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新入生交流会で学生ファシリテーターが活躍。「他者に働きかける力」が成長のカギに【文教大学】連載1-2

文教大学国際学部では新入生の大学適応をスムーズにするため、入学直後にチームビルディングプログラムを実施しています。プログラムのファシリテーターを務めるのは、「学部リーダー」と呼ばれる30名ほどの先輩学生です。学部リーダーの養成にもチームビルディングプログラムを用いた研修を行い、学部リーダーのチームづくりを図るとともにプログラムのファシリテーション力を育成しています。学生ファシリテーターを育て、新入生のコミュニケーションに活用する仕組みを考えたのは、長年新入生交流会の担当を務めておられた千葉 克裕先生(文教大学 国際学部 国際理解学科 教授)です。プログラムの実施や運営における教員の負担が大きいにもかかわらず、こうしたチャレンジの機会を学生に提供しようするのか。そのねらいや思いをお聞かせいただきました。




――新入生交流会を運営する学部リーダーは何年生ですか?


千葉先生 主に新2、3年生がやってくれています。一部に2年間やってくれる学生もいます。昨年度(2023年4月実施の新入生交流会)はコロナ明けでほんとうに人が集まらなくて、新4年生にも協力を仰いで参加してもらいました。



――学部リーダーの中にも、さらにその経験者がいるのは心強いですね。


千葉先生 3回目の人もいたので慣れたものですし、そういう先輩が準備段階からいてくれたので、下の学年も安心感は大きかったようですね。



――学部リーダーはボランティアだそうですが、どのように募集しているのですか?例年は必要な人数は集まっているのでしょうか?


千葉先生 1クラスに3人の学部リーダーを配置するのが理想で、9~10クラスで実施するので30名弱の学生が必要です。募集は学部内のメールで呼びかけるほか、やや教員から声をかけての一本釣りのようなところもありますね。



――研修の内容はどのようなものですか?


千葉先生 基本的には『自己の探求』2日版です。新入生交流会では『自己の探求』の中にいくつかのプログラムを行うので、ファシリテーターを務める学生に経験して慣れてもらうという意味もありますが、私自身の本当のねらいは、学部リーダーに手を挙げてくれた人のチームビルディングを図ることです。新入生交流会に限らず、その後の授業やゼミなどにおいてもそれぞれの場で活躍できる人材を育成したいのです。2月上旬に『自己の探求』2日版を受けてもらって、3月下旬の研修ではラーニングバリューの講師から、新入生交流会で扱うプログラムのファシリテーションの要点を伝えてもらう内容になっています。



――3日間の研修の成果をどのように感じておられますか?


千葉先生 それをすることで新入生の交流会の1日を、彼らがきちんとやりきることができるので、この研修はちゃんと機能しているな、ありがたいなというところですね。



――3人が協力しあって丸一日、30人教室のグループワークのファシリテーションをこなすのは大変なことだろうと思います。ファシリテーターを務めた学部リーダーからはどんな感想が聞こえてきますか?



千葉先生 運営がうまくいったかどうか、スムーズにできたかどうかなど、彼らは冷静に振り返っています。指示が難しいパートなどについて「もう少し具体的に書くように指示を出せばよかった」などと、新入生のことをしっかり見て、ちゃんと振り返ってくれているんです。うまくいったことも、いかなかったことも、次年度の学生にも共有してあげたいと思っています。

「新入生交流会を運営してよかった」という感想は96%。「去年担当したグループの中から一緒に運営する側になってくれた子がいたことがすごくうれしかったので、今年担当したグループからも来年につながってほしい」というようなコメントもあって。コロナ禍だと学部リーダーの(やりがいにまつわる)口コミが伝わりにくかった面もあるのですが、こういう反応を見ると、やはりこのプログラムをやってよかったなと思います。



――先輩の姿を見て、2回、3回と学部リーダーを務めてくれる学生が現れるといい伝統も受け継ぐことができますね。


千葉先生 先輩からは「大変だったけど楽しかった」「後輩たちが喜んでいるのをみてすごくうれしい」などの声があります。学内で声をかけてくれる後輩ができたり、2~3年と学年またいでの協働作業でタテのつながりができたりするという喜びもあるようです。ただ、正直にいうと、年々あっさりしてきている気がしますね。



――あっさりしているとは?


千葉先生 新入生交流会が1日になったコロナ明けあたりからでしょうか。湘南校舎で2日間かけて実施していた頃は、負荷も倍なので、準備のエネルギーもはかりしれないくらい大きいんですよね。その頃の学生のような熱さはないような気がします。そういう機会を得たことに対して、私にさえ感謝の気持ちを伝えてくれていて、こちらも本当にやってよかったと思わせてもらっていました。何代かの学生を見てきましたが、コロナ以降、そんな熱さがないというか、あっさりしているんですよ。



――そのあたりに次のステップに向けての課題が隠れているのでしょうか。


千葉先生 ラーニングバリューの担当さんとも話したのですが、経験が蓄積されるとマニュアルになるんですよね。かつては、自分たちで工夫して手作業で教材を用意するような学年もいましたが、今は先輩のそれをなぞればいいから後輩は準備の苦労もありません。新入生交流会の伝統で例年学部リーダーが学生生活のオリエンテーションを行う時間を設けているのですが、かつてはそのスライドも自分たちの色を出して手間をかけてつくってくる学年が多かったのが、いつのまにか「これでいいんじゃない?」みたいな雰囲気になっていて。



