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技術者にも社会人基礎力は必要か?これからの工学教育の在り方を模索する【広島工業大学】連載1-3

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連載第1回、第2回では、広島工業大学の工学部電気システム工学科における新入生オリエンテーション改革から学生プロジェクト「HIT-ALPs」の誕生へのプロセスについて川原耕治先生(工学部 電気システム工学科 教授)に話を聞いてきました。学生が「与えられる学び」から脱却し、主体性を育むための機会提供は、少しずつ学科に変化をもたらしているようです。川原先生の最終話では、少子化が進む現代において、大学が学生にどのような価値を提供していくべきなのかという根源的な問いにも迫っていきます。

 


 

――新入生ガイダンスで「自己の探求」を実施するようになって、学科は活性化してきた印象はありますか?


川原先生 明確にいえるようなものがあればいいのですが・・・僕が感じる1番大きい変化は、大学に慣れるのが早いということでしょうか。学生番号の近い人とグループをつくるので、4~5月の授業の立ち上がりが早いっていう感じはしますよね。

特にその時期の1年生は「社会実践科目」という勉強以外の授業があるのですが、そこで意見をまとめたり聞いたりとかする時に、最初からグループに知り合いができているので、そういった授業はやりやすい感じはします。

 

 

――学生さんの大学適応がスムーズになったようですね。ところで、「社会実践科目」がどういう科目なのかについても解説していただけますか?


川原先生 「社会実践科目」にはたくさんの科目があり、座学というよりも、実験とか実習をベースにした内容で、1年次に「社会実践の基礎」で、2年次に「社会実践の応用」という構成になっています。クオーター制で行うのですが、第1クオーターは、1年次では大学で必要な基礎的リテラシーを、2年次では実験レポート作成といったより高度なリテラシーと将来を見据えたキャリア教育を学びます。第2クオーター、第3クオーターでは電気実験をやって、第4クオーターではプログラミングによる電子工作で自走式のライントレースのようなものをつくります。実験もプログラミングも2人1組などグループを組んで行います。

 

 

――科目のねらいは何ですか?


川原先生 まずは実習や実験をやってみる、まずは自分で動いて確かめる、理論はあとからついてくる、ですね。1回経験をした上で理論を学ぶ。経験に基づいて学ぶと理論を理解しやすくなるだろうということをねらっています。

 

 

――先に座学で理論ばかりやっていると学生は退屈しますからね。


川原先生 どういう順番であっても多分学生は退屈だと思うんですけど、まずは1回経験することによって退屈さの加減をやわらげるとでもいうのでしょうか。本当は重要なことなら同じことを2回も3回も繰り返しやった方がいいんですが、そういうわけにもいきませんから。同じようなことをやったとしても、やり方が違うので飽きずに取り組めるだろうということです。



――この社会実践科目っていうのは、電気システム工学科独自の科目なんですか。


川原先生 いいえ、大学としてそういう枠組みがあって、各学科がいろんなことやっています。この科目ができたのは5年前です。



――どのような議論から生まれた科目なんですか。


川原先生 従前は1、2年生で数学や物理をやって、そこから専門科目を積み重ねていましたが、社会に求められているのは、社会実践、いわゆる人間力のある学生です。社会人基礎力を養うためには、座学よりも、まずは手足を動かして実践をさせることとコミュニケーションが大事だという考え方です。電気システム工学科では1、2年生が一緒に取り組む内容も設けているので、ヨコだけでなく、タテのコミュニケーションも体験できるようになっています。枠組みは一緒でも、各学部学科で中身は全然違うみたいです。

 

 

――社会実践科目が必要だというアイデアが出たのは川原先生が学務部長の時のことですか?


川原先生 そうですね。この件は僕もかかわっていましたが、4年ごとにカリキュラムの見直しを行う一環でもあったんです。当時、社会人基礎力が大事だとかなり言われていました。それを身につけさせるために必要な枠組みは座学ではないだろうし、かと言って大学で何かを一律にやるって言うことでもないだろうと。学科ごとに目的、目標も違いますから。資格取得が目的の学科と電気ではどういうものを取り入れるかも、やり方も違うはず。電気であれば実際にものを扱ったり操作したりする体験は外せないので、実験を多く含む形になっているのです。

 

 

――科目の立ち上げはプロジェクト的に行われたのですか?


川原先生 制度としてつくらなければならなかったので、全体の枠組みにおける単位や時間数、評価や最低限の制約を設けることについては関わりました。初めてやることなので、各学科に考えてもらう前に、「電気システム工学科の場合はこんな枠組みでつくります」というような見本をつくりましたし、この科目は週に2回あるんですが、実験を含めるならどうやって組み込むかを考えたりしました。

 

 

――社会実践科目の誕生と新入生ガイダンスの見直し時期はほぼ同じようですが、そのタイミングで学内に何らかの変化があったのでしょうか?

 

川原先生 そのモチベーションがどこにあるのかって言ったら、私立大学ですので、やっぱり入学者確保ですね。多様性のある学生をどのように教育していくのかを考える際の軸となるのは、工学系の専門性。それも大事だけど、コミュニケーションを中心とする社会実践力、人間基礎力、社会性といったものも重要になってくると言われたのがその頃でした。それに対して、本学はカリキュラムでどう答えていくのかを考え、先輩後輩が一緒に授業を受ける時間や、実習実践系の科目を2年間通じて設けておくことことにしたんです。時代の要請があったから、それをカリキュラムに落とし込んでつくったということです。

 

 

――時代の要請、時代の変化…川原先生の教員生活を振り返ってみて、学生の変化で何か感じることはありますか?

