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「すごい」の一言で終わらせない。言語化してわかちあえば、気づきと思考が深まる。【東邦大学】連載3-1

更新日:1月9日

東京都大田区に本部を置く東邦大学は、自然科学および生命科学系の総合大学です。理学部では初年次教育改革の一環として、2023年入学者から学部統一の初年次の教養教育科目として1年前期に「初年次セミナー」を実施することになりました。初回にチームビルディングプログラム『自己の探求』を実施し、その後は1クラス2人の教員がペアでファシリテーションを行いながらグループワーク中心の授業を進めていきます。とあるクラスのファシリテーターを務めた数藤 恭子先生(理学部情報科学科 教授)と八木 美保子先生(教養科 准教授)のペアに、今回の体験によって感じたこと・考えたことについてお聞かせいただきました。



(写真左上)数藤 恭子先生、(写真右上)八木 美保子先生



――まずは先生方のプロフィールについてお聞かせください。数藤先生のご専門は?どのようなきっかけで教員になられたのですか?


数藤先生 私は情報科学科の所属で、専門は画像認識です。最近は機械学習が注目を集めていますが、撮った画像に写っているものや状況を理解して、様々な情報を統合するにはどうしたらいいかというような研究をしています。若い人と話すとアイデアがでてくるし、人材を育てたいという気持ちもあり教員になりました。


――八木先生はいかがですか?


八木先生 専門は教育学です。全学科の学生さんの教養教育を担う教養科に所属して、教員免許取得のための教員養成課程を教えています。学校で教えられることがどのように決められているかとか、なぜそれを教えているのかといったことについて研究しています。最近は現在の学校制度の歴史をさかのぼり、戦後改革期の資料や当時の教科書などを調べています。



――教育学の先生が理学部で教えていらっしゃるのですね。


八木先生 理学部にも教員養成課程があるからです。私の中では、学校という場所は面白く、楽しい場所であってほしいという気持ちがあり、教員を養成する仕事を選びました。



――初年次教育改革により、2023年度から「初年次セミナー」がスタートすることになりました。まだ、それが公には広報される前の2022年10月に、先生方にはFDという名目で集まっていただき、ファシリテーションの勉強会を行ったのを覚えておられるかと思います。そこで弊社のチームビルディングプログラム『自己の探求』を体験していただきましたが、その時のことで覚えていることがあれば教えてください。


数藤先生 プログラムを受ける側になって事前に学生の立場を体験できたことは、自分が授業のファシリテーターをすることに役立ちました。


八木先生 私もプログラムを体験した学生の気持ちを想像できたのは大きかったですし、普段は個人的なことを話したことのなかった同僚と趣味のことなどを話すことができたことが印象に残っています。


数藤先生 グループで地図をつくるワークをしたのもその時でしたか?あれは面白かったですね。



――どんな点が面白かったですか?


数藤先生 いつもは他の先生と何かを一緒にしているわけではないので、お顔だけしか知らない先生方と協力することが面白かったです。みなさん賢いので情報の出し方が上手で楽しかったです。


八木先生 ゲームの要素もあって、それぞれの先生の個性や思考のパターンが見えますよね。さらに、その組み合わせによって出てくる結果の違いもあって、そういうのも面白いなと思いました。



――先生方に学生と同じ体験をしていただくことで、これからやろうとしているプログラムが単に楽しいだけでなく、それによってどんなことが見えてくるのかも感じていただきたかったので、あのような内容のFDを実施させていただきました。その後正式に、2023年春から初年次セミナーがスタートすることが決定し、広報されましたが、先生方がファシリテーターを務める初年次教育が始まると聞いて、どう思われましたか?


数藤先生 何をするのかわからなかったので、面白いものだといいなと思いました。


八木先生 私は別の場で千葉先生朝倉先生・後藤先生と教育開発センターでご一緒しているので、どういうことをしようとしているのかについては、何となく把握していました。先生方が2022年秋以降に本格的に授業マニュアルをつくり始めてからは、できるだけそれを理解して、ファシリテーションできるようにならなければという心持ちでいました。



――授業を担当する先生の人選は、どのように決まったのですか?


八木先生 教養科は担当科目の時間割によって、できる・できない時間帯があるので、できる時間帯で選んだ記憶があります。私が空いている時間帯で開講されていたのが情報科学科のクラスだったので、そこを受け持つことになりました。


数藤先生 情報科学科では各学年に担任というのがいるんですね。1年生担任がやりましょうということになって。1年の担任は私と村上先生です。その2人と、2年の担任が入ってくれて、あと教養科の先生が3人入ってくださって、6人を組み合わせて3クラスつくりました。



――数藤先生と八木先生はペアを組んでおられましたが、ペアはどうやって決めたのですか?もともと関わりはあったのですか?


