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少子化時代の大学変革のカギは教員の組織化、活性化にあり【文教大学】連載2-3

文教大学国際学部では、新入生の大学適応をスムーズにするために、2016年度入学者からチームビルディングプログラムを活用。入学直後の新入生交流会で親交を深めた学生たちはゼミでも活発にコミュニケーションをとっているようです。一方で、モチベーションの高まった学生を受け持つ側の教員はどうでしょうか?教員同士の連携、組織化が進めば、学びの場としての魅力はもっと高まる可能性があります。学生の変化を喜びつつも、教育現場の未来について思案する久保庭 慧先生(文教大学 国際学部 専任講師)に、今の心情を尋ねてみました。





――ここまで久保庭先生の話を聞いていて、改めて感じたのは、大学で先生方を組織化することの難しさです。


久保庭先生 大学って、基本的に個人商店のようにそれぞれの先生が独立して仕事をされている場合が多く、例えば新入生交流会などの行事を担当することになっても、かなり属人的になってしまいやすいんです。担当していた先生がいなくなると、その取り組み自体が終わってしまうなんてこともよくあるのではないかと思います。その意味で教員同士の連携や組織化が大切だと感じます。



――少子化が進み、今は経営が安泰、という大学は少ないのではないかと思います。そんな中でも、明るい見通しがたてられるのは、学生同士がちゃんと関係性をつくれることや、先生方の関係性が良くてファカルティとして一体感があるといったことがキーポイントになるのではないかと思っています。


久保庭先生 そうですね。最近の学生たちは、早い段階から大学という場所で何を得られるかを意識しながら過ごしているように感じます。この大学に来たら何を得られるのか、しっかりと打ち出せるようなものをつくっていかなといけないなと私自身も感じています。



――やはり、そこで必要になるのは、先生たちの連携ではないでしょうか。


久保庭先生 そう思います。ただ、やはり教員同士でそういった連携をとるのは時間的にも人的な資源の面でも難しい部分が多く、課題を感じます。ラーニングバリューさんはFDについて大学で講演をされることはありますか?



――はい、あります。久保庭先生のように若くてそういうことに問題意識をお持ちの先生もたくさんおられます。われわれが得意としているのは集団の活性化なので、「学生集団の活性化」というテーマでFDをさせていただくことがあります。ただ、その際にもよくお話させていただくのですが、実は「最も大事なのは教員集団の活性化」ではないかと思うのです。

とりわけ初年次教育のような、多くの先生方が関わっておられる教育がキーポイントになるんだろうと思います。とは言え、どの先生にとっても初年次教育は言わば「専門外」ですから、苦手意識ややらされ感につながることもよくあることのようですが…。

ちなみに文教大学の国際学部では初年次ゼミはどのような体制で行われていますか?


久保庭先生 1クラス16~19人くらいで、2学科あわせて18人の教員が担当しています。



――授業が始まる前の準備期間に行われる新入生交流会のおかげで、初年次ゼミが進めやすいと感じることはありますか?


久保庭先生 新入生交流会の際のクラス分けは、基本的には初年次ゼミのクラスがベースになっています。新入生交流会の翌週から各教員の担当で初年次ゼミが始まるのですが、顔見知りがいる状態で始められるかどうかで、ゼミの雰囲気も違うでしょうから、そういう面では新入生交流会の体験が初年時ゼミの進めやすさにもつながっていると言えるのではないかと思います。



――久保庭先生も初年次ゼミを担当されていますか?


久保庭先生 はい、着任してから毎年担当しています。ゼミの最初の1,2回目は自己紹介や簡単なグループワークから始めることが多いのですが、新入生交流会で話していることでだいぶスムーズだと感じることが多いです。



――初年次から2,3年次の専門課程への連携ってすごく大事なのに、実はうまくいっていない大学も少なくありません。そういう面で、国際学部では入学直後のチームビルディングで集団を活性化することが、学びのモチベーションにもよい影響をもたらしていると言えそうです。

 一方で、教員側の組織化や活性化に課題を感じておられる学校様へは、グループワークを活性化させるためのファシリテーションを身につけていただくためのFDなどを提案させていただいています。


久保庭先生 教員同士である程度ノウハウを共有できる場が増えたらいいと思いますし、場合によっては外部の人にいろいろなノウハウを教えてもらう機会が増えていくといいなと思います。



――それは絶対にいいと思います。先ほど、初年次ゼミを担当されている先生は18人とおっしゃいましたが、それは18通り分の多様な授業の進め方に関する宝が眠っているということですよね。ところが、大学での教育は人にノウハウを開示されることが少ないわけです。


久保庭先生 そもそも他の先生の授業を見る機会ってそれほどないですからね。



――それはみなさん、見せない、というわけではなく、自分の工夫がすごいことへの自覚がないからかもしれませんね。だとしたら実にもったいないことだと思うのです。弊社のFDでは、チームビルディングプログラムのグループワークを活用して、各先生の工夫を共有する場をつくっています。すると結構いろんなアイデアが出てきたりするんですよ。


久保庭先生 私自身は他の先生の授業を実際に見てみたいと思うことが多いのですが、なかなかそういう機会もなくて。学生から他の先生の授業のことを間接的に聞いたりして、それがとても参考になることが多いのですが…。



――他の先生の授業に興味があるのはなぜですか?


