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初年次教育に必要な要素はキャリア教育?スキル修得?人間関係構築?【東邦大学】連載1-1

東京都大田区に本部を置く東邦大学は、自然科学および生命科学系の総合大学です。理学部では十数年前より弊社のチームビルディングプログラム『自己の探求』を活用していただいています。当初はキャリア教育の一環として導入していただきましたが、初年次教育改革にともない、2023年入学者から総合教育科目「初年次セミナー」の一部として使っていただくことになりました。学生にコミットするポイントを「キャリア」から「初年次」に移すことになった背景や、その中でチームビルディングプログラムをどのように活用しているのか。長年にわたって理学部のキャリア教育科目を牽引する役割を担い、また、大学の教育開発センターでセンター長としてさまざまな教育企画に携わっておられる千葉 康樹先生(東邦大学 理学部教養科 教授)に話を伺いました。





――まずは先生のプロフィールからお聞きしたいのですが、ご専門は?


千葉先生 イギリス文学です。



――所属は理学部ですよね?東邦大学が先生にとっては最初の職場なのでしょうか?入られたきっかけは?


千葉先生 そうです、最初の職場です。英文学を専攻した場合「英文学科」で英文学教えるだけでなく、「教養科目の英語を教える」というキャリアもありえるのです。東邦大学に採用されて、理学部の教養科目の英語を教えるようになり、気がついたら27年になります。



――千葉先生は初年次教育改革も中心となって取り組まれておられますが、そういうことに関わるようになったきっかけは?


千葉先生 着任して、最初の10年は英語教育だけをやっていたのですが、2000年代後半からでしょうか、全国的にキャリア教育に取り組む大学が増え、本学でもキャリア科目を設置することになりました。その際に、私が担当者になったのです。



――それまでは千葉先生ご自身もキャリア教育と接点があったわけではないんですよね?


千葉先生 そうですね。ただ、その当時「今後理学部をどうしていったらいいか」について同じセクションの先生たちと話し合っていたのです。理学部には基礎研究系の先生が多く、学生募集に際しては「研究の楽しさ」をアピールしていたのですが、出口(就職)のことも意識してアピールしていかないと、振り向いてもらえないのではないか、という声も出ていました。キャリア教育を推進する文科省の動向とは関係なく、新しいキャリア科目をつくろうという話が出始めていたのです。



――理学部の課題と、世の中の流れのタイミングが合ったのですね。


千葉先生 キャリア科目新設の案を聞いて、私自身、新しい仕事も面白そうだと興味を持ちました。そのタイミングでキャリアセンターとも関わるようになったのですが、そこで御社のチームビルディングプログラム『自己の探求』の情報をもらいました。すぐに会社の人が私のところに来てくれて、説明を聞いて、トライアルのセッションをやってみようということになったんです。私は理学部のFD担当になっていたので、FDで理学部教員に『自己の探求』を体験してもらうことにしました。今から12~13年も前の話です。



――古い話になりますが、『自己の探求』を初めて千葉先生ご自身が体験した時、どんなふうに感じたか覚えていますか?


千葉先生 面白かったですよ。



――どんなところが?


千葉先生 例えば、合意形成のワークでは、メンバー同士の意見のすり合わせが難しく

、私は途中イライラしたりしていたのですね。そんな感じのワークだったのですが、ワーク後には自分の気持ちをふりかえる時間が設けられていて、自分がどう感じたかを言葉にするプロセスがあり、非常に新鮮でした。今でも誰に対してどんな葛藤があったか覚えているくらいなので、そういう意味では印象深い体験でした。



――10年以上前のことをそんなに鮮明に覚えているんですね。周りの先生の反応は覚えていますか?


千葉先生 FDでまる2日間も拘束して、ひたすらチームビルディングをやってもらったので、その点での不満は多少あったと思います。でも、キャリア科目のプログラムとしてどういうことをしようとしているのかを理解してもらえましたし、「お互いよく知り、自分自身を知る」という点ですぐれたプログラムであるということは、体験したみなさんも納得したと思います。そのあとは、スムーズに科目設置が進みました。



――貴学では今も『自己の探求』を使っていただいていますが、当初はキャリア教育科目の一環として導入されたということですよね。その頃始めたキャリア教育科目はどのような内容だったのでしょうか?


千葉先生 まず始めに2日間の『自己の探求』で新入生の緊張をほぐして、大学生活の楽しさを味わってもらいます。その後、8週間にわたって週1回の授業を展開していきます。この授業は、外部業者に委託して実施していました。

全体を通じてのねらいとして「コミュニケーションスキルの向上」を考えていたんですが、実際に始めてみると学生のコミュニケーション力は意外に高いことがわかったので、授業のポイントを変えることにしました。授業設置から4年後、ロジカルライティングとクリティカルシンキングを中心にした授業に転換しました。

ただ、キャリア教育科目でアクティブラーニング中心の授業を展開して、それなりに学生に学びがあっても、それ以外の科目にはそういう要素があまりないわけです。キャリア教育科目で多少刺激を受けても、その後の学びに、なかなか有機的に接続していかない。そのことが次に見えてきた課題でした。6~7年目あたりからは、私自身も『自己の探求』以降の8週間の授業を担当させてもらって、実際に授業をやりながらあれこれ考えていたのですが、思い切った手は打てないでいたのです。そんな状態が数年続いたところで、2021年から新カリ作成を担当することになり、それを機に、「初年次セミナー」をつくりたいと、真剣に思うようになったんです。



――「初年次セミナー」の授業はキャリア教育科目の経験をもとに設計されたのでしょうか?


