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学生の意欲と学力を向上させることに、「人とのつながり」は効果的か?【広島国際大学】連載1-2

更新日:2023年10月20日

広島国際大学は中四国地方有数の規模を誇る医療系総合大学。薬学部では難関国家資格取得に向けて、学生3人に対して1人の担任がつく「チューター制」や補習(リメディアル教育)といった手厚いサポートを提供しています。しかし、6年にわたる長い在学期間中、モチベーションを保ち続けて資格取得や就職に臨むには、学生の自律的な行動が不可欠です。そこで、学生の力を引き出し、仲間と助け合いながら目標に向かって進む意欲を高めてほしいとの思いから、2023年度新入生にチームビルディングプログラムを導入。教員主導のサポートだけでなく、学生が自ら動き出すきっかけづくりを行っています。また、プログラムの実施にあたって、上級生を募って「ピアサポートクラブ」を組織し、新入生と交流させることも試みました。学生の意欲と学力の向上のために「学生のヨコやタテのつながりをつくること」を選んだ学科長の山口 雅史先生(薬学部 教授)に、一連の取り組みの真意を聞いてみました。





――4月に新入生向けのチームビルディングプログラム「自己の探求」を行うにあたって、サポートメンバーとして上級生を募り、「ピアサポートクラブ」を立ち上げたそうですね。彼らも新入生とともにプログラムに参加したと聞いていますが、そのねらいについてお聞かせください。


山口先生 大学の抱えるいくつかの問題のうちの一つに、「学生のタテのつながりができづらい」というものがありました。新入生向けのオリエンテーションの中には、上級生が大学生活についていろんな話をしてくれる催しもありましたが、一過性のものでした。せっかくなので在学生の上下のつながりが継続してくれたらいいのにと思っていました。



――学生にタテのつながりを持ってほしいと思うのはなぜですか?

山口先生 学生時代を振り返ると、勉強の方法も息抜きの方法も、いいことも悪いことも、全部先輩から学びました。今もいろんな先輩・後輩とつながりがあるし、人間関係も広がります。これから社会で生活していくうえでこうした体験も重要ではないでしょうか。我々の大学では4年生になると研究室に配属され、サークル活動をしていない学生はそこで初めて上級生と接点を持ちます。学部には6学年の学生がいるのですから、もっと影響しあってもいいだろうし、それが大学の空気となって続いてくれたらといいなと思うのです。

また、ある学生の保護者との面談の場で「(自分の子どもは)大学で居場所がなかった」とおっしゃったことも気にかかっていました。「居場所」とは単に施設面のことではなく、学生が助け合ったり支え合ったりするために集える場のことで、そういうものがあればみんなが安心して大学生活を送れるのではないかと考えたんです。それがピアサポートクラブを運用してみたいという動機になったわけです。



――組織を新たにつくるにしても、実践例がないとメンバーも集まりにくそうですが、初代メンバーはどのように募集したのですか?


山口先生 募集を始めたのは新入生向けにチームビルディングプログラムを実施すると決めた年明けのタイミングです。「新入生のサポートを行う運営メンバー募集」をかけると、想像を超える30人ほどの学生が手を挙げてくれまして。具体的な内容については、説明会で伝えました。結局、プログラム本番では新入生と一緒にグループワークに参加してもらうことにしました。



――ピアサポートクラブの先輩学生は、新入生の時にはチームビルディングプログラムを体験していませんからね。彼らも体験を楽しんだのでしょうか?


山口先生 1グループに1名の先輩が入るようにグループをつくりましたが、運営の手伝いよりも「先輩学生のみなさんも楽しみながら体験してください」と伝えて参加してもらいました。アンケート結果をみると先輩学生全員がよかったと答えてくれたので、何らかのいい影響はあったのではないでしょうか。


――チームビルディングプログラムを体験したことで、例年と比べて、新入生に変化は感じますか?


山口先生 早々に笑顔を見ることができたのは大きな違いです。2日間にわたって学生同士がコミュニケーションをとっているので、早い段階で知り合いができたからでしょうね。最初の授業で教室に集まった時の様子が、昨年までとは全然違っていました。特に休み時間は、昨年まではこんなににぎやかだったかな、と思うくらい活発に話をしていますね。でも、私が教壇に立って「説明しますよ」というとシンと静まってこちらを見て聞く態勢もちゃんととれて、オンとオフの切り替えもできているんです。仲間がいるという意識があるからでしょうか、すごくいい変わり様だったと思います。



――他の先生からは例年との違いに関して何か声は上がっていますか?学習意欲などに影響あったのでしょうか?


