文教大学国際学部では、新入生の大学適応をスムーズにするために、2016年度入学者からチームビルディングプログラムを活用した新入生交流会を実施しています。運営を担当するのは30名ほどの学生ファシリテーター(学内での呼称は学部リーダー)。事前に研修を受けた先輩学生が、新入生の仲間づくりをサポートします。前回に続き、今回も学生ファシリテーター経験者のKさん・Aさん(ともに国際理解学科3年生)にインタビュー。新入生同士がコミュニケーションを深めるための場作りの工夫やファシリテーションの経験を通して感じたことについて話を聞きました。
Kさん(左上)、Aさん(右上) ともに国際学部 国際理解学科3年
――お二人も入学時にも新入生交流会に参加されたかと思いますが、その時の体験で覚えてることがあればお聞かせください。
Kさん 少しは緊張もあり、でも新しい出会いもあるので楽しみって気持ちも半々くらいで参加しましたが、すごい盛り上がって楽しかったなっていう印象があります。
Aさん 午前中の活動が終わるぐらいまではずっと緊張してたのは今でも覚えてます。当日同じグループだった女の子2人は教職が一緒だからっていうのもあって、今でも仲良くしてもらってます。
――今回は新入生のためにファシリテーターを務めたわけですが、やってみようと思ったきっかけは?
Aさん 私は今回が2回目の参加です、最初は新入生の時の先輩ファシリテーターのキラキラしている姿が印象に残っていて、自分もやってみようと思ったからです。自分が誰かと仲良くするのではなく、周りの人を仲良くさせることに魅力を感じて、昨年に引き続き、今年も頑張ってみようと思い参加しました。
Kさん 私は今回が初めての参加です。2年生の時にはこの活動を知らなかったのですが、専門ゼミで誘っていただき、人と関わることも人前で話すことも好きなのでやってみようと思いました。
――本番前の2月に2日間、3月に1日間の研修が行われたと思いますが、その時に思ったことを聞かせてもらえますか?
Kさん 2月の研修では新入生に行うものと同じプログラムを体験しました。自分も入学時に体験した内容なので懐かしい気持ちもありましたが、その時の体験よりディスカッションが増えたなと思いました。学年が上がって自分の意見を言えるようになったので、メンバーがお互いに、こうなんじゃない、と意見を出し合うことができたからだと思います。
――学生ファシリテーターには2年生も3年生もいたと思いますが、後輩が先輩に遠慮して発言しづらいというようなことはありませんでしたか?
Kさん 2日間でいろんなグループワークをしてコミュニケーションをとっていたので、グループ課題に取り組む時もみんなしっかり発言できていました。研修のおかげで学年の上下に関係なく意見が言いやすくなり、みんなで考える時間があったことで、チームにもまとまりが出たのではないでしょうか。
――2回目の研修はいかがでしたか?
Kさん 同じグループの子と仲良くなるだけでなく、本番に備えてプログラムの説明の仕方やそれをする意図も考えながら進めていきました。自分たちがどんな風に動かしたら新入生のためになるかなということは考えましたね。
――自分の考えを一緒にファシリテーターを務めるグループメンバーとわかちあいましたか?
Kさん 少し話し合いました。特にコンセンサスプログラムでは、一人ひとりが違う意見を持っていながら、それを調整して1つの目標に向かっていくので、困っていたらどんな風に声をかけたらいいのか、答えは言えないけれどディスカッションを促すにはどうしたらいいということは話し合いました。
――実際に起こりそうな問題を想定してケーススタディをしたということですね。Aさんはいかがですか?研修も2回目ということで、昨年と違いを感じたことはありましたか?
Aさん そうですね。2年生の時は自分の意見をたくさん言ったんですが、3年生になって参加した今回の研修では、意見を言うより、他の人の意見を聞くようにしました。そのことにはグループの子たちも気づいていたみたいです。そのせいか、ふりかえりの時に、2年生の時は「もうちょっと周りの意見を聞いてもいいんじゃない」って言われたんですけど、今回は「もっと自分の意見を言ってもいいんじゃない」って真逆のこと言われました。
――それは面白い体験でしたね。今回は「聞く」を意識したのはなぜなんですか?
Aさん 自分が話すより話してもらった方が距離を縮められるんじゃないかなって思ったからです。自分を出し出しつつも、相手のことを引き出してあげたいと思いました。
――自分なりの意図を持って取り組んだことに対して、手応えはあったんでしょうか?