千葉先生 「初年次セミナー」は、それまでのキャリア教育科目がどうだったかは、とりあえず横において、教務関係の教員・スタッフと1から考えたものです。本学は退学率や留年率がとても高いわけではありませんが、ミスマッチが原因で退学や留年をする学生は一定数いますし、学びへの動機を十分に持てないでいる学生もいます。そうした学生たちにどういうことができるのか。まずは、入学直後の「環境づくり」が大事なのではないか。つまりは、初年次教育科目をどう充実させるかがキーになるのではないかと考えたわけです。初年次対象のセミナー科目は、すでに多くの大学で行われています。ですので、今更本学でもやるのか、という声はありましたし、私もそう思いました。しかし、今更かもしれないけれど、他にもっとよい手段を思いつかないのであれば、まずはそこから考えてみようということになったんです。



――10年前に始めたキャリア教育は、それはそれで成功したけれど、今回はもう少し初年次教育的な意味づけの科目をスタートさせたということですね。


千葉先生 はい、そうです。キャリア教育の科目名は「キャリアデザイン」だったのですが、科目開設の数年後からは、キャリアに重点を置くというより、初年次教育的な内容になっていました。



――キャリア教育から初年次教育に力点を変えるきっかけは何だったのですか?


千葉先生 本学部には教育開発センターという組織があり、私がセンター長を務めているのですが、教育企画に関する自由なディスカッションをしています。そこでの学生の現状に関する議論が今回の企画につながりました。本学部の入学者は専門的なことを学びたいと思っている学生の割合が高く、学内で行っているIR調査でもそのことは明確に示されています。その一方で、学びへの動機づけが弱い学生も一定数いるのがわかっていました。動機づけの弱さにも、単にぼんやりとしか興味がないなど、いろんなケースがあるのでしょうが、学生同士がお互いに刺激しあいながら、それぞれが自分の学びのあり方を考えるような時間を持つことが必要なのではないかという意見がありました。私たちは初年次教育をきちんと組み立て直したほうがいいという合意形成をして、そこで議論していたアイデアを、各学科の教務責任者が集まっている新カリキュラムのワーキンググループで提案したのです。もちろん、それに対して最初は不安や懸念などがいろいろ出てきましたが、入学者の傾向や変化に合わせてどういう初年次セミナーをつくればよいかの議論を深めていきました。「自分の関心を掘り下げる」という目標を含むなど、学生の現状に即したプログラム案を作成することができ、最終的に合意を得ることができました。



――もともと理学部では初年次教育は各学科マターになっていたんでしょうか?


千葉先生 そういう部分もありました。学科によっては独自に初年次教育を行っていました。学問の興味を深めるような授業を展開している学科もあれば、ガイダンスの延長上のような要素を含む授業もあり、さまざまでした。



――それを教育開発センターからの発信で、学部で統一した内容で初年次教育をやりましょう、ということになったんですね。


千葉先生 そうですね。今、各学科でやっている科目は廃止してください、と。これまでは初年次教育プログラムを個別にやっている学科とそうでない学科があり、学部としてのポリシーが見えなかったんです。理学部に入ったらみんなこのプログラムを受けます、という形にしないと意味がないと考えました。



――そうすると学科から反発のようなものが起こるのではないかと思いますが、それはどのようにクリアしたんですか?


千葉先生 初年次教育の担当になっていた学科教員には、科目運営が負担になっている部分もあったようなのです。今回学部で授業を一本化したことで、基本的に、学部レベルでプログラムをつくることになりました。そのため、個々の教員はプログラム作りから少し開放されたわけです。そういうメリットもあったのでしょうか、学科から「統一プログラム」への反発は、あまりなかったと思います。



――初年次教育を専門とする先生がいない中、学科で手弁当的にやっていたことを、教育開発センターの主導でプログラムを用意して、FDを行って、とステップを踏み、学部統一でやるための合意をとっていかれたわけですね。その際に最も重視されたのは、どのようなことだったのでしょうか。


千葉先生 初年次教育科目を外部委託せず、学部の教員が教えるとしたら、どういう授業にするのが望ましいのか。一番の目的は「学生同士の関係づくり」ではないでしょうか。キャリア教育科目では、最初、コミュニケーション力にフォーカスし、続いて学びのスキル向上のためにクリティカルシンキングをやろうとしましたが、大学生活では「人間関係をつくる」というのは常についてまわる課題です。初年次セミナーをスタートするにあたっての目標は10項目近くありましたが、私は「人間関係をつくる」がもっとも重要だと考えました。


※肩書・掲載内容は取材当時(2023年6月)のものです。

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