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初年次教育は、誰が、何を、どのように、するのが望ましいのか?【東邦大学】連載1-2

更新日:2023年10月17日

東邦大学理学部では、十数年前より新入生向けに弊社のチームビルディングプログラム『自己の探求』を活用していただいています。初年次教育改革を行い、2023年度入学者から総合教育科目「初年次セミナー」をスタート。導入パートでチームビルディングプログラムを実施し、その後、学部教員によるファシリテーションで授業が行われています。初年次セミナーのシラバスをつくり、FDで教員へのファシリテーション研修を主導するなど、科目立ち上げの中核を担ったのが、大学の教育開発センターでセンター長としてさまざまな教育企画に携わっておられる千葉 康樹先生(東邦大学 理学部教養科 教授)です。前例のないカリキュラムをその分野の専門でない教員に担当してもらうことになりましたが、新たな試みに理解を得るまでにハードルはなかったのか?大きな改革を実行するプロセスで千葉先生が考えていたことを聞いてみました。





――初年次教育改革に「人間関係づくり」が大事だと考えるに至った経緯を教えていただいてもいいでしょうか。


千葉先生 なぜそう思ったんでしょうね。ここでお話できるような明確なきっかけがあったかな?という感じですが…



――私は「動機づけでもっとも重要なことは自律性・有能感・関係性」であるとする、デシとライアンの「自己決定理論」に通じる発想のように感じます。一例では、関西国際大学の濱名先生たちが2003年~2006年に実施したパネル調査によると、人間関係の適応と学習の適応がすごく相関があるというデータが出ています。(文部科学省大学教育部会第8回(2006)資料10「初年次教育の現状と課題-“移行”問題を中心に-」)さまざまな研究結果から、学びに向かうには、友達づくり、というか、人間関係の充実が必要なんだろうと類推できます。


千葉先生 私自身には、学生同士の学び合いをもっと増やしていきたいという気持ちがあるんですよ。ここ十数年、ピアサポートのようなものを組織化しようとか、学生同士が互いを高め合う協働学習を設計したいとかいった話を、学部内のいろいろなところでしてきました。初年次セミナーでは、学習スキルを学ぶワークがいくつか入る予定でしたが、チームでの活動になるような形式にして、協同して学び合えるようにしたかったのです。単に仲の良い関係をつくるのではなく、勉強のうえで協力しあえる関係をつくりたいと思っていました。



――初年次セミナーを始めるにあたって、「どんなプログラムにするか」という課題と、「担当の先生にどのようにファシリテーションしてもらうか」という課題があると思いますが、千葉先生がご苦労されたのはどのようなことですか?


千葉先生 まずは、プログラムを決めるのが大変でした。2022年夏にファシリテーション研修をやるまでに、いったん素案を作りましたが、その後も何度も修正を重ねました。結局1年半くらいずっと練っていましたね。それが一番しんどかったですね。



――内部でいろんな意見がでて調整していった感じですか?


千葉先生 いろいろな方から意見をいただき、何度も授業案をつくり変えました。最終的に他に2人のメンバーに入ってもらって力を貸してもらいました。私だけではつくれなかったと思います。



――プログラムの設計については弊社も参加して、千葉先生とも対話させていただきましたが、お役に立てましたでしょうか?


千葉先生 ラーニングバリューさんには相談したり意見をもらったりして助けていただきました。実際に使わせてもらったアイデアもあり、リアルにありがたかったです。自分だけで考えているとだめなんですよ。相談しにいって話を聞いてもらった方が頭も回りますし、アイデアも出てくるので。



――プログラムの設計において、チームビルディングの構造を取り入れてはどうか。そんな話をさせてもらった記憶がありますが、どのように感じられましたか?


千葉先生 どこでどんな感じにチームビルディングを取り入れていけばいいか、具体的に見えてきた面はありますね。



――ありがとうございます。実際に授業を担当する先生に、どのようにファシリテーションしてもらうか、という課題についてはどんな対策をされたのでしょうか?


千葉先生 ラーニングバリューさんにも相談して、科目を立ち上げる前年の夏にFDでファシリテーション研修を行いました。その時点では誰が教壇に立つか決まっていない状態だったわけですが、研修は早めにやったほうがいいと思っていました。また、研修をすることで授業開始時までに何をすればいいか、見えてきた面もありました。



――ファシリテーション研修と銘打って理学部の先生方に集まっていただき、FDをしたのは2022年9月でしたよね。プログラムの詳細も担当者も決まっていない中、千葉先生はどのような思いで研修に臨まれたのでしょうか?


