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学びはチームで取り組むべきか?ゼミにチームビルディングを導入した理由とは【十文字学園女子大学】連載1-3

更新日:2023年4月18日

十文字学園女子大学の共通教育には「異学年・異学科」の学生を集めて行う2つのゼミ科目(課題解決ゼミナールと総合ゼミナール)があります。学生が主体となって設定した課題の解決に取り組むゼミですが、全15回の授業のうち、初回・中盤・終盤の計4回をチームビルディングにあてています。なぜゼミのカリキュラムにチームビルディングの要素が必要だったのか?共通教育改革を先導している教育担当副学長の安達一寿先生(社会情報デザイン学科・教授)にお話をうかがったところ、先生ご自身の研究活動から導き出されたアイデアでもあったことが見えてきました。異なる視点を持つ人と協働しながら、チームで取り組むことがより良い学びにつながると考える背景やチームビルディングを導入した動機、そしてアクティブラーナーを育てるための今後の方策についても語っていただきました。





――そもそも安達先生は「チームビルディング」を取り入れた教育について、どこかで見聞きしたことはあるのですか?


安達先生 私も以前からアクティブラーニングなどの教育方法の研究はしていたので、グループを作って行う教育の方法の1つとしてチームビルディングは知ってはいました。ただ、それを自分の授業の中で具体的に取り上げてやるようなことはありませんでした。



――今回、共通教育のゼミにおけるチームビルディングの部分を弊社に依頼しようということになった経緯を教えてください。


安達先生 課題解決ゼミナールを始めるにあたって、私には授業の方向性のアウトラインはありましたが、各学科から集まった学生たちをいかにチームにすればよいのかということについて悩んでいました。確かにいきなり学生を巻き込んで、上手にチームづくりを進められる先生もいるのですが、人の気持ちを盛り上げつつ、その中で必要なことを伝えるといったことは専門の人がやる方が早いですよね。大学の教員は専門的な知識を教えるのは上手なんですが、仲間づくり、チームづくりについてはもっと得意な人にやってもらってもいいかなという思いもありました。


そんな中、COC事業や教育改革に一緒に取り組んできた星野先生が紹介してくれたのがラーニングバリューさんだったんです。いろんな学科の学生がいる場でチームビルディングを取り入れていくべきであるという考えは星野先生の頭の中にあり、「これはいいので話を聞いてほしい」と言われて。御社はチームビルディングのノウハウをお持ちだと聞いていたので、その一部を取り出して授業の中に活用できないかと相談させていただきました。そして、2021年度にスタートした課題解決ゼミナールでは、ラーニングバリューさんには全15回のゼミのうち数回をご協力いただくことになったんです。



――そういう経緯だったんですね。でも、チームビルディングの要素を取り入れた教育を行いたい、という安達先生ご自身のそもそもの動機についても聞いてみたいですね。


安達先生 チームビルディングを取り入れたいという背景には、大学生から今に至るまでの私の研究活動の経験が影響しているのかもしれません。

私には大学時代に参加した教育工学のゼミの仲間が十数人いて、今もつながりがあります。この歳になると学校現場で管理職をしている人も多くなっているんですが、みんな若いころから真面目に研究に取り組み研究活動や教育実践を進めて来ています。そこではいつの間にかお互いの役割が生まれ、チームワークが絶妙に機能していました。そういうことも研究で良い成果を出せた要因だろうと思っています。

世の中の大きな課題に向かっていくには旗振り役は必要ですが、それぞれの役割に基づいてみんなで協力して進める方が良い成果がでるということを実感としています。だから、学生にもそういうことを経験してほしいと思っているんです。

ただ、最近は協働するというのが苦手な人が、若者全体の中でも多くなっているんじゃないかなとも危惧しています。だからチームでやる、グループでやるという体験を、共通教育のゼミだけでなく、私の授業でも取り入れるようにしているんです。



――具体的にはどのような授業を行っているのですか?


安達先生 プレゼンテーションという授業を例に挙げるなら、はじめにプレゼンテーションの知識や技術的なことを学びます。次に少子化や職場での女性活躍などの社会課題を提示して、その解決策を提案してもらうのですが、資料収集から発表までを4人位のグループに分かれて行ってもらうようにしています。これまでプレゼンテーションは対面で行っていましたが、今年はビデオにまとめて発表してもらい、全グループの映像を全員で見て、お互いに評価しあおうと思います。グループ発表のあとは個人でのプレゼンテーションも行います。グループでも個人でも、社会に出たらどちらにも対応できるようにしておくことを大事にしているかもしれません。



――他者と協働する大切さを実感した安達先生だからこそ、その授業の形が生まれたと言えそうですね。


安達先生 自分の研究活動からグループの大切さや、協働することでパフォーマンスが良くなると感じた体験に基づいていると思います。実は私の昔からの研究テーマの1つに、チームやグループでの活動をどうすればネットワーク上で円滑に進められるか、というものがあります。現在、世の中にあるグループウェアと呼ばれるチームで使うソフトやシステムについて、かつて研究をしていました。グループ活動をオンライン上でやろうとするとみんな仲良く協力できないとできないですからね。さらに言えば、寂しがり屋で一人では何もできない、ということも言えるかもしれませんが(笑)



