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チームビルディングを活用してPBLで建設的な議論を促す【東京経済大学】連載1-3

更新日:2021年6月11日

新入生歓迎イベントで、チームビルディング研修を受けた上級生ファシリテーターが見事に新入生のモチベーションを引き出す事例を見た東京経済大学の加藤みどり先生(経営学部 教授)。先生は、意見のぶつかり合いから共通の答えを出すプロセスも疑似体験できるチームビルディング研修は、ご自身のPBL型授業にも活用できるのではないかと考えられました。そこでPBL型の初年次ゼミの冒頭3回にチームビルディング研修を導入することでチームとしての成長を促し、建設的な議論を行うための場作りを行ったのです。果たしてその結果は?





――加藤先生、次はチームビルディング研修を初年次ゼミに取り入れてみようと考えたんですよね?


加藤先生 2018年後期の「フレッシャーズセミナーb」(1年次後期の選択科目のゼミ)で、2回目の学内PBLを行いました。今どきの学生は面識のない人とのコミュニケーションを避けたがることもあり、後々グループワークがスムーズに進むように、授業の中でチームビルディング研修を試験的に導入したんです。PBLのテーマは「学内の国際交流を促進するには」で、国際交流課の協力を得つつ、ラーニングバリューさんに相談して、研修プログラムをアレンジしていただきました。



――その時は、チームビルディング研修の成果をどのように感じましたか?


加藤先生 履修者15名の授業で、5人ずつ3チームにわけてグループワークを行ったのですが、1年生にしてはプレゼン力の伸びはかなり大きかったです。ただし、もともと履修者に素質があったからかもしれないし、チームビルディング研修が効いたからかもしれないし、理由は明確にはわかりません。



――比較対象がないので、成果を明確にすることはできないかもしれませんが、どんなところに学生の成長を感じたのですか?


加藤先生 その2年前にも、大学の図書館に協力してもらい、「図書館の利用者を増やすには」というテーマでPBLを行いました。会話しながらできる授業なので、学生は楽しかったようですが、私は初めてのPBLで、慣れていなかったこともあり、介入してもディスカッションや提案が建設的にならないことに限界を感じました。


その課題を解決するために、2018年のPBLでは、授業の冒頭にチームビルディングプログラムを入れることにしました。その他にも、学生が消化不良にならないよう、できるだけ内容を絞り、毎回授業のゴールを明確にするようにしました。また、ディスカッションするとみんな楽しくなって、途中から話題が逸れがちなので、時間管理を意識して、授業の最後には振り返りの時間をたっぷりとるようにもしました。



――2016年から2018年へ、加藤先生のPBLは、チームビルディング研修を取り入れる以外にも、いろいろなバージョンアップがあったんですね。


それまでは、「たくさん教えたい」という自己満足なところがあったと思います。ですがPBLは知識を授けるような授業でもないので、多面的に考えさせることを最優先する授業設計にして、それに必要な複数の要素を授業に配置することにしました。また、議論をホワイドボードペーパーに書かせる、鈴木先生(千葉大学)ご提唱の凝縮ポートフォリオの導入など、「見える化」も心がけました。どれが効いたのかわかりませんが、2018年のPBLを履修した学生は、プレゼン能力や論理的思考、ビジュアルで表現する力が大きく伸びたのは確かです。



――先ほど、2016年のPBLのときのことを「話し合いが建設的じゃなかった」と言われていましたが、それは具体的にはどういう状況だったのでしょうか?


加藤先生 PBLなので、現実的な制約を導入します。図書館に曜日時間別の入館者数や貸し出しランキングなどのデータを提供していただき、図書館の予算や、かつて試してみたが効果がなかった事例などをデータとして与え、提案を考えてもらいました。その中で、彼らから出てきた提案の一つは、「本を借りるだけの場所だと利用しないので、コーヒーを置けばいい」というものです。そのコーヒーはマシンなの?人が対応すると人件費がかかるけど予算は?といったことを指摘しても、「わかんない」と言って、議論が止まってしまう。話し合いをするものの、議論を深めるところまで行かずに、途中で雑談に切り替えてしまうんです。



