神戸学院大学薬学部では2018年度より初年次教育にチームビルディングプログラムを導入。並行して担任制も導入し、学生と学生、あるいは学生と教員の関係性を変えることで、安心して学業に取り組める環境づくりに取り組んでいます。学部横断的な視点から教育改革を担う薬学教育研究推進部門(以下DEPS)の佐々木秀明先生に、学生と教員のモチベーションをさらに高めるための今後の展望について聞いてみました。
――わずか1、2年で薬学部を取り巻く環境は劇的に変化していますが、今後に向けて新しい構想はありますか?
佐々木先生 いまは「入口」の1年生と、「出口」に関わる5・6年生への対策を重点的にやっていますが、今後は「真ん中」を考えないといけないと思っています。
いま考えているのは、3年生対象の研究室インターンシップ。本来研究室配属は4年生からですが、インターンシップ制度は、成績が良くて、研究室に興味のある学生を募集して、3年生のうちに研究室活動を体験させる制度です。休暇期間中の1~3週間程度できないかと構想を練っているところです。
――研究室インターンシップ制度が成績の良い学生のモチベーションアップに繫がれば、先生にとっても研究の面白みを優秀な層に知ってもらえるし、双方にメリットがありますね。
佐々木先生 そうだと思います。学生・教員の双方に良い効果があればと思っています。
――いい教育がいい研究につながるサイクルが生まれそうですね。
佐々木先生 これまでは成績の芳しくない学生の対策を重視してきましたが、これからは成績の良い学生をさらに伸ばす対策も考えないといけません。良い薬剤師になれそうな人材に興味のあることをさせて、もっと引き上げることも大事ですから。
また、成績の良い学生とほどほどの学生を一緒のグループにすれば、学生同士で教え合うのではないかとも考えています。それがSA(Student Assistant)構想につながるのですが、これは1年次科目担当の日置先生と相談しながら進めています。日置先生の授業では、成績を上位・中間・下位にわけて、それぞれのカテゴリーから2人ずつ集めた6人でグループをつくり、授業で話し合いをさせています。下位層だけでは分からない箇所でつまずいたときには勉強が進まないのですが、上位層がいれば分からない人に教えてくれるし、教えてもらった方も勉強の仕方が分かるのではないかと考えています。こうした取組みを日置先生が試験的に実施しているので、結果のデータを取りながら進めていきたいと考えています。
――成績のばらつきがでたときに習熟度別クラスにするケースはありますが、先生方はあえて混ぜる方法を採っているのですね。面白いですね。
佐々木先生 講義に関するFDも進行中で、今は6年次科目での授業参観をしています。先生方はいろいろなスタイルで授業をやっておられて、今はどのやり方がいいのか分からないですが、効果的なやり方を見つけて、授業の標準モデルをつくれないか検討できればと考えています。
――なぜそういうことを検討されているのですか?
佐々木先生 今の学生には、講義方法を工夫する必要があり、途中で何か特別のアクションを入れるとかしないと、90分間集中力が持たない様に思えます。日置先生は講義の途中で問題を出して考えさせる時間を設けたり、タブレット端末をもって学生の席を回りながら質問するなど工夫されていますが、そういう学生の興味を惹く方法も必要だなと思います。何が正解かわからないので、各先生がどういう授業をしているのかデータを集めているところです。6年次生の講義を見学した先生方にコメントを書いて頂いていますが、それを全学年の講義で実施出来ればと考えています。
――さらに教育改革を進めるために、今後のカギとなるのはどんなことでしょうか?
佐々木先生 DEPSが科目担当者間のヨコのつながりを担い、全体を見て提案をしないといけないなと考えています。
さらに、私は科目担当者の学年毎の話し合いプラス科目群ごとの話し合いも大事にしたいと考えています。やっぱり全体で動かないと。担当者が講義内容全てを決めるのではなく、科目群や学年毎の教員間で協議し、教育についてのコンセンサスを得ようとしています。
――コンセンサスを得ていると時間も労力もかかりそうですが、それでも佐々木先生が「全体で動かないと」と考えるのはなぜですか?
佐々木先生 今の状況を考えて、教員全員で教育することが必要だと思うからです。これまで、講義は担当の先生が独自に実施していたのですが、いまは科目群ごとに先生をグループ化して話し合って戴き、誰がどこを担当するかなど、講義の分担も講義の評価も学生に分かり易いようにしたいと考えています。各先生に任せきりだと、内容の偏りや関連性のある講義との連携がうまくいかないなどがあるので、全ての先生方に教育改革に参加して戴きたいと考えています。
――何か改革をするときに、やるべきことを決めて強権的に「やれ」と下ろす先生は多いんですよ。でも佐々木先生はあんまりそうじゃないですよね。そのあたりのさじ加減が上手だなと思います。
佐々木先生 私は提案が否定されたら「はい、そうですか」と引き下がりますから(笑)。でも、メリットを踏まえて、これはどうですかと提案はします。研究室インターンシップ制度も研究中心の若手の先生方のために考えたことで、先生方も優秀な学生を指導する機会が持てるので、きっとインターンシップの募集要項は素晴らしいもの作ってくれると思います。それはそれですごくいいことだと思いますよ 。
――先生はこれまであまり組織のことに関わってこられていなかったのに、今回はここまでやって来られました。その先生を動かすものは何なのでしょうか?
佐々木先生 一番のモチベーションは学部の教育を改革しないといけないという思いです。様々なデータを調べると、学部全員で努力しないと改革できないことが分かりました。それを全員に分かってもらいたいと思っています。
例えば、ある教員が5年生の成績分布を科目別に調査したのですが、成績の良い学生とあまり良くない学生の特徴が分析できることや、化学の成績が、他の多数の科目の成績との相関係数が高いことなどが分かりました。これからの教育には、科学的なデータ分析も取り入れる必要があると思います。
最後に、自治会活動ももう少し活性化させたいと思っています。自治会の学生とも話し合って、われわれ教員が強制するのではなく、学生がやり易いようにするのはどうしたら良いかを考えています。おかげで自治会主催の新入生歓迎パーティーも今年は盛り上がり、面白かったですね。学生の自主性を尊重しながら、何とか学生を活性化したいと考えています 。
佐々木先生とお話をしていると「チームビルディング」というコトバや「全員で」というコトバがよく出てきます。それを単にお題目だけではなく、担任制と言う制度の中や、授業の構造の中にも取り入れるように、次々と具体的な手を打っておられるのがとても印象的でした。しかもその打ち手を実際に実行する人たちが、「面白い」と思えたり「為になる」と思えるような仕掛けを考えて実現に移されています。若い先生方にうまく仕事や役割を割り振ったり、先輩学生を活用されたりと、内部の方々のやる気をうまく刺激して、みなさんの主体性を引き出しておられるように見えました。だから学生や先生方が活性化して行くのだろうと思いました。
また会議やミーティングの場の中で、意見の違いやぶつかり合いがあっても、相手のコトバをよく聞き、真意を確かめ、お互いの意見の違いを乗り越えて合意できるように働きかけるシーンを何度も見てきました。そういう佐々木先生の姿勢から、コトバだけではないものが伝わり、皆さんの意識が合わさっていくのかも知れないと思いました。もしそうだとすると、改革を進めて行くリーダーは、何をするか(DO)以上に、どうあるか(BE)が大切なのかも知れません。
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