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学生はグループで、教員はペアで進める授業。他者の視点を借りて視野が広がる【東邦大学】連載3-2

東京都大田区に本部を置く東邦大学は、自然科学および生命科学系の総合大学です。理学部では初年次教育改革の一環として、2023年入学者から学部統一の初年次の教養教育科目として1年前期に「初年次セミナー」を実施することになりました。初回にチームビルディングプログラム『自己の探求』を実施し、その後は教員がペアを組んでクラスを担当し、グループワーク中心の授業を進めていきます。前期のすべての授業の終了後に同じクラスをペアで担当したファシリテーター数藤 恭子先生(理学部情報科学科 教授)と八木 美保子先生(教養科 准教授)にインタビュー。学生の様子や、ペアでのファシリテーション体験がご自身の教育・研究に与えた影響などについて聞かせていただきました。




(写真左上)数藤 恭子先生、(写真右上)八木 美保子先生



――4月から初年次教育の「初年次セミナー」の授業が始まりました。初回は弊社のチームビルディングプログラム『自己の探求』を行い、その後は先生方が2人1組でクラスを担当され、全7回の授業も無事終わったと聞いています。前期をふりかえって、1年生の様子や変化について、先生方が感じたことをお聞かせください。


数藤先生 最初のうちはなかなか教室に入ってくれない学生に声をかけたこともありましたし、緊張している感じの学生も多かったです。それが次第に仲良くなってきて、授業が始まる前から自分たちで机をグループワーク形式に並べて待っていてくれるようになって。会話も弾むようになって、それも過ぎるとちょっとダレ気味になっていって、という変化の過程も楽しめました。


八木先生 私は「初等中等教育の学級の機能を大学の中につくったんだな」と受け止めています。学級というものがあることで、友達や教員と顔なじみになり、居場所ができる。それが後々の学生たちの助けや支えになっていく。そういう基盤づくりの科目だったのかなと感じていて。その一方で教員側からも学生のことがだんだん重層的に見えてくる。うまく溶け込めない学生や斜に構えて参加しない学生がいても、やりたくないわけではないんだなとか、今日は疲れているのかなとか、学級担任的な目線で彼らを見られるようになったし、「先生、今日眠いんだけど」「次、俺が当てられるの?」とか、これまで大学では多くなかったようなやりとりも学生とするようになりました。朝の会やホームルーム、今の初等中等教育の特別活動にあたるような時間で、今までうちの大学にはなかったものだなと感じました。ただ、それにどれくらいの時間数が必要で単位数をどうするかといったことは、今後全体のバランスの中で検討して、不断に改定していく必要はあるだろうと思います。


数藤先生 さすが教育学の先生からの視点ですね。学級みたいなものをつくったんだ、と。「なるほど!そうなんだ」と、私は思いました(笑)



――確かに。学級がベースになっているわけではないけれども、その機能を大学に持ち込んでいるといえるのかもしれませんね。


八木先生 日本の大学に初年次教育というものが本格的に導入されはじめたのはおそらく20年ほど前からだと思いますが、ちょうどその頃、私は大学教育系のFDセンターに勤めていて、仕事でそういう情報を集めていました。それを肯定的に受け止める方たちは「学生の居場所ができる」、あるいは「専門的学問への導入がスムーズになる」、途中退学してしまう学生を減らすという点での効果に注目されていたようです。他方で、批判的にみる人からは「それは大学がやることなのか」「大学教育にふさわしい、単位を付与してやるべきことなのか」という声もあって。結局、各大学が学生を見ながら判断することなんでしょうが、その対立状況はおそらく今も継続していると認識しています。



――八木先生にはご自身の研究体験と紐づけて考えるおられることもあるようですね。授業を追えた1年生に対して、率直に感じることはありますか?


八木先生 楽しそうでしたよね、学生たちは。それは確実に言えます。4年間を楽しく過ごせる学生の割合や、積極的に専門の学習に取り組める学生の割合が増えるなど、そういうものが数値として現れてくればうれしいですね。



――学生たちが楽しそうだった理由は何だと思われますか?


数藤先生 最初はグループをつくって無理やり友達状態にしたわけですが、その中で話をするのは楽しかったんじゃないでしょうか。誰もが絶対に答えられる話題が程よく用意されているので、とてもラクな気持ちでみんなとおしゃべりできて。私も先生方と事前研修で、簡単なお題について話して仲良くなるという学生と同様の体験をして楽しかったですから。


八木先生 私も同感です。



――初回にチームビルディングプログラム『自己の探求』を取り入れたことで、学生同士がコミュニケーションをとりやすくなった面はあると思います。例年の1年生と比べて、今年の1年生に何か雰囲気の違いなどは感じますか?


八木先生 私は1年の授業をもっていますが、他学科の学生も混ざっているので、比較するのは難しいですね。


数藤先生 例年との比較は難しいのですが、授業の回を重ねていく変化は毎回書いて提出されるものを見ていると、ちょっとずつ成長は感じますよね。



――どういうポイントに成長を感じるのですか?


数藤先生 初年次セミナーには、大学の学びの世界に入っていくとか、大学でのルールを知るとか、高校と大学の違いを知るという目標があるんです。授業を重ねるごとに学生の中で大学の学びへのイメージが変わってきて、自分が興味をもったことをもっと膨らませたいという思いが見えました。



――例えばどんな場面でそう感じましたか?


