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教員負担が増えるカリキュラム改定のコンセンサスを得る方法とは【東邦大学】連載2-2

東京都大田区に本部を置く東邦大学は、自然科学および生命科学系の総合大学です。理学部では2023年入学者から学部統一の初年次の教養教育科目として1年前期にチームビルディングの要素を取り入れた「初年次セミナー」を実施しています。従来は各学科で行われていた初年次教育を、学部で統一して行うことになったり、授業のファシリテーションを学科教員が担うことになったりと、負担のかかる大きなカリキュラム改定をいかにして実現したのか?学部内での抵抗はなかったのか?どのようにコンセンサスを得て実現にこぎつけたのか?その辺りの事情について、初年次セミナーのカリキュラム開発にも携わり、授業もファシリテーターも務められた朝倉 暁生先生(理学部生命圏環境科学科 教授)と後藤 友二先生(理学部生物学科 准教授)に話を聞かせていただきました。




(写真左上)朝倉 暁生先生、(写真右上)後藤 友二先生



――今年から理学部統一で初年度セミナーを導入されましたが、学科ごとに思惑やこれまで積み上げてきたものがある中で、足並みを揃えて学部統一で何かを始めることへの抵抗はなかったのでしょうか。いろんな学科のいろんな考えの先生を説得するのは難易度が高そうですが、どのように合意形成していったのですか?


後藤先生 初年次セミナーは「アカデミックスキルを養成する科目をちゃんと導入したほうがいい」という発案がもとになっています。理学部5学科で足並みを揃えて進めるにあたっては、旧カリキュラムのキャリアデザイン1(1単位)・キャリアデザイン2(1単位)を、今の学生が必要とするプロセスを付け加えてアレンジしなおして初年次セミナー(2単位)に置き換えます、と説得しました。学科から単位を剥奪しなくてよいので、単位的な問題はなかったのですが、問題は教育負荷でした。生物学科は僕が、生命圏環境科学科は朝倉先生が担当するのでスムーズでしたが、教育開発センターに所属する教員がいない学科は教務主任経由で授業担当の先生を出してほしいと依頼したので、多少のすったもんだはあったのかもしれません。でも、2000年頃に比べて勉強していない(する習慣づけができていない)学生が増えていることに悩んでいるのはどの学科も共通でしたから。



――課題解決のための方策であれば、多少の手間は受け入れざるを得なかったということですね。学生の質の変化については、IRなどのデータで確認されていたんでしょうか?


後藤先生 単純に少子化の問題です。2000年に200万人近くいた18歳人口が今は110万くらいになっています。上位の大学は学科も定員も増やしていて、椅子取りゲーム的にいえば、すごく大学にいきたくて必死に勉強しているという学生は1つ上のランクの大学にチャレンジしやすいわけです。上の大学にチャレンジしていく。一方で、勉強癖がついてない学生が入ってくるようになった大学では、ちゃんと勉強の仕方から教えるとか、勉強する意味を教えるといったスタイルにしなければならない。アカデミックスキルをつけることから大学の学びに入っていかないといけないということを、教員にも学生にも伝えるきっかけとして初年次セミナーの立ち上げを進めていきました。



――今の話に朝倉先生から補足はありますか?


朝倉先生 はい。これまでカリキュラム改定は学科ごとに行っていたのですが、今回は学部横断的に行うことになり、6学科のカリキュラムの基本コンポーネントを揃えることになったのが大きな変更点でした。今回の新カリキュラムはつくることも苦労したし、教務主任間でのコミュニケーションもかなり綿密に行いました。その中でなるべく基礎教育は学科横断的にしましょうということになり、その1つが初年次セミナーだったというわけです。



――基礎教育はそれまで各学科で行っていたんですよね。それを、なるべく学部で統一しよう、ということになった背景は何ですか?


朝倉先生 東邦大学は習志野キャンパスに3学部があるんですが、学部によって1コマあたりの時間が異なり、90分授業だったり70分授業だったりしたんです。



――え?それは珍しいのでは?


