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教育工学×ファシリテーションとアクティブラーニングの相性とは【大手前大学】連載4-2

更新日:2022年6月23日

大手前大学では2010 年から、新入生オリエンテーションの一環として、組織開発の手法を活用したチームビルディングのプログラムを行っています。導入当初からこのプログラムの実施に携わり、現在は学生ファシリテーターの養成を授業化した「PBL特別演習」の担当教官である本田直也先生(現代社会学部 准教授)は、ご自身の教育の中にもファシリテーションの要素を取り入れておられます。具体的にどのような工夫を凝らして授業運営されているのか、学生が自ら学ぶ仕組みづくりとアクティブラーニングへの挑戦について、話を聞いてみました。



――本田先生はご自身の教育の中にもファシリテーションの要素を取り入れて、いろんな実験をされていますよね。しかもそのアプローチが情報の先生らしくて、非常に興味深いです。初年次教育のキャリアデザインの科目で、「ポートフォリオやワークシートを使って、学生が自ら学ぶ仕組みをつくって、学習効果が高まった」という事例を聞いたことがありますが、その話をもう一度、聞かせていただけませんか?


本田先生 学習プロセスを電子的なワークシート上に構築する、という授業の進め方のことですよね。「学習ワークシート」はインターネットで画像検索するといろんな事例がヒットしますが、どちらかといえば初等教育、小学校の先生が使う手法です。考えてみるとか、実験してみるとか、数値を入れるとか、学習の手順をワークシート上に記して、空欄を埋めていくことが学習プロセスになります。その教育学の手法に情報技術でアプローチして、電子的なワークシート(eワークシート)を構築、活用するという研究に興味を持ち、個人的に試すようになったんです。

まずは一人で考えて書き出してみよう⇒仲間とディスカッションしてみよう⇒仮説を立ててみよう⇒仮説に基づいて実験しよう⇒仮説と実験結果を比較してみよう、などといろんな学習活動を要素、要素に分解して、解答欄を設けます。紙のワークシートなら上から順番に記入していくのですが、電子的に実装したeワークシート(Webアプリ)で、スマートフォンやパソコンの画面をスクロールしながら手順を確認して、解答を入力してもらうとなおさら効果的であることが確認できました。プロセスの最後に、自分が気づいたことなどを入力する「ふりかえり」も効果的で、その手法をキャリアデザインの授業に取り入れています。



――しかも、ご自身で考えて実践して効果(授業評価の向上)を確認しただけでなく、同僚の先生にもそのやり方を共有して試してもらうと、その先生の授業評価もかなり上がったとおっしゃっていましたよね。自分の授業評価が上がるだけでなく、他の先生が使っても同じく授業評価が上がったことで、「プロセスが有効だったから授業評価が上がった」と効果を確認されるところに、私は興味を持ちました。


本田先生 これには教育の研究実験的な意味もありました。テーマも教材も手順も、紙ワークシートを活用している他の先生と同じものでしたが、教材と手順を電子化して、スマートフォンで学習の流れを確認できるようにして、授業展開しやすくしたんです。さらに言えば、重要なのは「振り返り」です。毎回、何を対象に振り返りするのか明確にしておいて、授業ごとに振り返りをする。そして最終回には「振り返りの振り返り」をする。15回分の授業の振り返りを串刺し抽出して目を通せるワークシートを用意して、「あなたの今学期のすべての振り返りを見わたしてみて、どのように感じますか?あなた自身どうでしたか?」を記入してもらうんです。すると、学生なりに、達成感があったとか、困難を乗り越えたとか、学期末にプロセスを見わたせるのが醍醐味であり、そうすることで学びが完結します。それは、紙でやるのは手間がかかりすぎるのですが、電子的にやると簡単にできることなのです。



――スマートフォンやパソコンといったツールは学生と親和性が高そうですし、学習記録の蓄積のしやすさもメリットといえるのでしょうか?

本田先生 2008年ごろから大学で「ポートフォリオ学習」という言葉が聞かれるようになりましたが、日本ではデータを活用する学びにあまり成功事例がなく、本学でもそのタイミングで開始した取り組みは行き詰まっていました。2016年ごろからはデータサイエンスをからめて、再び教育にデータを活用するのが流行りはじめました。これは「eポートフォリオ」という教育工学の一研究分野にもなっています。



――第一波のポートフォリオ教育はうまくいかなかったけれど、第二波が生まれたのはなぜでしょうか?


