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新たな初年次教育プログラムの効果を学生に確かめる【東邦大学】連載4-1

東京都大田区に本部を置く東邦大学は、自然科学および生命科学系の総合大学です。理学部では初年次教育改革の一環として、2023年入学者から学部統一の総合教育科目として1年前期に「初年次セミナー」を実施することになりました。初回にチームビルディングプログラム『自己の探求』を実施し、その後はグループワーク形式で大学での学びに必要な基礎スキルを習得していくこの授業。ここまでの連載で、プログラム導入の背景や、授業のファシリテーションを担当した先生方に話を聞いてきましたが、最後に受講した学生の体験談を紹介します。話を聞いたのは、初年次セミナーで同じ班になったのをきっかけに親しくなったという物理学科1年生のYさん(東京都出身)とSさん(福岡県出身)の2人。入学前の心境や大学生活への期待、今回の体験によって感じたことをざっくばらんに聞いてみました。



(写真左下)Sさん(写真右下)Yさん



――まずはお二人のことを知りたいのですが、東邦大学を選んだ理由をお聞かせください。


Yさん 僕は宇宙について興味があったのですが、関東エリアで探して、パンフレットを見て調べて、ここなら学びたいことが学べそうだと思って選びました。


Sさん 僕も宇宙や素粒子の研究に興味があり、関東圏の大学に進学したかったので、調べて興味を持ったのが東邦大学でした。



――2023年4月入学ということは、高校入学は2020年春だったわけですよね。コロナ禍での高校生活はどんな感じでしたか?


Yさん コロナで入学式がなくなり、5月ごろまで授業もなくて、郵送されてきた課題をやるだけで、一斉登校になったのは6月頃からでした。行事もなくなり、2年生の時に体育祭も文化祭も縮小してやりましたが、修学旅行は中止になりました。


Sさん 僕も一斉登校になったのは6月頃で、1年次は大きな競技場で体育祭だけが行われてそれ以外の行事はすべて中止に。僕は野球部でしたが、最後の大会がコロナによる辞退で終わり、頑張ったことを発揮できなかったのは残念でした。



――大学生活へは、コロナ禍でできなかったことをやりたいという期待も大きかったと思いますが、不安はありませんでしたか?


Yさん ネットで調べて「理系はきつい、レポート地獄だ」と聞いていたので、勉強についていけるのかなという不安はあって、高校の復習とかしていました。


Sさん 僕は受験から開放されて遊びまくりたかったです。理系は勉強がきついと聞いたこともあるけど、物理など理系科目は嫌いではないので大丈夫だろうとしか思っていませんでした。ただ、地元から離れるので、友達をつくることへの不安はありましたね。



――実際に大学生活が始まってからはいかがでしたか?


Yさん 朝、教室に入るとホームルームもなくて、すぐ授業が始まる。打ち合わせもスマホやインターネットで行われるので最初はちょっと慣れませんでしたね。高校では朝、教室に来てから課題をどうしたかとか友達とちょっと話していたけど、そんな時間もなくて。


Sさん 高校ではホームルームで言われたことをメモって管理していましたが、大学は自分でメールを確認して、自分でやるべきことを全部把握しないといけなくて。僕は寝坊とかしちゃうタイプで、管理が苦手なタイプなのでなかなか大変です。今はYくんとか他の友達にめっちゃ聞いて教えてもらっています(笑)



――そういう意味でも友達の存在は心強いですね。部活やサークルはしていますか?


Sさん はい、高校時代と同じで野球部に入りました。友達ができるか心配だったので部活から知り合いの輪を広げようと思って。


Yさん 僕も他学科の友達が欲しくて、高校時代と同じで水泳部に入っています。



――ここからは、入学後に受講した「初年次セミナー」についてお伺いしていきます。最初の授業で『自己の探求』というプログラムを受講されたと思います。グループに分かれて記者会見をしたり1対1でコミュニケーションをとったり、地図作成の課題もこなして、最後にグループ間でお互いの印象をメッセージカードに書くという体験をしてもらいました。その時のことで覚えていることがあれば聞かせてもらえませんか?


Yさん 友達をつくるきっかけになったし、自分の気づかなかったことをメッセージカードに書いてもらえて。自分に足りないところがわかったので、もうちょっと積極的になっていこうと思ったし、自分を見つめ直すいい機会になりました。メッセージカードをもらうなんていう経験は高校でもなかったので新鮮でしたね。


Sさん 僕は最初に名札をつくるときに、名前や出身地だけでなく、趣味にアニメって書きました。引かれるんじゃないかと思ったんですが、意外とみんなもアニメを見てて盛り上がりました。地図作成の課題の時も、その日初対面だった人ともちゃんとコミュニケーションがとれたし、友達をつくりやすい環境になっていました。おかげで大学生活のいいスタートを切ることができました。友達とSNSのアカウントを交換できて、次の日からの授業の相談とか履修登録を一緒にやるきっかけになりました。



――初めての履修登録は一人ぼっちだと何もわからなかったかもしれないですね。その後、初年次セミナーは1クラスを2人の先生が担当することになり、10週間にわたってアカデミックスキルを学ぶ授業行われましたが、授業で印象に残っていることを教えてください。


