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ミッションステートメントの言語化と動機付けで学生の主体性を引き出す就活ゼミの取り組み【帝京大学】連載3-2

帝京大学八王子キャンパスでは就職活動に特化したゼミ形式の科目「キャリアデザイン演習」が開講されています。希望する企業・業界への就職、早期内定獲得を目指す選択制の科目であることから、受講希望者も多いそうです。中でも「早期内定獲得者が多い」(キャリアサポートセンター談)といわれるのが樋口ゼミ。先輩が後輩の就職活動をサポートする「ブラザー制度」や、担当別に各種イベントの企画・運営に取り組む「バーチャルカンパニー制度」といった独自の取り組みを導入して、学生主体のゼミ運営を行っています。「学生主体」を引き出すために、講師はどのような視点・スタンスで授業に臨み、どのような仕掛けをゼミに投げかけているのか?講師の樋口さんとともにゼミ運営をサポートし、学生の希望の就職・進路の実現を支える講師・竹岡久慈さんに話を聞きました。




――まずは竹岡さんのプロフィールと、帝京大学の樋口ゼミで講師を務めるようになった経緯をお聞かせいただけますか?


竹岡さん 1989年にリクルートに新卒入社して、社内研修や組織活性化を経験してから営業職に異動しました。在籍26年中20年は教育系の部署で、営業やマネジメント、新規事業の立ち上げなどを経験して2014年に退職しました。その後、MOOC(大規模オンライン講座)の事務局長代理などもしましたが、ラーニングバリューの代表から声をかけられて、帝京大学で樋口さんが担当しているキャリアゼミのお手伝いをすることになったんです。



――竹岡さんは2019年後期から樋口ゼミに参加したと聞いていますが、最初はゼミの様子を見学されたんですよね?その時の印象で覚えていることはありますか?


竹岡さん 「学生が自分たちで授業をつくる」というのは面白い形態だな、と思いました。ただ、半年くらい見学して、もっとゼミをよくすることができるな、とも思いました。課題は2つあって、1つは、4年生のレベルが上がらなければ3年生のレベルも上がらないということ。もう1つは、学生が「バーチャルカンパニー」に自発的に取り組むようにならなければ面白くないだろう、ということ。この2つを改善できたらもっと良い方向にいくんじゃないかと思いましたね。



――どんな様子を見てそう感じたのですか?


竹岡さん ゼミには3年生と同じ人数の4年生がいて、ペアリングやグループワークを行うのですが、3年生に対する4年生のフィードバックやアドバイスが、「ここが深掘りできてないよ」とか「もっと深掘りしたほうがいいよ」という指摘だけだったんです。「どう思ったの?どう考えて整理したの?」という問いかけや、一緒に考えるとか、モヤモヤしたものを引き出してあげるといったコミュニケーションがなくて、「考えが足りていない」「もっと考えたほうがいい。来週までにもう一度考えてきて」と言うだけだと、3年生にとっては厳しいだろうなと思いましたね。単に3年生の能力を引き出すだけでいいなら、講師に樋口さんと私の2人がいるのでどうにかなるかもしれませんが、今のゼミのやり方なら、4年生の力を引き上げられないと3年生が伸びてはいかないだろうなと感じました。

バーチャルカンパニーの取り組みについても、先輩からのタスクを引き継いでやっているだけだったんです。バーチャルカンパニーは何のために存在するのかも話し合われていないし、部署のタスクも被っていたりして。そこで、まずはミッションステートメントを言語化することから始めることにしました。



――そういった組織の方向づけの必要性を感じたのは、前職でのマネジメント経験が影響しているのでしょうか?


竹岡さん そうですね。組織でメンバーのマネジメントをしていた時にも思っていたことですが、本人が自分で気づかなければ本気で動きませんよね。キャリアゼミも同じで、3年生も4年生に「深掘りできてないよ」といわれて、一生懸命考えるんでしょうけど、それは自分一人が頑張っている状態。「どうしてこうしたの?」と指摘されるだけでなく、「こう考えたから、こう書いたんだね」と一緒に考えてもらうことで、自分の強みを整理するプロセスに気づきや発見があるだろうし、それがどんどん自信になる。そうすると自発的に動けるようになっていくんです。私は会社員時代にそういうマネジメントしていたので、そういうことはよく言っていますね。



