十文字学園女子大学は埼玉県新座市にある、大正11年(1922年)に開校した女学校を前身とする女性の高等教育に長い歴史をもつ大学です。2020年度に教育体制改革の一環として改組が行われ、現在は人間生活学部・教育人文学部・社会情報デザイン学部の3学部を擁しています。
改組と時を同じくして共通教育の見直しも行われ、いくつかの特色ある科目が開設されました。その1つが、異学年・異学科の学生を集めて行われる課題解決ゼミナールと総合ゼミナールです。課題の設定から学生主体で行うのが特徴で、身の回りの課題解決を通してコミュニケーションや表現のスキルを磨いています。このゼミナールの注目すべき点は「カリキュラムにチームビルディングを取り入れている」ことにあります。ゼミ科目にチームビルディングの要素を取り入れると何が実現するのか?その可能性を今回の連載で考えてみたいと思います。
最初にご登場いただくのは、共通教育改革に携わり、新たなゼミ科目の開設を主導したのが教育担当副学長の安達一寿先生(社会情報デザイン学科・教授)です。まずは共通教育改革のねらいや、ゼミ科目の特徴について話を聞いてみました。
――まずは安達先生のプロフィールをお伺いしたいのですが、ご専門や十文字学園に着任された時期についてお聞かせいただけますか?
安達先生 専門は教育工学や教育情報学です。コンピュータや情報を教育においてどのように利活用するかを考える分野が専門です。実は大学の学生時代は教育学部の出身で、物理教育が専門でした。ちょうど「コンピュータ教育元年」と言われた頃で、学内で教育工学に取り組んでいる先生のゼミに参加したり、eラーニングの先駆けのようなことをしていたアルバイト先の学習塾でコンピュータ教材を作ったり使ったりした経験もあります。大学院を出て、1990年4月、当時短大だった本学の教養学科の助手になりました。1996年度に4年制大学になりましたが、以来ずっとここにおります。
――現在のお役職は?
安達先生 教育担当副学長です。最初に副学長になったのは2014年度で、2015~2016年度は副学長兼学長補佐、2019年度から現職です。以前の副学長の時は企画など大学全体の改組を担当し、今は教育担当ですが、十文字学園女子大学でどういう人材を育成するかという課題については、いずれの立場でも関わっています。
――共通教育を改革するプロジェクトが進行中とのことですが、その背景についてお聞かせください。
安達先生 今はどこの大学でも建学の理念に基づいて大学全体でこういう教育をしましょう、こういう人材を育成しようという目的やポリシーが定められています。本学の建学の理念は「身をきたへ 心きたへて 世の中に 立ちてかひある 人と生きなむ」です。様々な解釈があるのですが、その1つとして、社会の中で女性として自らの足で立ち、しっかり活躍できるようになりましょう、という理念を掲げています。建学の理念に基づく学びで、どの学部で学んでも大学として共通の力を身につけられること、つまりそれが十文字学園を卒業した学生諸君の特徴ということになるのですが、それを明確にして大学のアピールポイントにしようということになりました。大学全体に関わることなので、共通教育の中で実現しようということになり、共通教育のプロジェクトを立ち上げて取り組んでいます。
――プロジェクト名称はありますか?
安達先生 「教育体制改革」です。第3次で学部学科改組に取り組み、今の3年生が入学した2020年度に新しい学部学科体制がスタートしました。私は第3次の時は副学長職を離れて、立ち上げたばかりの教育改革センターの副センター長として、全学共通教育のつくりについて議論していました。今は第4次を行っているところです。
――教育改革センターでは共通教育についてどのような議論が行われ、改革が行われたのでしょうか?