――お手本があるばかりに、自ら工夫したり考えたりする余地を狭めているということでしょうか。


千葉先生 苦労が減る分、成長の度合いも薄いように感じます。しかも、以前は学部リーダーがボランティアで、その学生がオープンキャンパスの手伝いもしてくれていたのですが、そこにつながらなくなってきました。今は研修段階からアルバイト代が発生するようになっていますし、オープンキャンパスのスタッフも入試センターの仕切りで全員アルバイトとして雇うようになったとのも理由の一つでしょう。ボランティアでやってもらうのは大事なことだったと思いますし、それに比べると今は非常にあっさりしていると言えるかもしれません。



――千葉先生は長らく学部リーダーの育成に関わってきただけに、学生の気質の変化に敏感なようですね。


千葉先生 今の大学3,4年生はコロナ禍に学生時代が始まりましたが、大学や中高でコロナ禍を迎えた世代は人間関係が上手じゃないような気がします。何でもあっさり。私が歳をとったせいもあるけれど、教員と学生が飯を食う回数も考えられないくらい少なくなっています。デジタルの恩恵を受けつつ、人間関係を構築して、デジタルでない関係を円滑に楽しみ、しかも自分だけでなく周りも盛り上げられるような学生をつくらないと、大学が沈んでいきますよね。そういう時代になり、新入生の交流の新たな形を模索したり、学部リーダーを育てたり、彼らの活躍の場をどこに設けるかを考えたりするのも、これからの課題なんだろうと思っています



――千葉先生がこの機会を新入生の交流だけでなく、上級生を育てる場にもしたいと思っておられるのはなぜですか?


千葉先生 文教大学でこの取り組みを行うようになってから今までで、学部リーダーに手を挙げてくれたのは、必ずしもリーダータイプの学生ばかりではありませんでした。しかし、ちゃんとトレーニングをして、実践する場を与えると大化けするんです。毎年30人ほどの学生が新入生交流会で学部リーダーを務め、さらに、それを2回、3回と繰り返しやってくれる学生が、行事以外でも活躍している姿が見られるようになりました。誰でもリーダーになれるのに、その場がなかっただけなんです。コミュニケーションが苦手な学生も、しかるべきトレーニングの機会があって、そこで学んだことを発揮する場があれば学生の質は変わると思うのです。



――チームビルディングプログラムを受けるだけでなく、その先の機会も用意したいということですね。


千葉先生 新入生交流会は新入生のためにやっていますが、予算の大半を費やしているのは学部リーダーの育成です。こういう場を与えていれば、それまで気がついていなかった自分のことや人とのコミュニケーションのとり方を学べて、それが役に立つという経験をすれば、自己肯定感が上がって、誰もが与えられた場でのリーダーになれる。私の言うリーダーとは、「人の前を行く」という意味ではなく、「周りに働きかけることができる」という意味でのリーダーのことです。私は教員経験の中で見て、確信してきたので、こういう取り組みをやめたくないし、もっとやりたい。さらにもっと言えば、こういうことを外部にPRできれば大学の生き残りにもつながると感じているのかもしれません。



――身近な人へ良い波及効果をもたらす存在が組織に必要であるという視点は、高校や短大で教鞭をとっておられた千葉先生ならではのもののように思えます。


千葉先生 文教大学でチームビルディングプログラムを行うようになってから最初の数年は、「学部リーダーの育成」という名目で学部の共同研究費から予算をまかなっていたんです。新入生の変化や、2日間のプログラムのファシリテーションをやりとげる学部リーダーの成長を見てくれた人にはその成果が伝わり、研究予算でなく、学部予算を確保できるようになっています。今は「学部リーダーをやった学生はゼミでもひと味違うよね」と言ってくださる先生もいますし、いろんな先生が一生懸命に行事運営に取り組んでくれた学生の伸び具合を見てくれています。



――どのあたりが「ひと味違う」のでしょうか?


千葉先生 積極性、ですかね。あと、引っ込んでいないというか、言わないといけないことを発言しますね。自分のことを伝えなければ相手からわかってもらえないこともわかっているし、他者理解もできるので、その後ゼミのリーダーを務める学生もたくさんいますよ。

ただ、これまでの経緯を知らない先生の中には、学部リーダーの育成について「春休みに学生を拘束して、時間をかけてやる必要があるのか?」と疑問に感じている方もいるようです。

私はチームビルディングプログラムの良さもわかっていて、だからこそここまでやってきたのですが、教員の入れ替わりもあってこのプログラムの意味や意義を見いだせない人もいるのかもしれません。学部リーダーを育成して新入生交流会を行うやり方も、私自身は「これがいい」と思って8年ほど続けてきましたが、2024年度からは若い先生にバトンタッチすることにしました。寂しい気もしますが、新たな形を生むにはこうしたことも必要だと思っています。



※肩書・掲載内容は取材当時(2024年3月)のものです。

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