入学時の不安を取り除くことが新生活のスムーズなスタートにつながることから、初年次教育を重視する大学が増えています。しかし、1学年1500人以上を擁する規模の大学では、全学一斉で新たなカリキュラムを導入するハードルは高そうです。そこで、東京経済大学では2017年度から、正課の授業としてではなく、生協で行われている新入生歓迎イベントを活用して、新入生のモチベーションを引き出すある取り組みをスタートさせました。前回までの連載【東京経済大学 連載1-1~4】では、取り組みを主導した学生委員長の加藤みどり先生(経営学部 教授)と学生課長の笹川克也さんへのインタビューを紹介しました。今回は、新入生としてそのイベントに参加し、その後、先輩ファシリテーターとしてそのイベントの企画・運営に携わることになった2人の学生・UくんとTくんにインタビュー。彼らが何を感じ、気づき、これからのアクションに活かそうとしているのか話を聞いてみました。
――お二人は現在、3年生(2021年2月時点)ですが、入学前の2018年3月に生協が主催する新入生向けのイベント「ウェルカムパーティ」に参加したんですよね。当時のことで印象に残っていることを聞かせてもらってもいいですか?
Tくん すごく印象に残っているのは、先輩ファシリテーターが大学生活への不安や悩みを和らげようとしてくださったことです。まだ高校生だった自分が、「大学生になるとこんなことができるようになるんだ」と憧れを抱いたのを覚えています。
Uくん 僕は先輩ファシリテーターがスーツ姿だったので、第一印象は「大学生って大人だな」でした。しかも、その先輩はハキハキと喋る人なので、「すごいな、自分はこんな風になれるのかな」と思いました。午前中は同級生と話せたのが楽しかったし、午後は先輩が用意したゲームをしたのですが、「大学生は自由だな」と感じたのを覚えています。高校までは先生に決められた枠があって、その中でなにかをしていましたが、大学では自分で考えてやっていくんだというのが伝わってきて。それで生協の活動に興味を持ったんですが、入学後のクラス会で話した人からも誘われたこともあって、一緒に入ることにしました。
――生協学生委員としてはどんな活動をしてきたのですか?
Uくん 1年生の時は入学準備説明会でパソコンの説明を担当して、ウェルカムパーティのファシリテーターもしました。その時に当時の新入生歓迎実行委員長と親しくなり、2年生になってからも新入生歓迎の活動に関わるようになったんです。2年生の11月ごろからオリター局長になって、今は副委員長と兼任しています。
――オリターやオリター局長というのはどんな役割をする人なのですか?
Uくん オリターというのは入学後に新入生全員参加で行われるクラス会(ウェルカムパーティ)の運営を担当する先輩学生のことです。文化会と体育会に所属している各団体に2名ずつ選出してもらい、オリターとして活動してもらっています。1クラスを2~3人のオリターで担当しますが、クラス数は46くらいあるので総勢約110名のオリターがいる計算になります。
――局長は、そのオリターのまとめ役のようなポジションなんですね。100人以上もの人をまとめるのはなかなか大変そうですね。
そうですね。でもまとめるなんて全然できていないですけど…(笑)。
――Tくんにもお聞きしたいと思います。Tくんが生協学生委員に入るきっかけになったのは?
Tくん 僕は生協のウェルカムパーティのファシリテーターになるための研修に参加したのがきっかけです。後輩に何かを還元できるようなことをしたいと思っていたし、研修を受けることで自分が成長できるのではないかと思って。その時に、Uくんの代の生協学生委員の人数が減ってしまったと聞き、私にも協力できればと思い、2年生になってから生協に参加することにしました。
――新入生を迎える準備として、先輩ファシリテーターはチームビルディング研修(1日間)とファシリテーション研修(1日間)を受けましたよね。そこで印象に残っているのはどんなことですか?
