東京経済大学では2017年度以降、新入生の入学時の不安を取り除き、モチベーションを引き出すために、先輩学生がファシリテーターを務める生協イベントを活用しています。初めてイベントが行われた2018年3月に、入学予定者としてそのイベントに参加したUくんとTくん。当時高校生の2人の学生は、その時の先輩の対応に大いに刺激を受け、その後、自分たちもファシリテーターを務めるようになりました。「新入生が安心して大学生活をスタートできるようにサポートしたい」という想いのバトンは先輩から後輩に受け継がれています。また、ファシリテーターを務めるにあたっていくつかの研修プログラムを受けることは学生の視野を広げることにもつながっており、イベント対応のみならず、その他の学生生活にも好影響を与えているようです。イベントや研修プログラムへの参加による変化を、2人の学生・UくんとTくん、そして、彼らの活動に伴走している学生課長の笹川克也さんに話を聞いてみました。
――2021年新入生向けの生協学生委員会主催のウェルカムパーティの予定はどうなっていますか?
笹川さん 3月3日、12日にオンラインで行います。すでに12月と1月にラーニングバリューさんによるチームビルディング研修とファシリテーション研修は実施済みです。大きめにジェスチャーするなどオンラインゆえにやらなくてはならないこともあるので、今回のファシリテーション研修は、オンラインで行うためのスキルを中心に行っていただき、今は準備している段階です。
――ファシリテーション研修や、昨年のオンラインイベントでの経験を踏まえて、今年のオンラインウェルカムパーティに活かせそうなことはありますか?
Tくん 昨年のオンライン歓迎会では予定時間をオーバーしたという反省があったので、できる範囲内でゆとりをもってプログラムを構成するようにしました。また、昨年の新入生オンライン交流会での体験から、想定される1年生が抱えている悩みや質問については「よくある質問」として資料にまとめておいて対応に役立てようと考えています。
Uくん 僕はオリター局長も兼務していてオリター研修を担当しているのですが、ファシリテーション研修で学んだことは、オリター研修でも役に立ちました。
――オリター研修ではどんなことをするのですか?また、先ほど(前回)オリターは100人ものメンバーがいると聞きましたが、みんなをまとめる際に役立ったことというのは、具体的にはどんなことを指しているのでしょうか?
Uくん オリター研修は、オリターたちに新入生のクラス会を運営もらうために、オリター活動の目的や中身を説明して理解してもらうために行っているものです。これまで2回にわたって行っていたのですが、1回目は参加人数が少ないうえ、僕だけがしゃべっていて参加者はあまり発言しないという状況になってしまうことに課題を感じていました。それが、ファシリテーション研修では、ファシリテーター(講師)はグループワークには参加せず、学生だけがグループになって意見を出し合う場をつくっていることに気づいたんです。それが「どうすればみんなが発言できる研修になるのだろう」について考えるきっかけになりました。今年はこれから実施するので、どういう反応があるのが楽しみです。
――なるほど。ファシリテーターとしてのふるまいや、場のコミュニケーションを促す役割について考えたということですね。
ここまでお二人には、ファシリテーション研修が新入生歓迎イベントやオリター活動にどう役立ったのか聞いていきましたが、それ以外の場面に役に立ったことはありますか?バイトでも日常生活でも何でもいいので、あれば聞かせてもらってもいいですか?
Tくん 私はゼミ長を務めているのですが、ゼミの中でいろんなことを決める時に、意見を聴いたり、自分の思いを伝えたりする場面にも研修の経験が役に立っているかなと思います。ファシリテーション研修では、話しやすい雰囲気づくりの大切さや、話の順序によって受け取り側の印象が変わるということも学べました。コミュニケーションの主役は「相手」なので、あくまでも相手に伝わらなければ意味がないですし。研修をきっかけに「どうすれば伝わるか」を考え、言いたいことを自分の中で咀嚼して伝えるようになりました。
――学びが役立った具体的な事例で思い出せることはありますか?
Tくん 2年から3年になるタイミングで、ゼミの運営方針を決める時のことです。いろんなアイデアが出てきて収拾がつかなくなった際に、全員がそれぞれどういうことを考えているのか確認して、だからそういう立場の意見を言っているのだ、ということをみんなが理解できるように整理して共有しました。
――その意見を出した背景を聴きあった、ということですね。一見バラバラの意見のように見えるけれど、その「根っこ」にある思いや気持ちを聴いていくと、実は近しいものがある場合もありますよね。あるいは、AとBで完全に対立している時にはメリット・デメリットの対立点をはっきりさせるということもありますよね。
Tくん そうですね。類似点や相違点を見つけ、「これはこちらの意見だ」とか「これとこれは矛盾している」とか、そういう整理するときにも研修で学んだことが役に立ちました。
――ファシリテーション研修はリーダーシップとチームワークについて学べるよう構成されていますが、「意見が対立したときにどうやってコンセンサスをとるか」というプログラムを経験していたことが、後々役に立ったようですね。Uくんはどうですか?
Uくん 僕の場合は新歓委員の活動で役に立っています。毎週幹部で会議をしていますが、僕は副委員長なので、議論の対立がある時に委員長と各企画担当の局長の間を調整する役割だと思っています。そこで、会議を進めるうえで、学べたことを活かしています。
――例えば以前と今では、どのように進め方を変えたのですか?
