十文字学園女子大学では教育体制改革が進んでいます。2021年度より共通教育に「異学年・異学科」の学生を集めて行う2つのゼミ科目(課題解決ゼミナールと総合ゼミナール)が誕生。いわゆるアクティブラーニングの科目なのですが、特徴的なのはチームビルディングの要素を取り入れていることです。学生の主体的な学びを促進するには授業の構造もさることながら、指導にあたる先生の経験・スキルやモチベーションも大切な要素です。新たな取り組みを始めるにあたって、指導教員の体制をどのように構築したのか?いかにして学生の育成に向けて志を同じくする仲間を集め、教育改革に取り組んでいるのか、教育担当副学長の安達一寿先生(社会情報デザイン学科・教授)に話を聞いてみました。
――課題解決ゼミナール、総合ゼミナールはいわゆるアクティブラーニングの要素の強い授業のスタイルだと思いますが、担当する先生はどのように人選されたのですか?
安達先生 そういう授業を行いたいというのは改組の段階から決めていて、私は教育担当副学長で人選含めた責任のある立場でしたので、この先生なら任せられる、という方数名にピンポイントで声をかけました。
実は人選については伏線があったんです。一部の先生にはCOC事業(地(知)の拠点整備事業)のイベントやプロジェクトに関わってもらっていて、社会・地域の中で学生を育てていただくための活動を仕掛けたり、そのための授業プランを考えたりする経験をある程度積んでいただいていました。そのメンバーにゼミ担当をお願いしてもらいました。
――COCにも取り組んでおられたのですね。
安達先生 引っ込み思案の学生だと「社会に出て活動をしよう、ボランティアをしよう」と声をかけても二の足を踏んでしまいます。それで、大学で「プラスちゃん」というキャラクターをつくって、その子をまちに連れていくという名目で地域と関わりをもつ活動を始めたところにCOC採択のタイミングが重なったという経緯です。この学生の社会貢献活動をサポートする組織である「プラスちゃんくらぶ」は、現在でも学生の活動の場となっています。
本学が文科省のCOC事業の採択を受けたのは2014年度。それ以降、さまざまな地域活性化事業、社会活動を行っています。COCの柱は社会に存在する課題をみんなで解決しようとするものです。新座市のまちなかを活性化するにはどうすればいいかを考え、商店街と学生がコラボレーションしてイベントを企画するといった活動もその1つです。
――なるほど、もともと社会と関わる素地はあったところにCOCに採択によって取り組みが広がっていったということですね。とはいえ、PBLやアクティブラーニングの経験に長けた先生はそう多いわけではないでしょうから、今後の共通教育のゼミナールの指導にあたる先生の育成はどのように考えておられますか?
安達先生 昨年度(2021年度)始まった課題解決ゼミナールはCOC事業で経験を積んだ先生に担当してもらっていますが、今年始まった総合ゼミナールを担当するのは赴任3年目の鳥越先生なんです。彼はCOC事業の経験はありませんが、若くてバイタリティがあってやる気十分で学生の評判もいいので、私が声をかけて、担当してもらっています。
――教員経験も浅く、ましてやPBLの経験もない先生にいきなり任せるとは、安達先生のご決断もなかなか大胆ですね。どんな説明をして鳥越先生をスカウトされたのですか?
安達先生 総合ゼミナールの趣旨についての話はしました。「やるにあたって一番のポイントは、いろんな学科の学生が協働して課題解決することなんですが、そもそもの課題の発見や分析の仕方といった方法論についてはある程度先生の方で教える必要があるよね」と。さらに「協働して物事に取り組むにはチームビルディングが必要で、人間関係が構築されてチームが形成できればゴールにたどりつけるから、スタートの部分は大切にしたい。ただ、チームビルディングについては教員のほとんどがノウハウをもっていないので、それを得意とする会社、ラーニングバリューさんの力を借りるから大丈夫だよ」と。だから、一緒にやろう、と誘ったんです。
ただ、当初は私も一緒に授業に関わるつもりでいたのですが、「副学長職が忙しいので、一人で授業をやってみてよ」とすべて任せられることになったのは、彼にとっては不意打ちだったかもしれませんね(笑)
――鳥越先生への信頼と、安達先生の人材育成のスタンスの両方なのでしょうが、まずは任せてやってみてもらう、を実践されていることに驚きます。
安達先生 私が一緒に授業をする代わりに、彼には星野先生などベテランの先生たちから打ち合わせを通していろんなノウハウを伝授してもらっています。星野先生は、COC事業に関わり、いまでも地域連携活動を精力的に推進してもらっています。また、「プラスちゃんくらぶ」のお世話係でもあります。こうした先輩の教えとラーニングバリューさんの力を借りたチームビルディングがあれば、新人教員でもOJT(On the Job Training)でちゃんとゼミを指導できるようになるかどうかの試金石なんです。
――「やってみない」と軽く誘われ、今後の人材育成方針を左右するトライアルの重責を担うことになり、鳥越先生は大変ですね(笑)。とはいえ、そのOJTはある種、FDにもつながると言えそうですね。
安達先生 大学の教員になるには、教員免許は必要ありません。幼小中高等の教員免許を取るにはそれなりの方法論、内容論を教え込まれますが、大学教員はそうではない場合もあります。大学院や企業勤務を経て大学で教員になり、初めて教える仕事につくというケースはあるわけです。しかし、アクティブラーニングなど、これからの大学教育に対応しようとするのであれば、ある程度の教授スキルは必要になっていくでしょう。いろんな機関で研修も行われていますが、教員側に研修を受けている時間がないとか、そもそも研修自体が適切か?という問題もあります。すると今回のように、OJTで、やりながら修正を加えるという状況で進めて行こうということになりますよね。
――安達先生は鳥越先生や星野先生の授業をご覧になってどんな印象をお持ちですか?
安達先生 お二人とも若いが情熱がある。そして授業の目標、目的が何なのかということについてちゃんと捉えられている感じがしますね。また、学生の支持も集めていると思います。
――それは、学生の力をつけるという目標、目的が明確で、そのための授業プロセスの設計や手段が明確だ、ということですよね?
安達先生 はいそうです。共通教育に置いているゼミの目標、目的のポイントは、専門的な知識を学ぶ3,4年生の専門ゼミとの違いです。
今、社会に出ていく人を育てる中で求められているのは、いわゆるコンピテンシーと言われるような力だと思っています。その中に協働する力や、情報をまとめて発信する力といったものが挙げられるでしょう。今回の課題解決ゼミナールや総合ゼミナールでねらっているのは専門的な知識を身につけることではなく、課題解決のプロセス、方法論を学ぶことと、コンピテンシー、いわゆる社会人に必要な基礎力、創造力や汎用的能力といったものを高めることなんです。
※肩書・掲載内容は取材当時(2022年6月)のものです。
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