Tくん どうすれば新入生に楽しんでもらえるか、どうすればスムーズに進行できるかといったことについて、自分で考えたことを他の人と話してプログラムの細部まで決めていくのは難しかったですね。ですが、新入生を迎え入れるためにこんなに真剣になれるのはいいなとか、こんな風に真面目に話せる仲間がいるのはいい環境だなと思いました。
Uくん 僕は生協学生委員会以外の学生団体の人と仲良くなるきっかけになりました。まだ一番下の学年だったので、先輩がグループワークを回す姿を「いつかはこういう風にならないといけないんだな」と意識しながら見ていたと思います。
――実際に新入生を迎えての本番では、ファシリテーション研修を受けて学んだことは活かせましたか?
Tくん そうですね。研修では先輩方が新入生役を務めてくれて、実際に当日にやるプログラムを実践するロールプレイングを行いました。練習していたおかげで当日は大きなミスなく進めることができました。心にゆとりをもって、身振り手振りをつけながら笑顔で後輩に話かけることができたと思います。
Uくん 僕も事前にロールプレイングはしましたが、その時に作った原稿が後々役に立ちました。
――2020年春のウェルカムパーティは、お二人の学年が中心となって進めてきたと思いますが、コロナ禍の影響で、残念ながら対面での実施は断念したんですよね。その代替案としてオンライン企画を実施したと聞きましたが、具体的にはどんなことをしたんですか?
Tくん 学生課の笹川さんから「新入生のために、オンライン上で何かできないか」という相談をもらったのが事の始まりです。ウェルカムパーティのためのファシリテーション研修に参加した人を集めて、9月17日と10月30日に「新入生オンライン懇親会」を企画して運営しました。
――オンラインとはいえ、実際にやってみていかがでしたか?
Tくん オンラインでこうしたイベントをやること自体、私も経験がなかったですし、これまでに用意したことがないオンラインプログラムのための説明資料の作成が大変でした。事前打ち合わせでは、プログラムの進行中に起きる問題を想定して、「こんなことが起きたらこう対応しよう」と、ケースバイケースを考えて準備するのも大変でした。
――入念に事前準備をしたようですが、本番では役に立ちましたか?
Tくん 予定より時間は押してしまいましたが、新入生にアンケートをとってみると、「参加してよかった」「同期と話すきっかけをつくってくれてありがとう」という素直な感想を聞けたので、準備が無駄にならなくてよかったと思います。
笹川さん もう少し詳しいことを補足させてもらうと、9月17日は経営学部だけで試験的に実施して、10月30日は大学祭の前夜祭企画として新入生全体の交流会として、オンラインで実施しました。ファシリテーション研修を受けて、前年にウェルカムパーティでファシリテーターを経験していたことで、9月17日のテスト実施の段階から、自分たちで対応できる力がついていると感じていました。
このオンライン交流会は大学主催のもので、学生課が担当窓口でしたが、実際はUくんやTくんなど数人が中心となって進めてくれました。参加するファシリテーターを集めてくれたのもUくんたちです。彼らがイベントのために作成してくれたスライドにも感心しました。それはPowerPointのスキルの高さを言っているのではなく、研修で身につけてくれた何かが形になるというのはこういうことかなと思いました。
――イベントの内容や実施方法に変更が生じても、準備する過程で「新入生を迎え入れる姿勢やファシリテーションスキル」が備わったたことで柔軟に対応できた、ということですね。
Uくん 僕は準備段階ではあまり関わってないので、ファシリテーターとして参加した感想になりますが、Tくんの資料の作成能力が群を抜いていて、自分が自信をなくしてしまうほどでした(笑)。資料もですが、企画のレベルが高くて、僕のほうがかなり学ばせてもらいました。
笹川さん Uくんはオンラインの交流会ではファシリテーターとして、新入生からの質問に最後まで対応してくれていましたし、オリター局長としてクラス会の準備を頑張ってくれていますよね。こうした取り組みを通して、本学でも学生主体の活動を主導できる人が育っているのが実感できました。また、そういう人を育てるためのファシリテーション研修の重要性や、そこで行われるラーニングバリューさんのチームビルディング研修の確かさも感じました。
※肩書・掲載内容は取材当時(2021年2月)のものです。
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