山口先生 演習担当の先生からは「昨年と違って、授業で早速意見を出しあうとか、困っている人がいると助ける姿が見える」と聞いています。補習でもチームビルディングでつくったグループを活用して学び合い学習をさせているそうですが、授業が始まる前に会話する機会があったおかげで「学生同士でよく教え合っており、教員とも顔見知りになったことでしっかり質問や相談もできている」とのことです。



――補習は講義形式で行っているのかと思っていましたが、グループワークも取り入れているんですね。チームビルディングを行ったことで、アクティブラーニング形式の授業にもスムーズに入れているのかもしれませんね。

山口先生が期待していた「学生の自律性を引き出す」という点についてはいかがですか?


山口先生 それについては、まだ今は感じることはできていません。我々の大学にはそういう空気といったものが未だなかったのかもしれませんし、これからではないでしょうか。すぐに大きな変化が現れるというより、組織が変わっていく最初の段階だと思っています。「明確な結果」は出ていませんが、「ちょっと違う感じ」は認識しはじめていますし、チームビルディングをやったから成功というのではなく、時々刺激を与えながら継続させていく運用が必要になるでしょう。

すべてのことを我々が手厚く支えようとしていては、今までと変化がありません。我々がよかれと思ってしたことを、実は学生は欲していなかったということもあるでしょうから。学生の「やりたい」がどんどん出てきて、教員はそれを手助けするという形にもっていく必要があります。学生が「こうしたい」を発信できるように、常に学生と教員が接点を持てるような状況にしておくことが大事だろうと考えています。



――ピアサポートクラブについては、今後どのような展開を考えていますか?


山口先生 5月末に呉キャンパスで新入生のためにバーベキュー大会を実施したのですが、これは「イベントで新入生を盛り上げたい」というピアサポートクラブのメンバーからの発案でした。新入生の8割以上が参加してくれて、友達になった人同士がスマホをかざして連絡先を交換するなど、学生の輪が広がる様子を直接見ることができました。ピアサポートのメンバーも新入生と交流するだけでなく、メンバー同士でも話せたそうで「いろんなコと話せてすごく楽しかった」と言ってくれて、こういう機会を設けて良かったと思いました。



――コロナ禍で同級生との交流が制限される時期が続いたので、ピアサポートクラブの活動は上級生にとっても嬉しかったんでしょうね。


山口先生 アンケートをとると、1年生の中にも「ピアサポートクラブの活動に参加してみたい」という人が20%ほどもいました。2023年春までの活動をピアサポートクラブの1期目として、これからの2期目以降は1年生からもメンバーを募って運営しようとしています。そして、学部全体を一つのチームと考えて、学生が育って実際に行動してもらって支え合うとか、学生自身がやりたいことをやってもらえばいいと考えています。



――現段階で、今後のピアサポートクラブの活動内容について構想していることはありますか?


山口先生 はじめは、学生同士が一緒に勉強したり、苦手なことがあれば教えてあげたりする学び合いの場や、そこに行けば先輩と話ができる場所といった大雑把なものをメージしていました。ですが、学生の中には勉強が好きなコもいれば、イベントをしたいというコもいます。我々がやって欲しいことをさせようとすると続かないと思うのです。他大学のピアサポートも、イベント企画や勉強相談などさまざまな事例があるようなので、学生自身が「自分たちがやりたいこと」「楽しい学生生活を送るために必要なこと」を考えて、運営していける組織にしたいですね。



――まさに「自律性を育む場」をつくろうとしているわけですね。教員から提示するのではなく、場所は用意するけれど、考えることは学生に委ねる、と。


山口先生 ただ、「考えてみてね」と言ったものの、学生も何をしたらよいのかわからないようです(笑)。最初は、学生が考える手助けをして、運営を任せていこうと思います。1期生が新入生歓迎バーベキューを企画、運営して成功させた活動を見て、教員は学生のことを信じて見守るだけでいいと気づかされました。学生を信頼して、やりたいことを応援するというスタンスを目指している状況です。



――これまでは、学生を成長させるために「先回りして手を差し伸べる手厚いサポート」に重きを置いていたのですが、今後は「委ねて、任せる」にシフトするわけですね。


山口先生 そうです。本学の後援会のスローガンですが、「目をはなすな 手をはなせ」を実践していきます。


※肩書・掲載内容は取材当時(2023年5月)のものです。



 

山口先生のお話を伺って感じたことは、学生の変化を観察とデータでとらえ、課題を仮説化し、その仮説化した課題に対する打ち手を打つこと、そして打ち手に対するふりかえりをし、次の課題設定をしていくこと、このことを積み重ねていらっしゃるな、と言うことでした。さらに、組織的な課題を設定し打ち手を立案していく際には、周囲の理解や納得が必要になります。その時に自分自身の感覚だけでなく、それを裏付けたりにおわせたりするデータを明らかにして周囲を巻き込んでいく、そういう大変なご苦労をスピード感も持ってやっていらっしゃるように感じました。組織や集団が変わっていくには、やはり多くの方々の協力が必要になります。山口先生の考え方や物事の進め方、データの活用の仕方は、とても参考になると思いました。

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