千葉先生 実は科目をつくることもまだ正式に決まっていなかったんです。ただ、ワーキンググループで科目案はある程度煮詰まっていたし、学部への中間報告もしていたので、初年次セミナーを行うことへの学部からの反対はなかったと思います。そうした段階にあったので、このときは「自分たちでこの科目のファシリテーションをやっていくんだ」というメッセージを伝えたい気持ちがありましたね。



――科目担当は決まっていないけれど、まずは全体で取り組んでいこう、ということで設定された研修だったのですね。


千葉先生 ファシリテーションのスキルは、初年次セミナーだけでなく、いろんな授業で使ってよいのです。専門科目の講義であっても、昔からファシリテーションのスキルを使っていた人は、いるわけです。専門科目でファシリテーションを使う場面が比較的少ないのは事実ですが、教員と学生の双方向のやり取りや、学生同士で作業をする場面はもっと増えていいだろうと思います。そういう意味でも、多くの教員がファシリテーションを実地に学ぶのは意味があるだろうと思います。



――千葉先生が十数年前に学生にキャリア教育科目を始めた時から、その裏では、専門教育を前に進めるために全教員でファシリテーションの考えかた、やり方、スキルみたいなものを少しは学んでほしいという目的ももっていたということでしょうか?


千葉先生 そうですね。そういう思いもありました。しかし、単発でファシリテーション研修をやっても、研修参加の動機づけは弱いだろうと思います。今回は、初年次セミナーで使うスキルでもあり、いつ誰に科目担当が回ってくるかわからないので、わかりやすく「みなさんやりましょう」と言えました。



――ファシリテーションの力を必要とする新たな初年次科目を、誰が担当することになってもいいように、という目的だったわけですね。動機づけに十分だと思います。そうして2022年9月にFDでファシリテーション研修を行い、千葉先生方が苦労して初年次セミナーのプログラムのシラバスをつくり、2月から3月にかけて、1日半にわたって科目担当の先生向けの研修を行いました。ちなみに、科目担当の人選はどのように決めたんですか?


千葉先生 各学科に任せました。自分で手を挙げた人もいるかもしれないし、周りから依頼されて引き受けた人もいたかもしれません。



――私にとっては思い出深い研修になったのですが、千葉先生はどうでしたか?受ける前と後で先生方の変化は感じていますか?


千葉先生 みなさん、いよいよ本番が近づいた、という意識にはなったと思います。いやでも4月になれば授業は始まるし、「あなたが関わらないとこの授業は成立しない」というのがはっきり伝わったかなと。研修の1ヶ月前には授業のマニュアルの完成版もお渡ししましたし、研修がイヤだという先生はいませんでした。実際、担当になった方は研修があって安心できたのではないでしょうか。



――研修を設計する際は、先生同士が助け合うようになることを心がけましたが、その辺りについてはいかがだったでしょうか?


千葉先生 研修の場ではできていたかなと思いますが、授業運営全体を通じてどうだったかは、授業が終わったばかりなのでよくわかりません。今後ふりかえりはしますが、何をもって教員がチームとしてよくできたといえるか、どのように評価したらいいのか、難しいですね。私自身、全学科の授業を見ているわけではないですし。ただ、授業の途中段階で、教員からいろいろな案が出てきましたね。



――担当の先生方から?


千葉先生 はい、授業の個々の場面では、情報交換はできていたと思います。例えば、私がメンバーになった学科では、教室が隣だったので、ちょくちょくお互いに授業の様子を見に行って情報交換するということはやっていましたね。そういう意味では、教員もチームとして機能していたのかなと思います。



――春のファシリテーション研修で千葉先生が印象に残っていることはありますか?


千葉先生 2日目にロールプレイ(模擬授業)をしたところですかね。準備の時間がない中、ロールプレイをした人は本当に真剣に取り組んでくれました。このロープレはすごく効果があったと思います。あの6人があれだけ本気でやってくれたのは大きかったです。


※肩書・掲載内容は取材当時(2023年6月)のものです。


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