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連載開始5周年特別企画『組織を見つめるトップの視座』学校法人 玉田学園 理事長インタビュー(後編)

神戸常盤大学(神戸市長田区)などを運営する学校法人 玉田学園 理事長 中村忠司さんへのインタビュー。締めくくりとなる今回は、人や組織についての課題についてお話いただきました。トップとしての悩みや不安も率直に明かしていただき、大学の置かれている厳しい状況や課題を再認識させられました。


※中村理事長が法人本部長時代のインタビュー記事(2019年6月公開、3話連載)はこちらからご覧いただけます⇒https://odlabo.wixsite.com/lv-od/post/kt1-1





――理事長になって約半年。率直に、どのように感じておられますか?


中村理事長 今までとは違う仕事が増えました。今は、私立学校法の有史以来の改革が文科省から出され、令和7年度に施行されることになったのですが、責任を持って対応せねばと思っています。また、中教審で検討されている大学間の再編・統合に関する問題や、法人への補助金の問題というのもあります。どの大学も、今までの中長期計画では事足りないような時代を迎えているということです。そんなに遠い未来の絵を描いても仕方がないという見方もあるかもしれませんが、2040年、2050年に向けたビジョンを描いておくことが必要だと思っています。本学の歴史を考えれば、大風呂敷を広げて大きな総合大学を目指すようなことではなく、外部の協力も得ながら、本学が生きていくためのスタイルを確立し、本学らしい絵を描いていかなければならない。それを考えるといくら時間があっても足りないし、不安も感じます。


【参考】私立学校法の改正に関する説明資料(令和5年12月12日更新)


【参考】中央教育審議会「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」(令和5年9月25日)



――不安というのは、何に対する不安でしょうか?


中村理事長 自分がトップであるという不安、つまり後ろのいない不安です。今トップになって見える景色は、確かにこれまでとは違う。たとえば発言一つをとっても、それに責任を取らねばならない立場です。「本部長・中村」の時は、発言の一つが影響力を持つとは言われていましたが、キャラクターで許されていた部分もありました。それが理事長になると、ますますもって影響力が出るんです。正直なところ、トップになってもあんまりいいことが見出せていない(苦笑)。忙しい、不安、寂しい…、こんな感じです(笑)。ただ、自分のところの問題点はこれまでよくわかっているので、外部から来た人よりかは短距離で思考が成立するということは、自分の強みだなと…。とはいえ、問題点がわかっていても、直接手を出せないのが今の立場です。



――短距離で思考が成立するけれど、直接手を出さすに我慢しているということですね。


中村理事長 そうですね(笑)。



――中村さんは組織がうまく回るように工夫されていることはありますか?


中村理事長 前理事長は大学のことにあまり口出しされない方でしたが、私は大学のことが隅々までわかっているだけに、そこを一歩、いや、一歩どころか二歩も三歩も引いてちょうどいいくらいです。組織全体で仕事に取り組んでもらうよう意識しています。



――「ちょっとここは問題だぞ」と感じることがある時はどうするんですか?


中村理事長 時には課長を呼んで指摘しますが、問題を感じていても、自分としてはかなり我慢しているなぁと思います(笑)。いろいろ言いたいけれど、そこは自分が口出ししたらダメだろう、って(笑)。今のところ、我慢できなくなったことはありませんよ(笑)。妙ないい方かもしれませんが、私が寂しく過ごす方が、この学園のためになるんだろうと、今は心からそう思っています(笑)。



――逐一現場に口を出さないとしても、トップからメッセージを発信することはあると思うのですが、その際に気をつけていることはありますか?


中村理事長 トップからの発信は「こういう方向でいく」ということであり、あまり具体的なことはいわず概念を伝えることが重要です。反対に、その方向に向かってどうしていくかという具体的な内容は、ボトムアップが理想だと思っています。到着地が同じであれば、多少右に曲がろうが左に曲がろうが問題ないと思っています。あとは現場が考えてやってほしいと思っています。



――人や組織について感じている課題はありますか?


中村理事長 事務組織のチームビルディングがまだまだ足りていないなと感じています。先ほどからの繰り返しになりますが、若手職員が育って中堅職員になっていくためのトレーニングができていないという課題があります。組織づくりというところに、もう1、2枚、手が加わるといいのですが。



――いわゆる、中間管理職にマネジメント能力をつけるというようなことですか?


中村理事長 おっしゃるとおりです。まだまだそこが足りていないなと、自分の頃とつい比較してしまうわけです。もう次の世代にバトンタッチしたんだからと、古い世代の自分が口を出すんじゃないと今は我慢しているのですが。課題があるとすれば、私がどこまで我慢できるか、かもしれません(笑)。



――中村さんが考える「職員のチームビルディングができている状態」とは、どんなものですか?


中村理事長 組織のなかのリレーションがいい状態です。要は、今うちではそれがよろしくないと感じているんです。私が一番嫌うのは、セクショナリズム。この案件はどこの部署の仕事だ、と簡単に縦割りしてしまうんです。誰でもそうかもしれませんが、他の部署の問題がわかっていても、自分には関係ないとコミットしたがらない。部署間のリレーションでは、垣根を越えて「私にやらせてください」と手を挙げる人がいない、というのが今の現状です。



――それは時代的、世代的なものなのでしょうか?


