連載3-1/学生の「元気がない」を打破する学科プロジェクト発足の裏側【広島工業大学】
- odlabo
- 5 日前
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さまざまな大学の改革や取り組みにおいて、組織や集団がどのように変化していくかに焦点を当て、当事者の方に取材をさせていただいている本連載。広島工業大学編では、ここまで、川原先生と村上先生に、電気システム工学科の新入生オリエンテーションや、電気システム工学科独自の学生プロジェクト「HIT-ALPs」についてお伺いしてきました。連載第3弾となる今回は、「HIT-ALPs」の運営に携わっておられる2人の先生、松岡雷士先生(工学部 電気システム工学科 教授)と、板井志郎先生(工学部 電気システム工学科 准教授)にご登場いただきます。広島工業大学が実施している学生を活性化させるための授業や取り組みについて、どのように感じておられるか、ご自身の経験と照らし合わせながらお聞かせいただきました。

板井志郎先生(左)と松岡雷士先生(右)
――まずは先生方のキャリアについてお伺いしてもいいでしょうか。
松岡先生 私は大学院を出て、研究職として5年ごとに3つのキャリアを経験しています。研究機関に6年ほど勤務して、国立大学の工学部機械工学科の教員を5年ほどやって、5年ほど前に広島工業大学にきました。今は電気システム工学科で物理をやっていますが、前職では機械工学科ですが、その中でも物理系の研究をやっていました。
板井先生 僕は首都圏の私大で助手、助教をやって、さらに別の私大で4年ほど勤めて広島工業大学にきました。ここで3年目くらいです。僕も機械工学科出身ですが、研究はどちらかいうと情報系です。僕がいた研究室では、遠隔地間のコミュニケーションをいかにして対面に近づけるかという、いわゆるヒューマンコンピュータインタラクションとかヒューマンインタフェースという分野を扱っていました。今は介護現場で使うロボットの研究をメインでやっています。
――心理学などの分野にも通じるような面白そうなテーマですね。
板井先生 そうですね、心理学とか哲学とか、そういうところもちょこちょこ勉強したりしてます。
――ありがとうございます。これまで川原先生と村上先生に、電気システム工学科の新入生オリエンテーションや「HIT-ALPs」についての話をお伺いしてきました。実際に運営を担当されているお二人は、「HIT-ALPs」をどのように感じておられるか聞かせていただきたいと思います。
本題に入る前にまず、新入生オリエンテーションで使っていただいている弊社のチームビルディングプログラム「自己の探求」の印象についてお聞かせください。
松岡先生 私が本当にびっくりしたのは、学生の自主性の植え付け方です。個別のエピソードになるのですが、プログラムの進行の中で、「終わったら報告してくださいね」って先生が言う場面がありますよね。でも、学生が報告を忘れておしゃべりをしていたら、報告されるまでずっと待っている、とか。「◯時◯分から発表してください」って言ったら、時間になっても先生の方からは声をかけずに、発表が始まるのを待っている、とか。見方によっては意地悪というか、荒療治的に「自主性」を意識させてくれる。学生の立場に立つとかなり恐怖のプログラムという印象をもちました。後で聞くと、講師によって若干色が違うようですね。
――確かに講師によってファシリテーションが異なるプログラムではあります。「学生さんの自主性を大事にしよう」っていうのは講師同士で合言葉にしていて、その現れ方が人によって若干違うことはありますね。
松岡先生 私はこれ、非常にいいなと思いました。自主性というのが何かとか、行動することの大切さみたいなことがよく伝わるプログラムで、面白いなと思いました。
板井先生 学生同士が仲良くなるとか、教員と学生の距離が近くなるという意味で非常に有意義な取り組みだと思いました。
それ以上に、僕はコミュニケーションの研究をしてきたので、初対面の人同士がいかに相手の話を引き出すのかといったことについて興味を持ちました。こういうアイスブレーキングの方法もあるんだとわかって勉強になったし、自分の研究にも生かせそうだと感じました。
実は、介護施設のレクレーションにロボットを使う研究をしています。レクリエーションでその場にいる人に平等に話してもらうのはなかなか難しいので、ロボットでファシリテーションできないかというテーマを検討していたので、こうした場がすごく刺激になりました。
――なるほど、複数の人が会話する場では、誰かがうまいこと回さないと、どうしても発言の多い人・少ない人の偏りがでますもんね。その点、「自己の探求」の記者会見では、タイムキーパーがいて、1人の持ち時間が決まっていて、あまり偏りが出ないように会話が行われる仕組みになっていますから。
板井先生 そうなんですよ。うまくファシリテーションする人がいなくても、一応誰でもできるという進め方の工夫という点が参考になりました。
――広島工業大学さんでは、1人の先生が複数の学生の相談や指導に対応するチューター制度を設けておられますよね。お二人もチューターをされると聞いていますが、こういうプログラムは、学生とのコミュニケーションに何等かの影響はあると思いますか?
