清泉女学院短期大学の幼児教育科では、特色あるカリキュラムのもとで保育者養成を行うため、2008年より『保育者養成のための初年次教育プログラム』をスタートさせています。入学前の『自分発見スタートセミナー』に始まるさまざまな学びの場を学生はどのように受け止め、成長しているのでしょうか?現在2年生でクラス委員を務めるMさんに自らの体験を振り返っていただきました。
――保育士になりたいと思ったきっかけを教えてください。
Mさん 母が保育士なんです。小さい頃から母の仕事やボランティアについていっていたのですが、母の楽しそうに働く姿を見て自然と「保育士の仕事はいいな」と思い始めたからです。
――清泉を選んだ理由は?
Mさん オープンキャンパスに来たときに、先輩たちが楽しそうにしている姿に、明るくて温かい雰囲気を感じたことと、100の体験など学校独特のプログラムに魅力を感じたということもあるんですが、一番の決め手は保育士の母から清泉がいいんじゃないかと勧められたことです。
――これまでにMさんが清泉で体験してきたことに対して、どんな風に感じたか、考えたか聞かせてほしいと思っています。まずは、入学前の3月に『自分発見スタートセミナー』(自己の探求)を受けたことは覚えています?
Mさん 覚えています。実は参加する前はすごくイヤだったので(笑)。私の地元から清泉に進学する人は少ないので、全く知らない人と会うこと自体がイヤでした。しかもすごく長い時間一緒に過ごして何かをやるというので、緊張とか不安とかがあって、行ってからも、最初はイヤだなと思ったりして。でも、周りの人と話すことが多いプログラムじゃないですか。色々話しているうちに、みんなも不安なんだということがわかったり、これから頑張ってみようと思えたり。最後にプレゼントカードをもらって、こうやって見てくれてる人もいるんだとか、自分のこういうところがいいんだっていうところを知れたのは覚えてますね。
――Mさんは1年生のときからクラス委員をやっていたそうだけど、立候補したんですか?
Mさん 立候補者があまり出なかったので、オリエンテーションの時に知り合ったクラスの友達とやろうか、ということになって手を挙げました。
――高校までにクラスをまとめるような体験はしたことあったの?
Mさん 中学で一年間、ルーム長を務めたり、小学校・中学校でも委員会の委員長や副委員長を務めたことはありましたね。
―― クラスのまとめ役を務めることになって、大変だったのはどんなことですか?
Mさん 10月の表現コンテストに向けて、入学して間もない6月頃から準備を始めるのですが、その頃はクラスがまだバラバラで、50人で何か一つのことをやるのは難しい状態でした。どんな作品にすればいいのかも全くわからず、一から自分たちで考えなくてはいけなくて、ちょっと大変でしたね。
――大変な思いをしたにも関わらず、2年生になってもクラス委員を続けることになったのは、なぜですか?
Mさん みんなが推薦してくれたからということもあるのですが、周りの人が「Mさんがこうだからすごい」とか「Mさんがこうだからみんなが協力するんだよ」と、言葉にして伝えてくれたんです。あんまりしゃべったことがない人からも、そんな風に声をかけてもらえて。大変なときもあるんですけど、そういう言葉を伝えてくれたり、寄り添ってくれるみんなの温かさを感じられているので、2年生になってからも頑張ろうと思って引き受けました。
――寄り添ってくれる人が自然と出てくるのが清泉の良いところですよね。
Mさんは『ファシリテーターセミナー』を受講していますが、どうして受けようと思ったのですか?
Mさん 「いろんな人の意見を聴く力がつく」と聞いたからです。人とコミュニケーションをとる中で、自分のためになると思ったので受講してみたい、と思いました。
――人とのコミュニケーションに興味関心があるんですね。
Mさん クラスの中で話すときもすごく人の表情を見るように意識しています。この人、いま絶対納得いってないよな、とか。こういう想いがあるんじゃないかな、と。人との関係でうまくいかない体験もしてきたから、その想いに寄り添いたいと思っています。
――『ファシリテーターセミナー』で印象に残っていることは何かありますか?
Mさん そのときは、あまりしゃべったことない他クラスのコと同じグループになったのですが、みんなが私について考えてくれていることを知ることができて嬉しかったです。それに、「短い時間だったけど、自分が成長できた」と話してくれた人がいて。相手の話を聞いて、少し会話をしただけなのに、人ってそれだけで勇気になったり、心境が変わったりするんだと驚いたし、ここでの経験をそんな風に思ってもらえてうれしかったです。
――『ファシリテーターセミナー』の受講者は、新入生の『自分発見セミナー』のファシリテーター役を務めたと思いますが、Mさんはどんな気持ちで臨んだんですか?