 

川原先生 僕はここに来てからは20年ですけど、その前に10年以上やっていますので、多分30年ぐらい教員をやっているんです。どの大学でも聞かれると思いますが、だんだん学生がおとなしくなってきたと感じます。そもそも電気を学ぶ学生は、他の学科の学生に比べておとなしい方なんですが、それでも以前はもう少し元気のいい学生がいたかなっていう感じはしますね。具体的にいえば、10年ほど前までは、授業でわからないところがあれば後から聞きに来る学生がいましたが、今はほぼいません。その代わりに、ホームページに上げられたテストや小テストの模範回答を自分でダウンロードして、好きな時に自分で見て自分でやるんです。わかってるかどうかは別にして。

 

 

――その変化は何に起因していると思われますか?

 

川原先生 学生が全体的に過保護になっているのでしょうか。わからない?それならコレをやってみて、というような形で、黙っていても全部を与えられてきた環境なのかなという感じはしますよ。みんなスマホを持ってるので、自分でカタがつくみたいなところもあるのかもしれませんけど。


 

――受け身や「個」で完結することが習慣になると、就職活動や卒業研究など、自分でテーマを決めて取り組むとか人と協働することへのハードルがどんどん上がりますよね。


川原先生 なので、僕は4年生の卒業研究では、内容の高度さよりも「自分で考えて答えを出す」ということを主眼にしています。だから、1年生のうちからそういう機会があれば、4年生になって急にアウトプットを求められてびっくりする学生は減るんだろうなと思うんですよ。そして、企業はそういう学生を「大学卒」として望んでるのではないでしょうか。そこが高校生との違いですよね。言われたことをできるのは高校生で、大学生ならそれだけでは足りなくて。本来はその違いがあるべきなのですが、最近は怪しいですけどね。

 


――今後の展開について、川原先生が何か考えていることはありますか?


川原先生 HIT-ALPsが立ち上がったばかりなので、これを来年度以降も継続させていくことです。今は村上先生たちが一生懸命頑張ってくださっていますが、学生が主体となって回っていくようになるのが一番の理想です。この2、3年が勝負になるのではないでしょうか。

それ以外では、学生がなるだけいろんなものの見方とか考え方ができるようになってくれることを願っています。そのためには、与えられた題材や授業においても、早い段階から人とは違う、自分なりの意見を持つような考え方ができるようになれば、卒業研究をする時にもいいんじゃないかと思うんです。

それをやろうと思ったら、教員が同じ方向に向かって、どの学生にも同じような働きかけをしていかなきゃいけない、非常にハードルの高いことになりそうなんですけどね。そういうことがこれからの学生には求められてるのではないでしょうか。4年生になった段階で「自分で考えて答えを出す」ということを求めるのではなく、できるだけ早い段階からやっていけたらいいのですが。



――教員が皆、同じ方向を向いて取り組むのは難易度が高い、というようなニュアンスを感じます。

 

川原先生 大学は、高校までと違って、教員の自由度が高いですよね。もっといえば、教員は教員免許や資格を持っているわけでもなく、自分がいいと思うことをやってるだけです。「自分がいいと思うことは、学生にとってもいい」と思ってやっているかもしれませんが、全体の方向性を揃えるという点において機能しているかどうかはわかりません。揃えようとすると、今は各教員が自由にやってることに立ち入らなきゃいけなくなって、それが大学に馴染むのかどうかには疑問もあって。禅問答みたいな話になってしまうんですが…

 


――個々の教員に自由があることが、教員のやる気にも繋がる大事な部分ではあるものの、少子化が進む中で学生のレベルを保つのは難しくなるし。

 

川原先生 昔のように、教員のやることに権威を感じて言うことを聞いてくれる学生は、もういないんです。教員のやることには意味付けをしてあげて、「だから、やる価値があるんだよ」っていうことまで言わないと、学生はやらないし、それでもやればいい方なんですよね。



――教員間で学生に伝える学びの意味や価値の目線合わせをしておく必要もあるということなんでしょうね。

 

※肩書・掲載内容は取材当時(2024年12月)のものです。



 

「学生を集めて一泊させたら仲良くなる」。そのような考え方に出会うことはよくあります。それはもしかしたら昭和の学生像にのっとった考え方なのかもしれません(笑)。川原先生はその考え方に疑問を持ち、新入生オリエンテーションの一環として行われていた宿泊研修を改革(第1~2話)されたお一人です。具体的にはチームビルディングプログラムを取り入れ、新入生だけではなく、先輩学生やチューター教員も一緒にプログラムに参加し、新入生のその後の大学適応を促進しようとされました。その取り組みは「社会実践科目」にもつながっています(第3話)。「社会実践科目」は、1年生と2年生に配当された科目で、学年ごとの学習目標を達成するための様々な実験に、小グループで取り組んで行きます。そしてクオーターごとには、1年生と2年生を混在させたグループを作り、互いの学びをふりかえって分かち合う仕組みもあります。このようにチームビルディングの考え方や構造を取り入れた学びの仕組みを取りいれることで、学生の主体性を促し、集団としての学生の活性化に取り組んでこられました。それが、電気システム工学科の学生プロジェクト「HIT-ALPs(ヒットアルプス)」の誕生につながっていったわけです(第2話)。

次回以降のインタビューでは、その「HIT-ALPs(ヒットアルプス)」の誕生から現時点までどのようなことが起こったのか、詳しくお伺いしていきたいと思います。

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株式会社ラーニングバリューでは「自己の探求」や「チームビルディング研修」などの教育プログラムを活用し、学校や授業、クラスなどのコミュニティの活性化支援を行っています。

本サイトでは、大学改革・教育改革の現場を訪問し経営者・教職員・学生など、現場の当事者にお話を伺っていきます。

みなさまのコミュニティの活性化(=組織開発)のヒントになれば幸いです。

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