――少し話は横道にそれますが、星野先生が大学教育フォーラムで発表された内容に非常に興味深い分析があったので共有させてください。

学生さんの毎回の授業のリフレクションをもとに星野先生が作成された図なのですが、面白いことに、活動中期の活動に「役割を決める」が含まれているんです。一般的に、多くの先生がグループワークをするときに最初に指示するのは「役割を決めてください」と「これからの計画を決めてください」ではないでしょうか。ところが、星野先生がチームビルディングを取り入れた授業におけるグループワークを観察したところ、それは自然な流れの中で中期に行われたというんです。個を知る、そして個の強みを活かすというプロセスをたどり、その結果、一人ひとりの役割が決まる。私はこの順番がチームビルディングの重要なポイントのような気がしたんです。



第28回 大学教育研究フォーラムでの十文字学園女子大学 教育人文学部 文芸文化学科 星野祐子先生の発表スライドから「PBL型の学科横断プログラムへの適応」


安達先生 なるほど、そうですね。これは面白いですね。



――私たちがチームビルディングで用いるプログラムでも「個を知る」ということをすごく大事にしています。悩みごとや今感じていることなど、その時その時に心の中にあるものをいかに自然に表に出せるようにするかに配慮してプログラムを設計するんですが、貴学の課題解決ゼミナールでは、そのあたりのこともうまく設計できたんじゃないかなと思っています。こういうノウハウを貴学の中で広めていくことができれば、アクティブラーナーを育てられる先生も増えるのではないでしょうか。


安達先生 会社や専門ゼミであれば、まず課題があって、それをどう解決しようか、計画を立てて役割決めようという順番で話が進みますが、課題解決ゼミナールでは何の課題解決をするかは一切掲げていません。いい加減の功罪といいましょうか、極めていい加減な科目で「集まったメンバーで何を課題に定めるかを決めよう」から始まるんです。すると、まずはメンバーがお互いのことを知らないと、相手がなぜそういう課題を提議してくるのかという背景が理解できないと思うんですよね。それで星野先生はこういう展開を考えたんじゃないでしょうか。もちろん課題決定までは学生が迷走してしまわぬよう、ある程度の方向づけは教員がする必要はあるでしょうが、そういうことも話し合いながら決めたことで、こういうステップを踏んでチームが成長していったということだろうと思います。



――こうして授業にチームビルディングを導入した効果についてはどう感じておられますか?


安達先生 そこまでリアルに授業を見学していないのですが、担当の先生からは「やってよかった」と聞いています。メンバー間のアイスブレイクや、いろんな悩みや考えの共有とか、協力して仲良くやろうというムードを高めるという面でそれなりの効果はあったと思います。



――今後の課題解決ゼミナール、総合ゼミナールについてはどのようにお考えでしょうか?


安達先生 授業科目数も増やしていきたいので、担当できる教員を増やしたいと思っています。一定数以上になると強制的に担当していただくことになりかねないので、それまでに経験の少ない先生でも、こうすればうまく授業を進められるというノウハウを確立しておきたいとは考えています。


また、今は取り上げる課題は何でもいいと各先生に任せていますが、課題解決ゼミナールではどちらかといえば身近な課題を選び、総合ゼミナールではできるだけ社会課題に結びつくようなものにして欲しいとは伝えています。例えば、今の世の中でいえばコロナ、国際情勢の不安や、そこから派生した環境やエネルギーの問題、少子化や高齢化などいろいろなテーマを見つけることができますし、理想を言えば、ゼミで掲げた課題が本当の意味での社会課題の解決につながるといいのですが。とはいえ、大学生が取り組むものですし、人的資源の問題もあるのでなかなか難しいことも承知していますが、できれば社会課題に直結した課題に取り組んでほしいとは思っています。


さらに、メンバーの多様性の幅も広げたいので、総合ゼミナールではできれば学外の方も迎えて展開できたらいいなと思っています。COCも地域の人を巻き込んで進めていったので、課題にもよりますが、それらに精通した専門家や地域の方と協働できるようになればいいですね。



※肩書・掲載内容は取材当時(2022年6月)のものです。


 

 十文字学園女子大学さんの共通教育科目の改革の根っこには、自分たちが寄って立つ建学の理念をしっかりと置いておられました。その上で女子大としての意義も考えておられ、さらには今の学生の特性や、改革の主体者である安達先生ご自身の経験からも、育みたい力を考えられて、今回の改革を形作られていらっしゃるように感じました。

 お話を伺った安達先生は、とても物腰の柔らかな感じの先生で、お話の口調はとても優しい感じでした。一方でどんな質問にもスパッとお答えいただいて、しかも一段と高い視点からの発想や、少し長いスパンでも検討されているなと感じました。「きわめていい加減な科目」と言うお言葉があったのですが、決してネガティブな感じではなく、失敗を恐れず試行錯誤をしながら進んで行こう、と言うようなエネルギーを感じました。安達先生が進められる改革であれば、学内の合意形成はきっとスムーズだったのだろうな、と思いました。今回はZoomでのインタビューとなったのですが、是非一度直接お話を伺いたいと思いました。

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