連載3-2/アクティブラーニングのその先へ。外向き志向で大学の未来を拓け【広島工業大学】
- odlabo
- 3 日前
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広島工業大学工学部電気システム工学科で発足した「HIT-ALPs」は、学生が主体的に活動し、電気工学の魅力を社会に発信するプロジェクトです。前回の記事では、その発足の背景について紹介しました。今回は、活動の意義や、そこから生まれる課題にクローズアップ。組織運営に携わりながら、学生を導いたり促したりすることの難しさを実感しておられる2人の先生、松岡 雷士先生(工学部 電気システム工学科 教授)と、板井 志郎先生(工学部 電気システム工学科 准教授)に話を聞いてみました。

板井志郎先生(左)と松岡雷士先生(右)
――松岡先生が「HIT-ALPs」と命名されたと聞いています。リーダーを育てて引っ張っていこうというニュアンスを感じるんですけど、どんな思いを込めて名付けたのでしょうか?
松岡先生 HIT-ALPsの方向性を話し合う場で、ラーニングバリューさんに「今回は、電気の学生の星をつくるんですよ」と言われたのがすごく印象に残っていて。星といえば北極星、Polaris。そこから、ProjectとかLeadingとかの語呂合わせをいろいろ考えて、Alpsだったらできるな、と思い至ったわけです。最初はActive Learning Projectsが頭に浮かんだのですが、Active Learningではちょっと足りないので、Act-Leadingにしようと考えて。
――アクティブラーニングじゃ足りない、アクトリーディングだ。その意図をもう少し掘り下げて聞かせていただきたいです。
松岡先生 今、世の中にはアクティブラーニングを授業に導入しようという流れが起こっていて、時間割りを組むときにも「なるべくアクティブラーニングを入れてください」っていうおふれが全学に対して出るわけです。だけど実際には、アクティブラーニングのお膳立てをしても、学生が実際にアクティブになってないという問題もあります。それなら、もうアクティブラーニングじゃダメだ、よそでやっていることよりもう一段上に行かないといけない。アクティブラーニングをこえる言葉を考えてアクトリーディングだ、と思ったんです。行動して導く。リーディングは、大学内でのリーダーではなくて、大学の外に出て電気の魅力を語り外から導いてくるという意図を込めてAct-Leadingという言葉を使いました。
板井先生 学生もみんなその名前を気に入ってますよ。
――板井先生は「HIT-ALPs」の立ち上げにどんな印象を持っていたのですか?
板井先生 僕が参加したのはある程度方針が決まった段階からでしたが、学生の主体的な活動の場ができるのはいいなと思いました。前にいた大学では教員が何もいわなくても勝手に学生がサークルやネットワークをつくっていましたが、こちらの大学ではそれが少ないように感じていて。特に先輩とのタテのつながりがあまりないのは気にはなっていたので、何らかの仕掛けや仕組みをつくらないと難しいだろうと思っていました。だから「HIT-ALPs」を始めると聞いて面白いし、学生が自分でネットワークつくったり、自主的に活動したりする機会があるといいなと思いました。
――その活動に参加してほしいといわれた時はいかがでしたか?
板井先生 大学や学生自体の活性化にも意味があるだけでなく、学業研究にもいい効果が出てくるだろうなと思いました。僕は研究室の学生が自分で動いて研究に取り組んでくれないという悩みを抱えていたんです。卒業研究を自分事として捉えてくれずに、授業のように受動的なんです。松岡先生はアクトリーディングっておっしゃっていましたが、僕が大学で一番大事だと思っているのはまさにそこなんです。それを経験できるのが卒業研究なのに、うまくできてなくて、どうしたらいいんだろうとずっと思ってたんです。だから、1、2年生の時からそういうことに取り組んでいけば、人間力がつくっていうのもあるんですけど、大学で専門知識や技術を身につけることにもすごく生きてくるだろうと思いました。そして、経験を積んだ3年生、4年生がゼミに入ってくれば、研究も非常に活性化してきて、大学として成果が出せるようになるんじゃないでしょうか。自分で勉強するとか、学んだことを他の人に説明することで、学業に対する意識とかも変わってくるとよりいいのではないかと期待しています。
松岡先生 立ち上げに際してもう一つ、卒業生のこともお話しておきたいですよね。愛校心のある卒業生が多いのが広島工大のいいところで、多くの卒業生が働いている会社もあります。「HIT-ALPs」はそういう人との交流の接点にもなると考えられています。これは板井先生がおっしゃっていた話なんですが、企業や卒業生の窓口としての同窓会があまり機能していない状態になりつつあったのを、「HIT-ALPs」という形で、再立ち上げするという役割も期待されていたんですよね。
板井先生 これまでいくつかの大学を見てきた中で、大学というものは卒業生に支えられていて、卒業生が活躍しないと評価されないんだと感じるようになったんです。だから、どうやって愛校心を育てるかとか卒業生とのつながりをつくっていくかは大事なポイントで、「HIT-ALPs」がそれにつながればいいと思っています。求人においても「広島工大の電気の学生さんを採用したい」と言ってくれる企業さんも非常に多いですし、そういうところに支えられて今の大学の存在もあるわけです。立ち上げの時に、社会からの評価に直結する卒業生とのネットワークをしっかりつくりたいと考えたことを、今、松岡先生にいわれて思い出しました。
――学生さんたちが元気になったり活性化したりすることが学生募集に寄与し、卒業生ともつながる。入口から出口まで、村上先生が「HIT-ALPsは1つで何度でもおいしい」とおっしゃった意味がよくわかるお話です。立ち上げの会議では、学生からも先生からも、いっぱい意見が出て、方向性の意思統一を図れたいい場だったんだろうと感じました。
実際に「HIT-ALPs」の活動がスタートしてからはいかがですか?印象に残ってることや課題を感じていることはありますか?
