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【清泉女学院短期大学】連載1-4/学びを「補う&引き出す」ための初年次教育プログラム

更新日:2020年4月28日

2008年から『保育者養成のための初年次教育プログラム』をスタートさせ、特色ある教育を展開している清泉女学院短期大学の幼児教育科。学生にさまざまな体験の機会を提供すればするほど、教員の負担は増えてしまうのですが、実際現場で指導にあたる教員はどのように取り組んでいるのでしょうか。幼児教育科科長 西山薫先生に聞いてみました。





――30年にわたって清泉にいらっしゃる西山先生の目から見て、教員の方々の変化を感じることはありますか?


西山先生 クラス担任制だけやっていた頃は、担任をする若い先生と、そうでないベテランの先生とに分かれていて、すごく担任に負担がかかっていました。いまは全員が保育者セミナーでグループを担当するので、学生に対する視点が担任任せにならず、みんなで学生を見なきゃ、というふうに変わりました。教員それぞれの視点から学生を見るので、「そういう見方があったか」と、学生に対する教員の見方が多様になったし、それを共有しようとする雰囲気はでてきたと思いますね。それに、教員が学生を個人として見るようになったのは大きいんじゃないでしょうかね。



――学生を個人として見る、とはどういう意味なんでしょうか?


西山先生 以前は学生のことはクラス担任に任せて、授業ではクラス全体を風景として見ていました。

実は保育者セミナーのツールとして『マナバ』(教育管理システム)を使っているんです。それで毎回授業ごとに学生からの感想が届くんですが、われわれは、それに返信するようにしているんです。おかげで、学生が教員に面と向かって言えなかったことや、考えていることが分かるようになったんですよ。教員のほうも学生一人ひとりの違いや思考を見るようになったのは変化だと思いますね。

さらに教員の年齢構成比も変わって、60代1人、50代5人、40代2人で、30代が3人とけっこうバランスが取れているんです。若手の教員の中にはまったく保育者養成の経験がない人もいるんです。



――保育者養成に携わったことがないとはどういうキャリアになるのでしょうか?


西山先生 2017~2018年度に専門が体育、図画工作、国語の先生3人が入ってきたのですが、大学院を出たばかりとか非常勤講師をやっていたとか、学校教育とは関係があるけれど、みなさん保育者養成は初めてという30代の方でした。実習訪問をはじめ何から何まで初めてのことで大変だったと思います。彼らが私らと違うのは、感覚が学生に近くて、彼女たちをすごく肯定的に見ることですね。



――学生への向き合い方が、ベテランの先生は養成の視点になるけれど、若い先生は学生の関心や彼女たちができることにフラットに目を向けることができるということなんでしょうか。


西山先生 そうだと思います。私らはある種、思考が固まっているところがありますが、彼らはフレッシュでなんでも学生とやってくれるし、学生との関わりを通して保育者養成に大事なことを感じてもらえたらいいなぁと思っています。だから教員の年齢層のバランスって重要だと思いますね。



――ということは、意図してその年代の先生を採用したということなんでしょうか?


西山先生 めぐり合わせではありますが、将来的な世代交代を考えると、退職する先生が出たときに絶対若い人を採用しないと回って行かなくなるとは考えました。でも、年齢構成はなかなか意図的には変えられないですからね。その苦しみって、ほかの養成校にもあるんじゃないでしょうか。



――若い人が入ってきたことで、ベテランの先生へのなにか良い影響はあるのでしょうか?


西山先生 新しい先生に色々と伝えることによって、こちらが気付かされることはありますね。昨年から今年にかけて学科で議論しているのは、最低限必要なことと見直しが必要なこと。学科セミナー、表現コンテスト、卒業研究など、今まで同じようにやってきたことを、この際議論し直そうとしています。例えば学科セミナーは1年・2年全員で行く必要があるのかという問題提起から話し合い、結果的には2年の学びにするために全員で行ったほうがいいということになったのですが、そういう見直しを若い先生の率直な感想を聞きながらやっているところです。



――取り組みの意義が、「前年踏襲」ではなく、「これが大事だよね」というところに立ち戻れますよね。


西山先生 「これはなくてもよかったんじゃないか」と言われることもありますが、やめてしまったときの怖さはありますよね。たとえば「100の体験」は、道しるべとしてあったほうがいいのか?それとも、逆に義務になって、これをやっておけばいいと思われて学生のやる気を削いでいるのか?どうやって学生のやる気を引き出していけばいいのかというのは、永遠の課題になりそうです。



――初年次プログラムでの取り組みは、毎年『幼児教育科FD報告書』にまとめていらっしゃいますよね。報告書の中では、各先生の活動をオープンにして、みなさんで共有していらっしゃるようですが、こういう取り組みは昔からあるんですか?