安達先生 古い時代の大学での共通教育は、人文系・社会系・自然系の科目をまんべんなく置いて履修させるカリキュラム体系が大半でした。それが平成の初頭に出された、大学設置基準の大綱化により、各大学の自主的な取り組みを尊重し弾力化することになり、ある意味で縛りがとれて自由に考えることができるようになり、各大学が共通教育のつくりを考え始めるようになりました。本学でも以前から共通教育のつくりをどうするかという議論はあったのですが、どうしても昔からの流れを引きずっているところがあったんです。
そういう中で、先程の本学の建学理念に照らしていうと「立ちてかひある人(世の中に役立つ有用な、立派な人)」(https://gakuen.jumonji-u.ac.jp/introduction/philosophy/)を目指すのだから、まずは女性として人のことを学ぶ領域が必要だということになりました。そしてもう一つは、社会の出来事や仕組みについて知っておくべき基本的なことを学ばないといけないということになり、講義科目でいえば「女性を生きる」「社会に生きる」という科目群を設定しました。
もう一つの目玉が、「入門ゼミナール」や「読書入門ゼミナール」という、大学での学び方を学ぶ教育や読書をおこなう教育です。大学ですから、独自の学び方があります。また、いろんな分野の書物を読んで知識を得るのが必須なのですが、今の学生は本をちゃんと読む訓練をしていないことがあるので、1年生のときに1年を通してこれらのゼミを行っています。
――それに加えて、弊社でもお手伝いさせていただいている課題解決ゼミナールや総合ゼミナールも共通教育の科目として開設されたのですよね?これらのゼミ科目が開設された背景について教えていただいてもいいでしょうか。
安達先生 今のカリキュラムになるまで、2年生だけゼミ科目がないことが本学の課題でした。また、これからSociety5.0を迎えるにあたって、社会課題の解決のためには多様な知識が必要であるということが前提になっていると思います。もっと言えば、そういう課題は自分一人で解決できるものでなく、いろんな人と協働しながら解決にあたるとか、正解を求めるのではなく、みんなが納得できる答えをみんなの総合的な力によって導き出すことが必要だということも言われています。カリキュラムを考える際には、そういう社会にアジャストできる人材を育成するとか、大学のうちから経験値を高めることが必要だという意見が出てきたのです。
では、どういう手立てを取るかと考え、卒業研究で専門的な勉強に取り組むのに対して、社会課題に向きあう、あるいは総合的に課題解決に取り組むゼミ科目を置こうということになったのです。ラーニングバリューさんにお手伝いいただいている課題解決ゼミナールは2、3年生の、総合ゼミナールは3、4年生の科目として開設して、1~4年を通して全学年でゼミ科目を置くようにしたのです。
――1つのゼミ科目を学年の異なる学生がともに履修することもできるというのも特色ですね。
安達先生 そうですね。さらにもう一点、付け加えると、どの学科の学生も履修できるようになっているのも特徴です。専門ゼミは同じ勉強をしている人が集まって学ぶものですが、共通教育に設定したのは「いろんな人たちと協働して」という体験をしてもらうためでもありますから。いろんな専門を持つ人が一堂に会して、いろんな知識を融合して、工夫しながら課題解決しようじゃないかと。それが科目設定の大きな理由です。
――女性として活躍するための基礎を身につける科目の設置や読書入門ゼミナール、課題解決に向けた協働の経験値を高めるための異学年異学科を集めたゼミナールの導入と、共通教育の改革は非常に幅広い範囲で行われたのですね。
安達先生 そうですね。振り返るといろいろなことをやってきたなと思いますが、課題解決ゼミナールや総合ゼミナールは「協働しながら課題解決に取り組む」と口でいうのは簡単なのですが、具体的な内容や方法についてはノウハウがなかったというのが正直なところでした。また、学生の主体的な学びを実現するために、必修にはせず、希望する学生が履修できる共通教育に置いたのもポイントです。アクティブラーニングのような少々面倒くさい科目を取ろうとする学生はそれなりに意欲があるだろうという期待も込めて、2021年度から課題解決ゼミナールがスタートしたのです。
※肩書・掲載内容は取材当時(2022年6月)のものです。
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