松岡先生 最初に「小さなことをやって終わりにしてほしくない」って伝えたのですが、少々それを真剣に取られすぎたところもあり、各グループがものすごく大きなこと言い始めたんです。例えば、「どんなことすれば高校生とか中学生が喜んでくれるか」って言えば、「人が乗れるカートをつくってレースをする」とか「人が乗れるリニアモーターカーの模型をつくる」とか、大学の領域を超えるようなものすごく大きな話が出てきて。見直して規模縮小したグループもあれば、妥協してくれないところもありました。
「HIT-ALPs」が始まったばっかりの春休みのうちはその勢いでもよかったんですが、1年生が入ってくると、どのグループも苦しかったみたいです。一つは、電気の魅力がわかる教材をつくろうとしてもうまくいかないといった技術的な課題。もう一つは、1年生が来なくなるという、いわゆる出席マネジメントの問題です。先ほど板井先生がおっしゃっていたのと同じで、私たちが研究室で指導の難しさを感じていたことを、学生自身が感じるようになりました。
そういう課題を含めて、村上先生は「非常にいい経験だ」とおっしゃっているようですが、私は傍から見ていて、「もう少し社会的要請に応えられるやり方をしてほしい」と感じています。要は「外部で教室をしてほしい」んです。広島県の生涯学習センターなどから依頼が来て、最初の数回は私が学生を集めて、「こうすればいいんだよ」とリーダーに伝える意味で教室を行いました。でも、「まだ開発中です」とか「人がいません」といってそれに応えられないことも多く、今もその課題は続いています。
――なるほど。理想が大きくて社会的な要請に応えられないというのは、ある意味若者らしさなのかもしれませんね。板井先生はいかがですか。
板井先生 僕は最初に30人以上の学生がメンバーとして参加してくれたことにびっくりしました。こういうことを積極的にやりたい学生ってかなりいたんだとわかってうれしかったです。
実際の活動が始まってからの課題は、松岡先生が話された通りなんですが、学生にとっては相当大変だったんだろうと思います。学園祭実行委員経験があるリーダーやサークル活動の経験がある人はわかっているんでしょうけど、そういう経験が一切ない2年生や3年生は1年生をどのようにマネジメントすればいいのかまったくわからない状態でしたから。教材なども何もない状態からスタートさせて、まずは1年間、よく頑張ったなという気がします。もちろん松岡先生や村上先生が一生懸命支えてくださった部分は大きいのですが、僕はここまで、学生が大変なことも乗り越えてくれて、新しいプロジェクトをつくりあげるいい経験になったと感じています。
――決してすべて学生の自主的な行動のもとで進んだわけじゃないようですが、そういう時に先生方はどのように関わっておられたのか。学生集団を動かすことについて感じたことをお聞かせいただけませんでしょうか。
松岡先生 基本的には学生の活動なので、こちらからもそこまで口出ししないようにとは思っていましたし、実際言ってもなかなか聞いてくれないとかいうこともありました。それに、世代的な話になるかもしれませんが、今の学生って、人からの反発を本当に恐れていると感じました。例えば、「このイベントに参加するかしないかをグループで決めてください」っていうと、リーダーが自分一人では絶対決めないんですね。全員に連絡して、全員の決をとって参加するかどうかを決めるんです。ですから、意思決定までに2週間ぐらいかかってしまうんですよ。私からすれば、やる・やらないだけはリーダーが決めて、そこから参加するメンバーを募ればいいのに、そういうことを今の学生は絶対しないんです。リーダーのスタンドプレーを嫌うんだなっていうのがよくわかりました。我々教員世代のリーダーは、逆にスタンドプレーで周囲の反発を買いながらも進めていくような人が多いんですけどね。そういう違いは理解しつつも、やはり意思決定の速さは大事にしてほしいなとは思いました。
板井先生 「スタンドプレーを嫌う」につながりますが、リーダーが1人で仕事を抱えこんでしまうこともありました。全部自分でやるのは大変だから、もっと他の人に仕事をふったり協力したりすればスムーズに行くのではないかと言っても、なかなか聞いてもらえないこともあって。とはいえ、そこで我々がこれはこうだなどと介入すると、学生主体のプロジェクトではなくなってしまう。どこまで教員が手を出すべきかについては未だに悩んでいます。
※肩書・掲載内容は取材当時(2024年12月)のものです。
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