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就職活動にチームビルディングを持ち込んだら、どんな化学反応が起こるか?【帝京大学】連載3-1

更新日:2023年4月18日

帝京大学八王子キャンパスでは就職活動に特化したゼミ形式の科目「キャリアデザイン演習」が開講されています。7名の講師が開講するゼミの中から、学生は志望する就職分野・活動内容に基づいてゼミを選び、受講するシステムです。ゼミを担当する講師の1人が、実は、私どもラーニングバリューの樋口喜信さんです。樋口さんのゼミでは、学生が希望の就職を叶えていることや早期に内定獲得できる学生が多いことから、受講希望者が多いゼミの1つでもあるそうです。普段は会社員として、組織開発・チームビルディングの観点から大学改革や学生のキャリア支援に携わる仕事をしている彼が、どんな思いで、どんな視点からゼミを運営しているのか、話を聞いてみました。



――最初に樋口さんのプロフィールを聞かせてもらってもいいでしょうか。


樋口さん 新卒でリクルートに入社して、首都圏の教育事業の部署で大学・短大を担当していました。2004年に退職して、その後、飲食店を営んでいたのですがご縁があり、2008年からラーニングバリューで働いています。



――では、帝京大学さんと樋口さんの出会いの接点は?


樋口さん 今から20年くらい前に帝京大学さんの学生募集を担当していた時期がありました。その時に接点があったTさんがキャリアサポートセンター長になられ、しばらくしてから連絡をいただいたんです。「総合商社出身の専任教員のI先生が定年を迎えるので後任を探しているが、I先生のキャリアデザイン演習のゼミを樋口さんが引き継いでみませんか」と。




――教員経験もないのに、どうして講師の仕事で樋口さんに声をかけてくれたんでしょう?


樋口さん その数年前に、キャリアデザインゼミの受講生全員を対象に、チームビルディング研修『自己の探求』を実施させてもらったことがあり、その流れでTさんから「チームビルディングの考え方を用いてゼミを運営することはできる?」と声をかけてもらったんですよ。

そもそもキャリアデザインゼミというのは、学部で行われている卒業要件に必要な専門ゼミではなくて、全学的に行われるキャリアに特化したゼミなんです。就職氷河期の頃に、相談相手がいなくて学生が困っていたところ、総合商社出身のT先生(I先生の前任者)やキャリアサポートセンターの人が、志のある学生を集めて寺子屋みたいな感じで就職勉強会を行うようになったのが始まりだと聞いています。それがゼミの0期生の時代の話です。



――樋口さんはいつからゼミを担当しているのですか?


樋口さん 0期~4期をT先生、その後のI先生は9期生が3年生の時まで担当されていました。9期生が4年生、10期生が3年生で入ってくるタイミングの2017年4月から私に交代して、11期生が入った2019年9月から竹岡久慈さんの協力も得て運営しています。現在は14期生(4年生)、15期生(3年生)合わせて43名が在籍しています。T先生とI先生とは今もつながりがあって、ゼミのOB・OG・現役生が集まる「ホームカミングデー」という会でお会いしています。



――伝統的なゼミなんですね。樋口さんがこの依頼を受けることにした理由は何だったのですか?


樋口さん いくつかあります。当時GCDFのキャリアカウンセラーの資格を取ったということや、グループで就職活動をするゼミであれば、チームビルディングの事例になるのかなと思っていました。さらにさかのぼれば、キャリアカウンセラーを取る前に、交流分析士の資格も取ったんです。これは資格が欲しいというよりも、ラーニングバリューに入って研修のファシリテーターをするようになったからです。もっと勉強しないといけないけれど、本を読むだけではよくわからないので、教えてもらえるところを探して交流分析士の勉強をしにいって、そこからキャリアの勉強にも興味を持つようになってステップアップしていったんです。ちなみに今はキャリアコンサルタントの国家資格も取得しています。



――そんなにいろいろと勉強されていたんですね。知りませんでした。ところで、樋口さんが担当するようになって、前任のI先生の頃とゼミの運営に違いはあるんですか?


樋口さん I先生のゼミを見学させてもらいましたが、大きくは変わっていませんね。ゼミは週1回行われ、通期で30コマあって、3年生でゼミに入ったら、ほぼ2年間続けることになります。当時から3年生に4年生が関わりながら運営されていましたし、集団面接の練習でも4年生が面接官役を務めて3年生にフィードバックするなど、活動の流れや役割は変わりません。



――通期30コマとはどんな構造になっているのですか?


樋口さん これも以前とそれほど変わっているわけではありません。3年生は12月頃までに自己分析と企業研究を終わらせて、それを使って集団面接、個人面接、グループディスカッションを経験して、就職活動の準備を整えておきます。就活解禁時期は変わるので、それによって多少スケジュールも前後しますが、年が明けると履歴書やエントリーシート、面接をより細かくチェックしていました。

ただ、インターンシップがそこまで盛んでなかった時代はそれでよかったのですが、今は3年生向けのインターンシップが夏休みに行われるようになり、就職活動時期が繰り上がっています。こうした変化を背景に、今は一緒にゼミを担当している竹岡さんと相談して、夏休みまでに自己分析、企業研究、模擬面接あたりの「就職のお作法」を終わらせて、夏のインターンシップに間に合わせるように動いています。



――4年生はどのような活動をしているのですか?


