文教大学国際学部では、チームビルディングプログラムを活用した新入生交流会を実施しています。交流会の運営を担うのは「学部リーダー」と呼ばれる、30名ほどの先輩学生。彼らは研修を受けて、学生ファシリテーターとなってプログラムを行い、新入生の大学適応をサポートしています。今回は、ファシリテーターを務めた学部リーダーの一人である国際観光学科3年生のSさんにインタビュー。学生ファシリテーターを志願した理由や、研修から本番までの経験を通して感じた自身の変化について話を聞いてみました。
Sさん(写真右:国際観光学科3年/語学に興味があり、将来はホテルのフロントスタッフを志望。サービスや経営の実務的な知識を学べることから文教大学国際学部国際観光学科に進学)
――Sさんも入学時に新入生交流会に参加されたんですよね。その時のことで何か覚えていることはありますか?
Sさん 印象的な体験だったので覚えています。新入生が5~6人ずつの班に分かれてグループワークをしました。友達を増やせるタイミングだと思っていっぱい話しかけたし、話しかけた以外の人ともワークを通じて自然と仲良くなることができ、友達の輪が広がりました。その時に班になった人で今も頻繁に連絡を取っている子もいます。
――その時は大学での友達づくりに関心があったんですね。
Sさん 高校と違って大学ではクラスがないので、自分から動かないと友達ってなかなかできないんだろうなと思っていました。自分から積極的にいかなきゃ、っていう意識はありました。
――Sさんが新入生交流会の学生ファシリテーターをやってみようと思ったきっかけは?
Sさん 部活(ダンス部)の先輩に人員が足りないみたい、と声をかけてもらったのがきっかけです。部活以外で違う学年の人と仲良くなるタイミングはほぼないことですし、ファシリテーターを体験することが後輩の助けにもなるし、私自身のコミュニケーションスキルもあげられるのではないかなと思って参加することにしました。
――2年生の時にも学生時代ファシリテーターの募集はあったと思いますが、その時には参加しなかったのはなぜ?
Sさん 2年の頃はそういうことにあまり興味がなかったし、ずっと金髪だったので(笑)、自分はそういう活動の対象外だろうなと思って申し込みませんでした。オープンキャンパスのスタッフとか学生ファシリテーターとかなんとなく、そういうことをする人は黒髪がいいと思われている、と思っていたせいもあります。2年生の夏にインターシップに行って黒髪にしたのも、応募の後押しになりました。
――なるほど。インターンシップではどんなことをしたんですか?
Sさん 1ヶ月間、北海道のトマムのリゾートホテルに1人で住み込みのインターンシップに参加しました。自分の中では、大学に入った時から、新しいことを始めるとか、挑戦してみようという意識は強くもっていたんです。インターンシップも、迷ったけれど、やってみようと飛び込んでみたところ、それによって得られたこともあったし、楽しかった部分もありましたし。おかげで意識が変わって、今後は何か誘われた時にはとりあえずやってみようと思うようになりました。それもあって、学生ファシリテーターもやってみようと思ったのです。
――学生ファシリテーターに応募するにあたって何か不安に思うことはありましたか?
Sさん 主に2つありました。私は人前に出ることがすごく苦手なんです。初対面の人と会話するのは大丈夫なんですけど、1人で発言してるところを注目されるのが苦手なので、そういうところを克服できる機会になるのかなと思って。もう1つは、リーダーシップをとるような経験がなかったので、そういう役割が自分にできるのかなということにも不安を感じていました。
――ファシリテーターとして活動するために、2回にわたって研修が行われたと聞いています。それについて教えてください。
Sさん 1回目の研修は2月に行われ、新入生の頃に受けたグループワークを、もう1回体験するという内容でした。ファシリテーターに応募した他の人たちといろんなワークを通じて仲良くなることもできたし、新入生交流会で行うプログラムの内容や進め方を確認する機会になりました。
1回目の研修の時の私のグループは全員3年生で、一緒に応募した友人1人と、初対面の人4人の合計5人でグループワークをしたんですが、すごく濃密な2日間だった記憶があります。グループワークを通してその子の過去の体験や価値観を聞いて、この子ってこういう子なんだ、っていうことをスムーズに理解できた気がします。普段の会話の中ではあまりしないような話題についても積極的に質問する機会が持てて、ワークの中でその人の性格とか思考とかいろんなことを知ることができて、相手をとても理解できたと感じました。またそのように相手を理解したうえで、どんなふうにコミュニケーションをとったらいいかとかも考えられるようになって、本当に楽しかったです。
――2回目の研修(3月)ではどんなことしたんですか?
Sさん 本番でファシリテーターとしてクラスを受け持って運営するにあたって気をつけるべきことなどを確認しました。新入生交流会は1クラス30~40人の新入生を3人のファシリテーターで担当してプログラムを行うので、誰がどのワークを担当するかなど決めて、具体的なことを話し合いました。
――3人1組になって1クラスのファシリテーションを行うとのことですが、3人のメンバーはどうやって決めたんですか?
Sさん 国際学部には国際観光学科と国際理解学科があるので、両学科の人を組み合わせて、前年のファシリテーター経験者1人と、今回初参加の人2人で3人1組になるように割り振られていました。各ワークでどんな説明をするかとか、時間配分など、3人で話し合いましたが、前年に新入生交流会のファシリテーターを経験した方が2人いたので、本番でどういう風にやったのかとか、本番でこういうことを意識したらいいというようなことも教えてもらうことができてよかったです。
――準備を経て、4月の本番の新入生交流会を迎えたわけですが、教室の雰囲気で印象に残ってることはありますか?
