聞いてみました。


(2019年6月公開時の役職は法人本部長/連載はこちらhttps://odlabo.wixsite.com/lv-od/post/kt1-1




――中村さんは事務局長や法人本部長を歴任され、長らく学園全体を見わたす立場におられたかと思いますが、オーナー家のある学校法人で、生え抜きの職員が理事長に就任するというケースはかなり珍しいのではないでしょうか?


中村理事長 そうですね。学園は2023年5月で創立115年を迎えましたが、これまでずっと創業者の一族が理事長を務めてきました。他大学の事例を全て知っているわけではありませんが、全国にある590校の私立大学のうち、私のような生え抜きの職員が理事長に就任するケースはそんなに多くはないと思います。私はここ20年ほどの間、法人本部長として学園を先導してきましたが、まさか理事長になるなんて想像もしていませんでした。



――話せる範囲で結構ですが、理事長就任の経緯についてお聞かせいただけませんでしょうか。


中村理事長 前理事長は、37年という非常に長い期間、この学園を指揮されてきました。数年前から体調の優れない日が増え、ここ1年ほど前から「中村、私は引くから次はお前がやってくれ」とおっしゃるようになったんです。当時はもちろん「いやいや、とんでもない。運命を感じない」と即答でした。偉そうに聞こえるかもしれませんが、私はこれまで、この学園の軍師の役割を務めてきたつもりです。「軍師は主(あるじ)になるもんじゃない、番頭止まりで十分です」と言いました。それに、定年退職を目前に控え、第二の人生はゆっくり過ごしたいと考えていたくらいで、「もうしんどいです」とも…(笑)。



――理事長となると、引き受けるにもかなりの覚悟が必要ですよね。


中村理事長 前理事長が真剣におっしゃっていることがだんだん伝わってきましたので、私も真剣に考えるようになりました。ずいぶん悩みましたが、最後はある人からの「中村さん、運命と天命は違うよ、これは受けるべきじゃないか」という言葉に背中を押されて、「そうか、天命であるならば」と、引き受ける決心をしました。こうして、創立115年の玉田学園の歴史のなかで初めて、オーナー家一族出身でない理事長が誕生することになったんです。



――何代目の理事長になるのですか?


中村理事長 私学法ができてから4代目です。



――腹をくくって理事長になると決めた時、どんなふうに感じたのですか?


中村理事長 大学のことは隅々までわかっていましたが、理事長という立場になると、当然のことですが幼稚園も高校も学園全体をわかっていなければなりません。これまでは番頭でしたが、主(あるじ)あってこその番頭です。後ろに誰もいないということが、孤独感というか、責任の重さというか、そういうことを毎日感じています。法人本部長の頃は、教学マネジメント体制の構築から世の中にない新しい学科の設置、地域交流事業にいたるまで、アイデアを生み出しては企画に落とし込む、それが中村流の仕事のやり方でした。ですが、理事長という立場になると、企画の一つ一つに慎重にならざるを得ない部分もありますし、そういう面では、仕事のなかにあった自分らしさが、少し控えめになっていると感じています。また、人づくり・組織づくりに対する視点でも、自分の次の番頭を育てていかなければならないのですから、人をおおらかに見ることと、指摘することのバランスが難しいなと感じています。



――おおらかに見ることと指摘をすることのバランス、の意味をもう少し詳しく教えてください。


中村理事長 人づくりや組織づくりで一番大事なことは、モチベーションなんです。本学の特徴は、医療系と教育系の専門性の高い学科があることですが、この専門性が時として、「うちの学科は」と、他学科との間に境界線を引いてしまうことがあります。閉鎖的になりがちな組織において、各学科の専門性を尊重しつつも、学科間の壁を取り払った人づくり・組織づくりが欠かせません。そのためにもまずは、組織全体のモチベーションを上げていくことが大事です。自分の経験を振り返っても、指摘され過ぎるとモチベーションが下がり、そんな雰囲気のなかで仕事をしていても元気がでずに、次が始まらない。おおらかに見つつも、指摘すべきところは指摘する、そのバランスをとることが難しいところです。



――組織の成長を急ぐばかりに上の立場から指摘ばかりしてしまい、相手のモチベーションを削ぐようなことがないようにという自戒にも聞こえます。前回のインタビュー記事を読み返すと、中村さんはその時もモチベーションの話をされていますが、教職員のモチベーションが上がっている・下がっているは、どのへんでキャッチしているんですか?


