帝京大学では2000年代半ば以降、就職氷河期に社会に出る学生のサポートの一環として、就職活動に特化したゼミ形式の科目「キャリアデザイン演習」を開講。担当講師は7名で、学生は自分の興味・志望分野に合わせてゼミを選択、受講しています。現在、キャリアサポートセンターのリーダーを務める大葉勇一さんは、チームビルディングを就職活動に取り入れることで学生に現れる変化を見て、体育会のリーダー研修での組織づくりにもそれを活かすことを思いついたそうです。入職以来さまざまな立場から学生を見つめてきた大葉さんは、いかに彼らの成長を後押しする企画を考え、実践しようとしているのでしょうか。
――大葉さんは長年、キャリアサポートセンターに所属しておられますが、一時期、学生サポートセンター(学生課)にいた際にはクラブ活動のリーダー研修に弊社のチームビルディングプログラムを取り入れてくださったと聞いています。その時は、どんな視点からチームビルディングを導入されたのでしょうか?
大葉さん 学生サポートセンターでは組織づくりを目的としたチームビルディングプログラムを実施してもらいました。当時本学には体育会の部が27団体あったのですが(2022年度は28団体)、そのキャプテン・副キャプテンと中心となる学生を集めてプログラムを行い、目標の設定や発信などを行うことに活用したのです。
――部活動の幹部交代の時期にリーダー研修を実施する大学は多いですが、帝京大学さんでも、以前から何らかのリーダー研修は行なっていたのでしょうか?
大葉さん コロナ禍以前は2泊3日の合宿形式でリーダーズキャンプを行っていました。体育会でも、特に強化クラブの学生などは、つながりのあるコミュニティは部内だけという人が結構多いので、仲間とのヨコのつながりや連協の強化を目的にしていたんです。その他にも、スポーツ心理学やテーピング論といった内容を取り入れていました。
――リーダー研修にチームビルディングプログラムを取り入れてみようと思った理由は何ですか?
大葉さん クラブの中でもメンバーの温度感はすごく違うんです。ラグビー部や駅伝競走部といった強化クラブは、個々が明確な目標に向かって努力し続けることはできても、それをまとめる力や、チームとしての力に変えていくのが難しいことが多いんです。それを研修を通じてさらにブラッシュアップできたらいいなという期待がありました。また、強化クラブではない一般のクラブについては、キャプテンが一部昇格や二部昇格を目指したい、優勝したいと思っていても、他の部員が本気でついていくかというと決してそうではないこともあります。もちろんレベルの高い・低いもあるでしょうけど、せっかく同じクラブにいるのであれば、同じベクトルで活動に取り組んでほしい。みんなをそういう方向に促す方法をリーダーが学んでメンバーに浸透させていってほしいという期待もありました。コロナによって合宿形式での開催ができなくなったこともあり、チームビルディングを目的としたプログラムに変更して、導入1年目はオンラインで行い、翌年は対面で実施して、1年目にはできなかったふりかえりも行いました。
――チームビルディングを目的とする研修を受けた学生の様子は、宿泊研修時代とは違って見えますか?
大葉さん 2泊3日でやっていた時は、キャプテン同士悩みを連絡しあえる関係をつくるなど、ヨコの連携強化を目的としていたこともあり、つながりは強くなりましたが、組織づくりについてそこまでできてはいませんでした。ですが、チームビルディングを行ったことで、自分のなりたい姿を言語化して主体的にメンバーにも発信していくことはすごく大事なのかなと思いました。
――大葉さんからご覧になって、チームビルディングをきっかけに運営がうまく進みはじめたクラブはあるのでしょうか?
大葉さん 属しているリーグも下位で、とりあえず競技を楽しむだけというようなクラブもあるんですが、それなりにメンバーの意識変化はあったように感じます。自分たちが今いる環境を客観的に理解して、そのために何をすればいいかを考えたり、勝つことにそれほど意欲的ではなかったクラブが目標を再設定してみたりという姿が見られました。また、目標をしっかりと持っている強化クラブでも、改めて向かうべき方向性を明確にしたうえで、自分たちがリーダーとしていかに組織を動かしていけばよいのかを理解してくれたように思います。
――チームビルディング後のクラブ全体の様子を見て、大葉さんのねらいはどの程度達成できていると感じていますか?