Aさん グループの人とすごく話しやすくなったし、当日も楽しくやれたし、今でも挨拶しあえるくらい結構仲良くなれました。
――本番のことも聞かせてほしいのですが、 Kさんは今年初めて学生ファシリテーターを体験されたと思いますが、いかがでしたか?想像通りだったことと想像と違っていたことなどありますか?
Kさん まず、想像通りだったことは、新入生は盛り上げてもついてこないということです。ファシリテーターが盛り上げようとしてもちょっと遠慮しているような雰囲気になったので、こちらは盛り上げないといけないなって思いました。それでも、進行するにつれていろいろと質問してくれるようになったし、後輩とも仲良くなれたし、みんな楽しんでくれてよかったです。
想定外だったのは、思ったよりもワークに時間がかかったり、かからなかったりしたことです。もう少し円滑にできるかなと思っていたのですが、時間が余ってしまうことが多かったでしょうか。
――余った時はどうしたんですか?
Kさん 他の教室とも連携を取りながら進めていたんですが、どんどん巻いてどんどん新しい活動に移していって、最後はグループ対抗で英単語競争をするレクリエーションをして調整しました。もう少し時間管理が上手にできたらよかったのではないかと思いました。
――Aさんはいかがですか?
Aさん 1年生が緊張気味なのと、時間が巻きになることは想定内だったのですが、盛り上がったグループと盛り上がらなかったグループが極端に分かれてしまったのはちょっと想定外でしたね。
――盛り上がらなかったグループとはどんな状態だったんですか。
Aさん あまりしゃべらない子が集まったグループがあって、1人の女の子が頑張って話を回してたんですが、長丁場のイベントなので、お昼過ぎの活動ぐらいから、もうしゃべるのが大変になっちゃったみたいな雰囲気になってしまって。一方で、みんなおしゃべりな子が集まったグループはずっと楽しそうにやってくれたんですが、その落差が想定外だったかなと思います。
――ちなみに、新入生のグループはどうやって作ったんですか。
Aさん チェック項目の回答でチャート図を作って、その形が違う人とグループを組むというルールでつくってもらいました。
――自分とはコミュニケーションのスタイルの違う人と組んでグループをつくってもらう方法ですね。
Aさん はい、それを元に新入生だけでグループをつくってもらいたかったんですけど、学科とか男女の割合もバランスをとってほしくて、私自身も新入生の輪に入って「こっち来て、あっちに行って」と言っちゃいましたね。
――なるほど、1年生が自分たちでグループを作っているところにファシリテーターが手伝いもしたけれど、グループによる雰囲気の違いが出てしまったということですね。ちなみに、大人しいグループにはどんなサポートをしたんでしょうか。
Aさん 合間合間に何度も声をかけにいきました。例えば休憩中に1人で座ってる子がいたらファシリテーターがおしゃべりしに行くとか、活動中にグループのみんなが黙っちゃってたら、ファシリテーターの方からネームプレートを手がかりにして話題を広げてみたり、みんな趣味って何、とか聞いてみたりしました。
――働きかけてみた結果、どんな手応えを感じましたか?
Aさん だんだんとしゃべるようになってくれたのですごく手応えを感じました。でも、自分たちだけで仲良くなったグループもあったので、差ができてしまったことには少し引っかかるところはありますね。
――昨年のファシリテーター経験と比較した場合、ご自身の満足度は?
Aさん 満足度は高いですね。昨年もすごく楽しく活動できたんですけど、今年は昨年とはまた違う良さがありました。新入生1クラスを3人の学生ファシリテーターで担当するのですが、昨年は先輩2人と自分の3人の組み合わせで、しかも、先輩の1人はファシリテーター経験が3回目だったんで、自分が1番楽しめる立場だったんです。今年は、自分は経験者で他の人は初めての人で。真逆の立場だったので、少しの緊張感もあり、楽しむだけでなくチームや他のクラスなど全体を見るという役割もあったからこそ感じられた楽しさもあったと思います。
――先日、Sさんにもお話を伺ったんですが、Sさんとお二人は学生ファシリテーターチームのリーダーをされたそうですね。みなさん立候補だったのでしょうか?リーダーとしてご自身で意識して取り組んだことや感じたことはありましたか?