Sさん 1年生がすごく緊張してるなっていう雰囲気が伝わってきて、こちらも緊張しました。午前中は質問された人がそれに答えていくというワークで、グループによっても違っていましたが、お昼ご飯ごろからちょっと打ち解けてきたかなっていう雰囲気になっていきました。質問の内容をきっかけにグループで会話が弾んだり、声のボリュームがちょっとずつ大きくなったりする様子を見て、だんだん話しやすくなってるのかなと感じました。
――よく観察しておられますね。ファシリテーションを実際にしてみていかがでしたか?事前の想定と違っていたことなどありましたか?
Sさん 仲良くなれば話せるようになれるので、そこがクリアできてればいいだろうと思っていました。どのグループも自分たちで話せていたし、共通の趣味が見つかって盛り上がったりもしていたので、 そんなに想定外みたいなことはなかったです。ただ、後半にグループで課題に取り組んでもらった時には、グループによって盛り上がりが違ったので、少し静かなグループはどうやって介入して話を進めてもらったらいいかなどは考えました。
――「介入」という言葉を使われましたが、例えばどんなことをグループに働きかけたんですか?
Sさん 活発に話し合ってるグループもあれば、考え込んじゃって会話に詰まって話し合いが止まってしまったグループもあって。話し合いが進むように、どういうヒントを出してあげればいいかなって気になって、様子を見に行ったりもしました。でも、ヒントを出すのって結構難しくて、どこまで言ったらいいんだろう、みたいなことはありましたね。早く終わってしまったグループの子には「本当にこれで合ってる?」というようなことを言って、もう少し話し合うように促すということはしてみました。
――ヒントになりすぎるとよくない、とは、なぜそう思わったんですか?
Sさん こういうワークって、グループの人と話し合って正解に近づいていくのが面白いじゃないですか。ヒントを出しすぎると、新しい発見にはなるかもしれないんですけど、他のグループと差がついたり、贔屓みたいなことにもなったりする可能性もあります。それに、私がヒントを言うことで誰かの考えを否定しちゃうこともあるだろうなと思って。やはり、自分たちで考えて答えに近づいてくのが1番面白いだろうから、ヒントになるようなことはあまり言いすぎない方がいいなと思ってました。
――「自分たちで答えに近づけるほうが面白い」とSさんが思うのは、ご自身の体験に基づくものですか?
Sさん ヒントをもらって近づいていくのもいいんでしょうけど、それって点数を上げることに対する楽しさのような気がします。私はどちらかというと、点数上げるまでにどれだけ話し合ったかとか、どれだけ自分の意見を言って他の人とすり合わせができたかといったことの方が面白いと思ってるので。ヒントをバンと出してすぐゴールするよりも、そこまでの過程をしっかり体験でることの方が好きだから、自分たちで話し合った方がいい、そのほうが面白いと思ってるのかもしれないですね。
――なるほど。新入生への関わり方のベースには、Sさん自身の価値観があったということですね。
Sさん そうですね。研修で私も同じワークを体験したのですが、グループの人が突拍子もない意見を出して、みんなでそれに乗っかってみたら、ちょっと面白い感じで話し合いが進んでいったんです。そういうのも面白かったので、新入生にもそういう体験ができたらいいのではないかと思いました。
――ご自身もそういう体験をして、合意形成のプロセスを体験する方が面白い、という考え方に繋がっているようですね。私も長いことファシリテーターをしているのですが、常に葛藤を抱えながらやっているので、Sさんの視点は面白いなと感じました。その他に新入生交流会で起こった出来事で印象に残ってることはありますか?
Sさん 新入生については、最初はすごく緊張してたんですが、だんだん打ち解けて話してくれるようになって、最後の質問タイムではみんなバンバン質問してくれるようになりました。
――新入生交流会の締めくくりは質問タイムだったんですね。
Sさん 気になることがあったら最後に質問してもらおうということになり、20分ほど時間を取りました。クラスの6グループを3つに分けて、ファシリテーター1人が2グループずつにローテーションして答えていきました。
――その工夫は自分たちで考えたんですか?
Sさん そうですね。「何か質問ある人」と呼びかけて手を挙げてくれるのを待つよりも、私たちのほうから各グループの机に行くほうが話しやすいだろうと思ったので。不安なことや知りたいことはいっぱいあるだろうから質問タイムには時間をかけましたが、3人それぞれの意見をちゃんと聞けただろうし、きっと不安を解消できたんじゃないかなと思います。
――きっととっても聞きやすい雰囲気になっていたと思いますよ。研修から本番まで、今回の取り組み全体を振り返って、今回の経験はSさんにとってどんなものになりましたか?
Sさん 私にとっては新しい挑戦になりました。自分の意識や性格を変えようとしたり、困難だなと思っていたことにちょっとは立ち向かえたりしたので。新入生の役に立ちたいという気持ちももちろんありましたが、自分の成長につながったと思います。それから、これまでは意見を出すのも苦手だったのですが、授業のグループワークや友達との関係において、自分の考えを言ったり自分から行動を起こしたりということができるようになりました。その変化は大きいですね。
――今までは積極的に自分の意見を言うことがなかったのはなぜですか?
Sさん 間違っていたらどうしよう、みたいな気持ちがあったんですよね。今もそういう不安もあるのですが、確認してやればできる、と思えるようになりました。それこそ、ファシリテーターをする時は事前にいっぱい情報を詰めこんでから本番に臨んだので、「間違ってたらどうしよう」より、「これで合ってるからやれる」みたいな気持ちになれました。なので、ちゃんと確認して、壁打ちしてから行動にうつせば大丈夫、と思えるようになりました。
――「壁打ち」というのは、自分なりに練習をして、という意味ですよね。何かをする時、自分なりに備えることが不安を消して自信になることを実感したということなんでしょうね。
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