大葉さん 残念ながら、ねらいを達成できているクラブとそうでないクラブがあり、到達目標100に対して70くらいでしょうか。そういう現実も受け止め、アプローチのしかた、実施形式をもっと考えて、こういうものは継続してやっていかなければならないのかなと思います。
――私たちにチームビルディングを教えてくれた北森義明先生の著書には「チームビルディングの要素は、自己理解と相互理解と目標統合である」と書かれています。今の大葉さんの話を聞くと、強化クラブであれ弱小クラブであれ、目標統合に向かっていったように感じられました。
大葉さん そうですね。今までは、なんとなく口先だけで「勝とうよ」と言っていても、どれだけのメンバーが本気で思っていたのかわかりません。それをもっと違う表現の仕方でチームとして共有できて、今までは漠然としていた目標を明確にできたという点はよかったのではないかと思います。
――大葉さんは入職以来、キャリアサポートセンター、学生サポートセンターでさまざまな立場から学生の成長を見守り、成長を後押しする企画を考え、実践してこられましたが、学生が成長するのはどんな時だと思いますか?
大葉さん 何でもいいので、何か一歩踏み出した瞬間ではないでしょうか。頭でわかっていても一歩踏み出せない学生が多いんですが、失敗しようが成功しようが、結果が出ればそれが次のチャレンジにつながります。チャレンジできる環境から成功体験の積み重ねをしていくのが成長につながるんだろうと思います。
――キャリアセンターのリーダーとして、大葉さんは今後どのようなことに力を入れたいと考えておられますか?
大葉さん すでにある就職サポートの年間のスケジュールを大きく変えることは考えてはいません。それよりもわれわれ職員が今まで見きれなかった数字なども丁寧に見ていきたいと考えています。たとえば、本学のキャリア支援のイベント数はそれなりに多いのですが、回数が多ければいいのかといえば、必ずしもそうではない。八王子キャンパスには1学年4000人近くの学生がいるのに、参加者が100人しかいないイベントもやるべきなのか?「とりあえずこのイベントをやっておこう」と実施したのではないか?と、キャリアサポートセンターのメンバーに考えてみてほしいのです。もちろん細かくやらないといけないカテゴリもありますが、イベントは目的や対象者を明確にしてメリハリをつけて開催し、結果の数字を細かく見ていくことが、学生1人ひとりへの支援につながると考えています。
毎年、動き出しが早い学生・遅い学生がいるのですが、これまでは動き出しが遅い学生に対するアプローチが十分届いていなかった面もあると思うんです。動き出しは遅いけれど、キャリアサポートセンターを使って動いてくれるのなら最後まで私たちが面倒をみられるのですが、今はそういう学生をしっかりキャッチしきれてない面もあります。そこで、今までにない取り組みとして、教員との連携強化を図ることで学生の動きをキャッチすることを始めました。
――教員との連携強化とは具体的にはどんなことですか?
大葉さん 他大学では当たり前なのかもしれませんが、例えばゼミの中での進路状況の確認を行うといったことですね。お恥ずかしい話、本学ではまだそれをしっかり徹底できていませんでした。ですが今回は、キャリアサポートセンターから先生方にお願いするだけでなく、組織として・大学として実行していくのだということを経営者からもメッセージとして発信してもらえたんです。これを八王子キャンパスの全学部で展開できるようになった影響は大きいだろうと思います。授業を通して学生の状況をつかめば活動している学生をしっかりキャッチできて、支援対象者としてフォローできるのかなと考えています。
※肩書・掲載内容は取材当時(2022年9月)のものです。
今回は、帝京大学の就職活動に特化したゼミ=キャリアデザイン演習について、同大学のキャリアサポートセンターの宮田さん、大葉さんのお二人にお話をお伺いしました。就活に特化したゼミ活動と言うのは、とても有意義な取り組みだと思いました。帝京大学では、トップランナーの育成として2007年からこのゼミ活動を始められたということでした。スタートしてから15年。次回からは7つのゼミの中でもチームビルディングを中心にしたゼミ活動を行っている一つのゼミに着目して、さらに掘り下げて聞いていきたいと思います。
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