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幼少期の遊びが学生の気質に影響?これからの工学教育の動機づけを考える【千葉工業大学】連載1-3

千葉工業大学工学部機械電子創成工学科では、新入生ガイダンスにグループワークを取り入れたり、実験科目でロボコン式のPBLを行ったりするなど、チームコミュニケーションを活性化させることに積極的に取り組んでおられます。背景にあるのは、工学部学生の気質やモチベーションの変化のようです。メーカーでの勤務経験を持つ新井浩志先生(工学部 機械電子創成工学科 教授)は、授業に工夫を凝らし、興味がなくても学んでおくべき科目への動機づけや、他者と協働する機会の提供に務めておられます。未来のものづくりエンジニア育成に向けた課題意識や解決への方策について話を聞いてみました。



 

――新井先生がPBLを始めたきっかけは何だったのですか?

 

新井先生 世間的にPBLが流行ってきていたということもありますし、学生も普通の授業、実験だとモチベーションがわかないだろうなと思ったからです。今の若い人は楽しそうなことが見えないと動かないところがあります。「まずは電気磁気学が大事だから覚えろ」といっても、それがなんだ、というような反応しか返ってきません。ですから、ピンポン玉トランスフォーマーの実習も、まずは「ものづくりは楽しいよね」と感じてもらいながら、その過程で「電気回路やプログラミングや機械の応力なんかも、勉強しておかないといけないんだよ」と伝えておいて、2年次、3年次の講義につなげるようにしています。高校生にもロボコンのようなことを授業でやっていると話すと興味を持ってくれますし、まずは興味から勉強につなげていくのは大事だろうと思っています。

 

 

――理論や説明うんぬんより、まずは経験してもらうというやり方ですね。

 

新井先生 そうです。経験して、先の見通しを見せてから階段を登らせるような感じです。私も学生の頃は、最初に電気磁気学を受けた時は「ナニ?コレ?そんなことをやりたいわけじゃなくて、ラジオをつくりたいだけなんだ」なんて思っていましたけどね。今はもう、昔ながらの地道な講義だけでは学生が全然ついてきませんから。

 

 

――学びへのモチベーションをいかに高めるかについては、どの大学も苦労されているようです。

 

新井先生 永遠の課題ではないでしょうか。うちの学科には「摩擦、摩耗」の学問が1コマ13週あるんですが、プログラミングが好きで入ってきた学生は、いきなりそういう講義を聞いてもつまらないだろうと思うんです。ですが、ピンポン玉トランスポーターで、「ピンポン玉が滑って落ちる」とか、「ギアとベルトが滑って噛み合わず、うまく動かない」ということを経験していると、摩擦の講義でも「これはあれのことだな」とわかって、興味がわくんじゃないかなと思うんです。昔は理系に進むような人は、子どもの頃から家にあるものを何でも分解してみたり、プラモデルや模型飛行機をつくったりして、ものづくりの感性を身につけていた気がします。でも、今の子はそういう遊びをやっていないんです。みんなPCかスマホでゲームしかしていないから、重心を気にして飛行機を飛ばすような経験もしていないんです。

 

 

――なるほど、昔は子ども時代にものづくりの素地をつくっていたんですね。しかも、そういう子たちは、やがて研究室や職場に入ってからも、誰かと協力して研究や仕事に取り組むこともできていたわけですよね。

 

新井先生 当時の人は、小中学校で友達と遊んで、そこである程度の社会性を身につけていた気がします。我々も子どもの頃から「学校おわったら広場であれをやろうぜ」などと友達と遊んで、それなりに組織というものを経験していたのではないでしょうか。

 

 

――確かに。小学校は集団登校で下級生の面倒を上級生が見て、一緒に学校まで連れて行ってくれたり、放課後も一緒に遊んだりしていましたよね。

 

新井先生 今の学生は部活やスポーツといった活動をしていないと、先生以外の年上の人と会話する機会がないんですよ。昔はたくさんの親戚と一同に会する機会もあって、怖いおじさんに怒られたりしていたけど、今はそういうこともないんでしょうね。これは余談ですが、10年程前に新入生から「ねえ」と、友達言葉で話しかけられて、びっくりしたことがあります。他の先生が「何だ、その口のきき方は!」とたしなめてくれましたが…


 

――他者と協力しながら行うグループ実験の経験は、工学を学ぶ人にとってどのような意義があるとお考えですか?