松岡先生 自分のチューターグループの全員と話す機会になるので、交流という意味では非常に有意義だと思います。ただ、その時の印象と、後で個人面談した時の印象が違うということもあって。例えば、プログラムでは元気に話してたはずなのに、私の研究室で個別に面談をすると、ハイとイイエしか言葉を発しない学生もいて。あの場が話をしやすくなってる一方で、その時の関わりが後に生きてるのかどうかはわかりません。
板井先生 僕も松岡先生と同様、後日、個別に話すと印象が違う学生もいて、アレっと思うことがあります。最初のきっかけとしてはすごくいいし、自分のチューターメンバーの顔と名前を覚える機会であるのは確かなので、うまく次の段階のコミュニケーションや関係づくりにつなげていくのが大事なのかなと思います。
――広島工業大学さんでは社会実践科目といってチューターグループ外の人や上級生とも関わるような場をつくっておられますよね。お二人とも他大学でも教員経験がおありなので、前職と比較して、そういう科目の影響についてどう感じておられますか?
松岡先生 これまで見てきた大学では、学生に対して会話や交流の時間を持つような教育スタイルはほとんどありませんでした。教室に入って学生と授業以外の話をするのは、この大学で初めての体験ですので、ここは教員と学生の距離は近いのかなと思います。黙って大学を辞めてしまう学生も結構見てきたので、そういう意味でも、学生との距離が近いことに意味はあるのかもしれません。ただ、突然辞めてしまうようなことはないけれど、こちらの期待から外れていく学生が出てくることはありますね。
板井先生 僕も前任校では学生とは授業でしか合わなかったので、1・2年次にチューターを持つというのは新鮮な感じもしました。
1年次から教員と学生の距離を近づけて、できるだけ相談できる関係をつくっていくことは大事なのかなと思います。
――ありがとうございます。では、今回の取材の本題の、先生方が運営に携わっておられる「HIT-ALPs」の話も聞いていきたいと思います。村上先生に概要はお聞きしたのですが、改めてお二人にも、2024年に始まったこの活動の経緯について、どのように認識されているのかお聞かせいただいてもいいでしょうか。
松岡先生 コロナ禍で学生に元気がない、どうすれば活気が出るんだろうという課題提起が発端だったと思います。いろんな情報を収集した中の一つに、高大連携や地域貢献で、学生が教える側に立つ活動がかなり注目されてていることがわかりました。そうすることで責任感や充実感を育てる取り組みが流行っているようだ、と。ただ、「活気がある」というのはごく一部の側面でしかなく、それよりも、みんなが話し合って頑張れるような組織があるといいんじゃないか。例えば、数学とかプログラミングとか地域貢献とか、それぞれが好きなことに取り組む学科内サークル的な組織をいくつかつくるっていうのが、最初の構想でした。
それを学生のリーダーと話したところ、「それよりは、外部に教えるっていうことをメインにした方がいいんじゃないか。外部に教えることになれば、何かをつくりたいという気持ちも自然と湧いてくるから」といわれたんです。
――なるほど。村上先生には、学科でなにかやろうとなった時に、先生方と学生数人でアイデア出しするうちに、学生からいいアイデアが出たと聞きましたが、その時の話ですよね。
松岡先生 そうです。学生主体の組織で取り組むのが大事だったんで、その前提として、学生の意見は聞くべきだろうと思いました。そこで、学園祭実行委員長の経歴がある学生など数人の活発な学生に声をかけて、全員のアイデアをまとめていったんです。
――お話を伺ってると、ねらいの根っこにあるのは「学生集団の活性化」のようですが、そこに焦点を当てようと思われたのはなぜなんですか。
松岡先生 「活性化」にこだわっていたのは村上先生です。私は外部から進学者を増やす方策として「学生のかっこいい姿を見せることが、大学に入るきっかけになるのではないか」と考えていたんです。かっこいい姿の一つに「活発」な姿も含まれるのですが、私が思い浮かべていたのは「勉強ができる」ことでした。だから「かっこいい」には2つの意味が含まれていると思います。
――「学生募集には学生のかっこいい姿を見せることが効果的」と思われたのは、松岡先生の体験に基づく発想だったのですか?
松岡先生 私立大学では進路ガイダンスっていう名目で、教員が各地の高校に呼ばれて講演するってことが結構あるんですよ。そこでかっこいい姿を見せるのが学生じゃないと意味ないんじゃないかと思い始めたんです。先生がかっこよくてその大学に憧れる生徒もいるでしょうが、もうちょっと身近な存在である学生がかっこいい姿を見せて、「こんな大学生になれるのか」っていうところを見せたほうが生徒に響くのではないかと。
板井先生 昔と今とでは大学の選び方がかなり変わっていて、僕の時代はオープンキャンパスなんて一度も行ったことがないですから。松岡先生がおっしゃるように、今は「憧れの先輩がいる大学に入りたい」という高校生の考え方は結構ある気がしますね。
※肩書・掲載内容は取材当時(2024年12月)のものです。
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