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新入生の大学適応に学生ファシリテーターを活用している他大学の事例は?【文教大学】連載1-3

文教大学国際学部では新入生の大学適応を促すために、「学部リーダー」と呼ばれる先輩学生がファシリテーターを務めるチームビルディングプログラムを実施しています。新入生交流会の担当を務めておられた千葉 克裕先生(文教大学 国際学部 国際理解学科 教授)のお話からは、学部リーダーの気質の変化やモチベーションに課題を感じておられる様子が伺えました。実は同様の悩みを抱えている大学様は少なくありません。少しでもヒントになればと思い、今回はミスターKから、学生ファシリテーターの活用で学生の活性化を図っている他大学の事例をご紹介させていただきます。





――千葉先生が長らく新入生交流会の担当をされてきたのはなぜですか?


千葉先生 こういう行事運営がまあまあ好きだし、高校教員をしていたこともあって得意なほうだからです。修学旅行や海外研修の引率をして、文化祭や生徒会の顧問もしてきましたから。とてつもない準備と人を動かさないといけない。その経験がないと、なぜリーダー研修が有益なのかとか、経験のない人にはそのプロセスの大切さがピンとこないのだろうと思います。



――難しいですよね。


千葉先生 行事運営の経験がなければ、新入生を一度に全員動かす行事を学者に任せられてもどうしようもないですよ。だから、多くの大学はこのような新入生向けのプログラムをラーニングバリューさんに依頼するわけでしょう?



――実は最近は変わってきているんですよ。大学には予算の問題もありますし、経営者側からすると「外部に丸投げして教員がラクをしている」と見えるようで(笑)


千葉先生 なるほど、わかります(笑)



――もともと『自己の探求』は2日間のプログラムですが、今はファシリテーターを派遣してプログラムを2日間フルで実施することは少なくなりました。代わりに別のスタイルも増えています。貴学のように、学生ファシリテーターを育成することもありますし、1年生対象のゼミのシラバスに1~2回のチームビルディングプログラムを組み込んでいただくようなやり方もあります。その際に、1年生だけでなく、担当教員にもチームビルディングプログラムでFD研修を行うケースもあります。すると、クラスがぐっと盛り上がって、その後のアカデミックなコンテンツへも導入しやすくなるという効果も出ています。


千葉先生 そこです、教員にもそうなってほしいですよね。学生だけがチームビルディングを1日やったところで、自分のゼミに集まった15人がしっかり交流を深められるというわけではありませんから。私の担当する新入生ゼミでは、初回に交流会とは違うメンバーとの組み合わせで記者会見をしたり、全員で「総当たりインタビュー」をやったりして、全員の顔がわかるようにしてから授業に入るようにしています。そうするとゼミがスムーズに進むんですよ。教員が学生のことを理解できるようになるために、ラーニングバリューさんに教員のFDにも協力していただきたいですね。



――最初の4週にチームビルディングプログラムを組み込んだシラバスを構成し、全学必修の初年次教育科目を行っておられるケースもあります。その大学では早期入試合格者を対象に、入学前(入学前年の12月ごろ)にオンラインで簡単なチームビルディングプログラムを体験してもらっています。入学前プログラムは入学者の4分の1程度の学生しか受けられないのですが、入学後はその学生たちが授業でリーダー的な役割を担ってくれて、教員のファシリテーションを助けてくれるという利点もあります。この大学様においては、シラバスの組み立てや科目担当の先生方へのFD研修の面で弊社がサポートしています。

また、別の大学では、学生ファシリテーターとしての活動を単位にしている事例もあるんですよ。



千葉先生 つまり、本学でいえば学部リーダーを務めてくれる学生に単位を出す、ということですよね?



――そうです。PBLの授業のような位置づけにしています。そうすると、学生ファシリテーターの募集にも困らなくなりました。「単位がもらえなくても、もう1回受けたい」と自主的に手伝ってくれる学生も現れるほどになっています。


千葉先生 なるほど、学生がスキルを身につけて行事運営もやってくれるようになる、と。



――そうです。全学800名ほどの入学生がいる大学ですが、先輩学生60名を集めて4日間の濃密な研修で学生ファシリテーターを育てあげ、新入生プログラムを担当してもらっています。新入生プログラムは全入学生を半々にして2日間に分けて行われるので、学生ファシリテーターは3名1組で1クラスを担当するのを2日間行うことになります。



千葉先生 単位を与えるといって、学生は集まりますか?


