連載2-3/地域も企業も巻き込むHIT-ALPsの挑戦と大学活性化への展望【広島工業大学】
- odlabo
- 4月25日
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広島工業大学 電気システム工学科では学生が主体となり、小中高生に電気の面白さを伝えるための活動「HIT-ALPs」に取り組んでいます。学生たちの熱意は、地域貢献活動に留まらず、企業との連携へと発展し、大学活性化の新たな可能性を拓いています。企業との連携の経緯や、学生たちの成長、そして今後の展望について村上修二先生(電気システム工学科 教授)に話を聞いてみました。(全3回の3回目)

――SNSには企業の方を招いての発表会の様子も紹介されていますが、そのねらいについても教えてもらっていいですか?
村上先生 いろんな意図があるんですが、まずは外部に向けて発表する場がなければ内輪だけの閉じた活動になってしまいますので、最後のまとめとして外部へのプレゼンは絶対やろうと考えていました。企業の方に見ていただいて、活動資金へのご寄付いただくというねらいもありますし、その延長線上には就職先として検討するということもあるでしょう。企業にとっても、学生と接することができるし、学生としても就活以外の場で企業の方と関わりをもてるのはメリットになるのではないでしょうか。
――企業とのつながりをつくって、活動資金を協力してもらって、採用ターゲットとしても注目してもらえて、学生側にとっては一石二鳥にも三鳥にもなりそうな感じですね。企業との窓口は誰が担当しているのですか?
村上先生 それは教員です。松岡先生と板井先生と私で分担してやっています。まずは本学科と非常につながりの深い、つまりずっと継続して採用していただいてるような企業様で、本学科をご理解いただいていて、人事の方とも信頼関係があるようなところですね。最初は10数社ぐらいしかお声がけしてなかったんですが、おかげさまで、いろいろとご賛同いただけるようになりました。前期の発表会にも5~6社の方にお越しいただきました。
――企業側の方の反応はいかがですか?
村上先生 とてもいいですよ。やはり「学生自らがやっている」点に注目していただいています。企画から運営まで全部やっていますので、そこに対する評価ですね。あとは、小中高校生に電気の面白さを伝えるという目的が明確である点にもご評価いただいています。
――少子化の影響もあるのでしょうが、昔は電気系の学生がたくさんいたのに、今は人気も下降気味です。企業側も、仕事はたくさんあるのに採用に困っておられるので、なんとかしたい思いはあるんでしょうね。
村上先生 そうなんですよ。電気系学生の数は、本学だけでなく、全国的に激減しているんですよ。みんな情報系を選んじゃうんで。電気って目に見えないので、対象物としてわかりにくいのかもしれませんが。
――時代的な背景も、子どもに電気の面白さを伝える企画が賛同いただいてるポイントなんでしょうか。
村上先生 学生にとっても、企業の方からの視線はモチベーションにもつながるっていうのはあるんですよね。自分でものを作って、それを子どもに見せて喜んでもらえる。それはそれで確かに楽しいことではあるのですが、どこかで、自分にも実質的なメリットがいると思ってるんですよ。それが就職につながるということですね。そういうことは誰しも念頭にはあるんじゃないかなと思います。そういう意味でもこの取り組みにはうまくつながる要素がすべて揃っているんじゃないかなと思います。
――この活動に参加することで1年生には成長の様子が伺えますか?
村上先生 まだまだそこに課題を感じています。やはり1年生の段階では、まだまだものを作るといったことをうまくできないので、先輩のお手伝い的な役割になっています。参加してくれる1年生は入学当初より減ったものの、継続希望の学生も26人ほどいたので、興味を持ってくれている人もまだまだいます。まずはメンバーになってもらって、活動を楽しんで、自分でもやりたいと思ってくれたら、2~3年生になってからリーダーになってくれるだろうと期待しています。
――1年生の加入によって上級生に成長が見られるようなことはあったんですか?
村上先生 それについても、まだまだですね。1年生が来てくれなくなったとか、メンバーが集まらないといった問題が発生して、まさに企業組織と同じような悩みを抱えています。そこをどう乗り越えていくかも彼らの課題ですよね。私たちもアドバイスしたりしますし、企業の方からもプロジェクトマネージメントにご協力いただけるというお話もいただいたりしています。
――上級生がファシリテーションのコツを覚えると、うまく1年生に働きかけながら自分たちのチームづくりをしようという意識も芽生えてくるのではないでしょうか。学生組織のためのチームビルディングのファシリテーション研修の機会を設けるのも一手かもしれませんね。
村上先生 そうですね。そこまでできるようになると、即戦力といわないまでも、企業からも望まれるような人材になっていくんじゃないでしょうか。
――そうだと思います。広島工業大学さんって、学年を超えたタテのつながりの機会を意図的に作られてるところが面白いなと思います。一般に、先輩とつながりができる機会って、部活・サークルに入らなければ、研究室に配属された後しかないですよね。しかも、最近は部活に入らない人も多いですからね。「社会実践科目」のクォーター終了時の振り返りを1,2年合同で行ったり、HIT-ALPsのような組織を立ち上げたりすることが、縦のつながりを意識的に作ることに寄与していますよね。
村上先生 間違いないです。これまでは、上級生と下級生が接する機会なんてほとんどありませんでしたから。
――この活動の今後の展望をお聞かせください。
村上先生 まずは高校への出張授業に行きたいですよね。小学生は簡単な実験でも喜んでくれるのですが、学生には、高校生相手にもうちょっと頑張ってみろと、そこまでやらんと本物じゃないぞと、言っています。本人たちもそれはわかっているようですが、実際にやり出したら大変だということがわかってきたので、引っ込み思案になってるんですよ。ですから、まずは後期になんとか中学校まで行こうと言っています。ただ実際、中学校にはアポイントを取るのも難しい面があるので、今年度は公民館のイベントは中学生も集めていただくようお願いしています。
――HIT-ALPsは電気システム工学科内の組織だと伺っていますが、大学からも予算が出たりしているんですか?