Yさん 先生からどんな研究をしているか直接話を聞けて、いい機会になりました。教室に先生が2人いるので、班で話しあうときも先生が見回ってくれて、全体の目配りをしてもらえて。困ったことあっても質問しやすいし、「もうちょっとグループで話し合う時間が欲しいです」とか要望も言いやすかったと思います。


Sさん 僕が印象に残っているのはイメージマップの作り方。1つの話題から広げたイメージを書くのですが、同じ話題からスタートしても人によって広がり方が全然違って、他の人はそんなふうに感じるんだと印象に残りました。先生も2人いたので、この先生は話しやすいとか、聞いたら教えてくれるなとかわかったし、班替えもしたので他の先生とも話せたし、先生とのつながりができて、距離が近くなったのはよかったです。


Yさん 最初は先生と距離があるという印象だったのですが、授業を通してフレンドリーだというふうに印象も変わっていきました。特に初年次セミナーで担当してくれた先生は話しやすくて、困ったことがあればすぐに聞ける関係になれたのでよかったです。他の授業で難しかったことを質問したこともあるのですが、わかりやすく説明してもらえて、さすが大学の先生だなと思いました。



――初年次セミナーはグループワーク中心の授業でしたが、他の授業との違いを感じることはありますか?


Yさん 自分の意見を書く機会が多かったです。ビデオを見て思ったことを書くとか、相手の話を聞いてどう思ったか書くとか。他の授業は基本的には、板書を写すとか出された問題を解くとか受け身ですが、主体的にやることが多かったなと思います。


Sさん そうですね、普通の授業は先生に言われたことをやることが多いですが、初年次セミナーでは自分の気持ちや考えを書いたり、あと、相手がどう考えているかを聞いたりすることが多くて。高校までの授業に例えるなら道徳のような、社交性やコミュニケーションについて学ぶ授業だなと思いました。



――この授業はお二人にとってどんな意味がありましたか?


Yさん 人と話すきっかけになりました。この授業がなかったら限られた人としか友達になれなかったと思います。本来話せなかった人と話せたり、意外とこの人話しやすいなと発見があったり、この授業があってよかったなと思います。


Sさん 人とつながるきっかけをつくれたし、自分についての発見もありました。グループワークでは毎回交代で進行役をしたのですが、今まで僕はそういう役割を積極的にやる方ではなかったのですが、やってみると以外と自分にもできるな、と気がつきました。



――ここで学んだことは今後、どんな場面で役に立ちそうですか?


Yさん 全員が1分間スピーチをすることになり、文章は序論・本論・結論の順に書くとよいと習いました。こういうのはレポート書く時にも、将来、卒業研究とか論文を書く時に役に゙立つのかなと思っています。


Sさん 序論・本論・結論のステップもそうですが、常体(だ・である調)・敬体(です・ます調)で統一するとか、文章作成のコツは自分がレポートを書く時にも生かせています。あと、みんなの1分間スピーチを聞いて、この人はこんなことが得意なんだなと知ることができて、新しい情報が増えたし、それを使ってコミュニケーションをとることもできました。



――スキルもコミュニケーションも使って生かすという視点は大事ですね。最後に、来年の1年生に初年次セミナーを紹介するとしたら、何を伝えますか?


Yさん 友達ができるかどうか心配だと思うので、「友達づくりにぴったり」と言うと参加のモチベーションが上がるのではないでしょうか。僕はもともとはしゃぐタイプではないし、自分から積極的に話しかけていけるタイプでもないので、初年次セミナーがあってよかったです。自分たちでグループ作りからはじめたり、作ったグループで順番にインタビューをするというプログラムがあったことが、みんなと話すきっかけになりました。


Sさん 人前で話すとか人の話を聞くとか、当たり前のことをできるかどうかの確認もできる場になるし、やっぱり友達ができたのがよかったですね。友達ができて、一緒にテスト勉強したり、レポートを確認しあったりできるのは助かるし、休日も友達んちにいって一緒に遊んだりしています。


――地元から離れて進学したSさんはより一層、友達の有り難みを実感しているようですね。


Sさん 一人で家に引きこもったりせず、華やかな生活が送れていると思います(笑)もちろん、地元の友達と会いたいこともあるけど、全然こっちで楽しめていると思いますね。


※肩書・掲載内容は取材当時(2023年8月)のものです。


 

今回は学生さんの視点から、東邦大学の先生方が意図したことが、どこまで実現できていたのだろうということを確認してみました。やはり学生さんにとって、初めての大学生活には勉強と友達作りに関する不安があったようでした。しかし授業設計者の千葉先生(第1回インタビュー)が意図された通り、初年次セミナーは人間関係作りのきっかけになるともに、さらに授業や大学生活への積極的な参加という効果もあったようでした。先生との距離も近く感じることができ、質問などしやすくなっていたことがうかがえましたし、授業後も友人と一緒にテスト勉強をするようになっていたようです。

東邦大学理学部のこの新たな初年次セミナーは、先生方も手応えを感じていらしたようですし、学生さんにとっても自主性を重んじる大学生活をスムーズにスタートさせるきっかけになったように感じました。今後の展開が楽しみです。

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