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グループワークの成果はメンバー次第?教員はチームづくりに介入すべきか?【十文字学園女子大学】4-1

更新日:2023年4月18日


前回までの連載では、「課題解決ゼミナール(2・3年生向け科目)」の指導教員と受講生とに授業体験談を聞いてきましたが、今回は課題解決ゼミナールの発展科目でもある「総合ゼミナール(3・4年生向け科目)」を担当した鳥越信吾先生(社会情報デザイン学部 社会情報デザイン学科 講師)にご登場いただきます。教員としてのキャリアは浅い鳥越先生ですが、共通教育改革の先導役でもある安達先生に指名され、同大にはじめて開設される異学科・異学年混成のPBL型のゼミナール科目を担当することになったのです。まずは、鳥越先生が全15回の授業をいかに設計し、どのように進めていったのか聞いてみました。




――まずは鳥越先生のプロフィールをお聞きしたいのですが、ご専門は?


鳥越先生 社会学です。特に時間の研究をしています。もともと文学青年で、たとえばプルーストの『失われた時を求めて』などを読むうちに時間への関心をもっていました。大学2年でなんとなく社会学専攻に進んだあと、社会学のなかで時間について多く論じているアルフレッド・シュッツという学者の仕事に出会い、時間の研究に取り組むようになりました。最近でいうと、待機という現象に関心をもっています。待機はわれわれ人間にとってきわめて重要な行為ですが、実は社会学には待機の研究があまりなくて。この辺のパイオニアになれたらと密かな野心を燃やしております。



――学部から大学院を経て、すぐ教員になられたんですか?


鳥越先生 学部を出たあとに一度就職しています。出版関係の仕事でした。仕事自体は楽しかったのですが、研究したい意欲がどうにも抑えきれず、仕事を辞めて母校の大学院に入りました。その後、修士、博士を修了して、非常勤や他の機関の研究職を経て、十文字学園女子大学に着任しました。現在3年目です。



――今はどんな科目を担当されているのですか?


鳥越先生 社会学系科目では「社会学基礎」や「現代社会論」「アイデンティティ論」。それから、レポートの書き方や情報収集の仕方など基本的なアカデミックスキルを学ぶ1年生向けの「入門ゼミナール」と、社会情報デザイン学科の必修科目でPBLのような「企画構想ワークショップ」も担当しています。



――今回お話をお伺いしたいのは、異学年・異学科混成で学ぶ「課題解決ゼミナール」や「総合ゼミナール」のことですが、違いを知るためにも「入門ゼミナール」や「企画構想ワークショップ」のことももう少し聞かせてください。

「入門ゼミナール」や「企画構想ワークショップ」はアクティブ・ラーニング系科目ですか?


鳥越先生 1年次必修の「入門ゼミナール」は、グループワークも一部ありますが、レポートの書き方や情報収集の仕方を座学で学ぶような側面が多いです。同じく1年次必修の「企画構想ワークショップ」は、学生にプロジェクトを組ませて、最初から最後までグループワークで進めていくPBLで、アクティブ・ラーニング系の科目ですね。



――その進め方をもう少し詳しく聞かせていただいてもいいですか?


鳥越先生 「企画構想ワークショップ」は統一テーマを決めて、学生をいくつかのグループに分けてグループワークを進め、最後に各グループがテーマに関するプレゼンするというものです。自分たちで課題を発見しその課題を解決する提案にまで至ることによって、問題発見・解決力と協働する力を養うことを目指しています。昨年度は「自転車から社会を考える」というテーマでグループワークを行いました。面白い最終プレゼンがいくつもありましたが、たとえばあるグループは、自転車の盗難を減らすための方策として、鍵をかけなくても盗まれない駐輪場を提案しました。駐輪場を地域の施設とドッキングすることで、つねに誰かが自然に駐輪場にいる状況を作り出し、それによって盗難を防ごうというアイデアです。自転車の盗難防止というとやはり「鍵の改善」の方向に行きがちなのですが、そちらにいかず、発想を逆転させた点が見事でした。



――グループ間でメンバーチェンジは行ったのですか?


鳥越先生 グループのメンバーチェンジはせず、最初から最後まで同じメンバーで進めました。ただ、グループ分けにはいろいろと反省点もあります。どのグループも最初はよそよそしい感じですが、半期をとおしてグループワークを進めていくうちにそれなりに密接な関係を築いていきます。授業自体についてはある程度うまくいったと思う反面、チームビルディングについてはかなり反省点がありました。



――どういうところに課題を感じましたか?


鳥越先生 まずグループはランダムで組ませましたが、私にはチームビルディングの知識がないので、チームビルディングは運任せだったところが決定的な反省点です。教育とは学生への介入だと思うのですが、その部分では教育を放棄していたと思うんです。誰とグループになるかはガチャガチャのようなもので、たまたまメンバーの運が良かったところや、グループが有機的に作動したところはハネるけれど、そうでないグループはそんなにいい経験ができなかったのではないか、と。それを強く反省しました。しかも、必修科目なので、やる気がある子もない子もごちゃまぜにしてグループをつくるので、ますますガチャガチャ的な性質は強かったです。しかもこれに加えて、コロナ禍という事情もありました。メンバー5人のうち4人は対面だけど、1人はZoomをつないでオンライン参加のような場合も多く、チームビルディングが進まないというケースもありました。そういう環境的な問題と、教員がチームビルディングに不慣れなことが相まって、不遇な目に遭った学生はいるんじゃないかと思います。



――グループに分けることと、それがチームとして機能するまでに距離を感じたということでしょうか。

ところで、前回のインタビューで、異学年・異学科の学生を集めて行う「課題解決ゼミナール」の取り組みについて担当の星野祐子先生に話を伺いました。その際に、課題解決ゼミナールは2・3年生対象で、その発展系が3・4年生対象の総合ゼミナールであると聞いたのですが、鳥越先生はその、総合ゼミナールを担当されたんですよね?しかも、授業の一部にチームビルディングを取り入れたとも聞いています。まず、鳥越先生が総合ゼミナールを担当するようになった背景からお伺いしたいのですが、「総合ゼミナール」を担当するよう副学長の安達先生から白羽の矢を立てられて、どう感じましたか?


