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学生どうしが支え合う「ピア・サポートクラブ」【広島国際大学】連載2-2

更新日:2023年10月20日

広島国際大学の薬学部(2004年設置)ではこれまで、リメディアル教育など手厚いサポートにより国家資格取得と専門職業人育成に向けた教育を実践されておられました。しかし、直接的な学習支援だけでなく、意欲向上や円滑なコミュニケーションにつながる支援も必要であると考え、新入生向けにチームビルディングプログラムを導入されました。また、プログラム実施にあたってはサポートメンバーとして在学生(上級生)を募り、ピア・サポートクラブを立ち上げています。同学部初となる学生が学生を支援する組織の運営をサポートしているのが兒玉 安史先生(准教授)・金子 哲夫先生(准教授)です。学生の自律(自立)を促す取り組みに関わる思いや期待を伺ってみました。




兒玉 安史先生(左上)・金子 哲夫先生(右上)


――今年は新入生のサポート役に上級生を募り、同じグループで一緒にプログラムに参加してもらうという試みがあり、今後はピア・サポートクラブの立ち上げも視野に入れていると聞きました。兒玉先生と金子先生がその中核を担っているそうですが、そうした組織を立ち上げることになった背景についてお聞かせいただけませんか?


兒玉先生 これまでのことを振り返ってみても、勉強する時は、どちらかといえば一人でやるよりも学生同士でやるほうがお互い切磋琢磨して刺激を与え合えるので、知識が身につきやすいのではないかと思っていました。また、学修に限らず、学生同士がお互いに支え合ったり、コミュニケーションをとったり、イベントを一緒にしたりするような場もつくってあげたいなとも思っていました。以前、そのようなピア・サポートの組織をつくろうとしていましたが、なかなか前に進める機会がなく、そうこうするうちにコロナ禍になってしまいました。今回、チームビルディングの話をいただいて、ピア・サポートの活動をまさにここからスタートできるのではないかと考え、このタイミングに合わせてメンバーを募集して始動させることができました。



――学生はどのように募ったのですか?


兒玉先生 在学生に周知するためにポスターをつくって掲示しました。「新入生向けにチームビルディングをするのでそのサポートもしてもらいます、その他にも学生間でやりたいイベントを企画運営することもできるので興味がある人は参加してください」と。このようなポスターを掲示するとともに、積極的に学修支援に取り組んでいる学生のつながりを利用して、ピア・サポートの活動に興味がありそうな人に声をかけてもらいました。さらに、我々が担任をしている学生にも声をかけて募った結果、35人が応募してくれました。



――今回集まった学生がピア・サポートクラブの一期生ということになるのだと思いますが、活動への感想はいかがでしたか?


兒玉先生 半々ですね。ピア・サポートに関心をもって盛り上げて行きたいという学生がいたことは嬉しかったですが、そのような学生は比較的少数であり、参加は今回だけでいいという人もいました。



――ピア・サポートクラブの学生からの提案で新入生を集めてバーベキューイベントを開催したと聞きましたが、その経緯を教えてください。


兒玉先生 チームビルディングプログラムの説明のために学生に集まってもらった際に、この組織では今回限定でプログラムのサポートをするだけでなく、学生相互で支え合うような活動もしていきたいということを伝えました。そこで、「新入生と何かするならどんなことをしたいか」考えてもらったところ、スポーツイベントやバーベキュー大会などを通して新入生と交流したいという声があがり、すぐにできそうなバーベキュー大会を開催することにしました。しかし、学生だけですべて運営できるかといえばそういうわけでもなくて。そこで、今回のバーベキュー大会は学科主催のイベントとして行うことにし、ピア・サポートメンバーにはお手伝いをしてもらいました。自由参加で開催したのですが、結果的に新入生は70名近くが参加して、上級生も10数名が参加してくれました。連休明けのイベントでしたし、チームビルディングをしていなかったらここまでの人数は集まらなかったのではないかとも思います。



――新しい友達を増やしたいという気持ちもあったかもしれませんよね。


兒玉先生 こちらもそれを求めていました。授業開始後、演習科目ではチームビルディングでつくったチームメンバーでグループワークをさせていましたが、他のチームとの交流は少なかったので、他のチームメンバーとも交流させたいという思惑もありました。バーベキュー大会当日は、新入生同士だけでなく、先生や上級生にも話しかけて、知らなかった人とも交流して、友達の友達と仲良くなっていく姿を見ることができて、狙い通りだなと思いました。



――チームビルディングで新入生が盛り上がり、人が集まって楽しいイベントになりそうな雰囲気が伝わっていったから参加したくなったんでしょうね。上級生もコロナ禍の学生生活でにぎやかな思い出が少なく、よい交流の機会になったのではないでしょうか。現段階では今後のピア・サポートクラブの展開をどのように考えておられますか?