数藤先生 「問をつくる」というワークがあったんですが、すごくよく考えてくれて、そこが大きなステップになった気がします。みんなでコンセプトワークをつくるというワークでも、大きな紙にどんどん思考を広げていっているチームもあって。最初のうちはワークシートに表面的なことしか書けなかったところからの成長を感じましたね。



――個人で行う「ふりかえり」だけでなく、チームやクラスの中での「わかちあい」によって、「他の人はこんなことまで考えているんだ」に気づくことができて、次のふりかえりがより深くなっていく感じですね。


数藤先生 ワークシートにもしっかり書いていましたよ。「自分と違うこんな意見があるのもわかった」というコメントが増えていきました。



――次に、先生方のファシリテーター体験についてもお尋ねしてもいいでしょうか。今回は先生が2人1組のペアになって授業を担当されましたよね。通常の大学の授業ではあまりないことだと思いますが、お互いのファシリテーションについて何か気づいたことがあればお聞かせください。


八木先生 私は初めて数藤先生と一緒にお仕事させていただく機会をもらって、シンプルにとても楽しかったです。学生の様子を見て相談しながら一緒に授業をつくる体験だけでなく、学生がグループワークをしている合間に数藤先生の研究の話を聞けたのが個人的に楽しかったです。授業中なのにそんなおしゃべりをしていたというのはオフレコのほうがいいのかしら…



――数藤先生の研究の中身に興味を持ったのですか?研究へのアプローチの仕方が面白いと思ったんですか?


八木先生 両方ですね。画像解析という数藤先生の専門分野の中身を私がどこまで理解できたかといえば心もとないですが、知らない世界に知的な興味もありますし、問を立てたり関心を持ったりしながら試行錯誤するプロセスは、私も次はそんなふうにしてみようかなと思えて参考になりました。学生のグループ発表に対してこちらからフィードバックする時も、数藤先生のコメントに「ああ、そうだな」と思うことがたくさんあって、それも学びになりました。面白かったです。



――八木先生が学生を見る視点とは違う角度から数藤先生がコメントされていたということですよね。


八木先生 そうです。私は良くも悪くも「教育学的なものの見方」をするので。学生のコメントに対して数藤先生が「それすごいね」「そんなふうに感じるの、面白いね」とおっしゃるのを聞いて、私も面白さに気づかせてもらえることが多々ありました。


数藤先生 八木先生がおっしゃるように、私も教養科と情報科学科では視点がちょっと違うと感じていました。学生に対しても、それぞれがそれぞれの立場から声をかけるのですが、私と八木先生の間でも「ああ、なるほど」と感じることがあって。もちろん、同じ学科の先生同士でもそういうことはあるのですが、ちょっと専門分野が違うとなおさら面白くはありましたね。授業のスキマ時間に私たちがおしゃべりしていたこともオフレコでなくていいでしょうし、学生たちも「先生たちも楽しそうにしている」というふうに見てくれているんじゃないでしょうか。私も八木先生の研究内容がすごく興味深くて「学校についてこんなに突き詰めて考えられるんだ」と知ることができて楽しい時間でしたよ。



――最後の質問ですが、初年次セミナーのファシリテーションを経験したことによって、ご自身の担当されている授業に影響や変化があればお聞かせください。


数藤先生 私は授業で学生に「パソコンでもタブレットでも良いので、ノートをとりなさい」とすごく言うんです。プログラミングもコピペするのではなく、同じものでも自分の手で打ったほうがよくて、手を動かして考えることを大事にするよう伝えています。その点、初年次セミナーでは毎回よく練られたワークシートが用意されているので、そのフォーマットに書く良さもあるし、時には真っ白の紙に書いてもらう良さもあって、「手を動かして書く」ことの良さを学生も感じてくれたことと思います。私の担当科目は人数多い授業が多くて、初年次セミナーのようなことはできてないのですが、もう少しコンパクトにできる授業があれば、私もワークシートのフォーマットをつくって学生に書いてもらうというような方法は取り入れられるかなと思います。


八木先生 今は具体的にどう変えるということまでは言えませんが、自分以外の人が考えて計画したプログラムをやってみたことで、自分一人ではつくれなかったいろんな方法を学ばせてもらえました。授業方法は知っていればいるほど武器になります。ワークシートのつくり方もそうですし、問の立て方や時間の区切り方など、自分では思いつかない方法を知ったことで、これから授業づくりの発想が増えそうです。



※肩書・掲載内容は取材当時(2023年8月)のものです。



 

数藤先生と八木先生は、専門分野の違う教員で、東邦大学理学部の新たな初年次教育科目を通じて知り合ったお二人でした。そのお二人がペアとなってこの新たな初年次教育科目(=初年次セミナー)を担当されたわけですが、お二人からは新しい取り組みに対する好奇心や喜びのようなものを感じました。それは新たに担当する科目を通じてや、新たに担当する新入生の反応を通じて、ということもあるだろうと思いましたが、それ以上に、お二人がお互いから受ける刺激を楽しんでおられたのでは、とも思いました。すなわち、お二人がお互いの視点の違いや様々な出来事に対する反応の違いを、とても刺激的に感じておられるように感じたのです。インタビューの最中も、同じ質問に対するコメントの違いを、楽しんでおられるようでした。

このようなお二人の互いに対する反応は、恐らく授業の最中でも起きていたことでしょうし、それを学生も感じていたことでしょう。そのことが授業のライブ感を生み出し、学生の授業参画への動機づけにもつながったのでは、と拝察します。

初年次教育科目では、多くの先生が、同じカリキュラムで、ご自身の専門外のことを扱う場合が多いと思いますが、東邦大学理学部のような設計は、先生方のチームビルディングを促し、学生のみならず先生にとっても学びの多い場になり得ると感じました。




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