鳥越先生 最初は「???」という感じでした。あまり事情もわからず、とりあえずスタートしたというのが正直なところです。実は、私が総合ゼミナールの担当に指名された経緯を知ったのはこのブログの安達先生の記事だったんですよ。



――アハハ、なるほど(笑)。課題解決ゼミナール~総合ゼミナールをカリキュラムに導入する教育改革をリードされていたのは安達先生ですが、それまで鳥越先生は安達先生と関わりがあったのですか?


鳥越先生 安達先生は同じ学部の先生で、オムニバス形式の科目を一緒に担当したり、いろいろアドバイスをいただいたりするなど、日頃からお世話になっています。私に総合ゼミナールの担当を持ちかけたのは、おそらく企画構想ワークショップの経験があるからだと思います。総合ゼミナールでも、学生にプロジェクトを組ませて、課題設定からプレゼンまですべて彼女たちにさせる、というPBLの形をとるので、企画構想ワークショップの経験があればできると想定されていたのではないでしょうか。



――依頼されてから、鳥越先生は授業をどのように組み立てようと考えたのですか?


鳥越先生 ベースは企画構想ワークショップの進め方がいいと思っていました。課題設定から学生にさせるのは大変ですが、学生にとって学びが多いのでそれは踏襲しようと考えていました。クラスを5~6人ずつのグループに分けて、最初から最後までグループワークで通すことも同様です。ただ、総合ゼミナールは学部学科が異なる学生を集めて行う授業なので、学科ごとにグループワークにどの程度なれているのか分からず最初は悩みましたね。たとえば、オンラインでPowerPointをつくる作業ができるのかとか、Zoomでのディスカッションにどれくらいなれているかとか、そもそもPowerPointでスライドを作ったことがあるのかとか。あとで明らかになったのですが、PowerPointを一度も作ったことがない他学科の学生がいたんです。

学科横断で開講される授業なので、まずは一つのグループにいろんな学科が入るようにしてみようということと、教え合える話しやすい環境づくりをしようということくらいは考えていました。ですが、学科間の差異をネガティブにとらえず、ポジティブに持っていく方法はないかと考えたものの、よい解決策は思い浮かばずにいました。どうすればよいか悩みつつ、開講を迎えようとしていたのです。




――授業内容はどうですか?計画では、最初の授業でガイダンスとグループづくりを行う予定ということですよね。「2.デスクリサーチ」とは何をするのですか?


鳥越先生 図書館に行ったりパソコンを使ったりして、きっちり情報収集をしようということですね。「3.オブザベーションリサーチ」では、気になったことは見に行こう、観察しましょう、ちゃんと足で稼ぎましょう、という調査の基本を学生に教えたくて。私の印象なんですが、学生と接していると「デジタルネイティブであるがゆえに街に出ない。またデジタルネイティブにもかかわらず全然調べない」時があるように感じます。こういう背景から、ちゃんとググりましょう、図書館に行きましょう、他者の行動を観察し、他者の声をもっと真剣に聞きましょう、という練習を取り入れることにしました。



――なるほど。Googleの検索結果を見て、自分の欲しい情報が目につくと真偽のほどを考えずに受け入れてしまうことへの対策ですね。


鳥越先生 おっしゃるとおりです。情報間の比較もしないことも多いですし、情報の裏を取るという意識も必ずしも徹底してないときがあります。メデイアリテラシーも含めてちゃんと教えておきたいと思っています。



――総合ゼミナールは課題設定の段階から学生主体で行われる授業とのことですが、テーマ設定などはあったのですか?


鳥越先生 テーマは「十文字女子大学の魅力を考えよう」でした。大学に魅力があるとすれば、どうすればもっと伸ばせるかを考える。魅力がなければ、どうしたらつくれるか考えよう、ということです。自分の通う大学を改善するために、学内を見てまわって写真を撮るなどしてオブザベーションリサーチをして、そのあとにチームビルディングのプログラムを2回、設けることにしました。



――ちなみに、受講生は何人いたのです?


鳥越先生 40人が履修登録してきて…



――選択科目ですよね?星野先生の課題解決ゼミナールは10人だったと聞きましたし、企画構想ワークショップも40人を4人の先生で見ていたことと比べると、かなり多いですよね。


鳥越先生 私1人にもかかわらず受講生は40人。見た瞬間に、これはまずい、と頭を抱えました。それで第1回授業の冒頭は、学生に対して、教員のある意味での「敗北宣言」をするところから始めるほかありませんでした。「私一人で40人のグループワークを見るのは不可能なので、私は残念ながら教員としての指導責任を放棄して、指導者ではなく、ファシリテーターとして関わるので、どうか自発的に頑張ってくれ」と。


※肩書・掲載内容は取材当時(2022年9月)のものです。

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