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バーチャルカンパニー制度でビジネスを疑似体験。社会人になる準備は万端だ【帝京大学】連載4-3

更新日:2023年10月20日

「就活」といえば、自分と向き合い、自分の努力と研鑽で就職先を獲得する孤独な戦いと捉えられている向きもあります。しかし、他者と協働することで、自分の強みの発見や新たな視点や情報の獲得が可能となり、ひいてはそれが自己理解・業界理解・企業理解につながることもあります。そんなチームビルディングの考え方を就職活動に応用しているのが、帝京大学八王子キャンパスで開講される「キャリアデザイン演習」の樋口ゼミです。ここでは、先輩が後輩の就職活動をサポートする「ブラザー制度」や、担当別に各種イベントの企画・運営に取り組む「バーチャルカンパニー制度」といった独自の取り組みを導入して、学生主体のゼミ運営を行っています。こうした環境が学生にどのような変化や成長を促しているのか。2年間にわたるゼミ活動を体験した学生に話を聞いてみました。



Mさん(写真左上)とAさん(写真右上)


――樋口ゼミならではの取り組み「バーチャルカンパニー制度」について聞かせてください。


Aさん 執行部、人材育成部、3年授業計画部、プロジェクト部、サポーティングスタッフ部の5つの部署にわかれて、ゼミ運営に必要な役割を担っています。私が所属している「執行部」では、各部署の運営や連携のサポートや、ゼミをつくるイベントの運営を行っています。Mさんが所属している「人材育成部」は、ゼミ内でのタテとヨコのつながりを強くするイベントの企画・運営を行っています。「3年授業計画部」は竹岡先生と一緒に毎回の授業運営やチーム構成を担当していて、「プロジェクト部」は夏休みのサマースクールやホームカミングデーといった卒業生とのつながりをつくる大きなイベントを担当しています。「サポーティングスタッフ部」はSNSを活用して、元ゼミ生(卒業生)やキャリゼミへの参加を検討している1・2年生へゼミの活動状況を広報する役割をしています。



――お二人は所属部署でどんな活動をしていますか?


Aさん 「ゼミをつくるイベント」として、2年生向けのゼミのメンバーの選考会や、ゼミの3年生のバーチャルカンパニーの部署配属の企画運営を行っています。ゼミの選考会では、サポーティングスタッフ部と協力してインスタライブ質問会や募集動画の作成も行います。3年生の部署配属については、「部署体験」というイベントを行い、入りたい部署のエントリーシートを第三希望まで用意してもらって、配属を決めていきます。また、他の4つの部署と連携して、スケジュールや課題を把握して、ゼミ全体の運営に関わっています。



――他部署担当との連携はどのように行っていますか?


Aさん 先輩方の「他部署の活動状況を十分に把握できなかった」という反省をもとに、私たちの代から部署担当を決めるようにしました。執行部のメンバーは5人なので、部長以外の4人が他の4つの部署の担当となり、各部署の様子を明確に把握できる体制をつくったのです。まだ手探り状態ではありますが、卒業生と連絡をとるのが得意な人がプロジェクト部担当になったほうがいいとか、動画編集に長けた人がサポーティングスタッフ部担当になったほうがいいなど、本人の希望や適性を考えて担当を決めるなどしています。



――前年の課題を先輩から引き継いで、自分たちの代でその解決に取り組んでいるんですね。


Aさん 3年生の秋に部署配属が決まり、その後、4年生からアドバイスや反省点を引き継ぐことになります。それをもとに、自分たちはどういうことをするかを考え、方針を決めるのです。また、毎週の部会の時や先生に提出するミッションシートの作成の話し合いの際にも、新しいことを取り入れたり、今までやってきたことをなくしたりといった検討を行います。



――ミッションシートというのはどういうものですか?いつ、どんなことについて書くのですか?


Aさん ふりかえりのタイミングは春学期開始時、秋学期開始時と年度終わりの3回あり、その時の反省をふまえて、部署をどのように運営していくかを書くのがミッションシートです。各部署のミッションについて大きなテーマを決め、どのためにどういう活動をしていくかを書いています。年間目標や、春や夏にどのような活動をするか具体的なイベントなどを考え、課題とその解決のためにどのような改善をするか、具体的なアクションや意気込みについて書くんです。



――Mさんが所属する人材育成部の活動は?


