十文字学園女子大学では共通教育に異学年・異学科の学生を集めて行うPBL型の科目「課題解決ゼミナール」「総合ゼミナール」を設けています。鳥越信吾先生(社会情報デザイン学部 社会情報デザイン学科 講師)は総合ゼミナールを担当。所属学科のPBL型の必修科目「企画構想ワークショップ」での指導経験を活かして、授業を構成されました。しかし、グループワークの成果を左右する「チームビルディング」に課題を抱えていたことから、全15回のうち2回をチームビルディングの時間にあてることにしたそうです。すると、チームビルディングのワークを通して、学生たちの自己開示や相互理解がすすみ、その後のPBLの進捗にも大きな影響があったようです。とりわけチームビルディングがすすむポイントになったのがグループで行う「ふりかえりとわかちあい」。その様子を目の当たりにした鳥越先生は何を感じ、考えたのか聞いてみました。

――鳥越先生の総合ゼミナールのチームビルディングのパートを弊社スタッフAがサポートさせていただいたと聞いています。Aが授業に参加することになった経緯についてお聞かせください。
鳥越先生 総合ゼミナールの初開講は2022年度の前期でした。企画構想ワークショップで得た知識をどう活かすか、また、その時に感じたチームビルディングの課題をどうしようかと考えながら春休みを過ごしていたところ、Aさんと安達先生と一緒に打合せをすることになったんです。何も知らずに打合せに参加すると、Aさんがチームビルディングの専門家だと知り、渡りに船とその場で授業に入っていただけるよう頼んで、授業の2回を担当していただくことにしたんです。

――授業計画の4.5にあたるパートですね。
鳥越先生 企画構想ワークショップをふまえて、Aさんにどこに入ってもらうか考えたのですが、初回よりも、グループ活動にちょっと悩みが出てきたあたりで入ってもらえたらいいなと思っていました。それで、そのタイミングで入っていただくことにしました。
――Aが入った授業はどうでしたか?
鳥越先生 よかったです。グループ内で徹底的にインタビューしあう「総当りインタビュー」を体験してもらったのですが、それがすごくよかったですね。それまではグループを組んで、なんとなくデスクリサーチをして、なんとなく学内を歩いて、なんとなく会話して…という感じで、グループメンバー間での正面からの対話は皆無でした。だから、メンバー間の関係が浅かったんです。ここに「総当りインタビュー」が入ったことで、はじめてメンバーが向き合えたような気がしています。大学に入学したきっかけとか、入ってからの悩みとか、ともすればプライベートなところにまでつっこんだテーマも質問リストに入っていましたが、それをインタビューしまくることでぐっと関係が深まった印象がありました。
――チームビルディングをねらいとして、それ以外にはどんなことをしましたか?
鳥越先生 配られたカードに断片的な情報が書かれていて、その情報を口頭で伝え合いながらグループで一つの地図を完成させるというプログラムもありましたね。
――なるほど。それはおそらく課題解決実習だと思います。
鳥越先生 これはコミュニケーションの難しさみたいなものを学生に伝えられたんじゃないかと思います。ディスコミュニケーションは常に起こりうるのだから、ちゃんと伝えないといけないし、ちゃんと聞かないといけないし、わからないことは質問しないといけないし、伝わらないなら説得しないといけない。「課題解決実習」はそういうことを教えてくれたんだと思います。うちの学生の多くは、みんな空気を読むのが良くも悪くも非常にうまくて、「そうだよね、そうだよね」といいながらディスコミュニケーションを覆い隠して進めてしまうことが多いので。なんとなくやってきたコミュニケーションを、一回考え直すいい契機になったのではないでしょうか。すごくいいアクティビティだと思いました。
――2回のチームビルディングの授業を終えて学生の変化はいかがでしたか?
鳥越先生 荒削りではありますが、議論するようになったという印象があります。それまでは、声の大きい人がいったことに追随して、意見をすり合わせる活動はそれほど見られなかった気がしますが、この活動を経て、私には意見と意見をすり合わせようとする学生が増えたように見えましたね。
――企画構想ワークショップの時の学生の様子とは違っていましたか?
鳥越先生 そうですね。企画構想ワークショップでは声の大きい学生に他の学生が追随する感じでしたから。かなり単純化していえば、声の大きい学生がXという意見をいえばグループが追随してXが追認されるだけ。そこに教員の介入があれば、はじめてその意見の改善がなされてX’という意見が生まれる、という具合でした。それが、総合ゼミナールでは、教員の介入なく、グループメンバー間で意見を戦わせてX’を出せるようになりましたね。
――学生が自主的に動くようになったということでしょうか?