――浅いアイデアを出すだけで、一人ひとりの意見を深めることもせず議論が終わってしまうわけですね。


加藤先生 シラバスをあまり読まず、グループワークを体験したくて履修する履修生が多かったことは、授業開始後にわかりました。もちろん、そこから彼らを動かすことができなかったのは私の力量です。また、1年生なのでデータの咀嚼にもっと時間をかけるべきと、様子を見て思いました。こうした反省点から、2018年のPBLでは内容を絞り込んで段階的に考えれらるよう構成し、また、ふりかえりの時間を意識的に増やしました。



――2018年のPBLは、多少建設的になったのでしょうか?


加藤先生 学生の提案が建設的かといえば、そうでもありませんでした。この時のPBLのテーマは「国際交流、留学」で、図書館よりテーマは複雑でしたので、シラバスにも強めに書きました。海外に関心がある学生が集まって欲しいと思っていましたが、やはり、グループワークに興味がある学生がほとんどでした。提案そのものは、むしろ前回の「図書館」の方がよいものがあり、実際に図書館が採用してくれました。

でも、論理的な筋道の立て方や、結論を述べるために必要なことと不要なことを整理すべきであることなど、学生のプレゼンに対して私がアドバイスすると、次の回には論理面で修正したうえで、オリジナルの案を持ってくるようになったのです。ロジカルな成長性は上級生よりも高いくらいでした。行き詰まって雑談もするけれど、粘り強く議論に立ち戻ったことに、前回のPBLの学生との違いを感じました。



――そのお話を聞いて、私の頭に浮かんだのは加藤先生が大学教育学会で発表されたこの資料です(下図)。これはPBL終了後のインタビューの結果を加藤先生が分析されたものですよね。[加藤みどり先生作成スライド「初年次ゼミPBLにおけるチームビルディング研修ー自他の違いの認識からー」より抜粋]これを見て、今のエピソードを聞くと、2016年のPBLでは、今あるものとは違う視点から意見を出す役割を加藤先生だけが担っていて、学生はただ聞いて終わっていた。それが2018年のPBLでは学生同士で違う意見を出し合えるようになった、ということですよね。



加藤先生 多分、そうだと思います。最終回の振り返りのコメントに「もっと意見を言えばよかったと猛烈に後悔している」と書いていた学生が数名いました。自分が意見を言えば、もっといい意見がもらえて、議論や成果物がもっとよくなると気がついたのでしょうね。



――それはきっと、雑談以上に本気のディスカッションが面白かったんだと思います。反対意見を言ってみるとか、人と違う角度からの意見を恐れずに言ってみるといったことが。加藤先生は大学教育学会の発表でも、「タックマンモデルのぶつかるプロセス(混乱期)を体感しなければならない」とおっしゃっていましたが、学生はまさにそれをPBLで体験したのではないでしょうか。


加藤先生 それを明示していただいたのがチームビルディング研修ですよね。研修を受けた時にはわからなかったかもしれませんが、PBLで学生同士の話し合いを重ねていくことで、これがそのプロセスだと認識できて、これを超えないと成果に得られないと思ったから議論に戻ったのではないでしょうか。



――授業の冒頭3回のチームビルディング研修で「意見の対立を乗り越えて、他者と協働する体験」をしたことが、その後の授業での議論の活性化につながったとも言えそうですね。


加藤先生 受講後のインタビューで、ある学生が「人と違う意見を言っていいとわかった」と言っていたのが印象的でした。人と違う意見を持つことを恐れて、それを隠そうとする学生は多いです。言っていいんだよ、けんかになったり人を傷つけるわけではないよ、いい結論のために必要だよ、ということが最初に伝わっていれば、かなり心が楽になると思います。


グループワークに関心があるという割には、休み時間にはスマホを見るばかりで、自分からコミュニケーションを取ろうとする学生が本当に少ないのも気になっていました。その壁を崩す働きに繋がるので、チームビルディング研修は、PBL導入のプロセスとしても有効かと思いました。


※肩書・掲載内容は取材当時(2021年2月)のものです。

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