――集まります。その大学様は学生ファシリテーターをアルバイト扱いにしていた時代があったのですが、30名集めるのにヒイヒイ言っていたのに、単位化にしたら80名くらいはすぐに集まるようになったんです。


千葉先生 応募してくる学生のクオリティは?



――実は単位化後の方が良くなっているんです。


千葉先生 そうなんですね。本学では、学部リーダーが一番熱心に取り組んでくれていたのは、弁当代程度しか支給されない時代でした。純粋なボランティアでやってくれていた頃のほうが、アルバイト代を出す今よりもクオリティが高かったような気がします。ボランティアに徹してもらったほうがいいのかなと思う反面、今お聞きした単位化するというケースも面白いなと感じました。



――単位化すると、応募する学生の7割くらいは単位目当てなんです。


千葉先生 そうでしょうね。



――『自己の探求』の開発者でもある北森義明先生は、著書の中で、チームビルディングの要素を「自己理解、相互理解、目標統合」と書いていておられます。私は長らく、そのうちの一つが「目標統合」である意味がわかりませんでした。

先ほどの大学の事例にあてはめて「目標統合」を理解する際も、当初は「負荷の高い経験を経て、学生の目標が『単位取得』から『新入生への貢献や自己成長』へと変わることだ」と思っていたんです。しかし、アンケートをとると、相変わらず『単位』は欲しいんです。そこに『新入生の役に立つ』『自分の成長のため』という別の目標も統合するんです。単位も取るし、新入生も喜んでくれるし、自分も成長させたい、というのが目標統合。しかも、それがグループのメンバー同士でも統合されていくんです。だから、集まった時点で単位目当ての人が7割を占めていても、めちゃくちゃハードな研修と本番を終えてみると満足度が高くて、しんどかったけど楽しかった、というコメントばかりになるんです。


千葉先生 すごいですね、それは。まさに目標統合ですね。



――暇だったからとか、先生に声をかけたれたからとか、おそらくきっかけは個々にあるんでしょうけれど、目標が統合されることが強いチームになる要素なんですね。


千葉先生 一度、メンバーで目標統合がなされて、次の学年にもそれが口コミで伝わるという効果も期待できますよね。一方で気がかりなのは、単位を与える仕組みにしてしまうと、単位がもらえないと2回目に参加しなくなるという問題はどう解決するのでしょうか?



――実はその大学では2回目にも単位を出しているんです。


千葉先生 同じ単位名ですか?



――PBL特別演習ⅡとPBL特別演習Ⅲという別の単位です。1回目(PBL特別演習Ⅱ)は25人くらいの新入生の初年次クラスづくりのためのファシリテーションが目標ですが、2回目(PBL特別演習Ⅲ)は、学生ファシリテーターのファシリテーションを期待する、というようにルーブリックを設定しています。2回目を受講した人の中からは、さらに翌年に自主的に手伝いたいという人も数名手を挙げてくれるんです。


千葉先生 なるほど、それはすごいですね。単位を2回出せるなら、1回目で培った財産も使えますからね。



――そうですね。実は2回も単位を出すことについては、学内でも議論があったようです。2日間研修を2回やって、リハーサルを1日やって、本番も2日あるので、全部で丸7日間ほどになるので4単位になるんです。学生は2年参加すると8単位取得になるので。


千葉先生 それはやりすぎかもしれませんが、拘束時間を計算すると4単位になっちゃいますね。



――拘束時間が長いということもあるのですが、学生がめちゃくちゃ自主学習もしているんです。彼らには授業の中でオンライン会議ツールをマスターしてもらっていて、練習をオンラインでやっているんですよ。1人がファシリテーター役をして、他の人がフィードバックするような練習を、グループによっては週3~4回も行って、次の研修に臨んでくれています。アンケートで調べると、かなり自習時間が長いことがわかっています。大学に集まって9~19時の授業を5日間やっているうえ、自習にも時間を割いてくれているので、結果的に今の単位数を認めることになっています。


千葉先生 自主学習もやっているんですね。



――自主学習をしなさいと指導しているわけではないのですが、研修の時に他のグループからのフィードバックをもらうことがふりかえりやグループ同士の競争になり、「今の状態で大丈夫か?」と練習への動機づけになるようです。


千葉先生 ファシリテーターを務めた学生の反応や変化についてはいかがですか?