 

新井先生 昔からある工学部の実験といえば、電気ならオシロスコープで波形を確認してグラフを書くようなもので、チームでの役割分担などはあまりありません。器具に限りがあるので、測定は班のみんなとやるけれど、結果を自分のレポートに書いておしまいです。

一方、PBLのような実験ではチームとしてどう動くかが重要となり、その中でリーダーをやるとか、手薄なところをサポートするとか、自分にできることは何なのかを見極める力も身につけることができるのではないでしょうか。

企業でものづくりをすることになれば、絶対チームで取り組むことになりますよね。例えば、プログラマとして就職する人って、よく「一人でもくもくとプログラムを書いているだけ」と思われているようですが、そんなことはないんです。一人で大きなプログラムをつくるわけではなく、大きなプログラムの一部を担当するのであって、そこではチームの一員としての動きが求められ、コミュニケーションは絶対に必要なんです。ですから、そういうスキルはやっぱり学生のうちに身につけておいた方がいいでしょうし、そのための実験の時間でもあると思うんです。



最後に私から一つだけ共有させてください。新井先生の口から何度か「モチベーション」という言葉が出たのですが、こういう理論をご存知ですか?デシとライアンの「自己決定理論」というものです。この理論によると、動機づけ、モチベーションには自律性・有能感・関係性という3つの心理的欲求がある、というのです。


新井先生 なるほど。

 


――ラーニングバリューが提供しているプログラムは、順天堂大学で教鞭をとっていた北森義明先生が開発されたチームビルディングプログラムを土台とするもので、我々はチームビルディングを大学に広めるために会社を興したのです。誤解を恐れずに言えば、誰が扱ったとしても、あのプログラムを受けると学生さんは元気になるんです。ファシリテーターが学生に指図をするようなことはなく、学生さんは自分たちが主体となってグループワークに取り組んでもらう設計になっているからです。そうすることで彼らは関係性を深め、役割分担して、「自分にはこれができる」という有能感を得て、それがモチベーションにつながって自ら動くようになっていく。このプログラムをたくさんの大学で実施してきましたが、学生さんが活性化する様子が自己決定理論に結びつくなと感じています。

 

新井先生 まさしくそのとおりだと思いますし、この図を見て思ったのは、今の子たちがパソコンやスマホでソーシャルゲームにのめり込んでいく構図もこれにあてはまるのではないか、ということです。オンライン上で出会った仲間と怪獣を倒しに行くなど、ゲームの世界にめり込んでいくのは、この3つの要素があるからなのかなと、ふと思いました。

 


――なるほど、オンラインで集まって、饒舌に語り合い、仲間と協力して怪獣を倒すことにモチベーションを感じるというわけですね。そういう仕組みを授業に取り入れたら、授業も活性化するのではないでしょうか。

 

新井先生 私も考えてはみるものの、これをやろうとすると、PBLのようなものになり、すごく時間がかかるんです。スポットでやることはできるでしょうが、教える内容が減っていってしまうので悩むところです。授業でもディスカッションの場を設けようという動きはあるのですが、ちゃんとやろうとすると教える内容が減ってしまう。逆に、そういうことをやらないから単なる詰め込み教育になってしまうのです、それが難しいところですよね。

 

 

――我々が関わっている大学で効果的だと感じているのは、授業の最初の数回を使ってチームビルディングを行うというものです。そのあとにPBLやディスカッションのような授業を進めていってもらうんです。すると、学びへの吸収力もモチベーションも上がるし、教える内容が減る懸念も最小限に留められるというのもわかってきています。そんな方法もあるかもしれませんね。

 

新井先生 13週のうちの最初の1週をそういう方法でやるというのはあるかもしれませんね。


 

――あるいは、貴学の場合ですと、今活用いただいている新入生ガイダンスのチームビルディングでできたグループを学科の授業にうまくつなげていくというやり方も考えられるかもしれませんね。これからもチームビルディングの活用についていろいろなご提案ができればと思います。

 

※肩書・掲載内容は取材当時(2024年2月)のものです。



 

荒井先生とのお話で出たPBLと言う教育手法は、今では多くの大学で取り入れられていると思います。その多くは、受講学生を複数のグループに分け、課題を設定し、その課題達成に向けて力を合わせてもらう形です。その過程で伝えたい教育コンテンツに興味関心を持ってもらったり、協力して物事にあたる体験をしてもらおうと考えて構成されています。しかし、グループによる協力の度合いや力の入れ方の差が生まれ、その際にどのように対応していいのか悩まれる先生が多いのではないでしょうか。

荒井先生のお話からも、活動状態が活発なグループと、そうでないグループが表れているように感じました。

活動状態があまり活発でないグループにはどのように対応したらいいのか。

そのポイントの一つは、我々がグループの外から見て感じていることと、グループの中の学生が感じていることは、必ずしも一緒ではないと言うことかもしれません。

チームビルディングでは、グループの構成員それぞれが感じていることの見える化を、ふりかえりと分かち合いで行います。そうすることで個々が感じている状態にどのように対応していくかを考えるきっかけとなったり、外から見ている教員がグループの中の視点での援助をするヒントを持てるようになったりします。実は活性化しているように見えているグループの方が、問題を抱えているケースなどもよくあることなのです。

我々が学ばせていただいた北森先生はよく「相手主語で」とおっしゃっていました。相手主語の援助。ファシリテーションの基本かもしれません。

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