神戸学院大学は学生数1万1000人あまりを擁する神戸市内で最大規模の文理融合型私立総合大学です。1966年の設立当初は栄養学部だけの学生数100人の単科大学でしたが、半世紀あまりを経た現在は、神戸市内の2つのキャンパスに10学部・7研究科を展開しています。
今回の連載では薬学部におけるチームビルディングプログラム(TBPと略す)の導入に端を発する教育改革についてご紹介します。かつては薬剤師国家試験合格率で全国トップクラスの実績を誇った同大ですが、薬学部の6年制移行後は様々な課題に直面することに。薬学部が抱える課題にいかに向き合い、その解決に向けてどんな取り組みがなされているのか?現在進行系のプロジェクトの様子を、まずは教育改革の推進役を担う佐々木 秀明先生(薬学部 教授)に聞いてみました。
――まずは先生自身のことをお聞きしたいのですが、薬学の道に入るきっかけは何だったのですか?
佐々木先生 高校生のころ私は化学が得意だったと思います。当時は化学ができれば理学部か工学部か薬学部が進路の選択肢でした。薬学部を選んだのは高校の先生の勧めです。薬剤師の資格は取りましたが薬剤師とはならず、修士課程修了後、ある化粧品会社の研究所に入りました。その後、当時の神戸学院大学教授から推薦を戴き、助手として着任しました。
――まだ全国的に薬学部の数が少なかったころでしょうか。
佐々木先生 本学の薬学部ができたのは1972年で、当時、兵庫県以西にある私学の薬学部は四国の徳島文理大学と福岡の福岡大学と第一薬科大学だけで、本学にも優秀な学生がたくさん集まっていたと思います。
――今から15年ほど前までは、神戸学院大学の薬剤師合格率は全国で1位、2位でしたよね。
佐々木先生 はい、そうです。現在、合格率の順位は良くはないですが、これは、全国の薬学部の数が増加したことが一因かと思っています。4年制では48校くらいでしたが、6年制となってから有力大学や公立大学の薬学部の増設を含めて、現在は75校ほどに増えています。
―― 他に最近の順位が良くない理由として考えられるのは?
佐々木先生 いろいろ考えられますが、全国の薬学部の志願者数が減少傾向にあることも一因かと思います。
――教育に関する課題が、教授会などで共有されることはなかったのですか?
佐々木先生 教授会全体で共有し、様々な教育改革が実行され、顕著な効果が見られたケースもありました。中でも、特に問題意識を持つ方もいて、教育改革を実践し、努力をされていたと思います。
――学生の質の変化も影響しているのでしょうか?
佐々木先生 全国の薬学部・薬大の増加と、全国規模での薬学部志願者数の減少から考えれば、影響はないとは言えませんね。
――学生の質の変化以外に気づいたことはありますか?
佐々木先生 4年生から研究室に配属され、卒業研究として実験をする実験コースと調査研究をする演習コースに分かれます。6年制の最初の頃は実験コースを取る学生が大半でしたが、最近では、演習コースの学生が少しずつ増える傾向があります。この傾向は、コアカリキュラムの縛りから、取得単位数が増えて学生が忙しくなった影響もあると思います。卒業研究のコース分けについては、現在、改革案を作成中です。
――実験実習は必修なのでは?