本田先生 2008年頃は「ポートフォリオ1.0」の時代で、教員も学生もただ入力するだけで、データをためることそのものを目的にしていました。今は「ポートフォリオ2.0」で、蓄積したデータをどう利用するか意識したうえで貯めているのが大きな違いです。

先ほどの例でいえば、15回目の授業で「振り返りの振り返り」を行うので、各回の振り返りが重要となり、それを意識して教育のプロセスを描いているのです。活用を意識するとデータの蓄積方法が全然違うんです。あとで活用するために、いつどんな場面でどういう目的でとったか「タグ」をつけて学習のデータを保存する。手間はかかりますが、属性を記録しておくのです。eポートフォリオの研究も進化していますが、大学教員の多くに浸透するのはまだまだ先のことになりそうです。

――本田先生が授業にeワークシートを導入して、eポートフォリオを実践し始めたのはいつごろですか?


本田先生 2016年頃だったと思います。最初は本学教員2人でやってみたのですが、効果があることがわかってからは使う人もだんだんと増えています。「こんなのありますよ」と紹介したからといって爆発的に増えるわけではなく、「試しにやってみたらよかった」「これを入れると学生が勝手に学んでくれる」と、乗っかってくれる先生がじわっと広がってきて。これまでに延べ10人くらいに使ってもらいました。「これ使うと授業が勝手に進んでラクです」という宣伝もしていますが、実際のところ、学びの手順が明確になって、教員が何もしなくても学習が展開するんですよ。



――自ら学べる仕組みを用意すれば、学生は自ら学ぶ。そういう仕組みを本田先生自身がつくってみようと思ったきっかけ何だったのですか?


本田先生 強いて言うなら、大学に対して「アクティブラーニング」が求められるようになってきたことでしょうか。2015年ごろからその言葉が流行りだすとともに、「やらなきゃいけない」と号令がかかるようになって。私は「まずはやってみよう」と思うほうなので、学生がより主体的に学ぶのはどんな仕組みだろう、と考えて、やってみたんです。



――ファシリテーションを学んだり経験したりしたことは、本田先生のアクティブラーニングの実践に影響を与えていますか?


本田先生 実は最近、年々教えない教育を徹底しています。先ほど、ワークシートをちゃんとつくれば学習プロセスが明確になると言いましたが、その進化系のような感じで、私は「教える」ではなく「見守る」に徹しています。よくいえば「教員がやるのはファシリテーションで、学ぶのは学生だ」ということなんですが、悪くいえば、「超さぼっている教育スタイルの教員」ということになってしまうんですよね。



――それは講義型授業で?それとも実習で?


本田先生 実習に限らず講義でもです。最近は「教えること、伝えること、理解してほしいこと」を動画で提供しています。教室で授業を開始して「今日学習する内容はビデオに載せているので各自再生して各自のペースで学んでください」と指示します。すると、いきなり問題を解き始める学生もいるし、まずは先生の話を聞いてからやってみようと動画を再生する学生もいる。何をするにも各自のタイミングだし、スマホやパソコンなど、使う端末も様々。教室の中での学び方のスピードもスタイルも多様であることを認めているんです。みんなバラバラでいいんだよ、と。効率重視の学生は1.5倍速や2倍速で聞いていますし、集中してやって早く終わらせて帰る学生もいます。



――先生の役割は?


本田先生 声をかけたり、励ましたり。



――声をかけるタイミングは?


本田先生 気になった時や、私が学生の行動や振る舞いに興味がわいた瞬間でしょうか。「気になる」にもいろいろあるんですよね。うまく進んでいて気になる、や、まったく違うことやっているから気になる、手が止まっているから気になる、とか。自分の心の中の「気になる」が出てくると、「今、何やってる?」とか「終わった?」「どんな調子?」とか、声をかけますね。



――教えない授業だけど、それは放任ではありませんよね。「見守る」が本田先生のファシリテーターとしての姿勢につながっていると感じます。


本田先生 ファシリテーションなのかどうかわかりませんが、この1年ほど、そういう学習を展開していて「これがいいんだな」という実感があります。



――「いい」というのは、自分がラクになるというニュアンスではないですよね?


本田先生 そうですね。ただ、結果としてラクになる面もありますが。



――では、「いい」というのは、何をもって「いい」のでしょうか?


本田先生 テストの結果を見ると、この形式であっても学生の習得度は悪くありません。教室にはクラスのメンバーがいるんだけど、学び方のペースやスタイルの多様さは認められていて、一人ひとりが好きなように学んでいるこの感じが「いい」んです。


※肩書・掲載内容は取材当時(2021年12月)のものです。


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