十文字学園女子大学では、2021年度より、共通教育で課題の設定から解決策の実践まで学生主体で行う「課題解決ゼミナール」を開講しています。必修ではないため、希望者のみが履修する科目ですが、学年・学科の枠を取り払ってクラスを構成するため、他学科・他学年との交流や演習形式の授業に関心を持つ学生が参加しています。前回までの連載で、科目導入背景や授業のプロセスなどについて紹介してきましたが、今回は履修した学生の視点にクローズアップしてみたいと思います。
話を聞いたのは、教育人文学部児童教育学科3年生Sさん。初めて課題解決ゼミが実施された2021年前期に、星野祐子先生の担当クラスを選択履修した学生さんです。星野先生のクラスでは、「チームビルディング」のプロセスを体験できるカリキュラムを編成していたのですが、その授業を受けた学生はどのように感じたのか?何を考えたのか?ご本人の口から語っていただきました。
――まず、Sさんのことをお聞きしたいのですが、十文字学園女子大学に入学した動機を聞かせてください。
Sさん 高校までは共学でしたが、違う環境に身をおいてみたいと思い、女子大学への進学を希望していました。小学生の頃から小学校の先生になりたいと思っていたので、教育関係の学部学科がある大学を探しました。その中で、自宅から通学できる女子大がここだったんです。最終的な決め手になったのは、オープンキャンパスの体験授業で先生の印象が良かったことでした。
――大学生活はいかがですか?
Sさん 初めて女子校に通いましたが、あまり人目を気にしないというか、男性がいないと環境が違うんだなと思いました。また、これは女子大だからというわけではないかもしれませんが、自分がやりたいことにチャレンジできる場がたくさん設けられているなと感じます。
――例えばどんなことですか?
Sさん 私はボランティアや地域活動に興味があり、そういうことに参加する機会が多くあります。高校時代にそういう活動をする時は友達と一緒だったんですが、ここでは自分自身で参加を決めます。自分の考えで動きやすい環境だと思いますね。
――Sさんは高校生の頃から比較的アクティブに活動してきたタイプなんですね。そういう姿勢も課題解決ゼミナールへの参加につながっているんでしょうか?Sさんの課題解決ゼミナールへの参加の理由を聞かせてもらえますか?
Sさん 理由は3つあります。大学でゼミといえば、一般的には所属学科で研究したいことを追究するためのもので、同じような興味を持つ人が集まるアットホームな場をイメージしますが、課題解決ゼミナールでは他学科の学生と関わることができる、これが1つ目の理由です。
2つ目は、シラバスを読んで、その名の通り「課題解決をする」のがねらいであると知り、社会で必要な何かを身につけられるのではないかと思ったからです。
3つ目は、星野先生のクラスを選択できたからです。私は入学して間もない頃に、星野先生が担当するメールやレポートの書き方の講座を受けたことがあり、とても明るくてやさしい人柄を知り、いつかこの先生と関わってみたいと思っていました。課題解決ゼミナールでは複数の開講クラスがあって、クラスごとに担当の先生が異なるのですが、ちょうど星野先生のクラスを履修できることがわかり、いいチャンスだと思って選んだんです。
――次にクラスのことについて教えてください。メンバーの学科構成は?
Sさん メンバーは私を含めて10名で全員2年生です。児童教育学科からは私が1人。社会情報デザイン学科からは5名で、そのうち1人が留学生でした。文芸文化学科からは4名で、計10名です。
――友達同士で参加している人もいましたか?
Sさん コロナ禍のためハイフレックス型で授業が行われ、さらに、奇数・偶数に分かれて登校していたこともあり、同じ学科でもあまりコミュニケーションをとる機会がなかったようです。ですので、最初から仲がいいという人はいない雰囲気でした。
――ほぼ全員「はじめまして」でスタートしたような感じですね。では次に、全15回の授業の流れもざっくりと教えていただけますか。
Sさん 初回の授業では星野先生の提案で「ギャップの女王」というグループワークをしました。班に分かれて、周りの人に打ち明けていない自分のことで、ギャップがあると思われそうな要素を発表するというものです。例えば「魚釣りに行って釣った魚を飼っている」とか「柔道の黒帯を持っている」とか。私は、Zoomではわからないかもしれませんが身長が170センチあるので、そういったことなど、自分のギャップを伝えあって、お互いを知っていくという活動をしました。
――いきなり授業に入らず、1回目はアイスブレイクにも時間をかけたということですね。クラスの雰囲気はどうでしたか?