佐々木先生 実習をしないでいいコースもあり、そちらを取る学生は増えていますね。国家試験の合格率が良かった時代はほとんどの全員が実習を頑張っていたのですが・・・。
――薬剤師養成カリキュラムの変更や薬学生数の増加の影響はどの大学にもありそうですね。
佐々木先生 6年制では、薬学教育モデル・コアカリキュラムの設定、更に改訂に伴い、本学も何度かのカリキュラム改訂を実施してきました。この間、講義科目の整理と組み替え、講義内容の改訂、単位数の変更など、教員による組織的・持続的な対策を実施してきました。学生の入学年度により、科目数や単位数が細かく異なるなど、教育にかなりの影響があったと思います。全国的には薬学部・薬大が増えたのですが、薬学教育モデル・コアカリキュラムを基本として、各大学独自にカリキュラムを組んでいたと思います 。
――そうした問題に正面から向き合い、薬学部の教育改革が始まったわけですが、その経緯についてお聞かせください。
佐々木先生 山崎学部長からの指示で、まず薬学部の諸課題を解決するための将来構想委員会ができて、その中で薬学教育研究推進部門(以下DEPS)を創る構想が持ち上がり、学部長から私と2名の教授にその立ち上げが依頼されました。それが2017年の夏頃のことです。
――佐々木先生はこれまで学部の中でそういう役割を担ったことは?
佐々木先生 多くの教員が必ず担当する教務委員や学生委員のほか、教育改善委員会や国家試験対策委員会を任されたこともありました。
――DEPSの立ち上げを任されて、最初に考えたのはどんなことですか?
佐々木先生 これまでの初年次教育や国家試験対策に関する喫緊の課題など、基本的なところから教育を変える必要があるなと思いました。
――佐々木先生と最初にお会いしたのは2017年のことですが、どうして弊社に興味を持ってくださったんですか?
佐々木先生 これまで学部内には様々な委員会があり、教育改革にも取り組んできていました。しかし、他大学の教育改革の取り組みなどを調査すると、学部内だけでの対応では、限界がありそうだと思っていました。一緒に改革に取り組んでくれるメンバーと話して、それなら外部の力を借りて今までとは違うことをしたほうがが良いのではないかということになったんです。特に、メンバー内では国家試験対策と共に、1年次教育の課題への優先的な対応が必要では、とのコンセンサスが得られたと思います。
――結果的に2018年度の入学生から弊社のチームビルディングプログラム『自己の探求』を採用していただくことになったのですが、実は私は佐々木先生に「『自己の探求』とはこんなプログラムなんです」と詳しく説明した記憶がなくて。どうしてやってみようと思われたのか、いまさらですがお伺いしてもいいでしょうか?
佐々木先生 どうしたら「1年次教育の課題を解決できるか」周りの先生と相談するうちに、「1年生は入学してすぐに居場所がない、友達がいなくて大学生活になじめないことが多い」という話が出てきました。そういう問題をどうすれば良いか考えていたときに、メンバー内の先生からラーニングバリューさんのチームビルディングプログラムのことを教えてもらって。他大学の例なども拝見させて頂いて、トライする価値があるなと思いました。
本学では今まで初年次にそういうプログラムを実施したことなかったですし、1年生のうちに勉強する方法が分かって、友だちができて学校に来るようになれば、その雰囲気が2年生、3年生も続くだろうと思いました 。
――プログラム導入までのプロセスについてふりかえってみてもいいでしょうか。最初に先生にお会いしてチームビルディングプログラムの導入を決める際に、「まずは教員向けにFDをやろう」ということになり、70人くらいの教職員の方に集まっていただきましたよね。そのプロセスのねらいを、佐々木先生はどのように考えていたんですか?
佐々木先生 当時、1年次生教育についての課題に対する共通認識など、教員にもある程度教育改革を実施しなければという意識はあったと思います。そこにFDを実施して戴いたおかげで、この提案は役に立つかも知れないと思ってもらえたと思いますね。学生の活性化への取り組みにはみなさん積極的で、「1年生の活性化のための新しいプログラム」ということにインパクトがあったのではないでしょうか。
プログラムの導入に関しては必要ないという人はほとんどいらっしゃらなかったので、FDの効果もあり、早めにコンセンサスが得られました。実施時期については「4月は早い、夏休みくらいにやったらどうか」とおっしゃる先生はいましたが、私は絶対4月だと思っていたので、4月の新入生オリエンテーション期間に組み込み開催することにしました。
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