大手前大学では2010 年から、新入生オリエンテーションの一環として、組織開発の手法を活用したチームビルディングのプログラムを行っています。2012年以降、プログラムのファシリテーターを学生が務めるようになり、また2015年からは、学生ファシリテーター養成のための講座は「PBL特別演習」と言う授業科目となり単位化されています。プログラムの導入背景や単位化の経緯についてはこれまでの連載で紹介してきましたが、最後に学生ファシリテーターの視点から、この取り組みについて紹介してみたいと思います。
毎年PBL特別演習は、6~10くらいのグループに分かれて進んで行きます。学生たちは、グループ内での様々な課題や困難をどのように受け止め、どのように乗り越えていったのでしょうか。今回は2021年の受講生の中の1つのグループに焦点を当て、そのグループから2022年もPBL特別演習を受講してくれた4人の学生に、受講のきっかけや、その中で起きた出来事についてどんな風に感じたのか聞いてみました。
――まず、みなさんが昨年(2021年)、初めてPBL特別演習を受講しようと思った理由を聞かせてください?
Kくん 僕は将来起業したいので、大学でリーダーシップを伸ばしたり学んだりしたいと思っていました。大手前大学にはリーダーシップ開発プログラムがあって、自分の興味関心に合わせた授業を履修していく中で問題解決能力が習得できるよう設計されていますが、PBL特別演習の受講もその一貫だと思い履修しました。
Fくん 自分は新入生の時にキャリアデザイン0.5を受けて、ファシリテーターをする先輩たちの姿を見てかっこいいなと思って、憧れと興味から受講を決めました。実は僕は音楽イベントの裏方などにも興味があって、高3の夏まで専門学校進学を考えていたんです。裏方とか制作スタッフへの興味もあって、やってみようと思いました。
Mさん 私はコロナ禍の影響で1年の時にキャリアデザイン0.5を受けられなかったんです。対面授業も少なくて、限られた人としか交流したことがなかったので、PBLを受けると学部・学年を問わずいろんな人と交流できると聞いて応募しました。大人数での授業やディスカッションも体験してみたいと思いましたし、新入生と関わってみたかったという思いもありました。
Yさん 私は正直に言えば単位が欲しくて、です。ですから、何をするのか分からないまま応募して、セミナーでプログラムを体験して初めて「こういうことをやっていたんだ」と分かったような感じでしたね。
――MさんとYさんは2020年4月入学で、コロナ禍でチームビルディングプログラムを体験する「キャリアデザイン0.5」が中止になった年に入学したんですよね。そういう意味では、入学のほぼ1年後に、PBL特別演習の中で新入生が受ける「キャリアデザイン0.5」を初体験したわけですが、初めてチームビルディングプログラムを体験してみて、どんな感想を持ちましたか?
Yさん 私は1年の時に受けてみたかったし、「これがあったら絶対大学生活が違っていた」と思いました。
Mさん 私は「結構大変そうだな」でした。私は人前だとネコかぶるというか、いいようにとりつくろうくせがあって。自分を出すのが苦手なので、素の自分について考えるのがしんどくて、これから大変そうだなと思ったのを覚えています。
――その時の受講者は45名ほどいて、7,8人ずつ6つのグループに分かれてもらったのですが、みなさんは5グループのメンバーでしたよね。グループをつくったときのことや、お互いの第一印象で覚えていることを教えてください。
Yさん 私は大学に知り合いがいなくて、学年が違う先輩とは話したことがありませんでしたし、「フィードバック」をしたのも人生で初めてでした。グループワークをして最初に驚いたのはみんなの語彙力。これまでの私の人生では、人前で発表するようなことがそんなになかったので、同じ学年の人もそうですが、学年が一つ上がるだけで、こんなにしゃべれるのかと圧倒的な差に驚きました。
Kくん 僕は5グループのメンバーに限らず、学習スタイルのグラフの「Do」の人が多いという印象を持ちました。この授業を受けることへの熱意ややる気のある人が多いなと感じました。
Fくん 自分は「バランスがとれてないのかな」と思いました。Kくんのことは1年の頃から知っていたのですが、いざグループをつくってメンバーの顔ぶれを見ると、人柄が軽い人や、人の陰に隠れがちだとか、考え方や価値観のバランスがとれてない気がして、その時は自分がイメージするベストなチームではありませんでしたね。それもあって、このチームはうまくいくのかなと感じて、その先のグループの姿がイメージできず、自分だけ楽しめたらいいやと思っていました。
――自分と異なるタイプの人が集まっていて、スムーズに物事が運びそうにないと感じた、ということかな?
