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課題を抱えた母校の薬学部のために【神戸学院大学】連載2-1

更新日:2020年4月7日

1972年の学部設置以来、薬剤師養成に47年間の歴史と実績を持つ神戸学院大学薬学部。2006年の薬学部の6年制移行を境に発生したさまざまな課題を解決すべく、2017年ごろから教育改革に取り組んでいます。前回までの連載では、教育改革に至った背景や、改革推進の中枢を担う薬学教育研究推進部門(DEPS)についてご紹介しましたが、今回は同学部OBでもある薬学部 講師の日置和人先生にインタビュー。母校の現状や学生に対する思いや、チームビルディングのエッセンスを取り入れた授業の工夫について話を聞いてみました。



――まずは日置先生のことを聞かせてください。聞くところによれば、この大学のご出身なんですよね?どうして薬学部を選んだんですか?


日置先生 高校時代は大して勉強もしてもいませんでしたが、なんなくイメージしていたのは理系。化学は嫌いではなかったので、それでなんとかしようと考えると進路の選択肢は理学部か工学部になりますよね。そこに、たまたま仲のいい友人が「推薦入試の科目が英語と化学だけ」という神戸学院大学の薬学部を見つけてきたんです。薬学部はまさに化学ですからね。これを逃してはならないと、そこから頑張って勉強したんです。



――日置先生は何期生ですか?


日置先生 16期生です。当時は国家試験合格率が良くて、だいたい全国トップ5には入っていたので、情報誌を見てここはいいんだ、ここにいけたらいいなと思って入学しました。



――入学から今日にいたるまで、神戸学院大学一筋で?


日置先生 3年の終わりに研究室に配属され、恩師の勧めで大学院に進学することになりました。その後地元に戻り、名古屋市立大学の博士課程に進学しましたが1年過ぎたところで、たまたまこちらの助手のポジションが空いたので戻ってこないかと誘われて。かなり悩んだのですがアカデミックポジションにつくには運もあるので、博士課程後期を1年で中退して、1994年に職員としてお世話になり、1998年に学位を取得させていただきました。



――2017年ごろから佐々木秀明先生が取り組み始めた薬学部の教育改革に日置先生も携わっておられますが、当時の薬学部はどのような状況だったのでしょうか?


日置先生 薬剤師国家試験の合格率が、6年制に移行した数年後から全国平均にわずかに届かない年が見られるようになりました。制度や試験が変わり、それに慣れるのに時間がかかっているのかと思いきや、なかなか戻らない。すると次に入学志願者の傾向が変わりました。それまで本学は女子学生が多く、6割以上占めていたのですが、6年制になったことで薬学部が避けられる方向になってきて。その後、薬学部の乱立もあって受験者層が目に見えて変わってきたんです。言わなくても自主的に勉強できる人が減って、言っても勉強しない人が増えて…。そこで初年次教育の重要性が問われるようになり、本学でもしばらくの間、2人の先生が初年次教育を担当していました。



――自らも改革に携わるようになったのはなぜですか?


日置先生 教員は研究業績をあげるために研究して論文を書かねばならず、他のことに時間を割く余裕があまりありません。僕もそう思っていたし、今もそう思っている先生は多いでしょうね。でも6年制移行後、「神戸学院大学の薬学部が以前とは違う」という気がしてきて、卒業生としてそれだけはなんとかしなければならないと思っていましたし、同じような思いを持っておられた佐々木先生をはじめ数名の先生方ともそういう話をしていました。そして、学部長からの指名で佐々木先生がセンター(薬学教育推進機構(DEPS)の通称)の立ち上げを担当することになったので、僕もそれに加わることになったんです。


実際「僕がやらなければ」という気持ちになったのは1年生の必修科目「基礎化学」を担当するようになってからです。



――その授業の感触とは、いかがだったのですか?


日置先生 1年生をずっと見ていると「何をどう勉強していいのかわからない」という学生が多いと思いました。なぜ今これを勉強しないといけないのか、目標づけができていない。

わかるんです。確かに僕も学生時代はそうでした。でも、そこに周りや仲間の影響があれば変化できるのに、今の学生にはそれがないのです。


授業を持つようになってわかったのですが、薬学部の学生はおとなしい子が多いんです。男性でもおとなしくて、自分から話しかけないんですね。以前3、4年生に「成績の良くないのはどういう学生?」と問うたことがあるのですが、「あんまり関わりないんでわからないです」と言われたことがありました。なんとなく顔は知っている人だけど、いつの間にか話し相手がいなくなって、ということなんでしょう。と言うことは、このような学生には助け合う仲間がいなかったんでしょうね。そういう学生を取り残さないようにするには仲間の影響が必要なのではないかと思いました。



――まずは大学に馴染ませることで、こぼれていく学生を引き上げていこうという発想が生まれたわけですね。


日置先生 そこについては、今年はセンターに所属している2人の女性助手がすごく大きな役割を果たしてくれています。なんでもウェルカムな雰囲気で、学生のあらゆる相談や困りごとに対応してくれていて、相談できる友達がいない学生にもすごく効果的なんです。



――そのお二人がいることで学生の様子にどんな変化がありますか?


日置先生 我々には、ものすごく消極的で、ふさぎ込みがちに見えていた学生たちが、だんだん口を開くようになってきましたね。僕らにはハイとイイエしか言わない学生でも、彼女たちとは笑って受け答えしているので、大丈夫なのかそうでないのかの状況を確認できるようになりました。窓口は学生さんにとっては行きやすい場所になっているようで、それが結果的にすごく良く作用しています。


これはまだセンターでも完全には共有されていないので、個人的な考えになりますが、今後は上級生の中でSA(Student Assistant)を育て、そういう役割を担ってほしいのです。ちょっと年上の先輩が後輩の面倒を見てくれたら、後輩の気持ちも少し上向くのではないかと思っています。



――学生を大学になじませる方策の一つとして、2018年度入学生から弊社のチームビルディングプログラム『自己の探求』も採用していただいています。実際に導入してみて、このプログラムについてどう思われましたか?


日置先生 2018年度のチームビルディングプログラムの実施は、試験的ではありましたが、効果はあったと思います。周りの友だちが成長すれば、置いていかれそうな人もそこに属し続けるために引っ張られていきますので。だからチームビルディングに積極的な学生を中間層より上に引っ張り上げていけば、自然とその他の学生も引っ張り上げられていくのかな、という気はしました。ただ、チームが継続しないと付いていけない人が取り残されてしまうという課題も見えました。



――チームビルディングの効果を継続させるために、2019年度に『自己の探求』を実施する際はいくつか新たな取り組みを始めましたよね?様々なグループワークに取り組むこのプログラムでは、冒頭に学生の意思でグループメンバーを決めるワークが取り入れられていますが、そのプロセスが丁寧だった印象があります。


日置先生 最初にグループを形成するときに、「今回つくるチームは少なくとも1年は(メンバーとの関わりが)継続する」ということを説明したうえで、「メンバーの短所を補いあえるようにグループをつくろう」と促し、前年よりもグループづくりに時間をかけました。すると全体的にその条件を満たして、それぞれメンバーを引っ張っていける子がいるグループをつくることができたという気はしています。

また、チームの効果を継続させるためにどうしたらいいかと考え、2019年度からは1年生に担任制を敷いて、チーム2つを組み合わせた(12名から14名)担任クラスを個々の教員で見守っていくことにしたのですが、それも結果的によかったのではないかと思っています。

何かわからないことがあった時に相談できる窓口が増えたんです。




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