兒玉先生 新入生向けのプログラムのために募集したピア・サポートクラブは一旦区切りをつける予定です。今後は、第1期から残ってくれた2・3年が中心となって、1~3年生を対象に改めてメンバーを募集し、第2期から新たな取り組みを始めていきたいと考えています。次回からは本格的に学生同士でサポートしあえる状況にもっていきたいです。


金子先生 第1期のメンバーには教員から声をかけて半ば強制的に参加してもらった学生もいたので、一体感がなかったような気がします。


兒玉先生 確かに第1期メンバーは「みんなで新入生のチームビルディングをサポートしよう、みんなで考えよう」という雰囲気がありました。「みんなで」しようとしたことが、意見の食い違いや分裂を招いたかもしれません。今後はみんなで集まるけれど、「みんなで同じことをする必要はない」というようにしていくつもりです。学生それぞれの得意なこと、例えば、「私は主に勉強を教えたい」という人は学修サポートを中心に取り組んでもらえばいいし、「イベントをしたい」という人はイベントの企画だけをしてもらってもいい。「みんなでやろう」ではなく、「やりたいことをやりたい人がやる」ようにしていきたいと思います。



――ピア・サポートとは、先生方の本業の教育・研究とは異なる領域の業務ですよね。なのに、あえてそこに関わろうとするモチベーションを聞いてみたいですね。前例のない取り組みで手間もかかることなのに、なぜ関わろうとされるのですか?



兒玉先生 チームビルディングプログラムを導入するにあたって、教員の運営メンバーの募集がありましたが、その時は何をするのか詳しくわからなかったので手を挙げませんでした。後日、学科長とお話しする機会があり、その際に趣旨を丁寧に説明してくださり、その時にピア・サポートクラブを立ち上げて活動させたいという構想も聞かせてもらえました。それはまさに私が以前からやりたいと思っていたことだったので、一転し参加を申し出ました。



――兒玉先生がやりたいと思っていたのはどんなことですか?


兒玉先生 私自身、これまで学修支援に関わり、薬学基礎ドリルの運営・管理をしたり質問受付コーナーを設けたりと、学生の学力向上対策に組んできました。その一方で、学力を伸ばすためには、勉強する機会を多く与えるよりも、実は勉強以外の人間的な部分の醸成が大事なのではないかと思っていました。人間形成とかコミュニケーションとか人間関係とか、そういう土台のうえでないと学力は育たないのではなかろうか、と。

自分の学生時代を振り返ってみてもそうですが、授業で先生の話を聴くだけよりも、みんなと取り組むことを通して学んでいったことの方が身についたし、みんなと楽しい思いをすることが学び続けるモチベーションにつながっていった面もあります。ですから、イベントや課外活動など学力以外の人間形成の部分をケアする方が実は大事で、学力も伸びるのではないかと思い、そういった取り組みができないか淡い期待を抱いていました。

だから、チームビルディングのねらいを伺ったとき、今の本学には絶対必要なことだと思いました。人と人とのコミュニケーションを体験し、自発的に行動することや、相手を知って自分を理解することの大切さとか、まずそちらを学ぶほうが勉強よりも大事なんじゃないかと。



――金子先生がピア・サポートクラブに関わるようになった動機は何ですか?


金子先生 然したる思いがあったわけではなく、誰も手を挙げないならやってみようと思っただけです。この取り組みを否定している教員もいます。私も当初は否定的な見方をしていましたが、学部としてやると決めた以上、取り敢えず関わってみようと思いました。



――チームビルディングプログラムを体験したり、ピア・サポートクラブを立ち上げたりしたことで先生方の中でもモチベーションの高まりはあったりしますか?少しくらいは変化しているんでしょうか?


兒玉先生 今のところ特に変化は感じられません。薬学教員が今後どういう形でチームビルディングやピア・サポートクラブに関わるのか未知ですし、関わることがないかもしれませんが、そういう活動が始まっていることは知っておいてほしいですね。


金子先生 全教員に有意義な取り組みだと思ってもらえれば良いのですが、それには程遠いというのが実情だと思います。少なくとも「やっても意味がない」などのように学生のモチベーションを下げるようなことは言わないで欲しいと思っています。チームビルディングやピア・サポートクラブを通じて、学生、教員の双方がどのように成長していくのかが問われている気がしています。



――確かに先生も一緒に成長できる場になるのが理想かもしれません。大学が、先生が教えるだけでなく学生とともに考える場になればいいですね。


※肩書・掲載内容は取材当時(2023年5月)のものです。



 

今回のお話で印象的だったのは、以下のようなサイクルのお話でした。


①学生の学力が下がっていく

②先生方が一生懸命、アレコレを考えて学力補強を図ろうとする

③学生にとってはやらねばならないことが増えていくように感じられる

④学生が先生の指示したことだけを行うようになる

⑤学生の自立性(自律性)が失われていく


ところが、⑤の自立性(自律性)は、自己決定理論(Deci&Ryan)によると、動機づけ(Motivation)のための最も基本的な心理的欲求と言われています。とすると、せっかく先生方が学生のために良かれと思って考えて実行されていることが、動機づけの観点から言うと逆効果になってしまうことになりかねないということかもしれません。

これは難しい問題だなぁ、と思いました。

広島国際大学薬学部では、このサイクルに対して、新入生のチームビルディングとピア・サポートクラブの立ち上げで、学生どうしが支え合う学科づくりを始められたわけです。

その取り組みは、まだ緒に就いたばかりで、色々と課題も多そうですが、今後の展開を応援したいと思いました。そしてその道のりは、他の多くの大学の参考になりそうにも感じました。

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