――想像以上に濃密な人間関係ができるし、単位になってからはむしろ、コミュニケーションが苦手な学生が「克服したい」と参加してくるようになりました。最初のうちはロールプレイングをしても蚊の泣くような声しか出ない学生も、チームのみんなが支えることで頑張ってくれて、自信をつけることができるんです。


千葉先生 ほ~~



――10年ほど前にこの取り組みを始めた頃は、学生ファシリテーターのグループは、コミュニケーションが達者な人と苦手な人とを組み合わせたほうがいいと考えて教員側で決めていたんです。ですが、今は「学習スタイル」というツールをもとに、できるだけ多様なグループをつくることを条件に、自分たちで決めてもらっています。「自分たちで選んだ6人のメンバーで、2日間で4クラスを担当してもらう」ということにして、あとは本人たちに任せているんです。驚いたことに、このやり方にしてから新入生側の満足度がビュンと上がったんです。学生の自主性を大事にするというのはこんなに大事なのかと、こちら側も気づかされました。単位化の背景など、この事例については過去のブログでも紹介していますので、ぜひご覧ください


千葉先生 こういう話はすごく参考になりますね。単位化、次のカリキュラム改定のときに考えてみようかな?本学では2回は出せないので、1回目は単位を出して、2回目はアルバイトでもいいかもしれません。



――ボランティアで応募してもくる学生はいると思いますよ。経験者のボランティア参加であれば、研修から本番までフル参加必須にしなくてもいいかもしれませんよね。キーワードは「フィードバック」なんです。ロールプレイに対して、経験者からのフィードバックがすごくありがたいみたいですねと言う


千葉先生 なるほど!そうですよね。先輩から後輩に受け継がれるものがあると、学生の質にも変化がありそうですが、募集へのプラスの波及効果が見えるまでに何年くらいかかるのでしょうか?



――今では大学の伝統のようになっている取り組みでも、始めた当初は新入生の中から脱走する学生もいたんですよ。もちろんこのプログラムだけでなく、学部改革などの影響もありますし、単位化して学生を鍛えることで、自主的に学生が集まっていいサイクルができるという流れができるまでには4~5年はかかっているのではないでしょうか。さらに学生ファシリテーターを体験した人に、オープンキャンパスや高校訪問のスタッフとして活躍してもらうなど、学生募集につながる工夫をすれば、そちらにも効果がでるかもしれませんよね。


千葉先生 そうですよね!本学はすでに8年ほど学部リーダーによる新入生交流会を続けてきているので、新入生だけでなく、学部リーダー育成の面での効果も高める工夫をすべきなんですよね。そういう取り組みをしていることをPRに活かすのが下手なので、今後は学生募集につながる外部への発信のことも考えてみたいと思います。いろいろと参考になりました。ありがとうございます。



――こちらこそ、ありがとうございました。ぜひ今後も情報交換させてください。


※肩書・掲載内容は取材当時(2024年3月)のものです。


 

今回お話を伺った文教大学国際学部様のように、新入生の大学適応を進めるために、入学直後に新入生の交流を目的とした宿泊イベントやオリエンテーション合宿などを実施されている大学も多いのではないでしょうか。しかし千葉先生がおっしゃっていたように、全教員も新入生と一緒に参加して、「教員とゼミの仲間と知り合う」ために、在学生も活用しながらすごいパワーとコストをかけているのに、実態は何も起こっていない…。そんなお話を良くお聞きします。いったいなぜなのでしょう。

筑波大学の土井隆義先生は、その著書「キャラ化する/される子どもたち」の中で、今の若者たちにとって人間関係は、チャンスではなくてリスクなんだと喝破されています。また金沢大学の金間大介先生は、その著書「先生、どうか皆の前でほめないで下さい」の中で、今の若者像について、『目立つのが嫌い・横並びの平等意識が強い・自分で決められない・いつも自分が浮いていないか心配している・保険に保険をかけるような人間関係』と見られていて、それは結局『自分に自信がない』のだとおっしゃっておられます。

私共が師事した北森先生が作られた「自己の探求」プログラムには、「自己理解を深めて自信を持とう」と言うサブタイトルがつけられていました。今の学生さん達の大学適応を進めるには、そのような、「自己理解を深めて自信を持てる」が必要なのかもしれません。

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