中村理事長 法人本部長の頃、私は人が出入りしやすい事務局に入ってすぐの部屋をあえて選び、そこで仕事をしていました。入口の扉は常に開けていたので、教職員の顔が見えたし、コミュニケーションもよくとっていました。今は理事長室にいますが、建物の一番上の階にぽつんと部屋があり、教職員と距離ができてしまいました。それでも、自分の「透視力」とでもいいますか、皆のモチベーションはキャッチしているつもりです。今いる119名の専任教員と48名の専任職員の一人ひとりを細かく把握できているわけではありませんが、その人にどんないいところがあるかはわかっているつもりです。そのいいところを活かしていくために何が必要かといえば、「チームビルディング」だと考えています。本学には《まなぶる▶ときわびと》(詳細は前回の連載記事を参照)という授業科目があるのですが、それが教員のチームビルディングを高める役割を果たしています。職員のチームビルディングについては、十数年前から本学独自のSDシステムを導入しています。



――職員向けの独自のSDシステムとはどのようなものなんですか?


中村理事長 部署の垣根を取り払って何かをやらなければと考え、特に若手職員に対しては、社会貢献や地域貢献にかかわることに取り組んでもらっています。例えば、地域の行事にしても、ただ参加するだけでなく、裏方部分にかかわるとか、企画から頑張ってもらうとか、そういうことをしてもらっています。私も長らく大学職員として生きてきたので、大学職員の長所と短所はわかっているつもりです。学内の業務では、これは教務課の仕事、これは経理課の仕事、と縄張り意識で仕事をしがちです。もちろん各部署での専門性を高めることも大事ですが、部署を超えて職員同士が交わることも必要だと思うんです。チームビルディングは勝手にできていくものではなく、それにつながる場面をこちらが仕掛ける必要があります。職員の成長を期待しながら、これからも企画を提供し続けたいと思っています。



――職員の成長の機会にもなる特別なミッション。しかも、それが大学の掲げるビジョン、ミッションに合致しているものであれば、なおさらモチベーションも高まりそうです。


中村理事長 ミスターKさんも長い間いろんな大学職員を見てこられたのでご存知でしょうけど、職員に求められるスキルには、応用力とか対応力とか、いろんなものがあります。職員のこうしたスキルを鍛え上げることも大事ですが、見えていない部分の能力に目を向けることもすごく重要なんです。それぞれのいいところが発揮できれば、すべてのモチベーションがアップしてくるのではないかと思っています。



――中村さんは組織というものを非常に有機的に見ておられますよね。少なくとも、何らかの機能をもつ部品を組み合わせて役割を果たすというような機械的な考えではないですね。


中村理事長 そういう考え方が私の欠点かもしれません。人によっては、職員にはもっときっちり指導しなければと言われそうですし、私のようなやり方では鍛え方が足りないと言われるかもしれません。でも、私は「人間力があっての仕事」だと思っています。若いうちから人間力を高める努力を積み重ね、豊かな人間力をもった人が課長になり、さらにその上の立場になっていけば、組織づくりもうまくいくのではないでしょうか。



――なるほど。その人の良さを見つけて、機会を与えて、モチベーションを高める経験を繰り返すことが、よいリーダーを育てることになり、組織の活性化につながるということですね。


※肩書・掲載内容は取材当時(2023年10月)のものです。

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