国家資格取得のために法律で定められたカリキュラムにとどまらず、初年次からスタートするさまざまな教育プログラムや実習、行事で学生の自主性を伸ばす教育に取り組む清泉女学院短期大学。濃密な2年間を過ごす学生のそばには、彼女たちの活動に伴走し、意欲を引き出そうとする教員のファシリテーションがありました。クラス担任として学生に寄り添う幼児教育科 専任講師のニ方龍紀先生に、同大ならではの学びの特色についてお話を伺いました。
――4年制大学と短大はどんなところが違うと感じていますか?
ニ方先生 短大は2年間しかないので、すごく濃密だと思います。僕は大学院まで行ったので、いろいろなことに関心をもって、自分が興味を持ったことを勉強し、追究する時間的余裕がありました。でもここでは入学時から保育者になると決めている学生が多くて、そう考えると、ある意味、入学してすぐに、自分の目指すゴールが見えているわけですよね。目標がはっきりしているのが特徴ですね。
多くの大学にはクラスというものがないと思います。最初、クラス担任を勤めることになった時は、自分の大学生活の中では「クラス」も「担任」もいなかったので、戸惑った部分もあったのですが、取り組みながら、少しずつ慣れてきた感じです。
――ここに着任してからの7年間で担任は何回されたんですか?
ニ方先生 僕は今は2回目で、2年生の担任をしてます。初めて取り組んだときには、行事がいつあるかは知っているけど、そのためにはいつから、どんな準備が必要かもわからなかったので、2年間通して経験して、こんな流れになるんだとわかりました。
――いま、1回目の担任の経験が活かせていることはありますか?
ニ方先生 最初、担任をした時は、クラスの行事等の運営でも、どこまで関わったらいいかわからなかったので、何でも口出ししてしまった気がします。でも、今はクラスの運営については、学科委員を中心とした学生の自主的な取り組みに任せる部分も増やしています。
――心配な気持ちと任せる気持ちの線引の難しさ、ありますよね。
行事の多さや、初年次教育プログラムの充実といった清泉ならではの保育者養成が、学生にどのような影響を与えていると思われますか?
ニ方先生 2年間の中で、現場での実習と大学での学びの双方から刺激を受け、それを繰り返すことが、学生の自信につながっていると感じています。
例えば僕の授業では、実習で学んだことをコメントペーパーに書いて提出してもらい、それを全員に共有しながら進めています。行った先によって感じることや学ぶことは違うんですが、実習は2週間しかないので、1人が経験できることは限られています。でも、せっかくみんな一緒に勉強しているんだから、100人それぞれの経験を共有したほうがいいと思うからです。「子どもたちに、こんな風に関わったら喜んでくれた」とか「担任の先生がこういう風に工夫して関わったら子どもはこう変化した」とか、保護者への対応についても「先生はこんなふうに工夫していた」というようなことをコメントペーパーに書いてもらうんです。集めた中から20人分くらいのコメントを選んで、僕の方で(学生の名前は書かずに)匿名のコメントとして、パソコンで打ち直してスライドをつくり、授業ではそれを紹介したり解説したりしながら進めています。これを15回の授業で繰り返していくと、経験に厚みができるんです。もし経験しっぱなしだったら、「楽しかった、こんなことあった」と思うだけで記憶から薄れてしまうと思うんですが、体験を授業に持ち帰って、咀嚼し、整理しなおして、「あれはこういう意味のある経験だったんだ」とわかると刺激になりますよね。
なかには「こんなことをできる人がいるのに私は全然できないからどうしよう」と思う学生や、「自分もなにか感じなければいけない」とプレッシャーを感じる学生もいるかもしれません。でも、保育者になるという同じ目標に向かう100人のチームは、実習と授業と行事の繰り返しのなかでお互いの経験を共有しあう仲間であり、最終的には就職試験で競い合うことになるかもしれないライバルでもあるわけです。そういう点では、「自分も負けていられない」という競争意識が働くのもいいところなのかなと思います。
行事でも、お互いの良いところが見えて、「あのコはリーダーシップがとれる」とか「私もこうしなきゃ、こうしよう」とか、濃密な関係のなかで切磋琢磨しあっているように見えます。そこでの教員の役割は、学生の相互の学びをつなぐなどの“交通整理”という要素も大きいと思います。
――いわゆる“ファシリテーション”ですね。個人の経験や気づき、学びのわかちあいを促進させる役割を教員が担っている、と。それによって、一人ひとりの経験の厚みが増し、自分が経験したことへの意味づけも自分でできるようになるんでしょうね。
先生のお話を聞いていると、初年次教育にとどまらず、「2年間で大イベントを仕上げている短大」という感じがしてきました。
ニ方先生 そうかもしれないですね。入学案内には2年間を『駆け抜ける』という言葉で表現されていますが、僕はここに入ってきて、その濃密さを感じて、「これが『駆け抜ける』ということか」と思いました。
――巣立っていく学生や社会で活躍している卒業生は、ここでの濃密な2年間を駆け抜けてどのような力を身に付けるのでしょうか。
ニ方先生 いろんな学生がいるので、100人全員が身につけていると断言するのは難しいのですが、職場に入れば自分以外の他の先生と関わる力は大事ですよね。先生方(大人)と関わりながら、子どものために何ができるかを共に協力して実行する力は、この学校での学びの中で身に付けて欲しいと思っています。学生の中には、就職した後、「職場の先生と人間関係つくるにはどうしたらいいのか」と心配する学生もいますが、それに備えた一種のトレーニングをここでやっているのではないでしょうか。
県内の保育園・幼稚園には清泉出身の先生方がたくさんいらっしゃいます。学生の頃からみんなでチームを組んで、喧々諤々しながら実習、行事、座学を繰り返し、いろいろな経験を積んだことが現場でも活かされているのではないかと思っています。
――これだけ濃密な時間を過ごした場所だと、社会に出て困ったときに先生方に相談しに来る卒業生も多いのではないですか?
ニ方先生 保育者は平日は仕事が入っているのでなかなか来られないこともあるのですが、後輩や先生に会いに来る卒業生はいますね。授業とは別に、サークル活動もやっている学生もいるので、そこでの人間関係が社会に出てから生きるということもあると思います。
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