中村理事長 いいか悪いかは別として、かつてはトップダウンで仕事を回す時代もありました。その時代で育ってきた今のベテラン職員の縦割意識に若手職員が苦労しているのではないか、世代間ギャップは確かに感じています。ですが、時代的、世代的なものと放っておくと、皆のモチベーションが下がったり、職員間のリレーションが崩れたりするので、それを見過ごすわけにはいきません。難しい問題です。



――貴学の職員組織は50人弱程度の小さな組織ですし、そもそも大学というのは人の入れ替わりも少ない職場ですから、プロジェクトごとに適性のある人材を配置できるわけでもなく、チームビルディングにおいてのご苦労も多いかと思います。


中村理事長 本当は職員数を増やしたいのですが、やはり優先されるのは教育で、教員の補充が先になってしまって。とはいえ、「職員力」による教育への影響は大きいのでなんとかしたいのですが…。この課題に対しては、ミスターKさんにも何かいい知恵をお貸しいただきたいくらいです。



――「職員力」が必要なところに手厚い人員配置が難しく、学生支援や経営企画に必要なパワーが不足してしまう。どの大学もギリギリの職員数で運営されておられて、人手不足を課題とする大学は少なくないようです。理事長としての将来のビジョン、目標を聞かせてもらっていいですか。


中村理事長 理事長という立場になれば当然、経営者としての意識が優先されます。これまでは教育のことで率直に話ができていた教員とも、今後は距離も出てくるでしょう。ですが、教育なき経営は罪悪であり、経営なき教育は幻想にすぎない。そのバランスを考えて、皆に示す道しるべをどう考えていくかが、私に与えられたもっとも重要なミッションだと思っています。しかも、その道しるべには、中長期計画で4年後のゴールを示すだけでなく、2040年、2050年という先のゴールも含まれないといけないでしょう。

そのビジョンにおいては、たとえば、現在本学にない留学生を受け入れることなど、いろんな角度で考えた方がいいこともありますし、この場では語れない大学の再編・統合の問題もあります。未来永劫に存続する学園になるのか、マッチングの波に飲まれていくのかということにかかる問題は、ビジョンのなかでおさえておくべき大事なポイントだと思います。「きれいごと」の4年後、20年後、30年後を描くだけではダメ。厳しく学園を自己評価し、出てきた課題から目を背けず、真剣に向き合っていきたい。理事長として、道しるべの中にその意気込みをしっかり示していきたいと思っています。



――最後に中村さんご自身のことをお聞かせいただきたいのですが、今後こんなふうに変化していきたいといった思いはありますか?


中村理事長 自分のキャリアを振り返ると、35歳頃までは安定だけを求めて大学職員をしていたように思います。それでも、いろんな縁に恵まれ、人から可愛がられ、育てられて、そこに運も加わり、ここまでたどり着いたような気がします。40歳以降は、外部の人との交流も増え、周りから評価をいただくようになり、下手なことはできないなと、仕事に対する真剣さが増していきました。この後、何年理事長でいるのかわかりませんし、自分がこれ以上どんなふうに変化できるのかもわかりませんが、「もっと羽ばたいてみたい」、そういう気持ちはあります。どこにどう羽ばたくのかまだ説明はできませんが、自分が羽ばたくことで学園がよくなるのであれば、思い切ったこともやってみたいですね。



――新学科の設立や教育改革など、これまでに中村さんが取り組んでこられたことが未来への道筋になっていると思いますが、まだまだ面白いことをしたいと思っておられるのが伝わってきます。


中村理事長 まだまだやりたいことはたくさんあるんですよ。これまで取り組んできたことは、それなりに評価されてはいますが、「大学を特徴づける評価」といわれるまでには至っていません。『ときわ』ならではの面白いことをいっぱいしていきたい、そして、私は私らしく、理事長として学園を導いていきたいと思っています。


※肩書・掲載内容は取材当時(2023年10月)のものです。


 

中村理事長からは、大学の生き残りをかけたビジョン策定のお話、教職員の育成のための仕組みづくりのお話、教職員のモチベーションUPのための取り組みのお話、大学のブランド力UPに向けた指針のお話などなど、本当に多岐にわたるお話を伺いました。特に教職員のモチベーションを大切にした有機的な組織運営と、そのためにチームビルディングを大切に考えておられることが印象的でした。一方で最終判断を下さねばならないポジションの責任の重みと孤独感のようなものも感じました。法人本部長として様々なアイデアを出し、前理事長の番頭として、軍師として、組織の先頭に立って切り盛りされ、いつも法人本部長室の扉を開けて、教職員ともオープンに対話されていらっしゃった中村さんが、理事長になられ、次の番頭や軍師になる人材を育てる立場になられたことで、一歩引いて組織を観、ボトムアップの企画や提案を待つようにされていらっしゃるのは、本当に孤独を感じることが多いんだろうと感じました。しかし、それを天命として受け容れて進んで行かれる姿に、きっと多くの教職員が共感と尊敬を感じ、それが組織の強さとなって表れてくるのではないかとも思いました。

組織を動かすにはDo以上にBeが大切ということなのかもしれません。

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