――できてない部分を指摘するだけでなく、相手のことを聞いて力を引き出すというのがポイントなんですね。


竹岡さん 4年生には「指摘」だけでなく、「引き出したり聞き出したり一緒に考えたりする」のがなぜ大事かを理解してほしいんです。「あなたたちが会社に入ると、お客さんに聞かれたことに対応するだけでなく、相手が何を望んでいるかを聞き出したり引き出したりする仕事をすることになる。さらに入社して2、3年経って後輩が入ってくると、指示や指摘をするだけでなく、一緒に考えたり引き出したりすることもしなければならなくなる。社会に出てからも、キャリアゼミと同じことが必要になるので、訓練だと思ってやろう」と話しています。

バーチャルカンパニーの取り組みについても同じですよね。「会社や組織は理念やビジョンをもとに動くし、そういうものを上司に聞かされて、それをもとに考えたり行動したりすることになる」と。だから、社会に出る前の勉強であることを動機づけにしています。

――なるほど、動機づけにもつながっているわけですね。面白いですね。


竹岡さん 私は前職で、組織のミッションはなんだろうとか、われわれはどういう方向に向かって仕事をしていけばいいのかとか、そういうことを考えて整理して言語化するとメンバーのやる気が上がることを経験しています。ミッションやビジョンを言語化すると、その達成に向けてやらねばならない「タスク」だけでなく、タスク以外にもやらないといけないことや、やったほうがいいことを見つけることができるんです。そういうことが、バーチャルカンパニーでも起こるようになれば楽しいだろうなと思っています。



――バーチャルカンパニーでミッションステートメントにあわせてタスクを見直したことで、新たな試みが始まった、というような事例はありますか?


竹岡さん ゼミのOB会の実施を主な仕事にしているプロジェクト部が、2021年に「オンラインOB訪問」という企画をつくってくれました。これはカリキュラムの話にもつながるのですが、通期で30コマというカリキュラムの中で業界研究や企業研究することには限界を感じていました。いくら業界を調べたらいいとか実際に足を運んでみたらいいとかいったところで、行動につなげるのは本人次第ですし、実際に企業や業界のことを知る機会ってあまりないんですよね。でも、このゼミにはいろんな先輩がいて、話を聞く機会があれば「こういう会社があるんだ、こういう業界って面白そう」といったことわかるんですよね。ですから授業を1、2コマ削る代わりにOBによるオンライン会社訪問を実施できれば、OBの話を直接聞く機会が増えて、業界研究も進むのではないかということを考えたんです。樋口さんがプロジェクト部の指導をしてくれて、秋に行われる大々的なOB会とは別に、2020年に前期の授業を補完するタイミングの6・7月にオンラインOB訪問を立ち上げました。2021年も2、3回実施できて10人ほどのOBが参加してくれたので、業界に興味を持ったり、自分に合うかどうかを考えたりするきっかけにはなったと思います。多少は講師側からの示唆もあったかもしれませんが、「これはOBに関するイベントなのでプロジェクト部がやるべきだ、やろう」ということで学生が動いたから実現できたことです。こうした新しいことがバーチャルカンパニーの中でも生まれつつありますね。

もう一つ事例を挙げると、4年生が内定先企業や就職活動中に接した業界について3年生に説明をする座談会のようなことも企画してくれています。これは3年生と4年生の交流に関するイベントなので人材育成部が担当してくれています。



――まさにミッションステートメントの言語化でモチベーションが上がった事例ですね。他のチームの動きに刺激を受けて、さらに新しい動きが生まれるとは、うれしいですね。


竹岡さん バーチャルカンパニーでは各部署に言語化されたミッションステートメントを作ってもらっていて、事業計画も毎年提出してもらっています。それを4年生から3年生に引き継いでいくのですが、私が必ず言うのは「4年生がどんな思いでミッションステートメントの達成に取り組んだのかとか、できたこととできなかったこと、やりたかったけれどできなかったことも含めて引き継ぎなさい」と。すると、どの部署も4年生の熱量も含めて3年生が引き継ぐようになり、翌年の事業計画を考えて発表できるようになっています。



――今の話を聞いて思い浮かべたのがこの図です。組織開発の研究者、カミングスとウォーリーによれば、組織開発で働きかける時には4つの観点があり、それぞれが関わりあっているとされています。先ほどの話題でいえば、各部署でミッションステートメントをつくって、事業計画を立てているというのは「戦略の観点」、各部署の役割分担が「構造の観点」で、先輩が思いも含めて後輩に仕事を伝えるというのが「人間関係の観点」に該当しそうです。これらが相互に影響しあって、ゼミの活動が活性されたんだと思いました。




※肩書・掲載内容は取材当時(2022年10月)のものです。

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