Kさん 私は自分からリーダーになりました。1年の時もゼミでゼミ長をやらせてもらったことがあり、今回も誰もリーダーをするという人がいなかったので、じゃあ自分がやらせてもらいたいなと思って手を挙げました。意識してたことといえば、新入生に円滑に活動を進めてもらうことと、楽しんで仲良くなって帰ってもらうってことですね。ただ、私は今回が初めての経験で、全然ファシリテーターに慣れていなくて。Aくんは慣れているので他の教室にも何回も様子を見に行ってもらったんですけど、自分は受け持ちクラスを見るだけでいっぱいいっぱいになっちゃって。もっと周り見なきゃいけなかったなと思いました。
Aさん 私も自分で立候補したのですが、前年の経験者だったことから久保庭先生から誘われたという事情もあります。「自分の教室だけでなく全体のことを見てほしい、頼むよ」っていうのは常々言われていました。ですから、とにかく他の教室にも顔を出すようにしましたね。何かあったらすぐに連絡を取るということを徹底したくても、「自分に連絡してね」といっているだけでは多分うまくいかないだろうと思って。とにかく自分の方から「これはこうです」とか「私はこうやっています」というのを発信していくことと、全体の様子を見るように心がけていました。
――今回の経験はご自身の今後にどんな意味を持つと思いますか?
Kさん ゼミ長の経験はあるのですが、イベントそのものを動かす機会はこれまでになく、朝から夕方まで丸一日にわたって進行役を務める経験ができました。その中で、時間配分や参加者へのサポート、他の人との連携などをこなさなければならないことがあって、その難しさも学べました。これからは自分のことだけでなく、もっと周りを見て気を配ることも大事だと感じました。また、人前に立ってプログラムの説明をしたことは、専門ゼミでのプレゼンテーションなどにも役に立ちそうです。相手にどうすればわかりやすく伝えられるかを考え、話す内容を整理してから伝える練習にもなったので、就職活動などにも生かせると思います。
Aさん 私は自分が主体となって進行するのだけど、主役は自分じゃなくて1年生で、自分は支える立場であるということを改めて学ぶことができました。また、学年を超えて1年生と3年生の仲を深めるきっかけにもなったのもよかったと思います。
――Aさんは、教職を学んでいて、将来は先生になるという目標も持っておられますが、このようなファシリテーション経験は教育現場で役に立つのではないですか?
Aさん ファシリテーターは、「教える」よりも「引き出す」のがメインだと思っています。学校の先生になった時には、ただ教えるだけの授業にするのか、それとも生徒が自分たちで考える授業にするのかという根本的な視点が変わってくると思います。引き出すことの大切さを学べた体験にもなったかなと思います。
――相手が自主的に動けるようにどんな働きかけをしたらいいとか、そんなヒントも見つかりましたか?
Aさん 例えば、教える時も、答えを教えるのではなくて、ヒントを教えてあげるとか。グループ活動が停滞した時は、趣味の話などみんなが参加しやすい雑談をするなどして、全員が発言できる環境を作ってあげてから、もう一度グループで話すことを促すとか。みんなが動けるタイミングやきっかけをつくるように心がけたので、そういうところも生かしていきたいですね。
※肩書・掲載内容は取材当時(2024年7月)のものです。
前回と今回は学生ファシリテーターを務めた3名の学生さんに話を伺いました。3名とも自分自身が新入生に体験したことではあるプログラムなのですが、やはりファシリテーターの立場の方が、学びが深いように感じました。
前回お伺いしたSさんは、お話を伺っているときは全然そんな風には見えなかったのですが、実は人前に出て注目を浴びることがすごく苦手だというお話が出てきました。しかし彼女のお話からは、新入生の主体性を期待し、じっくり観察しながら必要最小限の支援をするようなファシリテーションのスタンスを感じました。人前が苦手な人の気持ちに共感できるからでしょうか。
また今回お伺いしたKさんは今回が初めてのファシリテーター経験だったようで、一方のAさんは、昨年もファシリテーターを経験した学生さんでした。Kさんのお話からは盛り上げるとか、新入生がついてきてくれる、と言うようなお話があったのですが、Aさんは自分が話すよりも聞く方に徹する、その方が相手から近づいてきてくれる、と言うようなお話があり、一度の経験でかなり違うスタンスになるんだなぁと感じました。
ファシリテーションをするときに、例えば盛り上がっているとか静かだと言うのは、外から見てすぐに分かります。ただ、なぜ今そうなっているのか、グループの中でどんなことを感じながら居るのか、についてはなかなか見えません。視線とか姿勢などに表れることがあるので、じっくり観察すればある程度見えるようになるのかもしれませんが、やはりファシリテーションは難しいなぁと感じました。それだけ奥深いということなのでしょう。さらにはファシリテーターを育成することの難しさや意義も感じたインタビューとなりました。
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