Uくん 以前は会議で誰かが何かを発言すると、僕が「○○さんはどうでしたか」と個人を指名してから発言してもらっていたのですが、その方法では「指名された人が話す」というルールができてしまうんだと気づいたんです。ファシリテーション研修では、自分の意見を自ら進んで言える環境になっていたので、そういう環境をつくりだすにはどうしたらいいのだろうかと考えて、会議の場でも取り入れることにしました。
――すごいですね、研修のそういう場面からも気づきがあって使ってくれていたんですね。
では最後に、こうした経験や学びを今後の学生生活にどんな風に活かしていけそうか、聞かせてもらってもいいですか?
Tくん 個人的には、社会に出る前のステップとして、来年ももう一度この研修を受けさせていただいて、何か新しい学びを得たいなと思っています。そして後輩にも、自分がこれまで何度も研修を受けさせていただいた経験をもとに、どんな姿勢や視点で臨むとファシリテーション研修が役に立つのかということを教えてあげたいと思います。
――すでに2回も受けたファシリテーション研修を、さらにもう1回受けたいということ?毎年、東経大で行っているファシリテーション研修の中身はそんなに変わらないと思うのですが…。一般的に、研修というものは「一度体験すれば十分」となると思いますが、もう一度受けたいのはなぜでしょう。毎回違う気づきがある、ということなのでしょうか?
Tくん そうですね、レベルアップできる気がするんです。回数重ねるごとに、研修を受けて実践できたことをふりかえることができたり、それまで気づけていなかったことに気づけたりと、何回でも受けるほど成長できるんだと思います。それに、一緒に研修を受ける人が変わると、いろんな考え方や価値観に出会うことができるので、そういう面でも自分にとって良い機会になっているんです。
――確かに、ファシリテーション研修は一緒にグループになる人が変わると話題も気づきも変化しますからね。なるほど、ありがとうございます。Uくんはどうですか?
Uくん 僕はこれまでの経験を後輩に引き継いでいきたいと考えています。すでに笹川さんとも相談していますが、具体的には新たに学生サポート団体を設立する予定です。今はファシリテーション研修を受けた学生はウェルカムパーティでファシリテーターを務めた後は解散していたのですが、オープンキャンパスなどでも活動できる組織にしたいのです。また、クラス会オリターは、これまで文化会や体育会の人に頼んでいましたが、研修を受けた人がクラス会も担当するようにして、どのクラスでも高いレベルで実施できるようにしたいと考えています。そのための組織づくりが、残り1年の活動になりそうです。
笹川さん 私はUくんを同志と考えていて、まさに今、私とUくんと学生課の担当で大学のピアサポートのサイクルをつくるにはどうしたらいいかについて話し合っているところです。今はこういう取り組みに参加してくれる学生が育ってくれて、それをつなげていくのが重要だとつくづく感じています。
Uくん 僕は研修で学んで、自分たちで作った研修を実施してみたいなと思っています。自分が学んだことを、他の人に学んでもらうためのプログラムを考えたり、ファシリテーションに関する知識を学んだり、残り1年でそういうところまで一から学んでみるつもりです。
――そうですか。Uくんにもファシリテーションの面白さにハマってもらえたようで、嬉しいです。そして、私はUくんやTくんの話を聞いておられる笹川さんがすごく嬉しそうにしていらっしゃるのが印象的でした。こういう学生がいたら嬉しいですよね。
笹川さん そういう学生の姿を見るのは私に限らず、どの大学の教職員でも同じだと思います(笑)。どの大学でも人を育ててピアサポートのサイクルをつくることが必要なのでしょうが、本学ではようやくそのことに気付いて取り掛かり始めたばかりです。現状、ピアサポートを行っているという大学でも、「サイクル」になっているのかどうかは疑問です。本気で継承していくには、学生のルートとは別に、それに伴走する教職員のルートも必要です。授業で学問としてファシリテーションを学んだ学生が、春から本学の専任職員になる予定ですので、彼女には遠い将来まで見据えながら教職員をつなぐ役割を担ってほしいと話しています。ものすごく壮大なことを考えていかなければならないと思っています。
――Uくんたちが卒業して何年か経って大学に戻ってきてみたら、組織がすごく大きくなっていたら面白いですよね。
笹川さん 伝統は自動的につくられるのものではなく、だれかが意図的に何かの仕掛けをどこかですることでできていくものだと思うので、そういう試みは重要ではないでしょうか。Uくんたちのように意欲的に動いてくれる学生は、志において教職員と対等です。対等に物事を進めながらも、彼らのことは常にリスペクトしています。ですから、彼らにも私たちと一緒に考えて、進んでいく中でいろんなものを身につけて社会人として巣立っていってほしいと願っています。
※肩書・掲載内容は取材当時(2021年2月)のものです。
チームビルディングの体験が学生さんのやる気に火をつけ、マンネリ化していたウエルカムパーティーを大きく変えました。そのウエルカムパーティーを体験した学生たちが、先輩に憧れて今度は自分たちが学生ファシリテーターになってくれました。そしてその彼らが今度は、後輩を育てようとしています。この学生が学生を育てる「サイクル」はきっと大学の宝物になっていくことでしょう。チームビルディングは、そのサイクルを回していくエンジンの役割をしているな、と感じました。
笹川さんの最後の言葉「伝統は自動的につくられるのものではなく、だれかが意図的に何かの仕掛けをどこかですることでできていくものだと思う」という言葉がとても印象的でした。
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