久保庭先生 人の授業を見る機会がないと、自分の授業を客観視することができないからですね。今はどの大学でも授業アンケートがありますが、それだけでは必ずしもわからないこともありますので。他の先生の授業のやり方を知ることで、自分の授業の弱みと強みがどこなのかを把握できますし、そういう意味でも他の先生の工夫を知ることはとても大事だなと思っています。



――勉強家で研究家ですね。久保庭先生はご自身の研究だけでなく、教えることにも興味があるんですね?


久保庭先生 学生からもよく聞かれるんです、「なんで大学の先生になったの?」と。いろんな回答のパターンがあるのですが、単純に答える時には「研究と教える仕事の両方をしたかった」といいます。私は研究はもちろん好きですが、教える仕事もやりたくて。学生時代に塾講師を長くやっていたこともあり、教えることへのモチベーションは大学教員になる前のアルバイトで培われたように思います。



――なるほど、教えることそのものにもご興味があられるんですね。


久保庭先生 教育って終わりがないので、やり始めると際限なく時間を使ってしまいますね。



――自分の専門分野の魅力を学生に伝えたければ、相手を惹きつける表現や伝え方の工夫も必要になりますよね。研究も教育も両輪で取り組む意義はそういうところにありそうです。


久保庭先生 そう思います。ただ一方で、大学教育で求められることの多い、ファシリテーション能力を身につける機会って実はそう多くないんですね。大学教員は一般に常勤の職につく前に、非常勤講師として教育歴をつけることが多いのですが、そこで経験できるのは多くの場合講義形式の授業で、常勤教員になる前にゼミ形態の授業を経験する人はそれほど多くないと思います。私自身もゼミを受け持ったのは今の勤務先が初めてでした。学生自身に能動的に考えて、動いてもらうにはどうしたらいいか、これは今でも試行錯誤の連続です。ゼミで教員に求められるのはファシリテーション能力ですが、新任の教員ですと、なかなかそういうことを身につける機会は少ないのではないかと思います。



――新入生交流会で使われているチームビルディングプログラムや、学部リーダーの研修プログラムには、先生の授業や学生への接し方について参考になる点はあるのでしょうか?


久保庭先生 御社の講師の方がやっている研修の様子を見て、ヒントかなと思うことの一つは「我慢する」ということでしょうか。私なんかはゼミをやっていると、つい熱中して楽しくなってしまってゼミメンバーの一員になってしまい、学生と同じ土俵にたって自分の考えを示したくなっちゃう悪い癖が抜けません。



――よく、わかります(笑)


久保庭先生 どれだけ不安になっても、学生がしゃべりだすまで、動くまで、待つ。あるいは、たとえその瞬間、学生が黙っていようとも、それは考えている最中かもしれないから、こちらは黙っておこうと。じっと見守ることをできるだけ心がけたいと思っています。そういう風に心がけるようになったのも、ファシリテーション研修を通して得た気づきなのかなと思います。


※肩書・掲載内容は取材当時(2024年3月)のものです。



 

久保庭先生との対談は、学生のチームビルディングから教員のチームビルディングの必要性へと発展していきました。

久保庭先生のおっしゃっていた、『大学の先生方は「個人商店の集まり」だ』という話は、どこの大学でも良く伺う話です。個人商店は、大型スーパーと違ってとっても多様で、活気がある商店街は本当に魅力的です。でも顧客が寄り付かなくなった商店街は、やがてシャッター通りになってしまいます。シャッター通りになってしまった商店街も、元は活気があったに違いありません。ではなぜそうなってしまったのでしょう。その境目は、個々がてんでバラバラで、わがまま勝手に各々の利益だけを追求するのか、個々の主体性を活かし、多様性を担保しながらも、全体である種のコンセプトを共有し、一体感のある集団になっていくことの違いなのかもしれないと思いました。そういう意味では大学の教員組織は、高校までの教員組織と違って、とても多様性に溢れる集団で、魅力的な商店街になる可能性も秘めているし、シャッター通りになってしまう可能性もあるのかもしれません。少子化の進む昨今、顧客が寄り付く魅力的な集団になれるのか、個々の利益追求に走ってしまって、顧客が寄り付かなくなってしまう集団になるのか。ファカルティのチームビルディングの可能性と必要性を強く感じる対談となりました。

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