鳥越先生 そうですね。選択科目なので、もともとやる気のある学生が受講してくれてはいるのですが、学科横断で集まったクラスでは、お互いに初対面で何を話していいかわからないという雰囲気がマイナス面でもありました。それが、学科を越えて仲良くなれ、さまざまな個性をもつ学生たちが有機的に関係をもつことでチームに活況が生み出されるようになったので、Aさんに入っていただいてチームビルディングができた成果はすごいと思います。
――チームビルディングのプログラムって、ワークをすることも大事ですが、実は構造も重要なんです。「総当りインタビュー」をしたあとで、「ふりかえりシート」を使って、「ふりかえりとわかちあい」をしたと思いますが、その流れをみてどう思われましたか?
鳥越先生 新鮮でした、ここまでやるんだ、と。ふりかえりシートを書かせるまでは私でも思いついたかもしれませんが、それを共有するんだなと思いました。通常の授業では、教員がしゃべって、学生がグループワークしてリアクションペーパーを書いておしまいです。つまり、個人の振り返りをせいぜい教員にフィードバックして終わりです。が、この振り返りを学生間で共有してさらにディスカッションするのは初めてで、面白いと感じました。
――私もいろいろな大学でチームビルディングプログラムを提供していますが、実習では、個人でのふりかえりとグループでのわかちあい、場合によってはクラス全体での共有もするんですね。その後で、学生さんに「チームビルディングがもっとも進んだのはどこだった?」と尋ねると、8割方「わかちあい」と答えますね。
鳥越先生 なるほど。
――チームビルディングを進めるという意味では、わかちあいのある・なしには大きな違いがあると思っています。鳥越先生の目にも、やはりそこが他の授業との違いであると映ったようですね。
鳥越先生 私のような素人には「ふりかえりの共有」なんて全然思いつきもしませんでした。どうにかしてグループ活動をよくしようという時に、素人では「ふりかえりとわかちあい」は選択肢に出てきませんね。これは教員にとって示唆的でした。
――先ほど鳥越先生がおっしゃったように、学生にリアクションペーパーを書いてもらうとか、場合によってはそれにコメントして学生に返すくらいはするのでしょうが、それとは違いますよね。
鳥越先生 リアクションペーパーを書かせて教員に出すという活動は、教員と学生のコミュニケーションにはなっていますが、学生同士のコミュニケーションになっていないんですよね。それに気づいて私も自分の授業を反省しました。授業によっては、前週のペーパーに書かれていたことにコメントすることもありますが、それでも「こんな意見が前回ありましたよ」と教員が発しているだけで、学生相互のコミュニケーションになっていないんですよね。そういう意味でも、ふりかえりの共有は、学生間で情報の伝達開示を行う初めての経験となりました。
――わかちあいのあと、さらに「グループの長所と今の課題について話し合ってみる」というステップを入れてみてもいいかもしれません。グループの長所と課題について話し合うと、「課題」のほうがより頭に残るんでしょうね。次から自然とその課題を解決しようとする動きが出てくるんです。われわれが外から見て感じることを伝えることも有効だと思いますが、学生が自分たちで決めた課題だと、それをクリアしようと取り組むようになることが多いように思います。
鳥越先生 なるほど~。勉強になりますね。話し合って終わりにしないというのがチームビルディングのコツなんですね。話し合って出てきた課題を共有して、またとことん話し合うということを繰り返していくんですね。
――我々もチームビルディングに関わり初めの頃は、実習の中身、すなわちコンテンツをどう選ぶかや、それをどう扱うかが気になることが多かったのですが、場数を踏むうちに、「わかちあい」にどう誘い、促していくかに気を配るようになっていきました。弊社には「自己の探求」という2日間のチームビルディングプログラムを担当するファシリテーターが約80名いますが、みなさんがぶち当たる壁が「わかちあいを促すこと」なんです。プログラムの参加者にわかちあいの意味が伝わると、ちゃんと取り組むようになり、面白がって自分たちで進めるようになるんですが、そこがきちんと伝わっていないと、ただの作業になってしまい、適当に済ませてしまうということも起こります。そうするとチームビルディングは進みません。全員が予定調和的なことを発言して、お腹の中ではこの話し合いはつまらないと思っている、なんてことも起こるわけです。そのへんが難しいところなのですが。
鳥越先生 そうか、わかちあいをするとしても、表層的なものになってしまう危険性もあるんですね。
――あります。そういう時にちゃんとわかちあいの意味をファシリテーターが伝えるのはすごく重要なんです。
※肩書・掲載内容は取材当時(2022年9月)のものです。
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