Mさん 人材育成部のメンバーは3人です。ゼミ内のタテとヨコのつながりをつくるのが人材育成部の目的なので、そのためのイベントを開催するのが主な仕事です。その一つはサマースクールという2日間の夏合宿のようなイベントです。1日目は各自の自己分析や夏休み中の就職活動のふりかえりを行い、2日目は卒業生にも参加してもらって集団面接の練習など実践を行います。



――どれくらい卒業生は参加してくれるのですか?


Mさん 私たちと近い年代の方から、12歳年上で会社でも上の立場に立つような方まで、いろいろな年代の方が来てくださいます。オンラインで開催した時は割りとたくさんの方が参加してくださいましたが、2022年は対面開催に戻ったこともあって4~5名と少なかったです。コロナ禍以降は先輩の参加率が下がっているのが課題となっています。



――それ以外にはどのようなイベントが行われているのですか?


Mさん 私たちの代はサマースクールの後で、タテ・ヨコのつながりをつくるためのBBQを実施したり、秋学期のイベントを企画したりしました。そのほかにも、アンケートフォームを使って3年生の悩みごとをヒアリングして、「業界についてもっと知りたい」という声があれば、その業界に詳しい4年生ごとに集まって座談会を開いたり、「もっとイベントを増やしてほしい」という要望があればそれに応えたり。タテ・ヨコのつながりづくりに関するいろいろな声に対応するほか、ブラザー班の活動状況を管理も行っています。


――各部がかなり活発に動いているのがわかりました。自分たちの役割を明確に捉え、目標を定めてその達成に向けて考え、工夫しながら活動されているんですね。実は私は樋口先生と同じ会社にいて、大学の組織開発にかかわる仕事をしています。人を育てる時には「人材開発」という言葉を使いますが、「人」に焦点を当てて、「この人はこんないいところがあるから伸ばしましょう」と働きかけるのが人材開発。一方で、「人と人との関係性」に焦点を当てて働きかけるのが「組織開発」です。人と人との関係性の質が変わると集団全体が活性化して成長するという考え方をします。これまでのお二人のゼミでの取り組みを聞いてきて、おそらく、樋口ゼミはこういう考え方のもとに運営されているのだろうと感じています。

ダニエル・キムという人は、「組織には成功の循環があり、4つの質=関係性の質、思考の質、行動の質、結果の質は右回りにしか循環しない」と言っています。何か結果を出したい時、例えばゼミ生をいい会社に就職させたいとか早く内定をもらえるようにしたいという時、一般には「いつからどれくらい就職活動をしますか」といった行動について働きかけをしがちですよね。成績を上がらない学生に「昨日どれくらい勉強したか?」と詰め寄るのも同じ論理ですね。ですが、「成功の循環」の理論によれば、「関係性の質に焦点をあてなければ結果がでない」というのです。



このモデルは、単に教えるー教えられる指導的な関係で成長するのではなく、人や組織・集団にあるエネルギーや主体性を活用することや、多様性を大事にする価値観により、周囲との関わり方やコミュニケーションといった関係性の質を高めることの重要性を指摘しています。樋口ゼミでは、学科や志望業界が異なる人がブラザー制度で交わりあったり、ブラザーではない先輩と対話の機会があったりと、「あえて自分とは違う人と交流する」とか「同じ属性の人をバラけさせる」といった仕掛けがありますよね。樋口ゼミの様子から察するに、「多様性を重んじる」という考え方が根付いているんだろうと感じます。



樋口ゼミで取り入れているチームビルディングというものは、組織開発の手法の一つです。樋口先生や私にチームビルディングの考え方を教えてくれた北森先生は著書の中でこういうことをおっしゃっています。

チームビルディングとは「自然発生的にできていくチームワークを待つのではなく、コミュニケーションやリーダーシップなどについて学びながら、自分をより深く理解し、チームメンバーと相互理解を深め、目標を統合し、目標達成のために力を合わせていく。そんなプロセスを体験的に促進する教育・訓練の手法である」と。そして、「自己理解、相互理解、目標統合」がチームビルディングの3つの要素であるとおっしゃっています。こういう考え方が樋口ゼミの根底にありそうですが、お二人はどう感じますか?