朝倉先生 ええ。ただ、逆をいえば、食事の時間が重ならないなど、メリットがないわけではなかったのです。とはいえ、昔は学部の自治が強くて自分の学部の都合でカリキュラムをつくっていたものの、時代とともに大学全体としてのガバナンスが求められるようになってきています。共通教育も共有化できるところは共有化して、共有化できないところに教育サービスのリソースをさけるようにしようという考えが根底にあるのは大きかったと思います。



――学部学科間でリソースを共有化することがねらいだったと?


朝倉先生 その他にも、学生さんの多様なニーズへの対応も考えています。例えば、入学後に学んでいるうちにこういうことを勉強したくなったとか、入学時にはわからなかったが本来はこういうことをしたかったという場合に、1・2年生であれば今までよりも転学部・転学科しやすくなるなどでしょうか。そういったことを一足飛びにはできませんが、少しずつ視野に入れて取り組んでいこうとしています。



――そういう点でもカリキュラム改定によって理学部6学科で基本コンポーネンツを共有化した意義があるということですね。

初年次セミナーの立ち上げに際して必要だった準備の1つが学部内の先生との合意形成だったかと思います。そのために、弊社では2回のFDをお手伝いさせていただきました。1回目は2022年秋だったと思いますが、そこには朝倉先生も後藤先生も参加されましたか?


朝倉先生 はい、いました。



――表向きのテーマは「ファシリテーション」でしたが、私は、学部の先生方に「これから理学部で初年次セミナーを始めるけれど、誰がファシリテーター役になるのかわからないので、みんなで学ぼう」というねらいをもって行われたものだと理解しています。このFDを先生方はどう受け止めていましたか?



朝倉先生 まったく、おっしゃるとおりです。初年次セミナーに限らず、授業の中に少しでもファシリテーションの要素を取り入れてアクティブ・ラーニングを進めていこうという空気はあったので、そういう研修の一環だったと認識しています。後藤先生はどうですか?


後藤先生 そのとおりだと思います。一方的にしゃべって黙って聞かせる授業しかしていない先生に、そういう形態以外の授業もできるようになってもらいたいので。学生中心の授業を組み立てるために、一度はファシリテーションのやり方を経験してもらうというねらいだったと思います。



――弊社はいろんな大学で研修を行っていますが、自由参加なのにあんなにたくさんの先生が熱心に参加される大学はないので、すごいなと思いました。50人くらいはいらっしゃいましたよね?東邦大学では、みなさんあれくらいFDには参加されるのですか?


朝倉先生 はい、あれくらいは。でも、参加者数は6割以下ですから、我々はもっと参加してほしいくらいです。



――2回目のFDは2023年の春休み期間中で、初年次セミナーの詳細が決まった後で本番でのファシリテーションを想定した1日半の研修を行いました。お二人は千葉先生とともに初年次セミナーのプログラム作成にも携わっておられましたが、研修の様子を見てどんなことを感じましたか?


朝倉先生 マニュアルに書かれていることを実際に現場でやるとこんなことがあるよねとか、ここで間を取ったほうがいいよねといったことを感じる機会になったのではないかと思います。私が話を聞いた先生の中には「この研修で初年次セミナーをやる意義があると手応えを感じた」とおっしゃる方もいましたし。逆に不安になった方からは「ここはもうちょっと台本をしっかりつくり込んでおかないといけない」というご意見もいただきました。担当の先生がマニュアルを「自分ごと」として落とし込むいい機会になったのではないでしょうか。



――そうですよね。あの場で初年次セミナーが「自分ごと」になった気がしますよね。後藤先生はどうですか?