Fくん 当時は、「他のメンバーは引っ込み思案で、会話はするけれど波長があっていない」と感じていました。また、僕らの1学年上で、前年にPBLを経験していた香川さんは、人をどんどん引っ張っていくタイプでも、みんなを盛り上げて一緒にやっていこうというタイプでもなくて。今となっては、その時は「ファシリテーター」というものをよく理解できていなかったなと思うんですが。
――なるほど、先輩はいるけれど自分が想像するようなリーダーシップを発揮するようなタイプではないし、Kくん以外の人とは腹を割って話せそうにないという雰囲気を感じていたということですね。私も外から見て、最初の5グループにはそんな雰囲気を感じていましたよ。
Mさん 私のグループの人に対する第一印象ですが、Yさんは自分と似ていておとなしめな子で、Kさんは結構はっきり意見を言う人で、Fさんは独特の雰囲気で不思議な感じの人という印象でした。KさんとFさんは、私が今まで関わってきた人とは距離感が違っていて、コミュニケーションをとる距離がいきなり近い、という感じでした。香川さんは頼れるお姉さんという感じもしましたが、私がやるから何でも頼って、という感じでもありませんでしたね。
――みんなには、香川さんが引いているような感じに見えたようですね。おそらく、その時の香川さんの気持ちは、みんなに主体性を発揮してほしくて、あえて自分がその場をリードするようなことをせず、みんなと距離をおいていたんじゃないかなと思います。
さて、1回目の研修後、5グループでは一人がファシリテーターを辞退するという出来事もありましたが、その後、グループの様子がどんどん変化して、団結力を深めていったように見えました。みなさんの変化のきっかけや、心の動きやについて聞かせてもらってもいいですか?
Kくん 僕が変わるきっかけになったのは、夜にオンラインで何人か集まって、雑談がてらイレギュラーなことが起きた時のケースワークについて話したことでした。「新入生にやる気のない人や、言うことをきかない人がいたらどうするか」という話になった時に、僕は「そんな人はムシすればいい。どうしてそういう人に気を遣うのか」と言ったのですが、香川さんは、「まず相手ではなく、自分がなぜそう感じるのかを考えた方がいいんじゃないか」と言ったんです。グループを辞退する人が出た時もそうでしたが、僕はそれまでやる気がない人は放っておけばいいと考えだったのですが、香川さんと話すうちに、そういう人もいるんだと思って。それから研修を進めていく中で、「人の悪いところを見てしまった時に、まず自分がそれに対してどう感じるか、なぜそう思うか」を考えてみるようになって、そのあたりから自分自身が変わってきたなと思います。
Yさん 私も朝まで討論したその場にいて、覚えています。私は「確かに、それもそうだな」と思いながらみんなの話を黙って聞いて、気づいたら朝になっていた、という感じでした。後でKさんに、「その時に言えなかったけど、私はこう思っていた」と伝えたことがあったのですが、「それは僕にではなく、みんなに言うべきだと思うよ」というようなことをKさんが丁寧なLINEで返してくれて。それが自分の中に響いたんです。確かにそれまでは、頑張ろうという気持ちもあるけれど、先輩についていけばいいとか、私がいなくてもやってくれると思っていた自分もいたなと気づいて。自分なりに考えをもって頑張らないといけないと、強く思ったんです。
――それはすごい気づきでしたね。私の中でも、Yさんははじめの頃は人の陰に隠れているような感じでしたが、途中から存在がくっきりしてきた印象があります。なるほど、そういうことも起こっていたのですね。
Mさん 私はプレゼントカードをもらったことです。自分のいいところや、もっとよくなるためのアドバイスを書いてもらえてうれしかったということもありますが、いいところって意識してその人を見ようとしないと書けないと思うんです。自分のやっていることを見てもらえている、グループの一人として意識してもらえているという感覚になれたから、もっと自分のできることを頑張りたいと思うようになりました。
――さっき、「自分で自分のことを考えるのは苦手」と言っていましたが、そのあたりも変化しましたか?
Mさん 自分の本質をついてくる演習ばかりで、本当の自分を見るのが好きじゃなかったんですが、自分では気づけないところをみんなが良いほうに伝えてくれたおかげで、意識が変わりました。
Fくん 自分はチームで活動するうちに、「隣の人の成長に責任を持ちたい」と思うようになりました。自分は学外の学生団体でも活動していて、10人の規模のチームを任されているのですが、そこでもチームのメンバーに辞められてしまったんです。その時に思ったのは「自分がよければいいと思っていて、相手の立場になって何も考えられていなかった」ということでした。相手が何の目的で活動に来ているのかを考えられていなかったし、その人の成長したい気持ちを見て見ぬふりしていたんです。5グループを辞退した人が出た時も、自分に責任ないと思っていたけれど、それがダメなんだ、と。ファシリテーターの勉強と、学生団体を同時進行でやっていたので途中からそれに気づくことができました。チームメンバーが成長すると組織力が上がるし、自分は人の成長にやりがいを感じるタイプなので、隣の人に成長に責任をもって、自責に落とし込むことを意識するようになりました。
それから、もう一つ、「見捨てない」ということも意識しています。同じチームに参加できない時間が多いメンバーがいたのですが、再び辞退者が出るようなことにならないように、見捨ててはいけないと思い、その人にとって何が大事か、どうしたら一緒に最後までやり遂げられるかを考えるようになりました。
※肩書・掲載内容は取材当時(2022年3月)のものです。
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