村上先生 以前から学生の活動を支援するための「HITチャレンジ」という制度があるのですが、学部長などにプレゼンをして、審査を経て予算がつくという制度は利用しています。
――この活動は、職員のみなさんにはどのように認知されているのでしょうか。
村上先生 職員の方は学生の活動を手伝いたいと思いを持っておられる方も多いて、結構動いてくださってます。HIT-ALPsの2024年最後のトピックスとして、学内でクリスマスのイルミネーションを実現することになりました。何かイルミネーションをつけるためのものを工作して木や壁を飾るようです。SNS担当の学生が吹奏楽に声をかけてくれて、講義棟の1階で演奏付きの点灯セレモニーも行う予定です。
この企画についてはいろんな部署にご協力いただいてますし、事務の方からも「HIT-ALPsに期待してますよ」といただきました。学生の活動を外部にアピールできることは大学とってもメリットはあるでしょうから。
――職員さんも大学の活性化につながる一体感を味わえる活動を待ち望んでいたのかもしれませんね。先日、関東圏の工業大学で教職協働に関する話を聞いたのですが、広島工業大学さんでは教職協働は進んでいるのでしょうか?
村上先生 その点はまだまだですね。私は先日、ラーニングバリューさんのセミナーでオープンキャンパススタッフの学生が集まるイベントに参加させていただき、いろんな大学の職員の方と話す機会があったんです。他大学では、職員の方々が中心になってやっておられると聞いて、羨ましいなと思ったりもしました。
――大学によって、先生方が中心となって動かしているところと、割と職員さんが積極的に関わっているところと、歴史的なカラーもあるようですね。
村上先生 大学っていうのは職員の方と教員が持ちつ持たれつですよね。職員さんに「もっと」と期待する面もありますが本当にいろいろと協力していただいてるんで、ありがたいと思っています。
――職員の方も「先生方、もうちょっとこうしてほしいけど、でも…」と、同じように思われているのではないでしょうか。イルミネーションが、教員と職員の距離が近づくきっかけになるといいですね。
村上先生 おっしゃる通りです。実際イルミネーション見ていただいて、「HIT-ALPsってすごく頑張ってるんだな」って思ってもらえるとうれしいです。
※肩書・掲載内容は取材当時(2024年12月)のものです。

「どうやったらもっと学生が参加してくれるのだろう」。学生の成長を促すために色々な取り組みを計画して実施しても、最近の学生はなかなか乗って来ない。そんなお悩みをよく聞きます。今回お話をおうかがいした広島工業大学さんのHIT-ALPsプロジェクトには、その「学生集め」に関するヒントがあるのではないでしょうか。
我々が行動するときに大切にするのは「目的」です。その「目的」を実現するために、必要な人数を集め、その人たちに行動を促そうとします。しかし肝心の人数(=この場合、学生達)が集まらない、ある程度集まっても行動へのモチベーションがなかなか高まらない。冒頭にあげた声は上記のような悩みと言えそうです。
このことをダニエルキムの「組織の成功循環モデル」(右図)で考えると、「結果」(目的の実現や目標の達成)を出したいがために、「行動」へと働きかけて、成功循環の回転を逆回転させようとしているということになるのかもしれません。
広島工業大学さんのHIT-ALPsプロジェクトには、立ち上げからたくさんの学生が集まってきました。それはもちろん、同大学の学生気質による部分もあるのかもしれませんが、同大学が、1年次からチームビルディングを取り入れ、新入生どうしの関係性作りや、チューターの先生方と新入生の関係性作りに取り組むとともに、社会実践科目などの授業科目を通じても、同級生同士だけではなく上級生との関係性作り(=チームビルディング)の進展を図ってきたことが、成功循環モデルを正回転させて新しいプロジェクトやイベントに参加者が集まるという結果を生んでいるように感じました。そしてそのHIT-ALPsプロジェクトは、上級生と新入生の新たな関係性作りに発展しています。これからの広島工業大学の取り組みがとても楽しみです。
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