西山先生 そうですね。それぞれの先生方が得意分野をお持ちなので、保育者セミナーでは各自の得意分野を生かしたグループ活動をしています。農作業をするところがあれば、味噌をつくるグループもあるし、とにかく山に連れていって活動するというところもある。私は個人の表現力を伸ばしたいので発表重視で取り組んでいるんですが、先生それぞれが大切に思うことを自由にやっています。全学年が集まってグループ別にどんな活動をしたかを発表する場も設けています。



――西山先生の学生時代の専門は「学校経営」だと伺いましたが、いま「学校経営」を考えるうえで大事にしていることは何ですか?


西山先生 限られた資源、スタッフを生かして学生の質を追求することです。質というのは、もともとの学生の質のことではなく、どれだけ伸びたか、どれだけ変化したか、その変化の割合というのがとても重要だと考えています。さらに、それに教員と学生が気づくこと。そして、私たちにできるのは卒業して社会に出てからも、自分で伸びしろを伸ばせる力をつけてあげることなのではないかと思っています。



――いまの幼児教育科で、学生たちはどんな場面で自分の「伸びしろ」をつくっているのでしょうか?


西山先生 学年間交流や学科セミナーなどで、2年生は1年生に何かを伝えたり教えたり、聞かれたことに答えたりアドバイスをしたりすることを通して学べることは多いと思います。人となんらかの関わりをもち、サポートすることは、自分自身を振り返り、自分を高める機会になっていると感じているんじゃないでしょうか。それって現場に出てからも同じで、先輩・後輩、あるいは子どもや保護者とのやりとりが、自分を振り返る機会になっていくと思うんですよね。



――なにかやったあとに振り返ることが学びを深め、「伸びしろ」になるということなのでしょうか。


西山先生 振り返りは大切といいつつも、時間が足りないのがジレンマでして。授業中にはそんな時間を取れないですし、学生に授業のあとで自分で振り返りをしなさいといってもやらないですし。



――4年制大学と違って、2年間だとカリキュラムはタイトですし、入学の翌年から就職活動も始まりますしね。


西山先生 そう、あれもやらなきゃこれもやらなきゃと学生は流れ作業でやりますからね。入学前に行う『自分発見セミナー』(『自己の探求』プログラム)や、12月に行う2日間の『ファシリテーターセミナー』では、十分振り返りの時間を確保しているので、深く自分を振り返って考える機会になっていると思いますね。



――忙しいなか、2年間で実にたくさんのプログラムを実施されていますね。


西山先生 全国保育士養成協議会の全国大会で本学の取り組みを発表したら「そんなことをしたら大変でしょう」と言われましたよ(笑)。人員も時間もギリギリのなかでやっているので、もう少しスマートにやっていくことも考えないといけないとも思っています。



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 学生育成のゴールをどこに置くのか。

神戸常盤大学の中村法人本部長の話にも出てきましたが、今回西山先生の話からも同じテーマが出てきました。結婚・出産・転職・昇進などなど20代~30代の卒業生の様々なライフステージから考えて「保育者養成を通して自分で生き抜いていける力や、自分で自分を高める力を身につけさせる」「システマティックに金太郎飴のような保育者を育てるだけじゃなくて、卒業後の人生を自分で組み立てていける力を学生に身につけさせ、保育者養成校として他校との差別化を図る」と言うお話がとても心に残っています。その目標の実現のために、今の学生に足りない“体験を補うリメディアル教育”を、様々な仕掛けを作って推進しておられることがよくわかりました。

 一方、色々な取り組みは負担にもなります。しかし、学生や教員の負担軽減という視点だけでなく、「学生が自主的にやってくれて、こちらが安心して任せられる場面をつくる」という考え方も参考になると思いました。そのために西山先生が心を砕いているのは、学生だけでなく先生も「楽しい、もっとやりたい」と感じて、やる気や能力を引き出す仕掛けを作っていく、と言うことなのだと感じました。


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