樋口さん 自分の就職活動をしながら、ゼミに出席して3年生にいろいろなアドバイスやフィードバックをしてくれます。実は3年生と関わることで、4年生自身がものすごく成長していくんです。自分が体験したことを伝えることで後輩と学び合い、それが繰り返されてぎゅーっと伸びていく感じがしますね。



――それがキャリアデザインゼミの醍醐味なんですね。ゼミを引き継いでも基本的な流れは変えていないということでしたが、樋口さんは何かに課題を感じてはいなかったのですか?


樋口さん 課題も感じていました。最初に感じたのは、自信の無さです。「どうせ帝京大学だから・・・」という言葉がとても気になりました。打席に立つ前からあきらめて、打席に立たなかったら、三振すら経験することができない。しかも同じ学年同士でもそれほど仲が良いわけではなく、お互いの内定状況も知らず、仲良しグループで小さくまとまっている印象を受けました。だから、まずは学年ごとにチームビルディングができれば、学年内でのつながりをつくることができそうだと思いました。

もう一つは、4年生から3年生へのフィードバックの質が、年度や人によって変わっているんだなということです。この点については、2019年に竹岡さんがゼミに協力してくれるようになって以降、4年生全体に働きかけてくれていて、ここ数年ですごく改善しています。



――なるほど、その気づきが、学年内や学年間の関係性を変えるきっかけになったんでしょうね。具体的にはどんな仕掛けで、それを促したのですか?


樋口さん 3年生がゼミに加わるタイミングの4月に、チームビルディング研修を行うようにしました。そこで自己理解や他者理解を繰り返して、一人ひとりが自分の持ち味を考えるきっかけにして欲しいと思っていました。みんなで同じ方向を向いて同じことをやろうとしても、手伝ってくれる人・手伝ってくれない人が出てきてしまうことがあります。でも、それぞれが得意なこと・苦手なことを話したりオープンに伝えられるようになると、言いたいことを言えたり、助けて欲しいと言えるようになって、ぐっとチームとして動けるようになるからです。



――最初の研修以外にも、ゼミのチームビルディングをさらに促すためにやったことはありますか?


樋口さん このゼミでは「バーチャルカンパニー」といって、企業の中が事業部ごとに分かれているように、役割ごとに部署に分かれて各部署でさまざまな役割を担っているんです。現在は、執行部、プロジェクト部、3年事業計画部、サポーティングスタッフ、人材育成部(以前の名称は4年事業計画部)の5つの部署があります。ただ、それぞれの部署の役割を担っているはずなんですが、ゼミを引き継いだ当初は、学生の主体的な活動には、あまりなっていないなと感じていたんです。



――先輩から引き継いだ内容を、引き継いだ手順通りにやるだけ、とか?


樋口さん 私が引き継いだ時点ではそうでしたね。自分たちで考えた新しいことをやるというよりは、これまでの先輩がやってきたことを踏襲するという感じがしました。



――参考までに、各部署の役割を教えてもらってもいいですか?


樋口さん ゼミ全体を統括する役割を持っているのが執行部、OG・OBが参加するホームカミングデーや夏合宿といったイベントの大枠を決めて主導するのがプロジェクト部。3年生授業計画部は、毎週の授業の準備や運営の下準備をやってくれて、人材育成部は3年生と4年生の交流を目的とするイベントの企画運営を担当しています。会計や広報、総務的な役割をしてくれるのがサポーティングスタッフ。授業の動画をとってSNSで発信してくれたりもします。



――樋口さんには、役割は果たしているものの、主体的な活動を促す「何か」が足りないように見えたんですよね。それに対してどんな働きかけをしたんでしょうか?


樋口さん 私が最初に授業の様子を見学させてもらったのは8期生が卒業するタイミングでした。その時に彼らがどんな活動を、どんなことを思いでやってきたかをヒアリングして、9期生と打合せをしました。9期生には「先輩がやってきてくれたことで、ありがたいこと、そうでもないこと、自分たちがやりたいこと」があったんです。だから、9期生からは、自分たちがやりたいことをやっていこうと言っています。卒業生からは「自分たちの時代とはずいぶんと違うことが起こっている」と見えたかもしれませんが、「よりよくしていこう」を促したという感じでしょうか。



――つまり、引き継ぐ時に、先輩がやっていた活動内容だけでなく「どういう意図をもって取り組んでいたか」についてもフィードバックをもらうようにしたということですよね。さらに「もっとよくするには」という視点で、引き継いだ学生の主体性に任せることにしたと。先輩・後輩ともに、考えたことや感じていたことを表に出して、わかちあいをしたということになるんでしょうね。


樋口さん そうですね。ただ、私が「(自分たちが何をしたらいいか)自分たちで考えてみて」というのを、当初は「先生から放任された・放置された」と受け止めた学生もいました。それで「このゼミではやっていられません」と辞めていった人もいるんですよ。「辞めます」と一方的にメッセージを送ってきて、連絡も取りようがなかった学生もいます。



――そういう苦い思い出もあったんですね…

※肩書・掲載内容は取材当時(2022年10月)のものです。

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