八木先生 顔と名前は知っていて、学内で会えばご挨拶する程度でしたね。


数藤先生 一緒に仕事をするのは初めてです。ペアを決める時は、なんとなく近くにいた先生と組んだという感じです。



――初年次セミナーの授業は、先生がいろんなことを教えるというよりも、学生が主体的に行う構造になっていたと思いますが、それまで先生ご自身の担当科目で、いわゆるアクティブ・ラーニング的な授業をした経験はあったのですか?


数藤先生 私は2年生向けのプログラミングの演習を担当していますが、それは私ともう一人の先生とのペアでやっています。グループで簡単なCG作品をつくってもらうので、初年次セミナーのグループワークとちょっと似ている要素があります。



――なるほど。八木先生はどうですか?


八木先生 私は教職課程で、生徒に主体的な学習を促す教師像や、授業にアクティブ・ラーニングを取り入れようといったことを教える立場なので、それを経験させたいという思いはあります。そのため、言葉で説明するだけでなく、講義の中でいろんなグループワークやペアワークを取り入れています。文科省からも、グループワークを取り入れたり、授業の中で学生にふりかえりをさせたりしなさいという指示が来ていますし。ですので、70~80人のクラスでグループワークを運営する経験はありました。



――お二人ともご自身の専門分野におけるグループワークの経験はあったものの、専門外の科目を、用意されたカリキュラムとマニュアルに従ってファシリテーションするのは初めての経験だったかと思います。新入生を迎える直前の2023年2月ごろ、ロールプレイングを取り入れた事前研修を行いましたが、その時のことで印象に残っていることはありますか?


数藤先生 「ふりかえり」と「わかちあい」が印象深かったです。初年次セミナーでは毎回それをやるのがとても新鮮でした。



――数藤先生がこれまでに体験したことのないようなものだった、ということですか?


数藤先生 プログラミングでは、作品をつくって最終的にみんなで鑑賞してああだこうだと言いながら、みんなでふりかえってわかちあうんです。でも、「ふりかえり」「わかちあい」と、それぞれに時間をとってしっかりやるようなことはなかったんですね。あえて言葉にしないとあまり意識しないので、「すごいものができたね~」というだけで終わることが多いのですが、言葉を使うと意識できるようになるというのは新しく得たことです。



――なるほど。やったぜ、と、ただみんなで喜ぶだけでなく、その時の気づきを言葉にして、さらに伝え合うというのが数藤先生にとっては新しい感じがしたってことなんでしょうね。


数藤先生 毎回そういうことをちゃんとするのが習慣づいてくる感覚がありました。私たちはよく「フィードバック」って一言で済ませてしまいますが、どちらからどちらへのフィードバックか曖昧ですよね。自分自身をふりかえって、それを周りの人にシェアしましょう、と。ふりかえりとシェアをひとまとまりにして必ずやるんだよ、というのがいいなと思いました。



――八木先生はどうですか?同じ観点でも、違う観点からでもどうぞ。


八木先生 授業づくりは奥深いと改めて感じました。大学での授業って教育内容によって教員と学生がつながるという面があると思うんです。教えるテーマに関心があるもの同士が場を共有して、内容をやりとりするのですが、学ぶかどうかは学生の自由です。一方、初等中等教育では、必ずしも教師の教える内容に生徒の関心があるわけではありません。その中で、方法を工夫したり、目的を共有したりするなど、いろいろと仕掛けをつくることで学習を促すのですが、学校の先生はそこに高い専門性を持っているわけです。今回の私にとっての初年次セミナーは、まさにそれだったんです。教育内容は私の専門ではないので、学生とは教育内容ではつながっているわけではありません。初年次セミナーには目的がありますが、その目的も私が設定したものではありません。けれども、それを自分の中で理解して、方法に落とし込んでいくプロセスは、まさに中学・高校の先生がやっている授業づくりなのだなと感じました。



――初等中等教育を研究対象としている八木先生ならではの感想ですね。


八木先生 初年次セミナーの感想とは外れているかもしれませんが、授業のプログラムをつくることの面白さと奥深さと大変さも感じました。そして、事前研修で、先生が学生役を務めるロールプレイングはすごく緊張しました。教員養成課程では、学生に模擬授業を経験させているのですが、みんなこんな気持ちでやっているんだ、と彼らの気持ちもわかりましたね。



――それは八木先生にとって意味があることでしたか?


八木先生 そうだと思います。学習者側の受けとり方を想像するのは大事だと思いますが、頭の中でイメージすることと、実際に体感して腑に落ちていることには差があるし、経験しないとイメージは薄れていくし、維持しつづけるのは難しいので、貴重な体験になりました。


※肩書・掲載内容は取材当時(2023年8月)のものです。



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