Mさん 自分が体験したときに、最初はイヤで不安だったので、そういう気持ちに寄り添って声をかけたらどうだろうと思って臨みました。あまり話せずにいる子もいるのですが、そういう子も絶対何かを伝えたいはずだから。そういう気持ちに寄り添って、ちょっとでも素(す)の自分を出してもらえるように声をかけるようにしました。
――事前に『ファシリテーターセミナー』で学んだことで、当日活かせたことはありましたか?
Mさん “聴く”ことでしょうか。まずは受け止めて、自分が素(す)で話せば、きっと向こうも素を出してくれると思って接するようにしましたね。
――保育実習で印象に残っていることがあれば教えてください?
Mさん 実習担当の先生に言われたことが印象に残っています。幼稚園実習の実習評価のときに、「自分の弱い部分が実習でも出てしまっている」と指摘されました。
――自分の弱い部分というのは?
Mさん 最近自分の中で、「自分の想いより周りの想いを大切にしなきゃ」という考えが強くなっていて、相手への言葉や態度をすごく意識するようになっているんです。そういう時の喋り方がそのまま保育園とか幼稚園に行ったときにも出ているみたいで。クラスの前に立つときの話し方や声のトーンは、自分を抑えるだけではダメで、園の先生には「もっと声を出したほうがいい」と言われ、学校の先生にも「あなたにはもっと自分の想いを言える部分もあるから、自分を見失うな」と指摘されました。
――それは思い当たる節があるんですか?
Mさん そうですね。短大で学科委員として人の前に立つようになってから、相手の想いに敏感になったと思います。先生には「学科委員であることにとらわれ過ぎているんじゃないかな」と言われました。
――あなたはこんなふうに見えているよとボールを投げてもらえる機会が多いということですよね。それを聞いて落ち込んだり嬉しかったりするだろうけど。
周りに自分のことを見てもらえる環境にいることで自分の変化ありますか?
Mさん 身近で見てくれている友達が、私のいいところを言葉で伝えてくれるのが嬉しいこともあれば、先生や友達が率直に感じたことを話してくれたときに自分の弱いところを突かれたと感じることもあって。私が人の話を素直に受け止めてしまう面があるので、気持ちの浮き沈みが多くなっているのかもしれないですね。いろんな人がいろんなことを発信してくれるので、自分が言われたことに対して、時には、そういう考えもある、と思えたらいいんですが。
――Mさんは周りの人の気持ちにもよく思いを巡らせていますよね。クラスの行事や授業を通して多様な人間関係を学んでいるように見えます。そういう体験はきっと社会に放り込まれたときにも生きてくるんじゃないかなぁ。
Mさん クラスのない学校も多いようなので、他校に比べると人間関係は濃い環境かもしれないですね。
――「人間関係はいいことばかりじゃないじゃない」ということすら受け止められるようになっているように見受けられます。
Mさん 実習先で指導を受けた先生とは、最初は、緊張してあまり話せなかったのですが、反省会などで話しているうちに、その先生の人柄が見えてきて、考えていることや想いが伝わってくると、私の想いも受け止めてくれると思えるようになりました。最初は緊張してしまう相手に対しても、その人たちの中にも温かさや優しさがあると信じているんです。それは学校での沢山の人との関わりの中で人の温かさを日々感じられているおかげかなと思います。
――次は周りの人をたてながら、自分の意見も通すというのが課題になるのかもしれないですね。将来はどんな保育士になりたいか、イメージしている姿はありますか?
Mさん 子どもと一緒に心を動かせる保育士。子どもが目を輝かせているときに、自分も一緒になって目を輝かせられるような保育士になれたらいいなと思います。
授業や実習で子どもの様子を見たり関わったりしたことで、自分のいろんな感情を実感できました。子どもにこんなことがあってすごくうれしかったとか、こんな表情していたとか、そういうことを話しているときの自分が楽しくて。改めて保育士になりたいという意欲が高まってきているところです。
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『周りの人が「Mさんがこうだからすごい」とか「Mさんがこうだからみんなが協力するんだよ」と、言葉にして伝えてくれたんです。』
2年生になってもクラス委員を続けようと思ったMさんから出てきたエピソードです。これは所謂フィードバックです。
清泉女学院短期大学の幼児教育科が、学生の日常の活動の中でこのようなフィードバックが起きるコミュニティであると言うことに、私はとても驚きました。このようなフィードバックは通常、かなりチームビルディングが進んだ組織(コミュニティ)でないと起きません。清泉女学院短期大学の幼児教育科の教育の仕組み自体が、学科全体のチームビルディングを進める構造になっている証だと思いました。そしてそのチームビルディングが、授業の中だけでなく日常の中でも、学生どうし関わりをより深いものにし、成長を促しているとも感じました。
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