Mさん 「関係性の質」の話を聞いて、樋口ゼミではブラザー班があるから関係性がよくなって、ゼミ生間でいろんな情報を共有するようになり、それが結果につながっているのかなと感じました。


Aさん そういう考え方は、常に樋口ゼミの中にあるなと思いながら話を聞いていました。チームビルディングの3要素は、私たちがゼミメンバーの選考基準を話しあう時にも意識していることです。おそらく樋口先生からのアドバイスをもとに、今の選考会の形がつくられてきたからだと思いますが、「自己理解、相互理解、目標統合」は大事にしている要素です。



――樋口ゼミではメンバーの選考は先輩学生がしているんですね。選考過程には、チームビルディングの要素をどのように落とし込んでいるのですか?


Aさん まず「自分たちのゼミはどんなゼミか?」という自己理解のために、ゼミのいいところと課題を話し合います。次に、「どういうゼミにしたいか」というビジョンを定め、「そのためにどういう人材が必要か?」を考えて求める人材の条件を出します。そして、「その目標の達成のために必要な人材をチームに導くには、面接でどういう質問が必要か」ということを考えます。自己理解を深めてゼミの選考基準を決め、質問によって相手(2年生)をよく知り、選考によって相互理解を深めて、ゼミに合う人を採用して、その人たちと最終的にゼミのビジョンや目標に統合していくことがまさにチームビルディングの流れになっていると感じます。



――選考には主に誰が関わるのですか?


Aさん ゼミの魅力や課題の抽出や質問内容を決めるところまでは執行部が担当しますが、面接は3年生全員が参加して集団面接を行ってうえで、最終の選考会ではみんなでディスカッションしながら定員の25名に絞っていきます。



――選考過程に講師はどのように関わっていますか?


Aさん 質問項目は、ゼミの自己理解に関わるものでもあるので、3年生で話し合ったことを先輩や樋口先生に報告して、どういう意図でそれを用意したのかを聞いていただいてアドバイスをもらいます。先生には面接にも参加してもらって、2年の話を一緒に聞いてもらっています。最終選考を終えての検討段階でもアドバイスをいただき、最終的な採用メンバーは私たちが決めています。その時に印象に残ったアドバイスがあるんです。私たちは38名の2年生の中から25名を選ばなければならず、「誰を落とすか」について話し合いを始めたんです。すると、樋口先生に「チームをつくる中で重要なのは、誰を入れたいかではないか」と言われたんです。私たちはある程度の選考基準をつくって採点して平均点を出して順位づけをしていました。ですが、「平均以下の誰を落とすか」ではなく、「下位20名から誰を入れたいか」を1人ずつディスカッションをしていくことにしました。この中から誰をいれるかを真剣に話し合って、「このコはここがいいから入ってもらおう」というように、入ってもらうための選考にしたのが印象に残っています。



――採用活動や企画運営といったリアルな企業活動の一端を、樋口ゼミでは「就職活動」という題材を使いながら体験しているんですね。バーチャルカンパニー制度が就活にとどまらず、社会に出る前の企業活動のシミュレーションにもなっていることに驚きました。


Aさん 他のキャリゼミでは就職するまでの活動がメインのようですが、樋口ゼミでは最初から「社会人として活躍するには」を一番に考えながら取り組んでいる気がします。常に自分がチームの一員であることを意識して、その中でどのように行動すべきかを考えながら活動してきました。この体験を通して卒業して社会に出る前に一種の自信のようなものをつけられたのではないかと思っています。


Mさん 樋口ゼミでは仲間もいっぱいできたし、納得のいく就活もできました。私も本当に樋口ゼミを選んで良かったと思います。


※肩書・掲載内容は取材当時(2022年11月)のものです。


 

今回は、受講学生の視点から帝京大学のキャリデザイン演習の樋口ゼミの取組みを聞いてみました。これまでのゼミ活動を振り返った上で、自分たちのゼミを今後どうしていきたいのかを自分たちで考え、部署ごとにミッションシートに落とす。4年生が3年生の就活のアドバイスをする。個人戦ではなくチーム戦で就活を戦っていく。新ゼミ生の受け入れの際には、自分たちのゼミの特徴を自己分析した上で、今後どのようなゼミにしていきたいのかのビジョンを定める。そしてそのビジョンに合う人材を全員で選考する。などなど、そこには組織が強くなっていくための、様々な仕掛けがありました。そしてそれら全ては、学生さんのモチベーションを刺激する要素、すなわち「自律性」「有能感」「関係性」にアプローチする取り組みになっていると感じました。

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