後藤先生 先生によって、その日の学生の様子によって話す内容を微妙に変えたり、アドリブをきかせたりするなど、ライブ感を持って授業できる先生と、そういう対応が苦手な先生がいますよね。初年次セミナーという科目は、ライブ感を楽しめる先生は綿密な事前準備をあまり必要としないでしょうが、100%の準備をして完璧にしたのに予想と違う学生のレスポンスが起きると戸惑う先生もいらっしゃいますから。

大学の先生って、特に実験系科目では事前準備をちゃんとしたいという方が多いので、そういう意味ではあのFDはすごく意味があったと思うんです。ロールプレイで自分たちが学生の役割をしてみて、こういう授業を受けるとこういう反応があるんだと気づいたり、あるいは意図的にちょっと違う対応を返すと、先生としてはどういうレスポンスをしないといけないのかと考えたり。他の先生のレスポンスをみて、ああなるほど、と思った先生も多分いっぱいいただろうと思います。

教務主任をやっていると、こそこそと他の先生の授業を見に行ったり学生から話を聞いたりすることもありますが、一般的には教員が他の先生の授業を聞きに行くことはほぼありませんから。自分のテリトリーで自分の授業しか知らない先生が多いんですよ。他の先生の授業の進め方を見聞きするだけでもすごく意味があったんじゃないでしょうか。



――その研修を設計する時に私が意識したのは、先生方のチームビルディングが進むことです。先生方に6人ずつくらいのグループに分かれてもらって、その中から代表の方に出てきてもらって、本番を想定したロールプレイをしていただきました。その際にチームの中でも助け合いや情報の共有が起こるのを想定していたんですが、そういう面で何か感じられたことはありますか?


朝倉先生 教員間のチームビルドということですよね?



――そうです。


朝倉先生 そうですね。チームビルドもそうですが、いろんなワークをやる中で、学生さんも積極的に関われる学生とそうでない学生がいるんだろうということを模擬的に体験できました。最初は思っていなかったかもしれませんが、ここにうまく入り込めない学生に教員がどういうサポートをしたらいいのだろうと考えるようになりました。後半は「こういう時はこうしたらいいんですかね」という意見が出てきていたので。最初は自分自身がプログラムに参加することがメインだったのですが、だんだんどのように介入していったらいいんだろうという意見が出てきた記憶があります。



――「授業の進め方を教えてもらう」という視点から、「自分が進める立場で想定して考える」ようになったということですかね。


朝倉先生 先生方の発言の中から、私はそう感じました。



――後藤先生はいかがですか。


後藤先生 学生のグループでも積極的に発言できる学生とできない学生がいますが、そのパターンにあてはめるなら、私がいたのは割りとよくしゃべるグループでした。チームビルドという意味では前向きでしたし、最初からみなさん「どうやったらファシリテーターができるのだろう」というところに視点を向けて、学生の前でどんなことをやるのか意識して取り組んでいたと思います。自分が発言する順番の時は、どういう話し方をすればいいのかに気を配り、聞く側の立場の時にはちゃんとコメントを出すというようにしていましたね。



――FDでの予行演習やマニュアル配布もありましたが、ペアの先生と2人での本番での授業運営はいかがでしたか?


朝倉先生 私は1人で授業を回してしまったのでペアではやっていないんですよ。


後藤先生 プリントを配るタイミングや演習の時間配分などは相談しながら進めて、マニュアル通りにしたことと一部変えたこととあります。休憩時間や学生がディスカッションしている間などに相談して、わりと臨機応変にできましたね。グループワークの時間も10分のところを7分くらいにしたり、もっと時間をかけたほうがよさそうなところは、休憩時間も使ってお茶を飲みながら話を進めてもらったり、ということはしていましたね。



――重要性なども考慮して時間配分も2人で相談しながら進めておられたようで、かなりライブ感のある授業ができたようですね。


後藤先生 そうですね。あとは話のネタ的に盛り上がりやすいところはしっかり話をさせてあげたほうがいいかな、とか。そうすると振り返りもまとまったりするので、そういうところは工夫しました。

ファシリテーションという意味でどれくらい介入すべきか考えましたが、学生は放っておいてもやっていたので、個人的にはあまり介入しなくてよかったなと思いました。教員1人でも1クラスを担当できると思いますが、プリント配布もあるので2人でやるとスムーズでした。



※肩書・掲載内容は取材当時(2023年7月)のものです。

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