Sさん それが、結構みんなの反応が薄くて……もうちょっとアットホームな雰囲気でワイワイできるかと思っていたのにリアクションが薄くて、この先大丈夫かなと不安になったのを覚えています。
2回目、3回目の授業ではゲスト講師としてラーニングバリューのA先生が参加されて、その時もアイスブレイクを兼ねて初回と似たようなゲームをしました。ビンゴカードのような9個のマスに自分を表す単語を書いて、それを画面上や対面で見せ合い、その単語に関して質問してもらうというものです。この時は、自分から発言するのではなく、相手から質問してもらえるので答えやすいし、質問したら何か反応をとらないと失礼だということもあってかリアクションが増え、みんなの距離が近くなったという印象はありましたね。
――なるほど、コミュニケーションが一方通行でなくキャッチボールになり、メンバー間のやりとりが生まれたようですね。「課題解決」のテーマ設定には何回目ごろから取りかかったのですか?
Sさん 2回目くらいからだと思います。ハイフレックス型授業なので、対面とZoomのチームに分かれて各自が課題に感じていることや悩みを話し合って、その後合同でどういった意見が出たかを共有しました。
――どんな意見が出ましたか?
Sさん 「誰かの役に立つ企画をしたい」とか「コロナ禍で友達づくりに苦戦した」という意見が出ました。自分たちと同じような悩みは、同級生や下の学年の人も抱えているだろうということから、コロナ禍の友達づくりのきっかけになる場をつくってみることにしました。その後は、イベント化するにはどうしたらいいか、どんな形式でイベントをしたらいいかといったことを順番に話し合って決めていきました。
――活動を進める過程でどんなことが印象に残っていますか?
Sさん 活動は1人ではなく、メンバー複数名で進めていくのですが、一人ひとりの思いが違っていたり、プロジェクトに向かう気持ちも人によって様々だったりしたとき、自分と他の人の気持ちのズレを感じました。そんな時は、プロジェクトを進めていく難しさを感じましたね。
――どんな機会に自分と他の人との「ズレ」を感じたんですか?
Sさん 2つあります。1つは、毎回授業のはじめに行う「ふりかえり」の時です。授業後は必ず、ふりかえりシートを記入して提出します。次の授業の冒頭で、先生がいくつかのコメントを紹介してくださるのですが、その紹介の時間は、自分とは全然違う考えを持っている人もいることを感じるよい機会になりました。
もう1つは、7回目の授業でゲスト講師としてラーニングバリューのA先生が来てくれて、これまでの活動をふりかえる機会を設けてくださった時です。その時に自分がこれからどのようにイベントに向かっていきたいか、今の自分の気持ちはどうかということをクラス全体で共有したのですが、その際、ズレが見えました。
――星野先生とA先生では、「ふりかえり」の内容や方法に何か違いを感じましたか?
Sさん 星野先生は、毎回、いくつかの観点に分けて、「こういう人がいるよ」と学生のふりかえりを整理して示してくれます。対して、A先生は「こういう意見もあるけど、そのことを知ってどう思った?自分の気持ちにどういう変化があるかをお互いにフィードバックしてみよう」というころまで深掘りしたあたりが違っていましたね。
――ふりかえりシートの内容を先生がまとめてくれるなら、自分は気持ちを正直に書いてさえいればいい。でも、感じたことをその場でみんなとわかちあうとなると、自分の考えを全員に知られることにもなる。そうなると、自分の本音を出しにくくなるような気もするのですが、いかがでしたか?
Sさん 言いにくいという気持ちもあるかもしれませんが、一つのイベントをみんなでつくりあげる過程では、本音を出していかないと、どこかでぶつかりが生じると思うんです。それなら早い段階で自分の素直な気持ちを表せるようにしておこう、という意味を込めてA先生は声がけをしてくれたように受け止めています。
A先生には「タックマンモデル」をもとに、「今チームはこういう状態にあるけど、もう少しペースをあげていかないと間に合わないよね」といったこともアドバイスをいただきました。また、イベントを行うにあたっての不安や、今の気持ちとイベントの趣旨がブレていないかについても確認してもらえました。課題解決の軸をブレさせずにイベントを開催できたのはA先生のおかげだと思います。
――ゴールすることに熱中するあまり、自分たちの状態が見えなくなっていたところ、「ふりかえり」をすることで、状態を冷静に点検することができ、次のエネルギーを生み出すことができたということでしょうね。
※肩書・掲載内容は取材当時(2022年7月)のものです。
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